事例紹介

Category  アパート・マンション経営

2018年10月02日 更新

家・マンションを「売る」か「貸す」か迷ったときの3つの判断方法

転勤、介護、相続、離婚などで、使わない家やマンションができた場合、その空き物件の活用で悩むことになります。活用しなければ固定資産税や維持費がかかる一方ですが、資産として運用できれば不労所得を得ることができるからです。

売るべきか貸すべきかで悩むところですが、絶対的な正解は存在しません。一時的な転勤など、短期の場合は貸すのも良いですし、二度と住まないのが分かっている場合は売却してまとまった現金を得るのも良いでしょう。

しかし、最初に調べるべきなのは、その物件が売却・賃貸できる状態にあるかどうかです。前編では、物件の売却・賃貸に対する制約の代表例、賃貸業にかかるリスク、売却・賃貸にかかる費用などについて、見てきました。

後編では、売却額と賃料の比較方法、手元に残る金額の調べ方、将来の展望の考え方について、見ていきます。

1. 売却額と賃料を比較する

売却か賃貸かで悩んでいる場合、まず知りたいのは売却額と賃料でしょう。大体の売却額と賃料の予想がつかないと、売却と賃貸のどちらが得かもわかりませんし、収支計画も立てることができません。

売却では買主との価格交渉が当たり前になされるのに対し、賃貸で借主が価格交渉をしてくることはあまりありません。貸主が提示した賃料は、借主が賃貸物件を探す過程で考慮され、提示されている賃料と内見の印象で、借りるかどうか決めるのが一般的だからです。したがって、交渉次第では数百万円単位で動く売却額と違い、仮に価格交渉があっても上下5,000円程度の賃料の方が、金額が把握しやすくなります。

1-1. 周辺の物件を調査する

大体の売却額や賃料の相場を掴むには、周辺の売り物件・貸し物件を見てみると良いでしょう。もちろん、自分の家とまったく同じ家は存在しませんから、似たような広さの土地、似たような間取り・構造・築年数などの物件を参考にします。

不動産会社等が運営する売り物件・貸し物件を扱うポータルサイトは無数に存在するので、いくつか見ていけば大まかな価格を予測することができるでしょう。特に売り物件は価格交渉で値下げすることが多いので、同じ価格で売れる・貸せるとは限りませんが、参考として売却か賃貸か決めるための材料にすることはできます。

家の売却額には土地の価格を含み、賃料も土地のコストが転化されますが、地価は人気の場所や便利な場所は高くなり、過疎地や不便な場所は安くなります。このため、立地や地域によって大きく左右される性質があり、同じ築年数で同じ間取りの家を離れた地域で探してもあまり参考にならないでしょう。

1-1-1. 国土交通省:土地総合情報システム

実際に近くの土地が過去にいくらで売れたのか知りたい場合は、国土交通省が運営している「土地総合情報システム」を見てみると良いでしょう。売却額について国土交通省が不動産取引の当事者にアンケートをしてデータを収集しており、実際の取引事例を検索できるシステムを用意しています。過去のデータではありますが、実例なので、有力な情報であるといえるでしょう。2017年6月現在、残念ながら一部のシステムが休止中になっています。

土地総合情報システム 国土交通省

1-2. 一括査定サービス

上記に挙げた方法は、近隣の似たような属性の物件の価格から自分の物件の価格を予想するというものでしたが、業者に自分の物件に対する査定を出してもらう方法もあります。

こちらも大まかな価格帯までしか知ることはできませんが、一括査定サービスを利用して、複数の不動産会社が提示した査定価格を比較することができます。売却にしても、賃貸にしても、価格を決めなければ行うことができないので、そのために不動産会社は査定という業務を行っています。

従って仲介を行っている多くの会社が無料で査定を行っており、ある程度の精度で価格を知ることができます。

一括査定サービスに参加している不動産会社は、その後契約に結び付けたい意向があるため、実際よりも顧客にとって有利な査定価格を提示する場合があります。実際には売主や借主が決まるまでには値下げ交渉が入ることもあるため、その価格で売れる・貸せると思わないことが大切です。

2. 手元に残る金額を比べる

売った場合でも貸した場合でも、想定している売却額や賃料がそのまま収入として手元に残るわけではありません。収入から経費や税金が引かれることになるからです。売った場合と貸した場合で発生する経費や税金について、それぞれ見ていきましょう。

2-1. 家やマンションを売った場合

まず、家やマンションを売った場合にかかる諸経費について、見ていきます。

2-1-1. 売却時に必要な諸経費の種類と金額

売却時に必要な諸経費の代表的なものを挙げてみます。印紙税、仲介手数料、測量費用(測量をした場合)、登記費用、繰り上げ返済手数料(ローンがある場合)、所得税と住民税(詳細は2-1-2.)があります。

