事例紹介

Category  農地

2018年10月02日 更新

農地バンクを利用して農地を貸す際の流れと5つのメリット

少子高齢化に伴う農業人口の減少と、国内農業生産高の減少は年々深刻さを増しています。政府はアベノミクス成長戦略「3本の矢」最後の目玉政策として農地改革を掲げています。

2014年に設立された「農地バンク(農地中間管理機構)」は、休耕地となってしまっている農地や耕作放棄地にならざるを得ないような農地を集約し、農業を行いたい事業者・個人へ提供する仕組みです。

農地を貸したい、売りたい人と、借りたい、買いたい人の間に入って農業生産高の向上と農業人口の増加を目指しています。政府は政策目標として「担い手が利用する面積が今後10年間(平成35年度まで)で全農地面積の8割となるよう農地集積を推進」と掲げています。日本の農地の所有者は、バラバラに小規模の農地を複数保有している農地の所有者が多いという実情があります。農地バンクは、複数所有者が存在する一帯の農地を集約し、担い手への農地集積・集約化を加速していきたい考えがあります。

ここでは、農地を貸したいときの流れについて、農地を貸すメリットから貸したときに受けられる支援、借り手との調整などについて考えていきます。

1. 農地バンクを利用して貸すメリット

農家を営む人がリタイアする、相続によって農地を引き継いだけれど農業をする予定がない、など農地を使う予定がないときどうすればよいか悩みます。そんなとき、農地バンク(農地中間管理機構)を利用し、農地を貸し付けることで賃料を得ることができます。

国が2014年に始めた農地バンクは、年々、予算を増やして運用しています。農地バンクが制度化された当初は、農地のしくみや地域の特性などから生まれる農地所有者との問題が浮き彫りになり、計画が頓挫する事例もあったようです。

しかし、時を経るごとに全国的にさまざまな事例を蓄積してきた農地バンク制度は、貸し手となる農地を精力的に探しています。

農地バンクへ農地を貸し出す登録をすると、借り手を農地バンクが探してくれます。また、賃料や利用期間、農地の使用状況などを一貫して管理してくれることもメリットです。

自力で借り手を探す場合、借り手となる人が現れるまで、農地が荒れないように管理をしておかなければなりません。特に、水路などの維持にお金をかけている場合、農地バンク制度を利用することで、大きな費用と労力から解放されることもあります。

1-1. 貸出先は農地バンクとなる

農地バンクは、アベノミクスの目玉政策として2014年に発足した政策です。信頼できる農地の中間的受け皿として、全都道府県に設置されています。

土地を貸すことについて戸惑う気持ちがある人の中には、土地が返ってこないことを心配されておられる方もいます。農地バンクは公的機関が貸し手と借り手の間にきちんと入り、貸し手と借り手のトラブル等を未然に防止、また対処してくれます。

1-2. 農地バンクを利用すると確実に賃料が手に入る

農地を貸したい場合には、一旦農地バンクへ土地を預け、農地バンクが借り手へ農地を貸します。そのとき農地を貸した貸し手は、農地バンクから賃料を受け取ることができます。農地バンクと契約した貸出期間の間、農地バンクから賃料がきちんと支払われますので安心です。また、貸し手と借り手のあいだに農地バンクが入ることによって、借り手との金銭トラブルを避けることができます。

1-3. 農地バンクを利用すると賃料とは別に補助金が出る

土地を貸したとき、貸し手には賃料とは別に協力金という名目の補助金を受け取ることができます。貸し手には、土地の広さに応じた金額が支払われますので、賃料や協力金をもらえることはメリットになります。

1-4. 農地バンクの利用で耕作放棄地になる心配がない

農地にかかる固定資産税は、もっとも安い評価となっていますが、平成29年から荒れ果てた農地(耕作放棄地)に対して増税することが決まっています。固定資産税は、不動産の現状に基づいて税額の算出を行っているため、耕作されていない土地は税金が高くなる可能性が高くなってきます。

この点においても、農地バンクへ貸し出すことによって農地は管理され、貸した農地は耕作放棄地になる心配がありません。農地は利用しないでいて、一旦荒れ地となってしまうと、復旧するためにたくさんの手間と時間がかかることになります。

1-5. 農地貸出期間満了後に確実に返還される

最初に貸出期間などを農地バンクとしっかり契約しているため、契約期間が満了したのちは、農地は貸し手のもとへ確実に返還されます。契約期間について借り手とのあいだでトラブルに見舞われそうになった時も、農地バンクが間に入って対応してくれますので安心です。

また、戻ってきた土地は再び貸し出すこともできますし、その時の情勢をみて別の運用をすることもできます。

2. 農地の貸し手に対する機構による支援

農地バンクは、借りた農地を借り手が見つかるまでのあいだ、責任を持って管理します。具体的には、狭小な区画や排水条件の悪い水路など、借り手が使いにくい農地は、必要に応じて農地バンクが整備することもあります。

また、地域農業の将来や農業経営についての考えなど、地域ぐるみで共有し解決への手立てを探る活動に対する支援も農地バンクは行っています。

2-1. 農地バンクの地域に対する支援

リタイアする農家の増加や、農業者の高齢化、後継者不足は全国の農家で増え続けています。また、担い手がいないことで農地は荒れはて、耕作放棄地となってしまいます。残念なことに、毎年耕作放棄は増え続けています。このままでは、地域農業は予想もつかないほど大変なことになってしまいます。

