事例紹介
「空き家を取り壊すと税金が高くなる?」
突然、空き家を相続することになって、処置に困っている方もいらっしゃるでしょう。
そして、税金について考えたとき、空き家と更地ではどちらが税金が高いのか等々、全く分からない方も大勢いらっしゃると思います。
この記事では、空き家を取り壊すと税金が高くなるのかについて、固定資産税が6倍にならないために是非押さえたい「空き家対策特別措置法」と「特定空き家」、自治体の解体費用助成金、譲渡で最高3,000万円の控除が受けられる特例措置など、空き家におすすめの節税対策について解説します。
この記事でわかること
1.空き家を取り壊して更地にすると税金が高くなる?!
まず、空き家を取り壊すと税金が高くなるのかを考える上で大事な、固定資産税の仕組みについて解説します。
1-1.空き家の固定資産税とは?
空き家といっても、土地に建物が建っていることには変わりはありません。土地と建物といった不動産を持っていると、「固定資産税」と(不動産がある地域によっては)「都市計画税」を払います。
「固定資産税」とは、土地などの固定資産を持っている人に課される地方税です。
「都市計画税」とは、土地などが「市街化区域」にある場合に課される地方税です。
この2つは、「課税標準」に税率をかけることで、税額が決まります。「課税標準」とは、固定資産税の課税対象となる金額のことであり、市町村が決定します。
1-2.空き家と更地の固定資産税の違い
土地に住宅が建っている場合、固定資産税と都市計画税は、実は「住宅用地の特例」によって、本来よりも安くなっています。固定資産税は「課税標準×1.4%」、都市計画税は「課税標準×0.3%(上限・自治体によって異なる)」です。
一方、土地の上に建物が建っている場合、以下のように軽減を受けることができます。
区分 | 固定資産税 | 都市計画税 |
小規模住宅用地(住宅用地で住宅1戸につき200平方メートルまでの部分) | 価格×1/6 | 価格×1/3 |
一般住宅用地(小規模住宅用地以外の住宅用地) | 価格×1/3 | 価格×2/3 |
※「価格」とは、固定資産税は「課税標準×1.4%」、都市計画税は「課税標準×0.3%(上限・自治体によって異なる)」になります
小規模住宅用地の場合は、土地の固定資産税は6分の1、都市計画税は3分の1まで安くなっています。つまり、建物が建っている土地は、更地よりも固定資産税と都市計画税は安いのです。そのため、空き家を取り壊して更地にすると、基本的には税金が高くなります。
2.空き家を取り壊した方が税金対策になる場合もある!
ただし、空き家を取り壊した方が税金対策になる、主な例外を挙げておきます。
2-1.税金が安くなる場合
税金が安くなる場合を考えてみます。
自宅の隣にある空き家を解体して庭にする場合
まず、自宅の隣にある空き家を買い、解体して庭にする場合は、住宅用地の特例が適用されるため、解体しても税金は安くなります。適用理由は、自宅と購入した庭(空き家跡地)が一体化して利用していることです。特例の適用を受けることはできますが、自宅と隣地が一体化してどのような形の土地になるかで、固定資産税が安くなったり、逆に高くなったりすることはあります。
また、土地の形状によって、いびつな形になったり、使いやすい土地になったりすることで、固定資産税評価額が補正されます。特例の適用条件として、自宅と隣地を一体化して利用していること、具体的には行き来できるよう扉を設置するなどが必要となります。
建物の固定資産税評価額が、土地の固定資産税評価額よりも高い場合
次に、建物の固定資産税評価額の方が、土地の固定資産税評価額よりも高い場合は、空き家を壊して建物の固定資産税を無くした方が、税金が安くなる場合があります。
分かりやすい例で、土地の固定資産税評価額が1,000万円で、建物の固定資産税評価額が3,000万円の場合は、建物を壊して更地にした方が税金が安くなります。
更地のみの場合:
土地の固定資産税:1,000万円✕1.4%=140,000円
土地と建物がある場合:
土地の固定資産税:1,000万円✕1.4%✕1/6=23,000円(1,000円以下切り捨て)
建物の固定資産税:3,000万円✕1.4%=420,000円
計:443,000円
2-2.税金が高くなる場合
先述したように、土地に住宅が建っている場合は「住宅用地の特例」を受けられるため、更地の場合よりも固定資産税や都市計画税が安くなります。そのため、空き家を取り壊して更地にする方が、基本的には税金が高くなります。
3.空き家を取り壊さない場合には「空き家対策特別措置法」に注意!
注意したいのは、空き家が「住宅用地の特例」を受けられない状態、いわゆる「特定空き家」に指定されると税金が高くなることです。そのためには、「空き家対策特別措置法」の内容を押さえておく必要があります。
3-1.空き家対策特別措置法とは?
