事例紹介
Category 不動産
2018年10月02日 更新
不動産の代物弁済と税金(印紙税・不動産取得税・消費税)の注意点とは?
不動産は、お金の貸し借りと関係が深い資産です。
不動産の購入時には銀行によって抵当権が設定されてローンを組んだり、不動産を担保として事業資金を借り入れたりするケースは珍しくありません。
企業同士のお金の貸し借りにおいても抵当権が設定されることがありますが、抵当権と併用されるものに代物弁済という仕組みがあります。
不動産と抵当権の関係については十分に理解している方であっても、代物弁済や、代物弁済の予約という言葉には馴染みのない方が多いのではないでしょうか。
ここでは、そもそも代物弁済という仕組みがどのようなものか、そして代物弁済の代表格といえる不動産の代物弁済について解説いたします。
この記事でわかること
1. 不動産の代物弁済とは
銀行や消費者金融などの金融機関や、友人や取引先などから借りたお金を返済するときに、現金ではなく不動産によって支払うことを「不動産の代物弁済」と言います。
一般的に代物弁済は、換金することが簡単で、社会的な評価が明確であるものによって行われます。
不動産は、このような条件に合っているために、代物弁済を行うことが出来る資産として扱われることが珍しくありません。
例えば絵画やフィギュアなども高価な金額で売買されることがありますが、換金するまでには長い時間がかかり、評価をできる人が限られているために、代物弁済には不向きな資産です。
また、不動産であっても、入居者がいる状態のアパートなどについては代物弁済には不向きです。換金するまでのスピードや、評価基準などが不明確だからです。
同じような理由で、田舎の土地や山などについても、代物弁済として受け入れられない可能性が高いです。
本来であれば借金の返済は現金で行われるのが一般的ですから、代物弁済を受け入れるかどうかは債権者の判断によって決まります。
不動産が代物弁済に向いている資産であるからと言って、お金を借りた債務者の判断によって一方的に不動産で代物弁済することは出来ません。
不動産の代物弁済では、お金を貸している債権者の方が圧倒的に有利なのです。
このような債権者に有利な代物弁済ですが、根拠法となっている民法の各条文を見てみると、債権者が十分に注意するべき項目があります。
1-1. 1000万円の債務があり、不動産による代物弁済が行われる場合
1000万円の債務があり、現金での返済が難しく、不動産による代物弁済が行われる場合を例に説明していきましょう。
代物弁済に充てられる不動産が1500万円の評価額の物件であった場合には、債務を上回っている差額の500万円を支払うことになります。
これは、債務者が債権者に対して不当利得返還請求を行うことによって実行されます。
一方、代物弁済に充てられる不動産が500万円の評価額で、債務の1000万円には達していない場合は、どのように扱われるのでしょうか。
実は、不動産の評価額が債務を上回った場合には債務者からの不当利得返還請求が行われるのに対して、評価額が債務を下回った場合には債務が相殺されてしまうのです。
債務の金額に達していないのですから、残りの債務500万円については返済を求める権利があると考えてしまいがちですが、これは誤りです。
500万円相当の不動産を受け取っただけで債務が相殺されてしまうことを避けるためには、代物弁済の契約書に特約を設ける必要があります。
債権者は、この債務の相殺について、十分に注意しておく必要があります。
こうした不動産と債務の関係では、抵当権と同じではないかと疑問に感じられるかもしれません。
実際、不動産に対して抵当権を設置する際に、不動産の代物弁済の予約が行われるケースが数多く見られます。
1-2. 抵当権との違い
代物弁済と抵当権の違いをごく簡単に説明すると、代物弁済が返済手段のひとつであるのに対して、抵当権は債権者が債務を回収するための手段です。
具体的には、代物弁済では不動産の所有権が債務者から債権者に渡されますが、抵当権では不動産を競売などで売却した上で、抵当権の順位に従って現金が渡されます。
抵当権の設定と代物弁済の予約が同時に行われる理由は、債権者が有利な条件を選択できるようにするためです。
お金を借りる債務者の立場から見れば、いずれにしても不動産を失うことになりますので大きな違いがありません。
しかし、債権者にとっては現金を回収するまでの流れに違いが生じます。
2. 不動産の代物弁済の書類にも印紙税が必要
2-1. 代物弁済の手続き
代物弁済の手続きは、登記申請書を用意して、所轄の法務局で登記を行います。
また、登記の際には印紙税がかかります。
2-1. 印紙税が必要になる理由
不動産の代物弁済では、債務者が所有している不動産を差し出すことによって、債務者の持つ債務が帳消しになります。
通常の不動産の売買であれば、不動産を売却した元の所有者が、不動産の評価額に相当するお金を受け取ります。
不動産売買によって、同時にお金も動きますから税金が発生するのは当然です。
しかし、代物弁済の場合には、不動産の所有権は移りますがお金は動きませんので、どうして税金が発生するのかと不思議に思う債務者の方もいるかもしれません。
また、お金に困っているからこそ不動産を代物弁済しているのに、さらに税金まで支払わなければならないのかと不満に感じられる方もいます。
とはいえ、代物弁済を債務者の立場から見れば、債務が完済できたり、債務の一部が無くなるなどの金銭的なメリットがあります。
