事例紹介
「事業用定期借地権」という言葉をご存知でしょうか?
これは借地借家法第23条で定められた借地権で、事業用の建物を所有するために土地を貸し出し、借地とすることを言います。事業用定期借地権の契約を結ぶには、一般的な借地権を結ぶ場合と異なる条件が必要になり、その契約期間にも違いがあります。
ここでは事業用定期借地権に関する詳しい解説のほかに、事業用定期借地権の評価方法や事業用定期借地権により土地を貸し出す際のメリットとデメリットについても解説していきます。また、他の定期借地権との違いも一覧表にしてあるので、参考にしてください。
この記事でわかること
1.事業用定期借地権とは
事業用定期借地権とは、定期借地権の種類の一つです。この事業用定期借地権で土地を貸し出す場合は用途が制限され、その土地を事業用に使う建物を建てるための利用のみとなります。
この事業用定期借地権については借地借家法の23条に定められています。その内容は、
- 契約の更新(存続期間の更新)を行わない
- 契約終了時には建物買取請求権は発生しない
- 更地にして返却する
などと定められています。
賃借人は借地権の存続期間を10年以上30年未満、または30年以上50年未満と定められます。借地権の存続期間が10年以上30年未満の場合、契約期間の延長を行わないことを特約とした借地権の設定契約が定められています。また、30年以上50年未満の場合には、特約により契約の更新や借地人による建物買取請求を定めることも可能です。
平成19年12月31日以前には、この事業用定期借地権の契約期間は10年以上20年以下に設定されていました。最長でも20年後には建物を取り壊し、土地を更地にして返却しなければならなかったのです。
ところが、建物の税法上の償却期間はほとんどの場合20年以上に設定されるため、20年で建物を取り壊してしまっては会計上の除却損を計上しなければならず、土地の賃借人である事業者にとっては大きな損失になっていました。
また、借地借家法では借地権を20年以上30年未満と定めることが不可能であったため、その点も貸主や事業者側に不便な法律でした。
この借地借家法の改正に伴い、新借地借家法の下での事業用定期借権の設定には、次のようなメリットが生じることが期待されます。
- 税法上の償却期間と事業用定期借地権の契約期間のミスマッチがなくなるため、事業者にとって利用しやすい
- 事業用の定期借地として、50年未満という長期間に渡って貸し出すことができるため、貸主、事業者双方のニーズに合った期間で契約を結ぶことが可能になった
- 長期にわたる契約期間を設定できるので、鉄筋コンクリート造など堅固な建物や中層の建物を建設しても、採算的に建築投資を回収できる
- 事業用定期借地権を設定し、事業用の建物を長期的に存続させることが可能になったので、街づくりや地域の活性化に役立つような土地活用が可能になった
- 「前払賃料」の制度を事業用定期借地権と合わせて利用することで、土地の所有者と事業者のニーズに合った自由度の高い契約が可能になった
この事業用定期借地権では、契約期間を借地借家法第一項で「30年以上50年未満」、第二項で「10年以上30年未満」と分けて規定しています。
その理由は、通常の借地権では30年未満という契約期間を認めておらず、その適用を除外する規定必要があるためです。一言で言うと、「10年以上50年未満で期間を定めることができ、契約の更新や建物を買い取る権利も認められない」ということになります。
では、借地人が事業用に賃貸マンションを建築する場合、この事業用定期借地権は適用されるのでしょうか?
この場合事業用とはいえ、居住用の建物を建築することになるので、事業用定期借地権は適用されません。
定期借地権の種類
区分 | 一般定期借地権 | 事業用定期借地権等 | 建物譲渡特約付借権 |
存続期間 | 50年以上 | 10年以上~50年満 | 30年以上 |
利用目的 | 限定なし | 事業用に限る | 限定なし |
更新制度 | なし(終了) | なし(終了) | なし(終了) |
終了事由 | 期間満了 | 期間満了 | 建物譲渡 |
借地権の譲渡 | 可能 | 可能 | 可能 |
契約方法 | 公正証書などの書面による | 公正証書による | 制限なし |
根拠条文 (借地借家法) |
22条 | 23条 | 24条 |
1-1.事業用定期借地権を設定するための3つの要件
事業用定期借地権を設定するためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
1-1-1.期間を「10年以上30年未満」または「30年以上50年未満」設定すること
改正前は「10年以上20年未満」と契約期間が定められていましたが、借主である事業者が大規模な商業施設や工場を建設するケースが増えてきたため、20年の期間では建物の税制上の償却期間が大きな問題になっていました。
事業用定期借地権の契約は更新ができないため、再契約という形で契約を存続させるケースが増加するようになりました。
そこで、平成20年1月1日より期間を「10年以上30年未満」または「30年以上50年未満」に設定するよう定められました。
1-1-2.借地上に建築する建物は、居住用を除いた事業用のものに限定すること
事業用定期借地法は「専ら事業の用に供する建物」の建築のために土地を借りるという契約を結ぶもの、と定められていますが、同時に「居住の用に供するものを除く」とされています。
たとえ事業用であっても、マンションやアパート、一戸建てなど居住用の建物を建てる際には、事業用定期借地権の契約を結ぶことはできません。老人ホームやグループホームも居住用の建物とみなされるので、これらの建物を建てることもできません。
1-1-3.契約を交わす際には公正証書によって行うこと
なぜ、事業用定期借地権の契約を結ぶ際に公正証書を作る必要があるのでしょうか?
