事例紹介
Category 不動産
2018年09月27日
空き家の相続放棄はなぜ起きる?手続きの流れは?
所有者の死後、法律により相続される空き家。
しかしいくら不動産とはいえ、実は条件が合わなければリスクの種となってしまう場合があるのです。
今回はそんな不動産の相続人による「相続破棄」の実態と、実際の手続きの流れをご紹介したいと思います。
この記事でわかること
1. 空き家の相続放棄とは
相続の際に空き家がついてきた時、大きなメリットとなるかと言えば一概にもそうとは限りません。
例えばローンが残っていると、被相続人が住宅ローンを未払いであったり、リフォーム代を払い終えることなく相続人に行き渡ったりした時は、相続人がその支払い義務を負います。
つまり、相続とはプラス面だけではなく、マイナス面も相続しなければならないということです。
もし相続不動産に必要性を感じず、損失のリスクを見て売却しようとしても、空き家に経年劣化や損傷があれば修繕しなければ売り物になりません。土地ならまだしも、ただでさえ家は放っておいても時とともに価格が下落していくのですから、売ろうとしても損失が出てしまう場合もあるでしょう。物件の売却は所得とみなされ課税対象なので、泣き寝入りを見ることもあります。
こういったどうしようもない状況に追い込まれたとき、誰しもが思い付くのが「相続放棄」。そもそも相続をしなければよい、という案です。
しかし残念ながら、それほど簡単に事は運びません。相続のマイナス面を無視する事はできないのです。
事実、その落とし穴にハマり相続人も致し方なく、行き場を失った家が溢れ返っているのが現状なのです。
身内のマイナスは余程の事がない限り他の誰も請け負ってくれません。
それでは一体、空き家の相続放棄をしようとするとどのような事が起こるのでしょうか?
2. 相続放棄をすると国庫に帰属する
理論上、誰にも引き取られない空き家の行く末は「国庫」、つまり最終的に国の手に渡ることになります。
本来の相続人が相続放棄を行うと、相続人による然るべき手続きが為された後、放棄された不動産は第3者である「相続財産管理人」の手元に一旦渡ります。財産管理人の報酬は相続財産から、足りなければ申し立て人による支払いで賄われます。
そしてこの財産管理人が相続放棄された物件を清算した後、国が引き取ることとなります。
しかし注釈した通り、これはあくまで理論上の話です。実質は国庫にまで相続放棄された物件が行き着くことはほとんどありません。
理由は簡単な話で、誰も必要としていない不動産は国も欲しがらないためです。
誰かしらに何らかの利益の出る有用な不動産であれば、既に相続人が相続するなり売却されるなり、誰かの手に渡っているはずです。
国も損失を常に引き受けていては身が持ちませんから、誰にも引き取ってもらえないような物件はそもそも引き取りません。
国も引き取ってくれないとなるといよいよ話は暗礁に乗り上げ、不動産のタライ回しが続きます。
しっかりと引き取ってくれる相手が現れるまでは基本的に相続財産管理人の手に残ったままですから、相続放棄した当の本人は不動産を手放していながら延々と報酬を支払い続けることになります。
こうなってしまっては、どんどん損失が膨らむ一方です。
2-1. 固定資産税の支払い義務はない
相続放棄のメリットの1つとして、固定資産税の支払い義務は課されない点が挙げられます。財産を放棄するのですから、プラス面を受け取れない代わりにマイナス面も引き受けなくてよくなるのですね。
しかし、固定資産税の基本をここでしっかりと押さえておきましょう。
固定資産税の支払い義務のある人は、「その年の1月1日時点で固定資産税台帳に名前が登録されている人」です。
つまり相続放棄をしても、1月1日時点で本来の相続人の名前が台帳に登録されていれば、固定資産税が課税されてしまうということです。
1度課税対象者となり納付通知書が送られてしまった場合、原則として相続放棄をしていたとしても納税の義務があります。
もし相続放棄をしたのに固定資産税の納付通知が届いた時は、求請権の行使という手段を用います。
これは1度本来の相続人が固定資産税を納付しておき、後で不動産の引き取り手が見つかった時にその相手に支払いを求める、というアイデアです。
2-2. 次の相続人が決まるまでは管理義務が残る
相続放棄の難点はまだあります。
それは、次の相続人が決まるまでは、当該不動産の管理は本来の相続人が行わなければならないという点です。
相続放棄をして次の相続人が見つかるまでに、もし仮にその不動産に関して近隣の住民とのトラブルなどがあった場合は、たとえ放棄を行っている身でも本来の相続人が責任を負わなければなりません。
さらにマンションの場合、引き取り手が決定していない間に水漏れなどの住宅トラブルがあれば、これももちろん本来の相続人が負担しなければなりません。
これらは全て法律で決まっているので、安易な相続放棄はリスク増大の恐れがあります。
3. 空き家を相続放棄する方法
