事例紹介
Category 不動産
2018年12月16日
アパートを売却する時に知っておきたい税金のはなし
副業や投資としてアパートを所有しているという方は増えています。いずれアパートを買い換える、処分のため売却するかもしれません。そんな時に知っておきたいのが税金のことです。アパートの売却では動く金額もまとまったものになりますから、納めなければならない税金も大きくなる可能性があります。
アパート売却で発生する税金についてみておきましょう。
この記事でわかること
1. アパートを売却したときの税金には譲渡所得税がある
アパートを売却となると、数千万円のお金が動くことになる場合が多いのではないのでしょうか。アパートを売却・譲渡したことで得た所得に「譲渡所得税」がかかる可能性があります。仮に税率が15%として、課税対象額が2,000万円なら税額が300万円にもなります。
ただ、売却額がそのまま課税対象額になるとは限りません。実際には、購入したときの金額から減価償却分を差し引いた価値をもとに、売却でどれくらいの利益を手にしたかをみます。売るために必要とした費用も必要経費として控除されますから、「課税対象額≠売却額」ということになります。
また、アパートの家賃収入に対する課税は、サラリーマンなら総合課税ですが、売却して得た譲渡所得に対しては分離課税になることも押さえておきましょう。
譲渡所得の課税対象額の考え方を整理してみましょう。
『12年前に4,000万円で購入したアパートを5,000万円で売却した場合』
- 4,000万円から建物分の原価償却費を差し引いたのが「現在の価値」
- 5,000万円から「現在の価値+売却費用」を差し引いたのが課税対象額
⇒譲渡所得課税額=5,000万円-{(4,000万円-減価償却費)+売却費用}
減価償却は建物部分にのみ適用になり、木造、鉄骨など作りによって区別された償却期間で計算します。こうして算出した譲渡所得を確定申告し、譲渡所得税、住民税、復興税の税率をかけて課税額が決定されます。
2. 譲渡所得税とは
譲渡所得税とは、資産を売った利益にかかる税金です。
ここでは、アパート(不動産)を売却したときの譲渡所得税について詳しく解説します。
2-1. 長期譲渡所得と短期譲渡所得
- 長期譲渡所得=売った年の1月1日時点で所有期間が5年を超える物件の譲渡所得
- 短期譲渡所得=売った年の1月1日時点で所有期間が5年以下の物件での譲渡所得
不動産の売買では、短期間で売買する場合と、5年を超えて所有する場合を区別しています。
購入した月に関係なく売買の行われた年の1月1日時点での所有年数が基準にしていますから、売買時期のタイミングに注意すると税率が変わり、節税できるケースがあります。
平成30年中の譲渡では、平成24年12月31日以前に取得した土地や建物は「長期譲渡所得」、平成25年1月1日以後であれば「短期譲渡所得」になります。
2-2. 譲渡所得税の税率
長期譲渡所得か短期譲渡所得かによって税率が変わり、同じ対象額に対して住民税がかかるので、合わせた税率で表されることがあります。
- 長期譲渡(譲渡所得税、住民税、復興税合計20.315%)
譲渡所得税=所得税15%(復興税2.1%を含むと15.315%)、住民税5%
- 短気譲渡(譲渡所得税、住民税、復興税合計39.63%)
譲渡所得税=所得税30%(復興税2.1%を含むと39.63%)、住民税9%
長期譲渡と短期譲渡では住民税も変わってきます。
合計の税率では、19.315%の開きがありますから、譲渡所得課税対象額1,000万円ならば、およそ193万円もの違いがでてくるのです。
2-3. 譲渡所得税の計算方法
譲渡所得税を計算するには、次の項目が必要になります。
- 購入したときの土地の価格
- 購入したときのアパート建物の価格
- アパート購入にかかった費用(取得費)
- アパートの築年数と減価償却の状況
- アパート売却時の所有年数
- アパート売却で受け取とった金額
- 売買に必要とした費用金額(譲渡費用)
では、計算方法の実例をみていきましょう。
<条件>
- 平成24年4月に3,000万円で木造アパートを購入、取得費とあわせて3,180万円支払った。
- 土地1,000万円、アパート2,000万円、取得費180万円
- 平成30年7月に3,000万円、譲渡費用200万円で売却
「課税対象金額=売却代金-譲渡費用-{(購入代金-取得費)-減価償却費}」