借金の返済という事情とは関係なく、あくまで通常の売買の延長線上として代物弁済は行われるのです。
手元にお金が入ってくるわけではありませんが、支払うべき借金が無くなるのですから、債務者が利益を得たと考えるのが日本の税制です。
ですから債務者に対しては、通常の不動産売買と同じく、不動産譲渡にかかる所得税や消費税などが発生するのです。
2-2. 債権者は不動産取得税がかかる
また、債権者の側でも不動産取得税が発生します。
本来であれば現金での返済を受けるはずが債務者の事情によって不動産の代物弁済が行われるわけですが、こういった事情も考慮されません。
ただし、債務者については、一定の条件を満たすことによって非課税となる場合があります。
2-3. 債権者が非課税となる場合
どうしても不動産による代物弁済しか返済を受ける手段がない状態については、債権者の事情が考慮され非課税となります。
債務者が不動産以外の資産を一切持っておらず、不動産を受け取る以外の選択肢がないといった状態で、債務者が仕方なく不動産で代物弁済を受ける場合です。
債権者は現金による返済が受けられず、不動産を押し付けられる形となりますので、最低限の事情が考慮されるのです。
そして、不動産の代物弁済においては、所有権の移転のために登記が行われますので代物弁済契約書には、登録免許税として印紙税が発生します。
2-4. 印紙税額の計算方法
不動産の代物弁済にかかる所有権移転登記の印紙税率は、売買の場合と同率です。
土地と建物をわけて考える理由
まず、不動産の登記においては、土地と建物をわけて考えます。
これは、土地と建物の所有者が異なるケースが珍しくないため、登記の段階で分けておく方が利便性が高いからです。
マンションなどを購入されたことがある方にとっては、建物の区分所有権と、土地の所有権が分かれていることを契約書などで確認されたことがあるはずです。
また、一戸建てやアパートなどの場合にも、相続などの都合で土地と建物の所有者が異なるケースが数多くあります。
税制面から見た場合にも、やはり土地と建物は別です。
ただし、実は土地と建物の登録免許税は同率で、それぞれ不動産の課税標準額の1000分の20です。
つまり、例えば1000万円の不動産を代物弁済した場合には、2万円の印紙を代物弁済契約書に貼り付ける必要があります。
ちなみに印紙とは、税金の支払いを簡略化する仕組みで、2万円の印紙を貼り付けることによって登録免許税2万円を納付したことと同じ効果になります。
税法では印紙による登録免許税の納付は3万円以下までとなっており、1500万円以上の不動産の登記では現金での納付ということになっていますが、実際には3万円以上であっても印紙貼り付けで受領されます。
では、ここからは土地と建物のそれぞれについて、異なる事情について解説します。
まず、土地の課税標準額については、実際の売買された金額とは違います。
固定資産税の支払いなどでご存知かと思いますが、税制における土地の資産評価には路線価というものが使用されます。
路線価とは、土地に隣接している道路によって資産価値を評価する仕組みで、実際に売買されている市場価格よりも随分と低い金額になります。
路線価は1平方メートルあたりの土地の価格が設定されていて、土地の形状を考慮した上で、広さによって価格が決定するものです。
こうして算出された課税標準に対して、登録免許税が1000分の20となります。
なお、通常の売買については減税措置が取られていますが、代物弁済は贈与と同じカテゴリになるため、減税の対象ではありません。
建物の課税標準
次に、建物の課税標準についてです。
建物は、土地とは異なり、建築からの年月が経つことによって資産価値が下がるものであると考えられています。
実際の売買においても築年数が重視されていますから、理解しやすいです。
リフォームや増築などの事情によって資産価値が変化しますので、不動産鑑定士などの専門家による評価が必要にあります。
建物についても、この評価額に基づいて課税標準が決定し、登録免許税が1000分の20で課せられます。
土地と同様、売買に対して取られている税率の軽減措置は適用されません。
3. まとめ
いかがでしたか?
一般的に抵当権と併用されることの多い代物弁済は、不動産と債権にかかわる法的な措置として、比較的頻繁に行われるものです。
抵当権との違いを十分に理解した上で、併用や選択など有利な条件を得られるように使い分ける必要があります。
税制面では、通常の売買との大きな差別化はされておらず、さらに売買に対して行われている軽減措置が適用されないため、債務者にとっては決して好ましいものではありません。
債務が返済できずに困っているところで、さらに重い税金が課されるのですから、債務者の負担が大きい借金の返済方法ということにあります。
また、債権者にとっても、代物弁済によって債務が帳消しになるなど、特約を設けなければ思わぬ損失を生む仕組みであることに注意が必要です。
さらに、代物弁済の手続きに入った場合には、不動産の評価額によって債務者と債権者の双方に様々な手続きが生じることも抵当権とは異なる点です。
このように不動産の代物弁済は、当事者にとって決して好ましい選択肢であるとは言えませんが、イザと言う時には代物弁済が可能な資産であるという点においても、他の資産と比べて不動産は優位なものであると言えます。
代物弁済は、通常の不動産売買と同様の扱いを受けるために登録免許税が発生し、税率によって算出された印紙の貼りつけが必要であります。