事例紹介
2015年と2016年に続けて税制改正が行われ、空き家問題に対応した特例が施行されました。更地にすると固定資産税が高くなること、相続した不動産を売却したときの譲渡所得税が負担になることが、空き家が増えた背景として指摘されていたため、対策が取られたのです。相続した空き家を売った場合、譲渡所得税が抑えられる特例が受けられます。
空き家の処分を考えているなら知っておきたい、税金の控除について紹介しましょう。
この記事でわかること
1. 空き家の税金で控除できるものはあるか
空き家の増加が社会問題として取り上げ、税制の面からも対策が考えられるようになりました。
空き家を持っているとかかる税金と、知っておきたい控除などの仕組みにはどんなものがあるかみてみましょう。
1-1.空き家と関連の深い税金
◆相続税
実家を相続したものの住む人がいない、相続の話し合いが進まずに誰も住んでいないなどの事情がある空き家が多いものです。
相続税の控除では「3,000万円+(600万円×法廷相続人の数)」です。
配偶者と子供2人が相続する場合には、「3,000万円+(600万円×3)=4,800万円」が控除されます。
都内では、住宅とその敷地だけで評価額が大きくなる場合には、相続税がかからないか確かめたほうが良いかもしれません。
◆固定資産税・都市計画税
建物や土地を所有しているとかかる税金ですね。ただし、空き家は持ち主が亡くなっても納税通知書が発行され、応じずにいると差し押さえにあう可能性があります。関係者に登記を移していなくても、誰かが納税しなければならない仕組みですから、誰が相続するか折り合いがつかないときでも、納税通知書を放って置くわけにいかないのです。
◆売ったとき(譲渡所得)にかかる税金
不動産を売った場合、そこから取得費(減価償却後)と譲渡費用を差し引いた金額(譲渡所得)に税金がかかります。これが「譲渡所得税」です。所有5年を超えて取得していた場合には税率が抑えられていますが、住民税と合わせて20.315%になります。譲渡所得が200万円なら、税金が40.63万円になる計算です。
1-2.空き家増と税のしくみ
- 「住宅用地の軽減措置特例」が建物の取り壊しをさまたげている
⇒特定空き家に認定されると特例は受けられない(2015年「空き家対策特別措置法」)
- 「譲渡所得税」が空き家の売却をさまたげている
⇒空き家売却の譲渡所得に3,000万円の特別控除(2016年「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」)
「住宅用地の軽減措置特例」は200平方メートルまでの住宅用敷地の固定資産税の負担を1/6、都市計画税の負担を1/3にする特例です。住宅を取り壊すとこの特例が受けられないので、税金が6倍以上になってしまいます。活用できないままの建物でも節税対策として放置する例があとを絶たず、空き家を増やす原因になったため、特定空き家に指定された場合は「住宅用地の軽減措置特例」が受けられなくなりました。
また、譲渡所得についても3,000万円の控除が設けられ、空き家の売却が進みやすい環境が整えられました。
2. 譲渡所得の特別控除とは
不動産を売って利益がでたとき、「譲渡所得」として課税対象になります。不動産を売ったときの税金負担が大きいと、空き家をとりあえずそのままにしておこうかと考えてしまいがちです。「相続した空き家を売った場合に3,000万円を控除して譲渡所得税を計算しましょう」という特例が2016年の税改正で施行されました。
- 特例を使った譲渡所得
=不動産の売却額-{取得費+譲渡費用}-特別控除3,000万円
- 特例を使った譲渡所得税=特例を使った譲渡所得×税率
これまでは譲渡所得が少しでもプラスになれば税金がかかっていたのが、相続した空き家を売った場合には3,000万円まで非課税になるのです。いままで譲渡所得税が負担で、売却をためらっていた人も、この特例による控除があることで売却に踏み切リやすくなったといえます。
売却できれば、譲渡所得がまるまる収入になり、固定資産税等の空き家の維持費もなくなります。使いみちに困っていた空き家は、売却したほうが維持管理に頭を悩ませなくて済むと考えることができるでしょう。特例を受けるためには、確定申告をうける必要がありますから、関係する証明書類をそろえて準備しておかなければなりません。
