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Category  太陽光発電

2018年10月01日 更新

山林で太陽光発電は得策か?地目変更や税金などの課題と収支シミュレーション

山林は、あまり用途がなく、所有しても放置されることが多い土地です。この山林を活かし、有効に活用する方法のひとつに太陽光発電があります。太陽光発電は土地の価値を選ばないことから、山林や農地などの使い道が限られている土地の活用方法として注目を集めています。
山林で行う太陽光発電は、普通の土地や住宅で行う場合と比べ異なる点もいくつかあります。今回は、山林で行う太陽光発電の収支や地目変更、税金について確認していきます。

 

 

1. 山林で行う場合の太陽光発電の収入

太陽光発電では、発電した電力を電力会社に売ることで得た売電収入が唯一の収入源となります。これは山林や農地、住宅の屋根など、どのような場所で行っても変わりません。
電力の買取については、政府が定めた再生可能エネルギーの固定価格買取制度によって約束されています。この制度によって、太陽光発電の容量(kW)に応じて、買取期間と価格が定められており、買取期間内は同じ価格で買い取ってもらうことができるようになっています。
買取期間は、住宅用(10kW未満)で10年間、産業用(10kW以上)で20年間です。買取価格は、発電量(kWh)が基準となっており、毎年見直しが行われます。2017年度と2018年度の価格は以下のとおりです。具体的な収入を計算する際は、1kWあたり年間約1000kWhの発電量が目安となっているので、参考にしてみてください。
・2017年度
住宅用(10kW未満):30円/kWh(出力抑制あり)
28円/kWh(出力制御なし)
産業用(10kW以上):21円/kWh
2000kW以上は入札制度により決定
・2018年度
住宅用(10kW未満):28円/kWh(出力抑制あり)
26円/kWh(出力制御なし)
産業用(10kW以上):未決定
2000kW以上は入札制度により決定
電力の買取が始まった当初は1kWhあたり40円代で買い取られていました。しかし、太陽光発電の普及が進み、初期費用の低下や設備機器の機能向上によって、買取価格は年々低下傾向にあります。現在では、2020年以降のできるだけ早い段階で電力市場価格と同等の11円/kWhにすることが、政府の目標となっています。

 

2. 山林で行う太陽光発電の支出

太陽光発電の支出は主に、初期の設備設置費用、メンテナンス費用、その他のランニングコストの3つが挙げられます。ここからは、それぞれの支出の相場を1kWあたりの価格を参考にしながら確認していきます。
太陽光発電の場合、初期の設備設置費用が支出の大部分を占めています。中でも山林の場合は、他の土地に設置する場合と比べ、特別な工事を必要とするケースが多く、初期の設備設置費用の割合が高くなる傾向があります。

2-1. 初期の設備設置費用

初期の設備設置費用には、設備の購入にかかる費用と、設置などの工事にかかる費用があります。住宅用の規模の太陽光発電であれば、初期の設備設置費用は35~38万円/kW程度です。規模が大きくなるにつれ1kWあたりの費用は安くなっていくので、産業用など大規模なものであれば、28~30万円/kW程度になります。
工事にかかる費用には、人件費なども含まれるので、あまり安くなりません。予算の都合などで初期の設備設置費用を抑えたければ、安い価格のメーカーや設備を選ぶ必要があります。

2-1-1. 太陽光発電の設備

太陽光発電に必要になる設備には、ソーラーパネル、パワーコンディショナー、架台などがあります。メーカーによって価格も様々であり、性能も異なります。導入する設備は、発電量や発電効率に直接影響を与えるものなので、慎重に選ぶ必要があります。
ソーラーパネルは、安いものは10万円/kW程度、高いものは20万円/kW程度と、様々な価格のものから選ぶことができます。海外メーカーと国内メーカーを比較すると、海外メーカーの方が安いものが多く、国内メーカーは価格帯が広いことが特徴です。価格は、海外メーカーのものは12万円/kW、国内メーカーのものは18万円/kWが目安になります。
パワーコンディショナーは、住宅用で4~5万円/kW、産業用で3万円/kWです。架台は、規模に関わらず4~5万円/kW程度必要になります。

