事例紹介
Category 不動産
2018年06月28日 更新
不動産信託における所得税について
自分が動けなくなった時でも、財産を誰かに管理してもらったり、その収益で生活できるようにしておきたいという希望があることがあります。
この希望を解決する方法として、信託という制度があります。不動産などを信託によって、誰かに管理をしてもらうのです。
そのためには、信託の仕組みと、どのような流れで信託されるのか理解しておく必要があります。
この記事でわかること
1. 不動産の信託とは
まずは基本として、不動産の信託の基本を理解して置く必要があります。
財産を持っている人が、第三者に所有権を移転し、その収入を委託者の指定する人に支払うという仕組みになっています。
つまり財産を預ける人、管理する人、さらには収入を得る人がそれぞれ異なるのが信託の基本的な仕組みです。この信託の詳しい仕組みをさらに掘り下げていきましょう。
1-1. 信託の仕組み
信託の仕組みとして始めに考えるのは、不動産などを所有している委託者です。
この委託者が信託をすることで、財産の管理や処分を特定の人(受託者)に委託するというのが簡単な仕組みです。さらに不動産から得られる収益を受け取る「受益者」の存在もいます。
不動産の管理を第三者などに委託し、管理を任された受託者は、その信託の内容に沿って財産の管理をしていく必要があります。それにはどのように財産を使うことができる内容や、不動産の取り扱い方なども含まれています。
信託は、自分が管理をするのが難しい時、例えば老後の管理が難しい時を想定して不動産管理を任せたり、また相続対策をするのに有効な方法として注目されています。
1-2. 不動産信託と信託受益権
不動産信託を解説する際に、信託受益権についても知っておく必要があります。信託受益権とは、簡単に言うと不動産から得られる利益を得る権利です。というのも通常の不動産の売買では不動産を売却した段階で、所有権も移動し、不動産から得られる収益も買主のものになります。
しかし不動産信託の場合は、信託を任された個人や信託会社と、利益を得る受益者は異なることもあります。これが信託受益権というもので、委託者と受益者が同じというケースもありますが、相続対策などで信託受益権は他の人に渡されるという事もあります。
1-3. 信託の流れ
それでは実際に信託が行われる時の流れについて解説してみましょう。
委託社は受託者に信託契約を締結します。これには、信託契約や委託者の遺言、他には公的証書による自己信託という方法を用いることができます。
この信託行為によって、受託者が委託者の意向に沿って、所有権を移転された不動産を管理する、もしくは処分する、その他の目的に従って必要な管理をしていきます。
1-4. 不動産信託のメリットとデメリット
不動産信託をするメリットとして、不動産の流通にかかるコストが安くなることが多いです。これが不動産の信託を利用して相続をしていくメリットにもつながります。
そもそも不動産を売買する時には、多額の金額が動くのですが、そのコストも多くなるのが通常です。その中でも買主、売主の双方にとって負担になるのが、税金です。
不動産の売買が行われ、実際の利益が発生した段階で、課税が行われます。不動産信託を用いて、相続などをすると、贈与税が非課税になる場合もあるなど、税務上でのメリットが活かされることもあります。
もちろん不動産信託にもデメリットがあり、信託会社や個人に管理が任されている以上、常に利益が発生するとも限らない事があげられます。これは信託というシステムに起因するので、このデメリットを少なくするには、信頼できる受託者、もしくは信託会社を選ぶしかありません。
2. 不動産を信託した際の所得税
不動産を信託した場合には、所有権は受託者に移るのですが、受益者はまた別に設定されていることもあります。それで、不動産を信託した場合の所得税は、いつも同じパターンとも限りません。
幾つかの信託の条件により、そのように所得税がかかっていくのか、考えてみましょう。
2-1. 自益信託の場合
一つ目に場合として、自益信託という信託方法があります。
これは委託者と受益者が同じという信託方法です。信託不動産は、受益者のために管理され、運用されていくので、信託不動産も実質的な所有者は、受益者のものとなります。
基本的に所得税というのは、収益を得ている人に対してかけられるものなので、この自益信託の場合は、受益者である本人に課せられます。
信託会社などに管理を任せていたとしても、利益を得ているのは委託者と受託者の同一人物なので、所得税は委託者本人に課せられます。
2-2. 他益信託の場合
別の信託方法として、委託者と受益者が異なる他益信託の場合があります。これは、委託者と実際に利益を得る受益者が異なる場合ですが、この場合は収益を受け取るのが誰なのかがポイントになります。
信託に課せられる税金には、「受益者課税の原則」というものが存在し、実際に利益を受け取る受益者に課税されるという内容です。信託契約を締結した時には、受益者が変更にならないこともありますが、実際に信託期間中には受益者が異なる場合もあり、変更された受益者に所得税が課せられます。利益を得る人に対して、所得税は課せられると覚えておくと良いでしょう。
2-3. 信託受益権を第三者に移転した場合
もし信託受益権を第三者に移転した場合には、有償か無償かによって少しかかる税金が異なります。仮に無償で第三者に移転した場合には、受益者が実際に信託不動産から得た収益に対して所得税が、また譲渡に際して贈与税も課せられます。
有償で信託受益権を売却した場合には、元の受益者に対しては、譲渡所得税が課せられます。また受益者は収益が発生した段階で、所得税が課せられます。
このように信託受益権が第三者に売却されると、多額の税金がかかるケースがあります。
3. 家族に不動産を信託したらどうなるか
それでは、家族内で不動産を信託した場合は、どうなるのでしょうか?