印紙税と仲介手数料は売却価格に応じた金額となり、印紙税ならよほど高額な家でもない限り30,000円以下、仲介手数料は売却価格×3%+6万円(売却価格が400万円を超える場合、消費税別)とされています。測量費用は官民立ち合いのない一般的なもので35万円~45万円程度になります。登記費用は担当の司法書士次第になりますが、概ね30万円程度、繰り上げ返済手数料は金融機関次第となります。さらに、売却で利益が出たか損失が出たかで、税金が大きく変わってきます。

2-1-2. 売却益が出た場合の所得税

売却益が出た場合、金額によっては、翌年の確定申告で譲渡所得税(所得税・住民税)が課税される可能性があります。マイホームなら売却益から3,000万円控除できる制度がある上に、そもそも売却益自体が出ることが少ないので、あまり心配はいらないでしょう。ただし、取得金額が分からないときは、売却額の5%と安い金額で取得したとみなされ、95%が売却益となるので、注意が必要です。

さらに、売却益に対する税金は、所有期間が5年以下か5年超かで大きく変わります。5年を超えてから売ると利益が出ても税額が小さくなるので、所有期間が5年に近い場合は、売却を遅らせるのもいいでしょう。

逆に売却損が出た場合、給与所得者であれば翌年の確定申告で所得税が還付され、住民税も減額される可能性があります。所得税の減額を受けることができるのは、5年を超えて所有したマイホームを売却・買い替えした場合のみで、更に特定の要件を満たす必要があります。

No.3203 不動産を譲渡して譲渡損失が生じた場合 国税庁

2-2. 家やマンションを貸した場合

次に、家やマンションを貸した場合について必要となる経費や税金について見てみましょう。

2-2-1. 賃貸時に必要な諸経費の種類と金額

賃貸時に必要な諸経費の代表的なものを挙げてみます。固定資産税と都市計画税、火災保険料、仲介手数料、事業所得に対する所得税と住民税、管理委託料(委託する場合)、修繕費(もしくは積立金)があります。

固定資産税や都市計画税、火災保険料は、物件を貸さなくても払っている費用です。売却すれば必要なくなる費用も、貸し出す場合は継続して支払わなければなりません。不動産会社への仲介手数料、事業所得に対する税金、管理委託料、修繕費または修繕積立金が、物件を貸すことで新たに発生する費用になります。

不動産会社への仲介手数料は、家賃の1ヶ月分以内の金額とされています。借主負担の習慣があるとされ、貸主には発生しないこともあるようです。管理委託手数料は、家賃の5%が相場と言われています。修繕費については、マンションの場合は積立金がありますが、戸建ての場合は自分で積み立てておくと良いでしょう。

2-2-2. 利益に対する所得税

事業所得に対する所得税・住民税は、家賃収入から事業経費を引いた利益の金額に応じて発生する税金になります。赤字になった場合、給与所得など他の所得と相殺することもできます。

所得税の税率は、分離課税に対するものなどを除くと、5%から45%の7段階(平成19年分から平成26年分までは5%から40%の6段階)に区分されています。住民税は平成19年以降、課税所得にかかわらず、一律10%となっています。

No.2260 所得税の税率 国税庁

ローンの金利や固定資産税などは経費となる

業務用資産の購入のための借入金など、業務のための借入金の利息は必要経費になります。さらに、固定資産税は業務用の部分に限って必要経費になります。従って、賃貸業を行う場合、ローンの金利や固定資産税などは経費となり、課税所得から差し引くことができます。

No.2210 やさしい必要経費の知識 国税庁

3. 将来の展望を考える

家を売る場合でも貸す場合でも、今すぐに家を売る場合を除くと、家という資産を運用していくにあたり、将来その家をどうしたいか考えておくことが欠かせません。例えば、将来住む予定があるから売らない、貸しながら値上がりを待つ、相続させたいから売らずに貸すなどです。

しかし、判断を後回しにした場合、建物や土地の値下がりや、賃貸の場合は借主保護のため自由に処分できなくなることは念頭に入れておきましょう。

3-1. 今後住む予定があるかどうか

今は住まないが将来は住む予定があるので、空いている間賃貸で収益を上げたい、と考えている場合には、注意が必要です。一般的に、貸主よりも借主の方が立場が弱いとされているので、借地借家法により借主は強力に保護されています。

そのため、借主保護の観点から借主に借家権の存在を認め、正当な理由がなければ、契約更新を望む借主に出ていってもらうことはできません。具体的には、あらかじめ次の契約期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に、借家人に対して、契約を更新しない旨の通知をしなければなりません。