2-1-2. 山林の場合に特にかかる費用

山林で行う太陽光発電では、伐採や造成工事の費用と電柱など送電設備の設置工事費用がかかります。これは、背の高い木々が生えていることが多く、近くに電線がない可能性も高い山林ならではの出費です。これらの工事は、費用が高額になりやすいため、山林で行う太陽光発電の初期費用を高める要因になっています。

(1) 伐採、造成工事
周辺に木々があると日照を遮ってしまったり、葉っぱがソーラーパネルに落ちてしまったりして、効率的な発電の妨げになってしまいます。また、土に木の根などが埋まっていると設備自体の設置ができなかったり、伐採により地盤が弱くなると土砂崩れなどの危険性も高まったりします。このようなことから、山林での太陽光発電では、伐採や造成工事が欠かせません
伐採の費用は、木の種類や太さなどによって価格が異なり、1本数千円から数十万円と価格の幅も広いです。根っこまで抜き取ることになれば、さらに費用がかかります。山林であれば何本も伐採することになるので、100万円以上になることも多いです。これに加え、樹木の処分費用もかかるので、かなり高額な出費になることが分かります。
造成工事は、山林の場合1㎡あたり2~3万円程度かかります。必要に応じて土砂の購入費または処分費も必要になります。
山林でも特に、地域森林計画の対象となっている山林では、1ha以上の造成工事を行う場合は許可を得なければなりません。また、伐採に関しても申請などが必要になることがあります。

(2) 電柱の設置工事
電柱とそれらを繋ぐ電線は、太陽光発電には必須の設備です。住宅用の太陽光発電であれば、近くに電柱があることがほとんどなので設置する必要はありませんが、山林など近くに電柱がない場合には、自己負担で設置しなければなりません。
電柱の設置にかかる費用は1本あたりおよそ10~20万円程度といわれています。これに加え、電線の引き込みや、高圧線への変換工事なども必要になり、距離や電柱の本数にもよりますが、最終的には100万円前後、もしくはそれ以上かかることもあります。

2-2. メンテナンス費用

太陽光発電はメンテナンスの手間が少ないことが特徴ですが、発電効率や設備の性能を維持していくためには定期的なメンテナンスが必要になります。具体的なメンテナンスの内容としては、定期点検、故障や劣化による設備の交換の2つです。
設備を交換するとなると、一度に20~30万円の出費になることもありますが、太陽光発電の設備で、頻繁に交換が必要なものは基本的にありません。定期点検は依頼する業者や点検を行う回数によっても異なります。メーカーや業者によっては、数年間は点検費用が無料になることもあり、大きな負担にはなりません。
このようなメンテナンス費用は、年間でおよそ0.3~0.6万円/kWになります。メンテナンスを行うタイミングでの出費になるので、メンテナンス費用として毎年貯金しておくと、いざというときに安心です。

2-3. メンテナンス費以外のランニングコスト

メンテナンス費以外のランニングコストとしては、保証サービスの利用料や保険料、税金などがあります。税金については別途取り上げているので、ここでは保障や保険にかかる料金について確認しましょう。
劣化や故障などによる設備のトラブルへの保証は、多くのメーカーが10~20年の保証期間を設けています。保証期間が終わった場合には、サービスを延長することもでき、その費用はだいたい年間0.5~1万円/kWになります。
劣化や故障以外のトラブルについては、メーカーや工事業者で対応しきれないものも多いです。特に、山林で行う太陽光発電の場合は、落雷や豪雨、土砂崩れなどの自然災害のリスクが高くなります。このような自然災害などによるトラブルについては、火災保険や動産保険などに加入することでリスクを減らすことができます。また、万が一の事後などに備え賠償責任保険への加入も検討しなければなりません。
保険料については、保険内容や保険金額によっても大きく異なります。ひとつの目安として、保険料は初期費用の0.3~3%になるといわれています。保険料率は、火災保険の場合1.5~2.5%、動産保険の場合2.5~3.5%となっているので、参考にしてみてください。
保証や保険などは、基本的に任意での利用になります。山林で行う太陽光発電のように大型の発電施設の場合、トラブルによる被害は大きくなりかねないので、万が一に備えておくことは非常に重要です。メーカーなどの保証内容などを確認しつつ、ランニングコストも計算しながら、保証や保険の内容、加入の有無を検討していきましょう。

