事例紹介
人口減によって日本も空き家の問題に悩まされるようになりました。治安上においても防犯上においても空き家は好ましくありません。
先ごろ、国税庁は相続の空き家を売却することで3,000万円の控除をするという制度を打ち出しましたが、その制度の適用には様々な条件があります。
ここでは、その条件について見ていきたいと思います。
この記事でわかること
1.相続した空き家を売却した時の3,000万円控除とは?
昨今の日本は、どちらかと言うと住宅が余り気味な傾向にあります。
少子高齢化で人口が減っていることもあるのですが、大半の人は東京などの都心部に出る傾向にあり、地方の家は空き家になるのです。一方で、相続で空き家を引き継ぐと、所有者には空き家を管理する責任が生じます。
また、家もきちんと管理しなければ傷む速度が早くなります。
壁にツタがはうような状態になると景観上の問題が出てくるので、近隣の住民の方に不快な気持ちを与えることになります。さらにそうした問題から市役所に通報されることもあります。それでもなお放置を続けると「特定空き家」に指定されるので、管理を怠るわけにはいきません。空き家が犯罪者が潜伏する場所になるケースも多く、様々な観点から空き家を放置することは危険だと見なされているのです。
そうした中、国税庁は空き家問題に取り組むべくある方針を打ち出しました。
相続した空き家を売却した際、最大で3,000万円の控除をすると言うものです。
実際に国税庁は下記のようにその政策をホームページ上で紹介しています。
『相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等を、平成28年4月1日から平成31年(2019年)12月31日までの間に売って、一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除することができます。これを、被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例といいます。』
(引用:国税庁https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm)
空き家を誰かに譲渡するとなると、その売上金額があるのはもちろんなのですが、その譲渡価格から取得費と諸経費を引いた金額が控除の対象になります。
まず取得費ですが、この土地や建物の取得に使ったお金のことを指します。もし耐震リフォーム等の改良をしていれば、その改良費なども含まれます。ただその経費をかけた時が数十年前であったとしたら、この取得費が明確に分からない場合もあるでしょう。
その時は一律売却金額の5%として計算することが認められています。
そして諸経費についてですが、諸経費は登記費用や、収入印紙代などを指します。火災保険料なども含まれます。そしてこの譲渡価格から、上記の取得費や諸経費を引いた金額に所得税と住民税をかけた金額がその税金です。この特別控除3,000万円があることで、仮に譲渡金額が3,800万円で取得費と諸経費が合計で800万円かかったと仮定すると、かかる税額は0円になります。
この3000万円の控除の制度は、対象となる空き家の他に、現在住んでいる家の住宅ローンがある場合、住宅ローン控除と併用できます。
2.相続した空き家の特別控除の適用を受けるための要件
この特例の要件の中には期間の定めがあり、平成28年4月1日~平成31年12月31日の間に行われたものでなければ適用を受けられません。空き家になってから3年以内であればこの制度が使えます。ただ厳密に言うと、3年目の年の12月31日までです。
現在平成31年度を含め、3年以内に相続した空き家を持っていて困っている方は、来年度の12月末までにどうにかして早急に手放すことを考えていきましょう。この特別控除を受けることができる条件を満たすのであれば、税金を払わずに済む可能性が高いです。
この控除を適用するには、相続して譲り受けた段階からずっと空き家である、という条件を満たす必要があります。空き家ではなくずっと誰かが住んでいた場合だと、普通に居住していた家を売ったことによる3,000万円の控除を受けることができます。こちらは「居住用不動産を譲渡した場合の3,000万円特別控除」という空き家の特別控除とは別の制度になります。また、空き家を取り壊し更地にして誰かに譲ったとしても一定の条件を満たせば「空き家売却時の3,000万円特別控除」の適用を受けられます。
相続を受ける前の状態のことにも注意を払うことが必要です。その空き家を相続として受け取る前に、被相続人の方がずっと居住していたということも条件です。また、その相続が始まる前まで相続する側の方が1人で居住していた家屋であることも条件になっています。
