事例紹介
地主に土地を借りて建物を建てるための借地権を取得している場合、その期間は大変長いものになることが多いです。特に、個人が住むための家を建てる場合は最低でも30年以上の期間で契約を結ばなければならないと法律で定められています。そのため、契約満了時の対応準備を後回しにしてしまうと契約期間内に全ての処理を終えることができないという事にもなりかねません。
借主と貸主の双方が良いお付き合いだったと感じ、気持ちよく契約を終えるための注意点などをまとめてみましたのでぜひ参考にしてください。
1.更地への原状回復が原則!借地権返還時の注意点とは?
借地権の契約が満了になり、土地を返さなければならなくなった場合、どのような状態にして返還しなければならないのでしょうか。
実際には契約の結び方によるので、特別な形で返すということをあらかじめ取り決めていた場合はその限りではありませんが、基本的には現状回復する義務が借主にはあります。つまり、自分のマイホームを建てて居住していたのであれば、取り壊して更地にしてから地主に返さなければいけないのです。
また、一口に借地権を返還するといっても、そこに至る経緯はそれぞれの事情によって異なってきます。現在住んでいる場所から引っ越さなければならないため、やむを得ずその借地権を契約満了する前に地主に返還したいというケースもあるでしょう。この場合、地主側には交渉に応じる義務はないので、話を聞いてもらえるかどうかは地主次第なのですが、もしその要求が認められたとしても土地は更地にして返還しなければなりません。
さらに、契約の内容に違反してしまったために借地権の解除を求められた場合も更地での返還が必要になります。どのような場合においても、まずは借りる前の状態に戻してから土地を返すのが借りる側の務めであることを覚えておきましょう。
そして借りている土地の上に建てられている建物を取り壊すにはそれなりの期間が必要になりますので、その点においても注意が必要です。
解体工事にかかる期間は、その建物の大きさや建築素材などにも左右されますが、大体の場合において1週間から2週間ほどの時間を要します。しかし、「だったら手続きなんかも含めて、借地権の契約満了日の2ヶ月くらい前から取り掛かればなんとかなるかな?」と安易に考えるのは危険です。
工事自体は1ヶ月かかることなく終えることができるかもれませんが、解体工事とはその準備期間も含めた要素全てで捉える必要があるので、事前の準備段階のこともしっかりと把握しておきましょう。
特に注意を払わなければならないのは業者の選定です。この部分が解体工事において一番重要で、最も時間をかけるべき段階であるということは間違いありません。この業者選びを適当に済ませてしまうと、後々トラブルが発生して余計な費用がかさんだり、工事期間自体が予定通りに進まなかったりと、思わぬ事態に発展しかねません。以前に依頼したことのある知人に話を聞くなど、入念に調査を行った上で複数の会社から見積もりを出してもらい、時間をかけて比較検討することが大切です。
また、直接交渉をする担当者の人間性なども見極めておくと良いでしょう。契約する前は親身になって話を聞いてくれるものの、工事が終わった途端に対応が雑になり、何か不具合が生じてもなかなか現場に来てもらえないという人も珍しくはありません。
十分な調査の上で優良会社を見つけることができたとしても、信頼のおける業者は仕事も集まってくるため、時期によってはなかなか工事に取りかかることができないといったことも多々あります。そういった可能性も踏まえて、解体工事に要する時間は最低でも2ヶ月から3ヶ月と考えておきたいものです。もしも初めてそういった業者に仕事を依頼するというのであれば、半年くらいはみておいても長すぎるということはないかもしれません。
2.更地にするための解体費用の相場はいくら?