それは、この契約が「専ら事業の用に供する建物」の所有を目的としてものであると公証人に審査してもらう必要があるからです。そのため、公証人は事業用定期借地権設定書に、借地上に建設する建物の設計図面(敷地図、建物配置図、平面図及び立面図)の添付を求めます。
ただ単に飲食業のため、倉庫業のためなどと業種等を記述しただけでは、事業用敵機借地権設定書を作成してもらうことはできません。
1-2.契約を結ぶ際の注意
では、事業用定期借地権の契約を結ぶ際にはどのような点に注意が必要なのでしょうか?
ここではその注意点について詳しく解説していきます。
1-2-1.法律で定められた条件を満たしているか
事業用定期借地権契約のつもりで契約しても、法律が定めた条件を満たしていない場合は通常の土地賃貸契約、いわゆる普通借地として扱われてしまいます。
そうなると事業用定期借地権の設定のために定めた契約内容も無効になってしまいます。
契約よりも法律が優先されるので、「契約書にある内容だから」と権利を主張して裁判を起こしても認めてもらえません。
1-2-2.事業用定期借地権により貸し出した土地に建築する建物の中に居住用に供される部分がないか
事業用定期借地には、前述したように居住用の建物を建てることができません。建物自体は事業用であっても、その建物の中に居住用のスペースがある場合もNGです。
貸し出す敷地内に建築する建物の中に居住スペースがある場合、そのことが契約書に明記されていても、またそのことを知っているだけでも事業用定期借地とはみなされなくなります。
1-2-3.公正証書以外の形式で契約書を作っていないか
事業用定期借地は、必ず公正証書によって契約を行わなければなりません。
「覚書」など、公正証書以外の書面で契約書を作成しても無効になります。
1-2-4.期間が10年以上になっていないか、または50年以上になっていないか
期間は、借地借家法第23条により10年以上50年未満と定められています。その期間に満たなかったり、その期間を超えて契約を結んだりすることはできません。
1-2-5.30年以上50年未満の契約の場合、契約の存続期間の延長がないことと建物買取請求権がないことが明記されているか
30年以上50年未満の事業用定期借地権の契約の場合、普通借地の契約との違いをはっきりさせるために「期間の延長がないこと」と「建物を買い取る権利がないこと」を契約書で定める必要があります。
30年未満の契約の場合には、契約書に明記しなくても自動的に契約期間の存続は延長がなく、建物の買取請求権はないこととなります。
1-2-6.契約書の中に無効な条項が入っていないか
借地借家法の中には強行規定というものがあります。これは、契約書に明記していても借主に不利な契約内容は無効になるという決まりです。
例えば「契約期間中、賃料の減額は行わない」と記載してある場合、借主に不利な内容であるとして無効になり、借主の賃料減額請求権はなくなりません。
逆に「賃料の増額は行わない」と明記してある場合には、借主に有利な内容であるため、貸主は賃料の増額を請求することはできなくなります。
1-3.事業用定期借地権の利用例
契約期間が10年以上30年未満の契約の場合、投下資金短期回収型業種、30年以上50年未満の場合には初期投資額が多額となる業種に活用されることがほとんどです。
投下資金短期回収型業種とは、
- コンビニエンスストア
- ファミリーレストラン
- ゲームセンター
- レンタルビデオ店
初期投資額が多額となる業種とは、
- 大型ショッピングセンター
- 物流倉庫
- パチンコ店
などがあげられます。
1-4.事業用定期借地権を設定するメリット
- 建物の利用目的が事業用に限定されるため、比較的高い賃料を得られる
- 貸したい土地がロードサイドにある場合、利用価値が高い
- 土地を貸し出す期間が他の借地権に比べて短いので短期的、中期的な土地活用契約が立てやすい
- 土地が更地で返ってくる
- 契約の更新がない
1-5.事業用定期借地権を設定するデメリット
- 用途が制限されるため、需要者が限定される
- 貸し出したい土地が住宅地域にある場合には、利用が難しい
2.事業用定期借地権の評価方法
事業用定期借地権により貸し出されている土地の評価は、原則として課税時期に借主に帰属する経済的な利益、またはその存続期間をもとにして行われます。
これを「原則評価法」と言います。
ただし、事業用定期借地権の設定時と課税時に変化がない場合には、課税される場合に弊害がないケースに限って、次の章に記した計算式に基づいて評価されます。
この方法を「簡便的評価方法」と言います。
3.事業用定期借地権の評価額の算式(簡便的評価法)
事業用定期借地権の評価額 =
事業用定期借地権となっている宅地の自用地評価額×(A ÷ B)×(C ÷ D)
A.定期借地権等の設定時に受ける経済的利益の総額
B.定期借地権等の設定時の宅地の通常の取引価額
C.課税時期における定期借地権等の残存期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率
D.定期借地権等の設定期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率
4.まとめ
ここまで、事業用定期借地権の詳しい内容と、事業用定期借地権の評価方法、事業用定期借地権と一般的な定期借地権の違いについて解説してきました。
事業用定期借地権の評価方法には2種類の方法があり、原則として原則評価法が用いられますが、課税上弊害がない場合には簡便的評価方法が用いられることも踏まえておきましょう。
この「評価」が必要なのはほとんどの場合、遺産相続で事業用定期借地権の契約が結ばれている土地を相続するときです。
また事業用定期借地権には借地借家法が適用されるので、借地借家法、特にその第23条にはきちんと目を通しておくことをお勧めします。
事業用定期借地権の内容をよく理解して、土地の有効活用に役立てましょう。