さらに、本特例の適用を受けるためには空き家が昭和56年5月築より以前であることが条件となります。それより後に建築されたものだとこの条件は適用されません。
そしてなおかつ「区分取得建築物を除く家屋である」ことも条件となります。この区分取得建築物の具体例がマンションです。一棟丸々が自分のものではないけれど、その一部が自分のものという状態を指します。そのため、この制度が適応できるものとしては一戸建てがほとんどです。
制度を適用するためには、これら2つの条件をどちらも満たす必要があります。基本的に耐震強度は1981年(昭和56年)に耐震強度に関する制度が打ち出されており、それ以前の住宅だと耐震強度の基準に満たされないことがほとんどです。
ただし、これ以前の建物でも、耐震強度についての要件は満たさなければなりません。そのため、耐震強度を上げるリフォーム工事を行ったうえで譲る、という行程を踏む必要があります。
また、この空き家の譲渡金額が1億円以下であることも条件のひとつです。地方ではかなり広大な土地であるケースか、広くて且つ生活に便利なエリアではない限りなかなかありえない金額かもしれません。東京の都心では頻繁に起こり得るケースですので、必ず金額を確認しておきましょう。
3.相続した空き家が特別控除の適用外となる場合
現在が空き家であっても、相続時から売却時までに自分を含む誰かが居住用として使っていた場合は適用されません。もちろん、居住用ではなく事業用として使用されていた場合も適用外です。
相続が始まるまで被相続人の方が一人で居住していたことを条件にしていますが、よくあるケースで条件から外れることがあるので気を付けましょう。例えば「住んではいたけれど晩年は長年老人ホームに入っていた」というような状況だとこの特別控除の適用は難しくなります。
急に容体が悪くなり病院で亡くなるケースもありますが、最近は健康寿命と非健康寿命との間にかなり差があると言われています。最近の医療技術の進化も理由のひとつですが、多くは自活が難しくなって老人ホームなどに入るケースがほとんどです。このように、「ずっとその家に住み続ける」という方は少なくなっています。
こうした様々な条件から住めない状態になったとき、立地が良いところであれば賃貸として人に貸し出す人もいます。ですが「本人が1人で住む」ことを条件にしているので、その場合にもこの空き家の特別控除の条件から外れることになります。
では「基本的には自宅にいるけれど、介護保険適用の範囲でショートステイに行っている場合はどうなのか」という場合はどうなるのでしょうか。ショートステイであれば、数泊はしても自宅に戻ることが一般的なので、この場合はその家に住んでいたと認められるケースが多いです。ただ状況によっては判断が異なりますので、空き家を売る時には必ず確認しましょう。
また、相続となると分割して相続をする状態になることもあります。例えば、住宅と土地をそれぞれ別の兄弟姉妹が相続した場合、制度を適用するのは難しくなります。先ほども触れたマンションのように1区画だけが自分のものという状態になると空き家の特別控除が難しくなります。さらに2世帯住宅の場合であっても、名義がお互いに違うことになると適用は困難です。
固定資産税はただの土地や駐車場用のものと、住宅用のものとではかかる税金額が違います。人が住むことを条件にした制度を利用すれば通常の6分の1の固定資産税で済みます。しかし、更地にしてしまうとその適用ができなくなることから、あえて空き家として残している人が多いです。はじめは空き家をそのままにしておき、契約が成立し次第解体するということもよくあるケースです。
ただ解体費用もかかりますので、費用を節約したいのであれば古家付で相場より安い価格で売り出すケースもあります。気をつけたいのは、古家付の場合、その家の価値がゼロの状態で引き渡すと、この特例を使うことができないことです。更地の状態で譲渡することが決まっている場合、この制度の適用を考えているのであれば、古家付きで渡すのではなく、引き渡しまでに必ずその古い家を取り壊してください。
土地の建物の資産額が1億円以下かどうかという条件については、共有の場合は共有しているものの合計で算出されるところがあり、かなり煩雑です。先ほど、住宅と土地を別々の名義で相続した場合はこの制度を適用することが難しいという話をしましたが、住宅と土地の両方の名義を共有名義にしているのであればこの制度を使うことが可能です。もし、土地と建物どちらも共有名義であった場合は、特別控除額3,000万円が1人につき1回適用されますので、合計で6000万円の控除を受けることが可能です。このように同じような「共有」に見える事項でも、共有の仕方で制度が適用できるか否かが分かれてきます。
