事例紹介
Category 不動産
2018年05月22日 更新
不動産売却における所得税と住民税に関する基礎知識まとめ
不動産の売却を行った際、購入時よりも売却時の方が値段が上がっていたときには売却益が発生することになります。
例えば、3000万円で購入した不動産を10年後に売ったら4000万円で売れたという場合、4000万円-3000万円=1000万円の売却益が発生することになるような感じですね。
利益が出ることはうれしいことですが、同時に考えなくてはならないのが税金の問題です。
日本国内で得た利益については、所得税と住民税という税金が必ず課せられてしまいますから、受け取った売却代金のうち一定の割合は納税のための資金として置いておかなくはいけないのです。
ここでは不動産の売却を行ったときに課せられる所得税や住民税の計算方法や、納付のルールについて解説させていただきます。
この記事でわかること
1. 不動産売却で所得税と住民税が発生する場合
不動産売却で所得税と住民税が発生するのは、その売却によって売却益が発生する場合です。
売却益の金額は以下の計算式で計算できます。
売却益=売却代金-(取得費+譲渡費用)
売却益=売却代金-{(購入代金+購入費用-減価償却累計額)+譲渡費用}
購入費用とは物件購入時に要した登記費用や不動産業者に支払った仲介手数料などが含まれます。
譲渡費用には不動産業者に支払った仲介手数料などが該当します。
なお、この売却益のことを「譲渡所得」と呼ぶことがあります。
1-1. 個人の不動産売却で譲渡所得がプラスになったとき
上記の計算式で金額がプラスになる場合には、譲渡所得が発生していることになります。
この譲渡所得の金額に所得税率をかけることで所得税の金額を計算することができます。
不動産の売却の際の所得税率は、不動産の所有期間が5年以下である場合には39.63%、5年超である場合には20.315%となります。
1-2. 譲渡損失が出た場合は所得税と住民税が不要なケースもある
当然ながら、上記の計算式で売却益がゼロかマイナスになる場合には売却益は発生していないことになります。
売却益がゼロまたはマイナスということはもうけが出ていないということですね。
もうけが出ない限りは所得税や住民税が課せられることはありません。
また、居住用不動産を売却して損失が出た場合には、損益通算や損失の繰越という各種の特典を受けることができます。
損益通算というのはその年のその他の所得(事業所得や給与所得など)から譲渡損失の金額を差し引きすることをいいます。
また、損失の繰越とは、上の損益通算によって引ききれなかった損失額を、さらに翌年以降3年間にわたって繰り越せることをいいます。
ただし、損益通算や損失の繰越を使うためには、譲渡を行った時点で住宅ローンが残っていなければならないなどの条件がありますので注意してください(なお、不動産売却の後にさらに居住用不動産の買い換えを行ったときには、住宅ローンが無くてもこの損益通算や損失繰り越しの適用を使うことができます)
ただし、居住用財産の買い換えの場合の譲渡損失の損益津さんや損失の繰越控除を使うためには
- 土地家屋とも所有期間5年超
- 買い換え資産も居住用
- 買い換え資産の取得に住宅ローンを利用していること
などの条件がありますので、不動産にくわしい税理士に確認すべきでしょう。
1-3. 個人事業主の場合は注意が必要な分離課税とは
個人事業主の方は毎年確定申告をしていると思いますので、所得税の計算についてはある程度慣れている方が多いと思います。
ただし、ここまで説明させていただいた不動産売却についての所得税計算と、個人事業主の方が通常行う事業所得の計算とでは、考え方がやや異なりますので注意してください。
個人事業主の方の場合、事業から発生した所得は事業所得として総合課税されますが、不動産譲渡に関する譲渡所得は分離課税で計算する必要があります。
分離課税というのはその名の通り「総合課税の所得とは別途計算する」という意味で、総合課税として計算した所得税とは別途計算することになります。
以下で具体的に総合課税と分離課税の違いについて解説させていただきます。
総合課税の計算