3. 特別控除のメリットとデメリット
「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」で3,000万円を控除する制度を使ったときのメリットと、デメリットをみていきましょう。
3-1. メリット
◆3,000万円の控除で税金を抑えられる
控除がなければ空き家売却での譲渡所得税が数十万円から百万円単位になることがあるでしょう。2,500万円の譲渡所得がでたケースでは、特別控除が受けられる間に売却すると500万円の節税になります。この特別控除が認められたおかげで、同居していなかった子供が相続して売却した場合でも譲渡所得の控除を受けやすくなりました。
◆非課税になれば相続がスムーズになる
資産評価が高い住宅ほど、納税のための現金が用意できないことで折り合いがつきにくくなることが多いものです。譲渡所得税の心配なく売却できると、「手にできる資金を相続税にあてることができる」、「現金化して分配して公平感のある相続がしやすくなる」といった相続をスムーズに進める環境が整います。
3-2. デメリット
◆片付け作業が大変
父親が長年一人暮らしてきた住宅を売却する場合を想像してみましょう。ゴミ屋敷とまでいかなくても、家財を整理して売却に備えるにはかなりの労力が必要です。特殊清掃業者の手を借りるとなれば、それなりの費用がかかります。現状渡しで買い取ってくれる業者を見つけるか、費用や労力をかけて家財の整理・清掃をおこなって売却することとなります。
◆耐震条件をクリアするためリフォーム費用がかかる
耐震条件をクリアしていない住宅は、リフォームしなければ、この特例を受ける事ができません。昭和56年5月31日以前に建てられた住宅との指定があり、旧耐震基準での建築物を意味します。相続以前に、現行の耐震基準をクリアする工事をおこなったことがない場合には、売却前に耐震工事を済ませなければなりません。節税のつもりが、リフォーム費用がかかり支出のほうが大きくなるケースがあります。
◆更地にして売却するためには解体費用がかかる
リフォームせずに売って、特例控除をうけたいなら、土地だけの状態で売却することになります。譲渡所得への特例控除を利用するために解体費用を持たなければならないケースがでてきます。ただし、費用がかかると言ってもそのまま放置して特定空き家に指定されてしまうと固定資産税の軽減措置がはずれ、最悪行政執行の対象になります。
建物を解体して更地にすると、売却しやすくなりますから、専門家に相談するなどして判断したいところです。
◆売却先がすぐに見つかるとは限らない
実家を引き継いで空き家として売りたいとき、需要のある立地、傷みの少ない物件ばかりではないでしょう。売りたくてもなかなか売却先が決まらず、売れるまで時間がかかってしまうケースもあります。特別控除の対象になる譲渡は、平成31年12月31日までという期限があるので、制度を利用したいなら、それまでに譲渡できる条件を整えていかなくてはなりません。(2018年11月現在)
4. 特別控除を受ける要件
空き家を増やさないための特例制度ですから、基本的に相続した住宅を売却する時に使える特例となっています。
- 相続の直前まで一人暮らしで被相続人が住んでいた
- 譲渡が平成28年4月1日から平成31年12月31日までに行われている
- 昭和56年5月31日以前に建築された住宅
- 空き家になってから貸しつけや事業用に使ったことがない
- マンションのような区分登記された住宅、区分所有の2世帯住宅は対象外
- 耐震条件をクリアしている(役所交付の証明書が必要)
- 譲渡額が1億円以下
- 相続から3年目の12月31日までに譲渡している
- 確定申告する(必要な書類がそろっている)
自宅の住み替えなどに使える控除としての3,000万円控除がありましたが、2016年の税改正施行からは、空き家としての要件が整っていると特例を受けやすくなりました。
◆必要書類の例
- 譲渡所得の内訳書
- 対象になる空き家の建物・土地の登記事項証明書
- 売買契約書のコピー