 

3. 山林の場合の地目変更

基本的に地目が「山林」であれば、太陽光発電を設置することはできます。「田」や「畑」などの農地を利用する場合には、農地転用の手続きや地目変更を行わなければなりません。
山林の場合に注意しておかなければならないことは、太陽光発電の設置により、地目が農地のままでも、雑種地扱いになるという点です。これは、固定資産税の評価額などを決める際に、登記簿上の地目ではなく実際にどうように使われているか、現状で判断されてしまうからです。
通常、山林は土地自体の需要が少なく用途も限定されているため、市場価値が低く、固定資産税は他の地目の土地に比べて安くなっています。そのため雑種地扱いになると、固定資産税の負担が増えてしまいます。このように地目は山林のままでも、税負担が増えるので、注意しておいてください。

 

4. 10kW以上の太陽光発電にかかる税金

太陽光発電は、規模が10kWに及ぶがどうかで扱いが異なってきます。例えば、電力の買取価格や買取期間などに違いがあるように、税金についても扱いが異なります。
山林で行う太陽光発電は、多くの場合、産業用と呼ばれる10kW以上の大規模な発電になります。10kW以上の太陽光発電では、発電量も増えるので売電収入も高額になり、所得税の対象となる可能性があります。また、発電設備が大規模になるため、固定資産税の対象になります。

4-1. 所得税

太陽光発電による売電収入が20万円以上になった場合、雑所得の制限を超えるので所得税の対象となります。10kW以上の太陽光発電では、ほとんどの場合で売電収入が20万円以上となることが予想されるので、確定申告による納税が必要です。
所得税の対象となる「所得」は、「収入-経費」によって割り出されます。太陽光発電の場合、売電収入がそのまま収入に該当し、購入費用やメンテナンス費用などが経費にあたります。

4-1-1. 経費の計算

太陽光発電の経費の多くは、初期の購入費用です。太陽光発電設備の購入費用は、減価償却により経費として計上していくことになります。
減価償却とは、減価償却資産という機械や建物などの産業用の資産の経費処理に利用される方法で、購入費用を一度に計上せず、その資産を使用する期間(耐用年数)で分割して計上していくものです。太陽光発電は耐用年数が17年となっているので、購入費用を17回に分割して計上していくことになります。分割する方法には、定額法と定率法の2種類があります。
定額法とは、名前の通り毎年一定の額を計上する方法です。購入費用÷17、または、購入費用×0.059(定額法の減価償却率)で求めることができます。計算がしやすく分かりやすいので、確定申告などでのミスを減らせる点が特徴です。定率法に比べ初期の経費が少なくなるので、はじめの数年の所得を安定させることができます。
定率法とは、購入費用に対し一定の割合を計上していく方法です。(購入費用-前年までの減価償却額)×0.118(定率法の減価償却率)で求めることができます。年々計上されていく額が少なくなることが特徴で、初期は経費が多くなる分、所得が少なくなるので、税負担を減らすことが可能です。
定率法においては、償却保証額というものが設けられています。これは、本来の計算方法で求めた額が償却保証額よりも少なくなった場合、改定償却率を使い計算しなおし、その年以降は同じ額を計上していくというものです。償却保証額は、購入費用×0.04038(耐用年数17年の保証率)で求めることができます。耐用年数17年の改定償却率は0.125となっているので、その年以降は、購入費用×0.125で求められる金額が費用として計上されることになります。
原則、個人の場合は定額法、法人の場合は定率法が採用されます。違う方法にしたい場合には、税務署での手続きが必要です。また、一度選択した方法は、基本的に3年間は変更することができません。