「空き家対策特別措置法」(正式名称:空家等対策の推進に関する特別措置法)は、平成27年5月26日に施行されました。この法律が制定された背景ですが、少子高齢化により、今後は空き家の増加が懸念されています。
空き家の老朽化が進むと、倒壊や不法侵入などの危険、衛生上の影響などで、付近の住民に悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、特別措置法を制定することで、市町村が空き家対策を推進しやすいように法整備をしたのです。
「空き家対策特別措置法」による「空き家」の定義
そもそも、国が考えている「空き家」とは、どんな状態を指すのでしょうか。「空き家対策特別措置法」では、下記のように「空き家」を定義しています。
この法律において「空家等」とは、建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)をいう。
出典: http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=426AC1000000127&openerCode=1
「空家等対策の推進に関する特別措置法」第2条
「居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの」という表現が、どのような状態を指すかを、総務省・国土交通省の基本指針から引用します。
また、「居住その他の使用がなされていない」ことが「常態である」とは、建築物等が長期間にわたって使用されていない状態をいい、例えば概ね年間を通して建築物等の使用実績がないことは1つの基準となると考えられる。
出典: http://www.mlit.go.jp/common/001080563.pdf
「空家等に関する施策を総合的かつ計画的に実施するための基本的な指針」
つまり、1年間を通して建物の使用がない状態だと「空き家」と定義されるということです。
「特定空き家」に指定されると、最悪取り壊しされることも
「空き家対策特別措置法」により、空き家の所有者を把握するために、市町村が固定資産税情報を利用できるようになりました。さらに市町村は、空き家に立ち入って実態を調査したり、空き家の所有者に適切な管理をするように指導したり、空き家の活用を促進したりもできます。そうした調査や指導などを経て、市町村は「特定空き家」を指定できるようになりました。
特定空き家の条件は、下記のように定義されています。
「特定空家等」とは、
① 倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
② 著しく衛生上有害となるおそれのある状態
③ 適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態
④ その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にある空家等をいう。(2 条 2 項)
出典: http://www.mlit.go.jp/common/001080534.pdf
「空家等対策の推進に関する特別措置法の概要」
市町村による調査の結果、ある家が特定空き家の条件を満たしていることが分かると、市町村長から所有者に改善するよう指導が行きます。ここで改善されなかった場合、特定空き家に指定されます。特定空き家に指定されると、猶予期限とともに勧告が出されます。勧告時点で住宅用地特例の対象外となり、固定資産税・都市計画税の軽減措置が、勧告の翌年から適用されなくなります。勧告でも改善されない場合、猶予期限とともに命令が出され、さらには命令でも改善されない場合、最大で取り壊しも含む行政代執行が行われます。
ここで注意したいのが、行政代執行にかかった費用は、所有者に請求されることです。加えて、命令が出され、その猶予期間内に改善できなかった場合は、50万円の罰金が科されます。そのため、「特定空き家に指定されても、お金がないから改善できない。放置でいいや」などと思っていると、最終的には行政代執行の費用と罰金が請求されることになります。
3-2.特定空き家に指定されるとどうなる?
特定空き家に指定されて勧告を受けた翌年から、土地の固定資産税は最大6倍、都市計画税は最大3倍になります。先述したように、住宅が建っている土地においては、「住宅用地の特例」によって固定資産税は最大6分の1、都市計画税は最大3分の1まで安くなっていました。
ところが、特定空き家に指定されると、特例が適用されなくなり、最大6倍(6分の1→1)や最大3倍(3分の1→1)となってしまいます。ですが、勧告を受け入れて改善すれば、特定空き家の指定は解除され、住宅用地の特例は再び適用されます。
4.自治体による空き家取り壊し費用の補助金制度
空き家対策推進のため、空き家取り壊し費用の補助金制度を設けている自治体もあります。
4-1.解体費用助成金とは?
