事例紹介
Category 不動産
2018年11月24日
不動産相続をスムーズに!『遺産分割協議書』作成と『持分』の書き方の基本
突然やってくる遺産の相続。何をしたらいいかわからない、という人も多いのではないでしょうか?今回は亡くなった方名義の土地・建物(一戸建・マンション等)の不動産を名義変更(相続登記)する際に必要な「遺産分割協議書」についてご説明します。
1.遺産分割協議書の不動産持分の書き方
亡くなった方の財産は相続人全員の話し合いによって「誰が何を相続するか」を決めていかなければなりません。この話し合いのことを「遺産分割協議」といい、その協議で話し合った内容を書面で記録したものを「遺産分割協議書」といいます。この遺産分割協議書は法律上必ず作成しなくてはならないものではありません。
◆協議書が必要ない場合
- 遺言書がある
- 法定相続分(法律で定められた相続の割合)を相続する
◆協議書が必要な場合
- 遺言書がない
- 法定相続分とは異なる割合で財産を分け合う
例えば相続人が3人いる中で、亡くなった方の不動産をそのうちの1人の相続人が相続する場合は法定相続分とは異なる割合で相続することになりますので、作成が必要となってくるわけです。とはいえ、不動産は公平に分割することが難しい財産ですので、相続人の意向やその時の状況により分け方がいくつかあることを覚えておきましょう。分け方には以下の3つの方法があります。
現物分割:不動産をそのまま相続する方法
代償分割:特定の相続人が不動産を相続し、他の相続人に代償金を払うことによって公平性を保つ方法
換価分割:不動産を売却し、現金を相続人に公平に分け合う方法
しかし、どの方法を選択したとしても遺産分割協議書には「誰が何をどのように相続するか」を明記する必要があることには変わりありません。では、遺産分割協議で決まったことを遺産分割協議書に記載する際、どのように記載すべきなのでしょう。
ここで重要になってくるのが「持分」という考えです。ひとつの不動産を相続人が相続する場合にその所有権の割合を「持分」といいます。その不動産を1人の相続人が相続する場合は「単独持分」、複数の相続人が相続する場合は「共有持分」ということになります。
この持分は、遺産分割協議で法定相続分によらない分割方法を選択した時、必ず持分の割合を遺産分割協議書に記載しなければなりません。
①現物分割を定めた場合
- 相続人中の1人が1つの不動産を単独で取得する場合
持分の記載は必要ありません。ですが、「誰が」「何を」取得するかを明記することが必要です。
例)第1条 相続人Aは次の不動産を取得する。(以下、不動産の表示を記載)
- 相続人中の複数が1つの不動産を共有する場合
持分の記載が必要です。「誰が」「何を」「どのような割合で」取得するかを明記しなければなりません。
例)第1条 相続人A及びBは次の不動産を持分各2分の1の割合の共有で取得する。(以下、不動産の表示を記載)
(注意)持分の割合はパーセント表記ではなく「○分の○」表記をするようにしてください。
②代償分割を定めた場合
「誰が」その不動産を取得し、「誰にいくら」「いつまでに」「どのように」支払うかを明記します。
例)第1条 相続人Aは次の不動産を取得する。(以下、不動産の表示を記載)
第2条 相続人Aは相続人Bに対し、第1条の遺産取得の代償として金〇〇〇〇円を支払うこととし、これを平成〇〇年○月○日限り、Bの指定する銀行預金口座に振込送金の方法により支払うものとする。
③換価分割を定めた場合
「誰が」「何を」「どのような割合で」不動産を取得し、「どのような割合で」現金を取得するかを明記します。
例)第1条 相続人A及び相続人Bは次の不動産を持分各2分の1の割合で共同で取得する。(以下、不動産の表示を記載)
第2条 相続人A及び相続人Bは、共同で第1条の不動産を遅滞なく売却し、その売却代金から売却に関して要する一切の費用を控除した残額を各2分の1の割合で取得する。
2.共有持分(共有名義)不動産の遺産分割協議書の書き方
ここまで不動産持分の書き方を説明してきましたが、亡くなった方の遺産すべてが単独所有になるとは限りません。遺産となる不動産を「夫婦で共有している場合」や「第三者と共有している場合」もあります。この不動産のことを「共有持分(共有名義)不動産」といいます。この共有持分不動産の共有者がなくなった場合でも、以下のいずれかの場合は共有者の全相続人の間で遺産分割協議を行い、相続人の間で合意した内容を以って遺産分割協議書を作成する必要があります。
- 遺言書がない場合
- 法定相続分と異なる割合で財産を分け合う場合
では実際の書き方ですが、実は通常の遺産分割協議書の書き方と変わりはありません。異なる点は不動産の「共有持分」の記載をする点にあります。
では実際にどのような記載方法をすればいいのでしょう?