「3,000万円-200万円-{(3,180万円-180万円)-減価償却費}」
となります。
減価償却費の求め方は、耐用年数から割り出した減価償却率を使って計算します。
事業用の場合は…
- 木造22年・住居用減価償却率0.046
- 軽量鉄骨27年・住居用減価償却率0.038
- 鉄筋コンクリート47年・住居用減価償却率0.022
今の例では、新築取得とすると建物が6年3ヶ月ですが、計算上は6ヶ月以上の端数は切り上げ、未満の端数は切り捨てますから、6年として計算します。
減価償却費は「建物価格×0.9×償却率×年数」ですから…
「減価償却費=2,000万円×0.9×0.046×6年=496.8万円」
先程の譲渡所得課税対象額の式に当てはめると…
「3,000万円-200万円-{(3,180万円-180万円)-496.8万円}=296.8万円」
譲渡所得は296.8万円になります。所有期間が5年を超えていますから税率は15%、復興税を含むと15.315となり、譲渡所得税は本来44.52万円のところ45.45万円です。税計算の場合、100円未満の端数は切り捨てのルールです。
この例では、建物に対して支払った実質的な金額が変わらないのに、減価償却されたため譲渡所得が発生しています。建物の条件、取得費や譲渡費用によっては、購入したときと同じか安く売却しても譲渡所得が発生してしまうケースがあるのです。住民税の分も入れると税率は20.315%ですから、実質の税額は59.76万円になります。
所有年数が5年以下だとさらに税率が高くなりますから、維持費用と比較して税率が下がる5年を超えるのを待ったほうが良いケースが出てくるでしょう。アパートを売却するタイミングは、譲渡所得税の計算方法を頭に入れて検討すべきでしょう。
また、取得費や譲渡費用についても何が含まれるのかチェックしておきましょう。
国税庁の公式サイト『No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)』では次のように説明されてます。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3202.htm
<取得費>
“購入代金や、購入手数料などの資産の取得に要した金額に、その後支出した改良費、設備費を加えた合計額”
取得費が不明な場合には、譲渡価額の5%を取得費として計上できます。
<譲渡費用>
“仲介手数料、測量費、売買契約書の印紙代、売却するときに借家人などに支払った立退料、建物を取り壊して土地を売るときの取壊し費用など”
譲渡費には測量費や立ち退き料まで含めることができます。
シミュレーションするときには、それらも含めて考え、確定申告のときに領収書など証明できるものを用意しておくようにしましょう。
住民税は納税時期が確定申告を受けて5~6月に納税通知決定書が送られてきます。ですから、平成30年中に売却した譲渡所得は翌年の3月15日までに確定申告して譲渡所得税を納めるのにたいし、平成31年の5~6月に通知決定書が届いてからの納税になります。
3. 譲渡所得以外にかかる税金はあるか
アパートを売ったとき、譲渡所得をもとに「譲渡所得税」「復興支援税」「住民税」がかかることがわかりました。
この他にもかかる税金はあるのでしょうか。
3-1.消費税
国税庁の公式サイトによると、「消費税は、国内において事業者が事業として対価を得て行われる取引に課税されます。」と書かれています。
所有しているアパートの売却では、仲介業者が入る場合には仲介手数料への消費税、譲渡所得に対しての消費税が発生する可能性があります。
3-2.仲介手数料
不動産売買を仲介した場合、取引額に対して一定割合で仲介手数料を請求することが宅地建物取引業法で認められています。取引価格が「200万円以下の部分⇒ 取引額の5%以内」、「200万円超400万円以下の部分⇒取引額の4%以内」、「400万円超の部分⇒取引額の3%以内」となっています。
取引額が400万円を超えるときには、次の式で手数料が計算できます。
『仲介手数料=売買価格 × 3% + 6万円 + 消費税分』
2,000万円の販売価格なら、仲介手数料の上限は66万円です。仲介手数料が上限いっぱいの額だとすると、その8%にあたる=5.28万円が消費税相当分として請求されます。
3-3.消費税課税対象の事業者になったとき