そこで、農地バンクは農業活動を行う地域に対する支援を行っています。市町村や農業委員会があいだに入り、上記の農業に関するさまざまな悩みについて話し合う機会を作ります。農地バンクは、担い手である農業法人・認定農業者・新規就農者等、農地の貸し手である農地持ち非農家・高齢農家等を含め、多くの人に参加してもらい話し合いを行うことで、「人・農地プラン」とよばれる地域農業のプランを作成します。これは、農地を貸借するための最初だけの取り組みにとどまらず、農地の貸し出しが行われているあいだも継続的に地域農業のあり方について議論を重ねていくというものです。

2-2. 農地バンクの個人に対する支援

農業をリタイアした貸し手、農業から他業種他職種へ経営転換する貸し手に対して、農地バンクは支援を行っています。農業から撤退したのちも、金銭面で困ることのないように、農地を貸す方にむけて「経営転換協力金」を支給しています。

具体的な金額は、農地の規模や市町村の予算、きまりによって異なりますので各都道府県のホームページより問い合わせを行ってみてください。

また、所有する全農地を農地バンクに10年以上新たに貸し付けた場合、当該農地にかかる固定資産税が2分の1に軽減されます。軽減期間は、15年以上の期間で貸し付けた場合には5年間、10年以上の期間で貸し付けた場合には、3年間となります。

3. 農地の貸し出し希望の依頼先

こちらに各都道府県の農地バンクのホームページのリンク先、電話番号を掲載しています。

引用元:農地を貸したい方、借りたい方へ/農林水産省

4. 貸し出し希望の書類を提出(土地の登録)

土地を登録するために、貸したい農地が貸付可能な農地かどうかを市町が確認します。荒れ地など耕作放棄地は農地バンクへ登録することができません。貸付可能な農地であることが確認されたら、貸し手は「機構登録申請書」に必要事項を記入し、農地バンクへ提出します。

4-1. 農地の貸し出し期間と賃料の希望を伝える

機構登録申請書には、農地の貸し出し期間と希望賃料を記入します。期間は最短で5年から貸し出せる市町もあるようです。多くは10年以上となります。長期間の年単位という農地の貸し出しについては、どのくらいの期間貸すか悩むところです。

また、希望賃料も相手のあることですので、自分の都合だけでは決めにくいと思います。そのような場合は、農地バンクの担当者と話し合いながら決めることもできます。

5. 農地バンクによる審査

農地バンクは農地を登録する前に、農地が貸付可能な土地かどうかを審査します。

審査は、農地バンクの担当職員が農業者の聞き取り調査や現地調査を行います。農地バンクによる審査のほかに、農業委員会による貸し出し予定農地の審議もあります。農業委員会による審議については、下段の8. 農業委員会による審議のところでお話します。

6. 農地バンクによる公募

農地バンクが市町や農業委員会と連携して、貸し手の条件に合った借り手を探します。また、貸し手の希望に応じて、農地バンクのホームページに貸し付け希望農地の情報を掲載し、広く借り手を募ります。借り手がみつかれば、農地バンクの貸付手続きに進みます。

6-1. 農地の公募期間は市町村によって異なる

農地バンクを利用して農地を新たに借りたい人が、申し込みをできる期間は市町村によって異なっています。年に一度の公募期間しか設けない市町村もあれば、2~3回公募をする市町村もあります。上段にある各都道府県の農地バンクを管轄するホームページよりお問い合わせをしてみてください。

7. 農地の借り手候補者との条件の調整

借り手候補者が現れたら、希望期間や希望賃料を確認します。借り手が希望する農地を持つ貸し手と、農地を借りたい借り手の双方で希望する条件を調整し互いに納得すれば交渉成立となります。

貸し手と借り手の希望条件が合っていなければ、あいだに農地バンクや農業委員会が入って話し合いをしたうえで交渉を進めていきます。

8. 農業委員会による審議

農業委員会は、農地の調査や農業従事者への聞き取り調査のほか、農家の悩みなどの相談をはじめ農業に関するさまざまな業務を行っています。農業委員会の構成員は、農協や農業従事者、農業経験者が従事しています。農地バンクが審査した農地が借り手の希望に適合しているか、審議を行います。

具体的には農地法第3条の許可申請をして農業委員会または県知事の許可を得ること、あるいは農業経営基盤強化促進法の利用権設定をすることが必要です。

9. 農地バンクによる借上げ

すべての手続きと審査を終えたら、農地バンクによる農地の借り上げが行われます。借り上げが行われたら、いよいよ借り手となる農業従事者へ農地の貸し出しが行われます。

借り手に農地の使用権が発生している期間は、貸し手は貸し出している土地をほかのことに使用することはできません。

10. 農地バンクを利用して農地を貸す際の流れまとめ

政府は農地バンク制度の平成30年度予算に25億円から52億円と前年に比べて約2倍の割り当てを行っています。農地を貸したい人と借りたい人の橋渡しを行う制度である農地バンクは、先行きがわからない情勢にあっても、貸し手に対する手厚い支援を行っています。

それは、政策目標として「担い手が利用する面積が今後10年間(平成35年度まで)で全のうち面積の8割となるよう農地集積を推進」とあるように分散化している農地を集積し効率的に農業を促進したい考えがあるためです。

農地バンク制度を利用した優良実績も全国的に増えています。地域特有の課題に向き合い、支援する制度に国は全力で取り組んでいます。晴れの日も雨の日にも、農業を行い育ててきた大事な農地を、農地バンクの担当者と連携して次の農業を行う人へバトンタッチを行うことも大切な使命です。農地バンクを利用することによって、国の農業政策に参画して未来の構想つくりを担う一歩を踏み出すことができます。