- 被相続人居住用家屋の確認書(市役所などで交付を受ける)
- 被相続人居住用家屋の耐震基準証明書など(建設住宅性能評価書のコピーでも可)
これらの書類を揃えることができ、要件にあてはまる場合に確定申告をおこなって、特例控除を受けることができます。
5. 特別控除の注意点
5-1.土地と建物をセットにして相続した場合に受けられる
土地だけを相続した場合や、土地だけ共有名義で建物は1人が相続するケースでは特別控除は受けられません。共有名義にする場合には、建物と土地を両方とも共有名義にしなければ控除の対象外になります。
5-2.引き渡しまでに更地にしなければならない
建物の評価額ゼロとして取引する場合には注意が必要です。実質土地売却というケースでは、建物は取り壊して更地にしなければなりません。空き家の譲渡所得特別控除の対象となるには、平成31年12月31日までに譲渡が完了していなければなりません。取り壊しや測量などの作業ができていないと譲渡が期日までに終わらず、特別控除のチャンスをのがしてしまうことがあるかもしれません。
5-3.親や子など特別な関係の親族への譲渡は対象外
第三者への譲渡でなければ特別控除の対象外です。個人だけでなく関係する法人への譲渡、戸籍上は親子でなくても内縁や事実上の関係が認められれば対象外となることがあります。
6. 他の特例と併用できるのか
住宅の譲渡や相続に関わる税制の特例が他にもありますが、併用は可能なのでしょうか。
他の特例との併用についてみていきましょう。
6-1.取得費加算とは併用できない
相続税額のうち一定金額を売却資産の取得費に含めることができるというのが、取得費加算です。相続税申告の期限から3年経過するまでに売却した時に使えるルールです。譲渡所得の計算では、売却収入から取得費と譲渡費用を差し引いて課税対象額とします。
相続税を納めて引き継いだ住宅を売ったのに、当たり前に譲渡所得の課税方法で処理されるのはなんだか納得いかないという気持ちになります。そこで取得費の中に一定の相続税を加算して、譲渡所得の課税を抑えましょうという制度ですが、空き家売却の3,000万円の控除とは併用できません。相続に配慮した制度としてどちらかを選ぶことになります。
6-2.住宅用財産譲渡の3,000万特別控除
同じ年度内に、空き家の売却と自宅の買い替えや売却が重なった場合、同時に特別控除を受けることができます。ただし、控除額の合計は3,000万円が上限となります。相続した空き家を譲渡したときの特別控除と合わせて3,000万円の控除が受けられます。自宅買い替えで住宅ローンを組んだ場合には、住宅ローン控除も併用して受けることが可能です。
6-3.空き家に対して住居適用の特例は使えない
居住用財産についての特例では、もともとの持ち家については適用可能ですが、空き家の売却に対しては併用できません。空き家は、自分が住居として使っているわけではありませんから、居住用財産とは言えないのです。
◆居住用財産の買い替え特例
自宅の買い替えの時に使える特例で、将来譲渡するときまで譲渡所得税を繰り延べることができる特例です。持ち家であるマイホームに使える特例で、空き家は住宅として自分が使っている住宅用財産に当てはまらないので併用できません。
◆所有10年超え軽減税率の特例
10年を超えて居住用に使った物件を売却した場合、6,000万円以下の譲渡所得の税率が軽減税率となり14.21%になるという特例です。10年を超えて自分の居住用にしていたことが条件ですから、空き家については適用外になります。
7. まとめ
- 平成28の税改正で、空き家の譲渡による所得に3,000万円特別控除が受けられるようになった。
- この特別控除を受けるには耐震基準クリアするか、更地にして売却しなければならない。
- 空き家の売却や活用、相続がスムーズに進むことを狙いとした制度。
活用されない空き家が増えた背景には、相続での折り合いがつかず放置されるケースや、税の負担が大きいことが問題となっていました。税金の納入には現金が必要になりますし、評価額の大きな不動産が絡むと空き家のまま放置されてしまう事例があったのです。
空き家の処分がしやすい特例があるうちに検討しておきたいですね。