事例紹介
トップクラスの富裕層のお客様(A)から、所得税の税務調査の連絡が入りました。
通常の税務調査と大きく異なったのは、
・Aに巨額の金融資産があることはわかっているものの、その全容を当方も掴み切れていなかったこと
・税務署の調査官(B)がいわゆるやり手の方で、過去別件の税務調査で当方と激しくやりあった経緯があったこと
であり、すんなりと終わる税務調査ではないことは当初から予想されました。
Bの関心は所得税では無く、Aの財産でした。Bは国家権力を最大限に利用し、ありとあらゆる金融機関に照会をかけて、その全容を解明しようとしました。
但し、Bをもってしても限界があったのは、
- その巨額の財産の形成過程
- 金融機関の残高に計上されない現物財産、すなわち無記名の割引債(無記名債券)の存在
でした。
Aには贈与税の時効が成立していない時期に巨額の無記名債券の償還金があったことから、Bは明確な根拠が無い中、
- 償還金は、Aの財産形成とは全く無関係であったAの亡夫からの未分割相続財産であり、Aは自己の法定相続分以外の財産につき、相続人である長男(C)から贈与を受けた
という強引なシナリオと論法のもと、CからAへの課税価格約4億円の贈与税を課税しようとしました。
これに対し、当方はAの財産形成過程を立証すべく、図書館で過去の高額納税者番付資料を収集したり、可能な限り過去に遡って所得情報をかき集めたりして、その財産が当初よりAに帰属する財産であったことの根拠づくりとあわせて、Bの調査手法を問題視すべく、税務署長に直談判するなど、「疑わしきは納税者有利」になるよう奔走しました。
他方、Cにもその財産形成過程を明確にできない巨額の財産が有り、BがAの課税価格次第ではCの名義財産の可能性(=Cの財産は名義がCになっているだけであって、実態はAの財産である)を指摘した上で、Aの財産への足し戻しとAからCへの贈与税を課税する動きもありました。
Cの財産がAの財産と認定された場合の相続時に課税される相続税の影響を考慮し、当方とBとの18ヶ月に渡る交渉と攻防の末、当初の4億円から2億円に課税価格を下げることで決着しました。
今回の事例のポイント
①粘り強く交渉すること
課税価格が大きい事案になると、税務署も力の入れ方が変わってきます。税務署から言われるままに大人しくその主張を受け入れてしまうとお客様に多額の負担を強いることになります。時間や労力がかかっても、粘り強く交渉することが大切です。
②税務署に問題がある場合は正々堂々と是正を求める
税務署の調査手法に問題が有る場合には、正々堂々とその点を主張し、是正を求めるべきです。
むやみやたらに主義主張を通すのではなく、押したり引いたりしながらもお客様が有利に展開できるよう大局的な視点から「落とし所」を模索することが肝心です。