借りている土地を返還する際には建物を解体して更地の状態にしなければならないということはおわかりいただけたかと思いますが、では実際に解体するにはどれくらいの費用が必要になってくるのでしょうか。
全国の解体費用の相場は平均で坪あたり3.5万円と言われています。しかしこの費用はあくまでも平均であって、様々な条件によって大きく変化してしまいますので、あくまでも参考にしておいた方がいいでしょう。
具体的には、木造住宅、鉄骨造住宅、鉄筋コンクリート住宅といった種類によって費用の相場が違っており、それぞれの造りに応じた値段設定がされているのです。また、各都道府県ごとによっても料金が変わってきてしまうため、対象となる物件がある地域の相場を調べる必要があります。
例として東京都の解体費用相場を取り上げてみると、坪あたりの単価が木造住宅で32,000~55,000円、鉄骨造住宅で40,000~52,000円、鉄筋コンクリート造り住宅だと45,000~63,000円となっています。これが全国でも低水準の北海道では木造住宅で坪あたり21,000~28,000円、鉄骨造住宅が16,000円~21,000円、鉄筋コンクリート造り住宅で22,000~27,000円と、かなりの地域差が見て取れます。
ちなみに、一般的に解体業者が広告などで謳っている坪あたりいくらといった金額は建物を解体する費用のみとなっています。これ以外にも工事日数が複数日にわたる場合には現場経費などが増えたり、周りの住宅に悪影響を及ぼさないための養生費用、解体した際に発生した廃棄物を処理するための処分費なども別でかかってきますので、ホームページやチラシなどの表記を鵜呑みにすると、実際の金額提示に驚いてしまうかもしれません。
また、解体する建物がある土地の立地条件によっても金額が変わってきてしまうことがあるので注意しましょう。例えば建物の目の前の道路がとても狭いため、解体に必要な重機などが入り込めないとなれば作業スピードに大きな差が出てしまいます。日数がかかればかかるほど経費も多くなってしまうのは当然のことなので、その場合は一般的な相場よりも大きな出費になってしまうでしょう。
もう一つ気にしておきたいこととしては、依頼する時期によっても値段が違うということです。繁忙期にはそれだけ人件費が高騰したり、廃棄物の処理が追いつかずに余計な費用がかさんでしまったりするために高い料金を設定している会社がほとんどですので、春先や年度末は避けたほうが無難です。比較的受注が少ない傾向にある5月、あるいは9月などが依頼しやすい時期になっています。
立地に関しては自身でどうにかすることはほぼ不可能ですが、この発注時期は借地権が満了する時期と照らし合わせて解体する日程を調整することで費用を抑えられることがあるので、検討してみることをお勧めします。
同じように、先に述べたような複数の業者から見積もりを出してもらったうえで比較検討することも、自分自身の選択で解体費用を抑えるために有効な手段ですので、必ず行うようにしましょう。
3.更地にする前に知っておきたい建物買取請求権とは?
借地権を返還するために更地にしなければならないとはいえ、せっかく建てた建物を取り壊してしまうというのはもったいない話だと思いませんか?決して少なくない額の費用をかけて取り壊すその建物に、まだ資産的価値が残っている場合であればなおさらです。
そんな考えをお持ちの方に知っておいて欲しいのが建物買取請求権です。これは、借地権が満了した時点で、土地を借りていた側がその土地に残っている建物を地主に買い取ってもらうことができる権利を定めた法律です。この建物買取請求権を行使した場合、地主側には拒否する権利がなく、必ず買い取らなければなりません。ちなみにこの時の取引価格は時価とされています。
この権利を行使する上で重要な点は、借地権の契約を満了し、かつ更新がされなかった場合にのみ適用されるということです。例えば、借地権の契約中に地代の未払いが発生してしまい、地主の信頼を著しく損なってしまった場合などは借地権を途中で解消することができるため、契約の満了にはなりません。この場合は土地を更地にして返す以外の選択肢は借主側にはなくなります。
また、一旦は終了した借地権を更新して土地を借り続ける場合にもこの建物買取請求権は発生しません。
要するに、定められた期間中に一切違反を犯すことなく契約を終えた誠実な借主にのみ与えられる特権なのです。しかし、もし建物の老朽化が激しく、すでに使用できる状態ではなくなっていた場合には建物としてみなされない恐れもあります。その場合は地主と相談して処理費用を分け合うなどの提案をしてみましょう。
4.まとめ
最低でも30年以上の長期にわたる借地権が返還されるというのは人生における一大イベントです。借りる側にとっても貸す側にとっても大きな思い入れや様々な出来事があった場所を清算するわけですから、最良の手段で執り行われなければいけません。相手方とのその後の関係性を良好に保ち、これからの新しい一歩を気持ちよく踏み出すためにも、事前の準備として情報収集を欠かさないことが大切です。
このページが少しでもそんな方々の助けになれれば幸いです。