解体費用助成金とは、空き家対策の一環として、各自治体が解体費用の一部を支給する助成金のことです。こうした補助金制度は、全国すべての自治体が設置しているとは限らず、制度がない自治体もあります。また、自治体内に建物があっても、対象地区内に建物がない場合は、助成金をもらえないこともあります。さらに、制度の名称や目的、助成金をもらえる条件や金額なども、各自治体によって大きく異なります。
参考として、各自治体における補助金制度の例をいくつか挙げてみましょう。
◆東京都荒川区
不燃化特区内における老朽建築物の除却費を助成
築年数:昭和56年5月31日以前の建物
補助内容:除却工事並びに工事後の整地費用の100%
(上限費用・1平方メートルあたり26,000円)(上限述べ面積・1,000平方メートル)
助成要件:有
期間:平成32年度まで
対象地区:不燃化特区内
https://www.city.arakawa.tokyo.jp/kankyo/machidukuri/funenka/hunenkatokku-tatekae.html#cms0A523
◆千葉県野田市
危険空家の除却費を一部助成
築年数:危険空き家
補助内容:費用の10分の8(上限50万円)
助成要件:有
https://www.kaitai-support.com/zyosei008_noda.html
◆埼玉県さいたま市
倒壊する可能性が高いと診断された住宅の建替え工事費を助成
築年数:昭和56年5月31日以前に着工し、構造耐震指標が指定値未満相当の住宅
補助内容:費用の23%相当額(上限60万円)
助成要件:有
期間:申請した年度の1月31日まで
https://www.kaitai-support.com/zyosei012_saitama.html
◆神奈川県横浜市
不燃化推進地域内における、老朽建築物の除却費の補助
築年数:昭和56年5月31日以前
補助内容:不燃化推進地域は費用の4分の3、その他の補助対象地区は3分の2(上限150万円・耐火性能強化費と合わせると上限300万円)
助成要件:有
期間:平成34年度まで
対象地区:指定有
http://www.city.yokohama.lg.jp/toshi/bousaimachi/machihune/hojo/
このように、助成金をもらえる条件や金額などは自治体によって異なるため、まずは空き家が建っている自治体のホームページを参照しましょう。しかし、分かりにくいホームページだとパッと見ても分からず、「空き家 解体 助成 補助」などのキーワードでサイト内検索しても情報がなかなか出てこないこともあります。そのため、直接自治体へ問い合わせるなどして確認するのが確実でしょう。役所の受付で担当課を確認し、担当課では空き家に関する補助金制度はないかを問い合わせてみましょう。または、解体業者が既に決まっているのなら、業者に聞いてみると、制度の有無や手続きについて教えてくれることもあります。
解体費用助成金は、国からの助成金ではない
以前、「国が、解体費用の一部を助成金として、個人に支給する」という誤報道が流れたことがあったため、解体費用助成金を国から個人への助成金と勘違いしている人もいるようです。正しくは、「解体費用助成金は、各自治体が個人に支給する助成金であり、国はその一部を自治体に補填する」となります。
そのため、上述した通り、補助金制度がない土地に建物が建っている場合には、解体しても助成金はもらえないことに注意してください。
4-2.補助金制度を使うメリット・デメリット
補助金制度を使うメリットは、何よりも費用の一部を負担してもらえることです。さらに、空き家の取得・リフォームへの補助金の場合は、確定申告書を提出すれば、「国庫補助金等の総収入金額不算入」が適用され、補助金に対して課税されません。
また、空き家の解体への補助金は、「移転等の支出に充てるための交付金の総収入金額不算入」が適用されるため、同じく課税はされません。
デメリットを挙げるなら、例えば、事前に耐震診断などの診断が必要だったり、いろいろな書類を提出したりなど、手続きに時間と手間が多少かかることでしょう。
5.結局どうすればいい?空き家におすすめの節税対策とは?
助成金をもらって解体する以外には、節税のために空き家を売るという選択肢もあります。
相続で空き家を取得した場合、一定の要件を満たした上で売却すると、最高3,000万円の控除を受けられる、「空き家の発生を抑制するための特例措置」という特例があります。
この税制を受けるための主な要件は、下記になります。
- 相続日から3年後の12月31日までに譲渡すること
- 平成28年4月1日から平成31年12月31日までに譲渡すること
- 相続開始直前まで被相続人が住んでいたこと
- 耐震リフォーム後、または取り壊し後に譲渡すること
- 相続後に居住や事業、貸付をしていないこと
- 譲渡代金が1億円以下
- 昭和56年5月31日以前に建築された一戸建てであること
注意したいのは、一戸建てが対象のため、マンションは適用外であることです。さらに、旧耐震基準の一戸建てを、新耐震基準に適合させるためにリフォームが必要なので、費用がかかることが予想されます。そのため、一戸建てを取り壊し更地にして売却するパターンの方が多いようです。
6.空き家を取り壊した場合の税金負担まとめ
ここまで解説してきたことをまとめます。
- 土地に住宅が建っている場合、「住宅用地の特例」によって、固定資産税は最大6分の1、都市計画税は最大3分の1と安くなっている
- つまり、基本的には、空き家を解体して更地にすると解体費用に加え、税金が高くなってしまう
- 例外として、「自宅の隣にある空き家を解体して庭にする場合」と「建物の固定資産税評価額が、土地の固定資産税評価額よりも高い場合」などは、空き家を取り壊した方が税金が安くなる
- 「空き家対策特別措置法」により「特定空き家」に指定されると、最大で取り壊しも含む行政代執行が行われることがあり、その費用や罰金が請求される
- 「特定空き家」に指定されて勧告を受けた翌年から、「住宅用地の特例」が受けられなくなるため、土地の固定資産税は最大6倍、都市計画税は最大3倍になる
- 自治体によっては、解体費用助成金が受けられる場合がある
- 相続で空き家を取得した場合、一定の要件を満たして譲渡すれば、譲渡益から最高3,000万円を控除できる
覚えておきたいのは、「基本的には、空き家を取り壊して更地にすると税金が高くなる」ということです。
しかし、「空き家対策特別措置法」により「特定空き家」に指定されて勧告を受けると、税金は最大6倍になることから、空き家であっても「特定空き家」に該当しないようにメンテナンスを行うことが必要です。相続などで空き家を取得してメンテナンスが面倒に思える場合は、売却などの選択肢もあります。
情報を収集して、どうすれば節税でき、手間もかからないのかを総合的に判断するようにしましょう。