相続税対策としても注目されている家族信託ですので、どのような仕組みなのか、またメリットや考えるべきデメリットについても理解しておくことが、スムーズに信託を進めていく上での鍵になります。
家族信託を行うと、通常の贈与や相続とは課せられる税金や、納税者が異なることもあります。
3-1. 信託による税金支払い者は変わらない
家族信託をした場合でも「受益者課税の原則」は変わりません。
誰に信託をしたかによって税金を支払う義務のある人が変更になるのではなく、誰が利益を得ているのかが大きなポイントです。信託をしたからと言って、受益権は変わらないという場合には、受託者ではなく受益者に税金が課せられます。
しかし所得税などは課せられないとしても、受託しているのが不動産の場合には、いくつかの税金がかかるのは覚えておく必要があるでしょう。
不動産の信託では、不動産の名義を委託者から受託者に変更するので、登録免許税が課税されます。この税金は、売買や譲渡の場合の所有権移転登記よりも、5分の1という少ない税率で計算されるので、税負担が少なくなります。
また不動産は受託者の名義になっているので、固定資産税の支払いも受託者に届きます。しかし実際の所有者は、受益者になるので、信託不動産の管理費用として信託財産から拠出することが許さているので、受益者が負担する形になります。
3-2. 事業継承が絡むケースでは節税になることもある
家族信託をすると、柔軟に相続対策をすることができるので、相続をスムーズに行う方法として注目されています。
しかし相続税や贈与税は変わることなく課税されるので、節税対策としてはそれほど意味を成しませんが、事業継承が絡んでいる場合には、節税対策として有効な場合があります。
良くある方法として、相続トラブルを避けるために、オーナーが所有している株式や不動産を法人所有にするために、会社に売却するという方法が取られます。
しかしこの場合には、個人には譲渡所得税、購入した法人側には、不動産取得税という税金が課税されます。節税対策やトラブル回避をしたいと思いながら、結局のところ多額の税金がかかってしまうというケースです。
この場合に家族信託が節税に有効です。家族信託契約をしておき、法人を受託者に設定し、株式の議決権は集結させておき、一次受益者を委託者に設定します。
また二次受益者を相続人に設定すると、所有している会社には影響を出さずに、株主としての利益を相続人に移すことが可能です。
このように家族信託自体では、それほど節税対策にならなくても、事業が絡むケースでは、節税に役立てることが可能です。
3-3. 生前の家族信託はのちの手続きがスムーズになる
家族信託をもし生前に行う事ができれば、手続きはさらにスムーズになっていきます。その理由を解説していきましょう。
そもそも家族信託も家族の移行に沿って管理をしたり、承継したりするための仕組みになります。それで生前の段階で信託を済ませておくと、後に管理が難しくなったり、認知症で適切な判断が難しくなっても、財産の管理を受託者に任せておくことができます。
認知症などの超高齢社会になっている長寿化対策として、生前の家族信託はスムーズに手続きをしておくのに注目されています。
信託をする側としても、生前にどのように信託をするのか決定できるので、財産の継承に安心感を持つことができます。自分が元気なうちに、不動産を継承してしまえば、安心して老後生活を送ることができるので、生前の家族信託はおすすめの方法です。
4. まとめ
不動産信託は、安心して不動産の管理を任せるための一つの方法です。
自分自身で管理をするのが難しくなっても、受託者に安心して任せておけば、財産について心配することなく、管理を依頼できます。
その際には、課税される税金や、信託の流れなども異なりますので、信託についての理解を深めスムーズな手続きができるようにしたいものです。
自身が所有する不動産を任せるという大きな決定なので、家族信託などは特に遺言や成年後見制度などとの兼ね合いも考えながら、弁護士などを相談して決定するのが良いでしょう。