アパート家賃には消費税がかかりませんから、アパートを所有していても収入内容がほとんど家賃収入だというオーナーは、消費税を納めたことがないと言う場合が多いものです。消費税の納税義務基準は、「課税所得が1,000万円以上」というものです。
ただし、住宅家賃に消費税はなじまないということから、消費税対象外になっています。アパート経営者が1,000万円を超える家賃収入を得ても消費税は課されません。
では、アパートを売却した売却益が1,000万円を超えていた場合にはどうなのでしょうか。個人事業者として前々年の売上が、家賃収入の他に1,000万円の収入があった場合には、消費税課税対象となります。不動産投資をおこなっている場合には、法人化していることもあるかと思います。この場合には、前々年事業年度中に課税売上高が1,000万円を超えていると課税対象になります。
また、個人事業主の場合には特定売上期間として1月1日から6月30日の間に1,000万円を超える課税売上高があった場合にも消費税の納税義務が課せられるケースがあります。
法人の場合には、事業年度のはじめの半年間が特定期間です。消費税課税対象者になっている場合には、不動産の売買についても消費税が課税される可能性があります。不動産の取引では扱う額が大きくなりますから、消費税分を見越して売却額を設定しておかないと何十万円~100万円単位の納税に対応できなくなってしまうので注意が必要です。
3-4.印紙税
売買契約書をかわすときには、契約書に印紙をはらなければなりません。書類の額面によって印紙の金額は変わりますが、平成32年までは軽減税率が適用されますから、本則よりも安い金額になっています。
- 500万円を超え1,000万円以下(本則1万円・軽減税率適用5,000円)
- 1,000万円を超え5,000万円以下(本則2万円・軽減税率適用1万円)
- 5,000万円を超え1億円以下(本則6万円・軽減税率3万円)
3-5.登録免許税
所有権の移動を行うときには、登記事項届出が必要になります。このときの届出にも、収入印紙で手数料費用を納める登録免許税が必要になります。登記内容を変更しないままでは、法的に所有権を争う場面で土地やアパートの所有者としての権利を主張できません。
登録免許税の額は、固定資産税評価額を基にして計算されます。土地の売買にかかる登録免許税は、平成31年(2019年)3月31日までの間に登記を受ける場合1,000分の15です。(本則では1,000分の20)住宅用の建物については平成32年3月31日までの間に登記を受ける場合、1,000分の3ですが、認定長期優良住宅などの条件を備えると1,000分の1になるケースがあります。
固定資産税評価額で、土地が1000万円、アパートが1000万円の評価なら、15万円+3万円で18万円の登録免許税になります。売買によって利益を得る人が持つことが一般的ですから、買い手が自分で登記するケースがほとんどですが、契約によって変わることがあるので注意しましょう。
3-6.その他
『相続や贈与があった場合』
売却したアパートが相続や贈与で引き継いだものの場合には、相続税や贈与税がかかっています。この場合、譲渡所得申告のときの取得費に相続税や贈与税を含めることができます。相続税などを納税して引き継いだアパートを売却したら、売却金額そのものが課税対象額イコールではないことを覚えておきましょう。
『固定資産税の扱いはどうなるか』
不動産への固定資産税の課税納入通知は、その年の1月1日時点での所有者です。ですから、途中で売却しても税金の納入義務はもとのオーナーになります。売却の時にその分を見越して契約するのが一般的です。「固定資産税・都市計画税の精算」として、どの日からの税額負担をするか起算日を契約書に明記し、それに従った金額を支払い額に盛り込みます。
4. まとめ
- アパート売却では譲渡所得が出るのかシミュレーションしましょう。
- 譲渡所得がプラスになる場合には分離課税で課税され、5年を境に税率が違います。
- アパート売却では扱う金額が大きく税額が高額になることがあるので、所得税以外の税金についても事前にシミュレーションしましょう。
売却を予定していたアパートを軽減税率が有効な間に、売ってしまおうと考えているオーナーもいるのではないでしょうか。
不動産は動く金額が大きいだけに、減価償却費を加味した譲渡所得の見込額、所有年数による税率をもとに、納税資金の確保まで考えておく必要があるでしょう。