4-2. 固定資産税

太陽光発電の固定資産税は、土地と設備それぞれにかけられます。
土地にかけられる税金は、固定資産税評価額×税率で求めることができます。すでに取り上げているように、山林でも太陽光発電に利用すると雑種地としての扱いになるので、税負担は大きくなります。
設備にかかる固定資産税は、課税標準額(太陽光発電設備評価額)×税率で税額が決まります。課税評価額は、購入額だけでは決まらず、古くなったことによる価値の減少も考慮され、150万円以下になると固定資産税の対象ではなくなります。

4-2-1. 産業用太陽光発電の特例措置

10kW以上の産業用太陽光発電には、「再生可能エネルギー発電設備に係る課税標準の特例措置」が設けられています。平成28年4月1日から平成30年3月31日までに設置された太陽光発電が対象となっており、具体的な内容としては、設置から3年間、固定資産税が3分の2に軽減され、1年目の減価償却率が半分になります。
ここからは、実際に税額を計算しシミュレーションしていきます。課税評価額と固定資産税額は、以下の式で求めることができます。
・課税評価額=前年度の課税評価額×(1-減価償却率)
・固定資産税額=課税評価額×税率
太陽光発電の場合、耐用年数が17年なので減価償却率は0.127、税率は1.4%なので、課税評価額と固定資産税額の式は以下のようになります。
・1年目の課税評価額=購入費用×(1-0.064)
・2年目以降の課税評価額=前年度の課税評価額×(1-0.127)
・固定資産税額=課税評価額×0.014
これらをもとに、購入費用を1000万円として4年目までの固定資産税を計算してみます。なお、計算の都合上、小数点以下は切り捨ててあります。
・1年目(軽減措置あり)
課税評価額=1000万円×(1-0.064)=936万円
固定資産税額=936万円×0.014×2/3=8万7360円
・2年目(軽減措置あり)
課税評価額=936万円×(1-0.127)=817万1280円
固定資産税額=817万1280円×0.014×2/3=7万6265円
・3年目(軽減措置あり)
課税評価額=817万1280円×(1-0.127)=713万3527円
固定資産税額=713万3527円×0.014×2/3=6万6579円
・4年目
課税評価額=713万3527円×(1-0.127)=622万7569円
固定資産税額=622万7569円×0.014=8万7185円
このように、固定資産税の軽減措置がなくなる4年目は、3年目よりも税額が高くなります。同様に計算していくと、耐用年数である17年目までの固定資産税額を求めることができます。

 

5. 保安林の場合の注意点

太陽光発電の設置が基本的に可能な山林でも、保安林の場合は、原則設置することはできません。保安林とは、災害の防止や産業の発展などの目的のため保護されている森林で、伐採や開発に制限が設けられているところです。開発に制限がある以上、クリーンなエネルギーである太陽光発電の設置とはいえ、伐採や造成工事を行うことは難しいのが現状です。
平成26年5月に施行された農山漁村再生可能エネルギー法(農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律)により、条件を満たすことができれば設置許可を得られる可能性は出てきましたが、個人の私的な目的での設置は難しいでしょう。

 

6. まとめ

用途が見つからず放置していた山林から、太陽光発電による売電収入が得られることは、非常に魅力的です。しかし、太陽光発電にかかる初期費用は安くなく、山林で行うとなれば、さらに高額になります。
実際に太陽光発電を行う場合は、今回確認した収支や税金などを参考に、効果的な運用方法を検討しなければなりません。また、設置には制限もあるので、運用を検討する際にはできるだけ早い段階で、設置が可能かどうか、必要な手続きや制約などを確認するようにしましょう。