このように制度については煩雑な面が多いため、素人判断は危険です。不動産は大きな金額になりやすいため、税金も大きな金額になるケースも多いです。支払いが不要だと思っていたのに実は支払いが必要だとわかると、経済的な打撃はもちろん、精神的な打撃も大きなものになります。
相続の手続きや空き家の売買をする際には、多くの方が弁護士や司法書士などの専門家に依頼するでしょう。ネット上のサイトを参考にするだけではなく、必ず事前に所有している空き家の詳細と特別控除を受けたいことを専門家に相談するようにしましょう。
4.相続した空き家の特別控除を受けるための手続き方法
この3,000万円の特例を使う場合は、必ず確定申告を行います。家屋と敷地で売却した場合と、更地として売却した場合とでは、住宅とセットで売却したほうが準備する書類が若干多いです。
住宅と土地をセットで売却した場合、更地にして売却した場合、どちらにも共通して必要なものは、売買証明書のコピー、譲渡所得の内訳書、対象家屋・敷地の登記事項証明書、被相続人が住んでいたことを証明する書類です。この被相続人が住んでいたことを証明する書類は、電気・ガス・水道の証明書となります。具体的な証明書名は「電気ガスの閉栓証明書」や「水道の使用廃止届出書」です。
このいずれかで以前被相続人が住んでいた事と同時に生活に必要なライフラインである電気・ガス・水道を止めている、すなわち空き家であることの証明が可能です。このどちらの書類も取り寄せるのが難しければ、取り壊し予定の空き家として売り出している不動産の広告のコピーでも可能です。税務署か税務課で確認をしたほうが良いのは言うまでもありませんが、インターネット上に載っている不動産売買の広告をプリントアウトしたものでも可であるケースが多いです。
住宅もセットで売却した場合のみ、耐震基準適応証明書が必要になります。必ずしもこの書類の必要性はなく、建築住宅性能評価書のコピーでも代用可能です。
確定申告をする前に、必要な書類を税務局(もしくは税務課)に確認しておくと安心ですね。
5.相続した空き家を売却する場合の注意点
相続した空き家に手をこまねいている人は多いです。比較的利便の良いところであれば売却もすんなりと行きますし、賃貸として貸し出すこともできます。ですが、相続した空き家に困っている人の大半は利便性に問題があるところに住宅があるケースが大半です。
この3,000万円の控除を受けるには、相続してから3年以内と決まっています。
色々な空き家があるので一概には言えませんが、売れずに困るほどの空き家もあり3年なんてあっという間に経過してしまうという話もよく聞きます。
そして、もし空き家自体も込みで売るとなると耐震基準適合証明書が必要です。この新基準の耐震基準が定められたのが「昭和56年(1981年)6月1日」です。この3,000万円の控除を受ける家屋の条件としては、建築された時期が「昭和56年(1981年)5月31日以前」です。
つまり、途中で安全性に疑問を抱いて耐震リフォームをしたという事ではない限りは、全ての控除を受けられる条件を満たしていない可能性があります。売れる自信があるのであれば、耐震リフォームを施して売ってもよいでしょう。ですが3年というリミットもあるため、立地的に自信がないのであれば、売れ次第更地にするほうが良いでしょう。新基準の耐震基準が定められる前の家屋に限定して利用できる制度であること自体、空き家の取り壊しをさせることを目的としている制度なのではないかと言われています。
この制度の適用範囲は非常に狭いです。もしかしたらその控除を受けることができない可能性もあります。もしこの控除を受けたいのであれば弁護士や司法書士、不動産関係の方に必ず相談をするようにしましょう。
6.まとめ
特に近年は相続などの関係から空き家は問題になっていますので、このような制度があるのはありがたいですね。空き家は安全上においても防犯上においても良いものではありません。
使わない家は取り壊して土地のみにするか、住まいであれば誰かが住んでいる状態にするのが望ましいです。家は人が管理しているからこそ状態を保つことができます。
ただ、この空き家の売却控除は適用範囲が狭く、条件に当てはまらないケースも多いです。私たちは最近インターネットを使っていろいろなことを調べることができるようになりました。ですが、インターネット上の情報を鵜呑みにするのは危険ですし、うっかり勘違いをしてしまうこともあります。
先ほども触れたように不動産は大きなお金が動きますので、その税金も大きな金額になりがちです。ですので、必ず自分や家族間で判断をするのではなく空き家の3,000万円の控除の手続きに慣れている専門家に相談をするようにしましょう。