それでは、以上のようなリスクを承知した上でいざ相続放棄をするとなった時の、手続きの流れを簡単にご紹介したいと思います。
まず知っておきたいのは、3ヶ月というタイムリミット。
相続放棄には、相続開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に届け出なければならないという原則があります。
それでは、「相続開始を知った日」とは一体いつの事を指すのでしょうか。
3-1. 相続開始を知った日
「相続開始を知った日」とは、端的に申しますが、相続人が被相続人の死亡を知った日ということになります。
「知った日」と言っても、実質は被相続人の死亡の日を指すことになるでしょう。例えば長期の海外旅行などで長らく被相続人の元を訪れていなくても、社会通念上これは被相続人の死亡した日が「相続開始を知った日」となります。個々の事情に対応していては、各ケース間の判断に差異が生じて不公平となったり、法的安定性を欠いたりすることとなります。
また、自身が相続人になる事を知らなかった、という主張はもちろん通用しません。
しかし現実問題として、疎遠な親族であれば、被相続人の死を手紙で知る場合などもあるでしょう。もし自らが相続人となる事を知るのが遅れた場合や、相続を決めかねている場合は申請により、相続放棄までのタイムリミットをあと3ヶ月延長したりする事もできますのでご安心ください。
もう1つのパターンとして、本来の相続人が相続放棄を行った場合が挙げられます。例えば配偶者が相続放棄を行い兄弟に相続人が移動したパターンなどです。
この場合、本来の相続人である配偶者の相続放棄申述が受理された時が、次相続人の「相続開始を知った日」となります。
3-2. 相続放棄の手順
では実際の相続放棄の流れを見ていきましょう。
まず前述の通り、相続人となった人は3ヶ月のタイムリミット内に出来る限り速やかに相続放棄の手続きを行います。どうしても判断や申請が間に合いそうにない場合は、相続放棄を判断する期間の延長を申請しましょう。そのまま何もせず放置して3ヶ月が経つと、「単純承認」と見なされ自動的に相続人と決定されてしまいます。
手続きの方法は、家庭裁判所への申述です。家庭裁判所は被相続人の住所地が基準となり、手続きは必ず相続人本人により行われなければなりません。
手続きに必要なものは以下の通りです。
・相続放棄の口述書
・住民票や戸籍謄本
・印紙代など
この他場合により別の書類も必要になる場合がありますので、必ず早めに家裁に確認するようにしましょう。
もしご自身での手続きに不安がある場合は、司法書士に手続き代行を依頼します。タイムリミットが3ヶ月とあまりにも短いので、司法書士に書類作成代行をお願いする事は大変有効です。
必要書類が提出された後、受理されれば相続放棄は終了となります。
4. 相続放棄のメリットとデメリット
前半でも主なメリットとデメリットをご紹介しましたが、ここで今一度簡単に確認しておきましょう。
4-1. メリット
・手早く相続に関わるリスクを回避できる…3ヶ月内に相続放棄することにより、直接的には手早く相続に関わるリスクを回避することができます。
もちろん、固定資産税の負担も抑える事ができますのでこちらもメリットと言えるでしょう。
4-2. デメリット
・後戻りやその後の口出しができない…相続放棄は自分は相続人ではないと主張する事なので、放棄が認められた後は相続財産について一切関わる事ができなくなります。
もし後になって空き家その他の相続財産の利益に気付いても、既に一度放棄をしてしまえば口出しはできません。前述の通り、プラスもマイナスも背負っての相続なのです。
・管理の義務が残る…次の相続人が決定されるまで、相続財産を管理しなければなりません。
利益の出ない財産はタライ回しの目に会う可能性が非常に高く、財産の管理費がかさむことがあります。
また財産管理人に報酬を延々と払い続け、結局放棄した方が損失が膨らんだ、などという事態は簡単に起きてしまうのでご注意ください。
5. まとめ
いかがでしたでしょうか?相続放棄にまつわるリスクや手続きの流れを大まかにご紹介致しました。
重要なのは、
・1日でも早く動く…相続放棄のタイムリミットである3ヶ月はあっという間に過ぎてしまいます。
もし相続を放棄する場合は、所轄の家庭裁判所への確認、司法書士などの専門家に手続きの助力を求めるなど、迅速なアクションを心がけましょう。
・安易な相続放棄をしない…ローンや損失が大きいからと安易に想像放棄をしてしまうと、その後に残っているのは地獄かもしれません。
相続した時のメリットとデメリット、相続放棄した時のその後の展開を予測し、早急に洗い出しを行います。相続に関わる諸問題を取り扱う法律事務所や弁護士に相談する事も視野に入れてください。
もし相続放棄を決めかねる場合は、所定の家庭裁判所へすぐに連絡・相談を行ってタイムリミットの延長を願い出ましょう。
相続トラブルの予防、少しでも早い解決を願っています。