総合課税の場合、計算した各種所得の金額を合算し、そこから所得控除を差し引きして税率をかけ、さらに税額控除を行う…という形で計算を行います。
※計算式にすると以下のようになります。
総合課税の計算:所得税=(所得の合計額-所得控除)×税率-税額控除
なお、総合課税で計算を行うのは、以下の種類に該当する所得です。
事業所得
給与所得
不動産所得
利子所得
配当所得
土地や建物、株式取引以外の譲渡所得
一時所得
雑所得
分離課税の計算
分離課税の計算は、総合課税の計算よりもシンプルです。
「譲渡所得=売却金額-(取得費+譲渡費用)」の計算式で譲渡所得の金額を計算し、そこに税率をかければ所得税の金額を計算することができます。
不動産譲渡の場合、不動産の所有期間に応じて所得税率は以下のようになります。
- 長期譲渡所得:所得税、住民税率合計20.315%
- 短期譲渡所得:所得税、住民税率合計39.63%
なお、不動産の所有期間の計算の仕方については後述しています。
2. 不動産売却による所得税と住民税の発生時期と納付方法
ここまでで説明させていただいた所得税は、2月16日~3月15日の間に税務署に対して確定申告を行い、3月15日までに納税する必要があります。
例えば、平成30年4月に不動産の売却を行い、譲渡所得が発生したとすると、翌年の平成31年2月16日~3月15日の間に確定申告の手続きを行い、平成31年3月15日までに所得税を納税しなくてはなりません。
但し、振替納税の手続きをすることによって納付を4月下旬まで利子税なしで引き延ばすことが可能です。
確定申告は経験のない方にはなかなか難しく感じると思いますが、毎年上記の確定申告時期には税務署に相談コーナーなどが設けられて職員の人が相談に応じてくれます。
より専門的な内容については税理士などに相談するのが適切ですが、それほど計算が複雑でない場合には税務署で相談しながら自分で確定申告をするという形でも特に問題はないことが多いです。
不動産売却による税金の計算については、自分で確定申告をするよりも不動産の譲渡の特例の適用などによって大きく税金が変わってくることもあるので、不動産にくわしい税理士に相談されることをおすすめします。
◇住民税の計算と納付時期
また、所得税が発生するときには、住民税も納税しなくてはなりません。
住民税の計算は確定申告した内容に応じて市役所が計算して納税額を通知してきます。
上の例でいうと、平成31年2月16日~3月15日の間に確定申告した内容に基づき、平成31年6月ごろに住民税の納税額の決定通知書が送られてきます(納付書も同封されています)
この納税額に基づいて、住民税は4期に分けて納付する必要があります。
住民税の各納付時期は以下の通りです。
第1期:6月末日
第2期:8月末日
第3期:11月末日
第4期:1月末日
住民税の納付は所得税の納付時期に比べるとかなり遅くなりますから、納税資金を残しておくのを忘れないように注意しましょう。
3. 不動産売却による所得税と住民税の計算方法
不動産売却に関して、譲渡所得の計算方法をさらに詳しく見ていきましょう。
不動産売却については、物件の売却代金や購入代金だけでなく、取得費や譲渡費用といった諸経費を正しく計算に含めることが大切です。
3-1. 譲渡所得の算出
不動産売却に関する譲渡所得の算出では、以下のような取得費と譲渡費用を計算に含めます。
取得費:
物件購入時に要した土地調査費用や土地建物購入代金、契約印紙代、不動産取得税、登記費用、司法書士への支払手数料など
なお、建物等の取得費については減価償却を控除する必要があります。
また、業務用、罷業妙によって減価償却の計算が違てきます。
譲渡費用:
不動産業者に買い手を見つけてもらうために支払った仲介手数料や売買契約書の作成費用、売却のための測量費、売り渡し費用、交通費など
上のような費用として支払った金額は譲渡所得から控除することができます。
印紙税、交通費、印鑑証明書発行費用など譲渡のために直接要した費用も取得費、譲渡費用に含めることができますので、これらの支払いを行ったときには領収書やレシートを必ず保管しておくようにしましょう。
3-2. 税額の算出
ここまでで計算した譲渡所得の金額に、所得税、住民税率をかけることで税額を算出することができます。