まず、作成する遺産分割協議書には相続財産の表示が必ず必要になります。これら財産のうち、不動産に関するものを「不動産の表示」によって明記します。そこには当該不動産の所在、地番、地目、地積、種類、構造、家屋番号、床面積等(マンションの場合は敷地権の種類と割合も表示)を記載するわけですが、この中に共有持分の記載をすることになります。具体的な記載例は次のようになります(なくなった方が名古屋一郎さんで、共有持分が2分の1だった場合を想定)。
土地
所 在 名古屋市中区〇〇町一丁目
地 番 1番1
地 目 宅 地
地 積 100・00平方メートル
名古屋太郎持分 2分の1
建物
所 在 名古屋市中区〇〇町一丁目1番1
家屋番号 〇〇番○
種 類 居 宅
構 造 木造瓦葺2階建
床面積 1階 60・00平方メートル
2階 45・15平方メートル
名古屋太郎持分 2分の1
というように記載します(他にも「此持分 2分の1」や単に「持分 2分の1」と記載する方もいます)。遺産分割協議によってどのような分割方法(現物分割・代償分割・換価分割)をとる場合でも共有部分を記載していきます。また、第三者と共有している不動産で、「亡くなった方の共有持分が2分の1、他の2人の共有者の持分がそれぞれ4分の1ずつ所有」していた場合は、亡くなった方が所有していた持分を遺産分割協議書に記載するだけで構いません。つまり2分の1です。他の共有者の持分の記載は不要です。
3.遺産分割協議書作成時の注意点
遺産分割協議書の書き方に特定の書式はありません。インターネットで「遺産分割協議書」と検索すれば、いろいろな雛形がすぐに入手可能です。1、2の書き方を参考にして作成すれば問題ないでしょう。ただし、雛形が入手できても肝心な記載事項や書き方、作成方法が間違っていると法務局や金融機関で受理してもらえません。せっかく苦労して作成したものの効力が認められないだけでなく、後々のトラブルにもつながります。そのようなことにならないために、「遺産分割協議は相続人全員で行う」ということに注意しながら遺産分割協議書を作成していきましょう。
遺産分割協議書を作成する上で、その内容を決めるのが遺産分割協議であることはお伝えしました。この協議は必ず相続人全員で行いましょう。亡くなった方の戸籍からすべての相続人を把握し、協議に参加させることが必要です。協議に相続人一同が会する必要はありません。電話・メール・手紙でのやり取りでも問題ありません。
- 作成は手書き、パソコンのどちらでもOK
すべて手書きで作成しても構いませんが、記載内容の訂正や再作成が容易なパソコンでの作成をお勧めします。
- A4もしくはA3用紙で作成する
作成用紙も特に決まりはありません。ただし、この書類は法務局や金融機関に提出することがありますので、法務局や金融機関の指定書式サイズであるA4もしくはA3用紙で作成するのが良いでしょう。
- 長期間保管することを想定する
書類作成後、この書類はすぐに不要になるものではありません。保存の効く用紙に黒のボールペン等を使用しましょう。フリクションのような消せるタイプのペンは絶対に避けましょう。
- タイトルは「遺産分割協議書」で
特にタイトルは変える必要はありません。そのまま遺産分割協議書で作成しましょう。
- 亡くなった方の情報は正確に記載する
この書類には亡くなった方(被相続人)の氏名・生年月日・相続開始日(死亡日)・最終本籍地の記載が必要です。記載に誤りがあると法務局や金融機関等での手続きで受理されない場合があります。戸籍謄本や住民票を確認しながら、一字一句間違いがないように記載しましょう。特に本籍地記載の際によく間違いが指摘されます。戸籍謄本等の記載が「一丁目1番地の1」であれば「1-1-1」や「1丁目」にならないように注意が必要です。
- 遺産分割の宣言は忘れずに
書式は自由ですが、この書類が「亡くなった方の財産について」「相続人全員で」「遺産分割協議にて決定した」ものであることを冒頭で宣言することが必要です。
- 財産を明記しましょう
不動産や預貯金、自動車などが主な財産です。相続する財産がなんであるのかを明記する必要があります。複数項目の財産がある場合は列挙していきます。記載内容は登記簿謄本や権利書等で正確に特定し、相続の解釈に疑義が生じないように文末を「相続する」「取得する」と言い切ることが大切です。
- 協議書は相続人の人数分、作成する
作成通数は相続人の人数と同じ通数作成し、相続人全員が各自1部ずつ正本を保管できるようにし、すべての協議書を重ね合わせて実印で割印を押印しましょう。
- 記載する日付は成立日
書類に記載する日付は遺産分割協議が成立した日とします。通常は協議書に最後の相続人が署名押印を行った日とします。
- 相続人の表示は全相続人
全相続人の住所と氏名を記載します。住所表記は住民票や印鑑証明書の記載内容通りに書きましょう。
- 署名は自署、押印は実印が基本
署名の自署は遺産分割協議書の成立要件ではありませんが、後々のトラブルを避けるため、原則自署というのが一般的です。法務局や金融機関では、自署でない場合(代筆や記名)は代筆、記名した経緯の説明を求められることがあります。どうしても自署できない場合はその経緯等を付記しておくことがいいでしょう。また押印は必ず実印で行ってください。遺産分割協議書を提出する際、相続人全員の印鑑証明書の提出を求められます。印影が異なれば受理されません。
- 遺産分割協議書が複数枚になる場合は契印をすること
記載事項が多くなり、書類が複数枚になる場合は契印が必要です。枚数が少なければホチキスで閉じて各ページの綴じ目(左右両ページにまたがるように)実印で押印、枚数が多ければ製本し、製本テープをまたぐように表紙・裏表紙に押印しましょう。
4.まとめ
ここでは相続の際に必要な「遺産分割協議書」とその「書き方」について説明してきました。遺産分割協議によって合意した内容を遺産分割協議書にすることは、
- 全相続人の遺産分割内容や各相続人の持分を明確にする
- 遺産分割協議の内容を正確に保存する
- 相続の手続きを進められる
という目的を持っています。そのため協議にかかる時間や書類作成の手続きが面倒と感じられる方もいるのは確かです。ですがこの書類には、
- 契約書
- 証明書
という意味合いを持ち合わせています。
相続人全員が協議内容に合意し、全員が署名押印することで「契約書」の意味を持ち、遺産分割の実施やその内容の提示を対外的に通知できる「証明書」の役割を果たします。加えて、遺産分割協議書がなければ相続人の誰かが相続発生後「協議内容に異議がある」「合意した覚えはない」と言いだし、その後の相続トラブルに発展しかねません。そんなことが起きないためにも遺産分割協議書を作成しておくことの重要性を理解しておきましょう。