さらに、契約を更新しないことについて、「正当事由」のあることが必要とされています。正当事由と認められる基準はかなり厳しく、借主が出ていくと言わなければ、永久に住み続けることができてしまいます。

例えば、転勤中や渡航中に家を貸し、戻ってきたら住むことを考えていても、借主が出ていくと言わない限りその家に住むことはできないのです。

このような不都合を解消する方法として、契約期間の満了で更新がない「定期借家契約」という契約形態が用意されています。一般的な更新のある契約は「普通借家契約」と呼ばれますが、貸し出せる期間が決まっている場合には「定期借家契約」を用いると良いでしょう。

定期借家契約を結ぶには、公正証書等による書面契約と、期間の満了で契約が終了することを書面で交付する制約があります。しかし、大きなデメリットは賃料が下がることです。更新がない定期借家契約は、契約期間が終わって借主が再契約を望んでも、貸主は断ることができるので、主にとってはデメリットが大きくなるからです。

3-2. 地価の動向から値上がりするかどうかを考える

地価に関しては、都市圏や再開発などで需要が増加する例を除くと、良くて現状維持程度です。過疎化が進んでいる地域や、地方の人気のない土地だと、地価は下がる可能性の方が高いでしょう。長く保有し続けても、少しの値上がり程度では、毎年発生する土地の税金分でマイナスになってしまいます。

地価の長期的な展望を予測するのは難しいですが、地方では地価公示が下落傾向にあることを踏まえれば、大抵の地域では近い将来地価が上がることは期待できません。

さらに、建物に関しては、経年劣化があって価値が下がるので、将来高く売れるということはまずあり得ません。従って、貸していればその間に賃料は下がり、売るときには売却額も下がります。

それでも、将来の売却額が下がる分より、その間に得られる賃貸経営での所得が上回るのであれば、資産運用としては上手くいっており、保有している価値があるといえます。

3-3. 借主がいると収益物件として評価される

家を売る場合、空き家の状態で引き渡すのと、貸している状態で引き渡すのとでは、物件としての価値が異なる場合があります。例として、家が1,000万円、土地が2,000万円の戸建住宅だとします。

3,000万円の価値がある住宅を3,000万円で売り出すのは適正価格であり、需要があれば買い手を見つけるのにそれほど苦労はしないでしょう。しかし、この住宅を、家賃15万円の借主がいる状態から売ると、収益物件として評価されることになります。

15万円×12ヵ月=180万円なので、180万円÷3,000万円×100=6%となり、利回りは6%となります。収益物件として見た時、利回り6%はあまり良い方とはいえず、買い手からするとあまり魅力的ではありません。かといって利回りを10%まで上げようとすれば、1800万円で売り出さなければならず、とても割に合わないでしょう。

3-4. しばらく貸して売った場合に失敗した事例

現在は、次々と新築分譲マンション・中古分譲マンション・新築戸建て・中古戸建てが販売されている状態です。購入検討者も、金利が史上最低と言われるくらい低いので、住宅ローンを組んでマイホームを購入した方が賃貸で借りるよりも得だと感じるケースが増えています。賃貸物件は他の賃貸物件だけでなく、マイホーム購入検討者とも競争しなければならない厳しい状況にあります。

さらに、借り手が見つかっても、大事に使ってくれるとは限りません。自分の家は愛着があって大事にしますが、借主の場合はそうはいかないからです。借主の退去時には、敷金を使って原状回復するとしても、自分で住んでいたら到底考えられない汚れやキズだらけになっている場合もあります。汚損が激しい場合は、建物の価値が下がったり、原状復帰に莫大な費用がかかったりします。

その上、借地借家法による借主保護の規定があるため、いざ再開発などで土地の価格が暴騰しても、借主に簡単に立ち退きを迫ることはできません。立退料を払って立ち退きを承諾してもらうにしても、賃貸していることでせっかくの売却のチャンスを逃すケースもあります。

まとめ

この記事では、売却額と賃料の比較方法、手元に残る金額の調べ方、将来の展望の考え方について順番に見てきました。生活の拠点であり家族のよりどころでもある家に対しては、特別な思い入れを持つ人も少なくなく、行動が鈍くなりがちです。

売却の場合でも賃貸の場合でも、他人の手に渡ったり、他人が住むことに抵抗を感じる人もいます。投資の世界では家などの不動産も活用するべき資産の1つであり、得られる利益や支払うべき費用などを冷静に分析し、赤字にならないように経営することが求められます。

特に、賃貸の場合や、将来の売却を考えている場合は、長期的な展望と計画が必要になります。決まった正解はないので、自分にとって後悔のない方法を選ぶと良いでしょう。