譲渡所得にかける所得税、住民税率は所有期間5年以下の場合は39.63%ですが、売却した不動産の所有期間が5年を超えている場合には20.315%になります。
不動産の所有期間の計算については下の「4-2. 長期譲渡所得の税額計算」で詳しく説明させていただきます。
4. 居住用財産の売却で譲渡益がある場合の特例
売却した不動産が居住用の者である場合には、上で説明させていただいた計算式(売却益=売却代金-(購入代金+購入費用+譲渡費用))から、さらに特別控除として3000万円を差し引きすることができます。
以下では居住用不動産売却時の譲渡所得の計算方法について解説させていただきます。
4-1. 3,000万円の特別控除の特例
居住用不動産を売却した場合の譲渡所得の計算式は以下のようになります。
譲渡所得=売却代金-(取得費-減価償却)-特別控除3000万円
居住用不動産というのはいわゆるマイホームのことですね。
不動産投資のために購入した物件や別荘として使うために購入した不動産についてはこの特例を適用することができないので注意してください。
また、建物と敷地で所有者が異なる場合や、売却した相手が一定の親族である場合にもこの特例を適用できないことがありますので注意してください。
4-2. 長期譲渡所得の税額計算
上の計算式で計算した譲渡所得の金額に、さらに所得税、住民税率をかけることで所得税、住民税の金額を計算することができます。
※計算式で表すと以下のようになります。
譲渡所得の金額×所得税率=所得税の金額
このとき、所有していた不動産の所有期間が何年間だったかによって、かける所得税率が変わります。
所有期間が5年間超である場合の譲渡所得を長期譲渡所得、5年以内である場合を短期譲渡所得といい、それぞれの税率は以下のようになります。
- 長期譲渡所得:所得税率15.315%、住民税率5%、合計20.315%
- 短期譲渡所得:所得税率30.63%、住民税率9%、合計39.63%
長期譲渡所得の方が税率が大幅に低くなりますので、できる限り長期譲渡所得として所得税を計算するのが良いということになります。
また、不動産の所有期間の計算は「物件購入日~物件売却日」で計算するのではなく、「物件購入日~物件売却日が属する年の1月1日」で計算するので注意してください。
例えば、平成30年12月31日に売却した物件でも、所有期間の計算では平成30年1月1日が基準日となります。
したがって、平成30年に土地建物を売った場合に取得日が平成24年12月31日以前であれば長期、平成24年1月1日以降であれば短期となります。
不動産の所有期間が5年超か5年以下であるかによって所得税の負担額は大きく変わりますので注意しておきましょう。
4-3. 買換え(交換)の特例
居住用の不動産の売却や交換を行い、その前後にさらに新しい居住用不動産を購入した時には、売却した不動産について生じた売却損を他の所得(給与所得、不動産所得、事業所得など)との損益通算が認められます。
また、その年の所得で損益通算をした結果、控除しきれなかった損失額は翌年以降3年間にわたって繰り越すことができます。
例えば、売却損が1000万円出たときに、平成30年の所得が800万円であった場合には200万円だけ損失を引ききれずに残ることになります。
このときに買い換えの特例を適用してもらうと、翌年(平成31年)の所得からも残った200万円を控除してもらうことができるというわけです。
なお、この特例を適用してもらうためには確定申告が必要である他、不動産売却時に居住用不動産の特別控除3000万円を受けている場合には適用できないなどの条件がありますので注意してください。
5. まとめ
今回は、不動産の売却で利益が出た場合に負担する所得税・住民税のルールについて解説させていただきました。
不動産売買には大きな金額のお金が動きますから、それに付随して発生する税金の負担も大きくなりがちです。
さらに、不動産に関連する税金は複雑なルールに基づいて計算を行う必要があります(本文でも解説させていただいた通り、所得税の計算は自分で計算して確定申告しなくてはなりません)
不動産の税金は一歩間違えると税期の違いに大きな差になりかねませんので、不動産に詳しい税理士に相談してはどうでしょうか。