事例紹介

Category  不動産

2018年07月06日 更新

不動産売買するなら法人?個人?法人税の考え方と計算方法

法人において、事業用の土地を売却したり、節税対策で自社の役員に不動産を払い下げるといった不動産売買はよくあるケースです。

しかし不動産売買においては法人税をはじめとする様々な税金が関わっており、取扱を間違えると思わぬ損失を被ることも少なくありません。

そこで今回は、

・不動産売買における法人税の考え方

・法人税の計算方法

・短期譲渡・長期譲渡/低額譲渡の注意点

などについて詳しく解説していきます。

1. 不動産売買における法人税の考え方

不動産売買にかかる税金は、個人と法人でほとんど違いはありません。

ただ1つ大きく異なるのが、法人税(個人の場合は所得税)の考え方です。

ここでは不動産売買における法人税の考え方についてお伝えしていきます。

 

1-1. 個人の場合

個人の場合、その年の1月1日~12月31日の1年間に得た所得に対し所得税が課税されます。

1-1-1.給与所得や事業所得などは総合課税

所得は、会社に勤める人が得る給与所得や、自営業者の人が得る事業所得、不動産を賃貸して収入を得た場合に不動産所得など10のカテゴリーに分かれています。

通常はそれらの合計額に対し税額が決定される「総合課税」になっています。

 

1-1-2. 譲渡所得は申告分離課税

ところが、不動産を売却した場合の譲渡所得は、他の所得と通算することができません。譲渡所得のみで個別に税額を計算する「申告分離課税」になっています。

 

1-1-3. 損失を他の所得と通算できない

つまり、仮に譲渡所得が総合課税であれば、不動産売買で損失が出た場合、給与所得や事業所得から引くことができ、トータルで税金が安くなります。

ところが譲渡所得は申告分離課税ですから、いくら不動産売買で損失が出てもそれはそれ。譲渡所得としては税金はかかりませんが、給与所得や事業所得の方ではしっかりと税金を取られてしまいます。

この点が個人で不動産売買をすることのデメリットと言えるでしょう。

 

 

1-2. 法人の場合

法人の場合、個人の所得税にあたるのが法人税になります。

大きく違うのは、個人の所得税が10種類の所得に分かれていたのに対し、法人では利益が出ても、損失が出ても、すべての所得を合算します。

 

1-2-1. 法人は益金に課税される

個人では所得という利益に対して課税されましたが、法人の場合は会計上の収益・費用に法人税の「別段の定め」で決められた調整を行った「益金」に対して課税されます。

例えば不動産売買で損失が出た場合は「損金」として益金額から引くことができます。

そのため通常の営業活動で利益(益金)が出ていても、不動産売買で損金を計上して節税対策を行うことが可能になるのです。

 

1-3. 個人は複数のお財布、法人は一つのお財布

簡単にまとめると、個人の場合はお財布がいくつもあって、そのお財布ごとに課税されます。

一方、法人の場合はお財布が一つで、一年間のすべての営業活動で利益(益金)が出れば課税されますし、お財布が空っぽであれば課税されません。

この点が個人と法人の最大の違いです。

 

1-4. 簿価とは

不動産売買で利益が出たのか、損失が発生したのか、すべての計算はまず不動産の価格が決まっていないと始まりません。

法人が不動産売買を行った場合の経理処理では、「簿価」を使用します。

では簿価とはどのようなものなのでしょうか。

 

1-4-1. 個人の取得費にあたる

個人の場合は「土地を買った時の値段」=取得費を使用します。

この取得費と譲渡する際の費用を足し、譲渡した時の収入から引いたものが譲渡所得となります。

譲渡所得=譲渡収入金額―(取得費+譲渡費用)

一方、法人の場合は簿価を使用するのですが、それには理由があります。

 

1-5. なぜ簿価を使用するのか

1-5-1. 土地と建物の価値の違い

これには土地と建物の「価値」に対する考えた方が関わっています。

土地は特に造成などが行われ、利用価値が飛躍的に高まったりしない限り、地価の上昇はありますが、土地自体が持つ価値は変わりません。

そのため土地に関しては、購入した時の取得額がそのまま用いられます。個人の取得費と同じです。

一方建物の場合は年々古くなり、価値が下がっていきます。そのため建物に関しては「減価償却」の考え方が導入されるのです。

 

1-5-2. 減価償却するかどうかは任意

建物については減価償却することができるのですが、ただ法人の減価償却は、個人と異なり任意で行うことができます。そのため経営判断で減価償却をしない年もあります。

したがってその年の帳簿上の価格=簿価を使用するのです。

 

1-5-3. 建物の価格=簿価

建物の簿価は、取得価額から売却するまでの減価償却額を引くことで求めることができます。

取得価額-売却までの減価償却累計額=現在の簿価

 

 

2. 法人税の計算の方法

2-1. 利益=益金の算出方法

法人の不動産売買における益金は、売却額から売却した土地建物の簿価と譲渡する際にかかった費用を引いて計算します。

売却額―(売却した土地建物の簿価+譲渡費用)

 

2-1-1. 売却した土地建物の簿価

上述したとおり、土地に関しては購入した時の価格となり、建物に関しては取得した価格から売却時までの減価償却費を引いたものとなります。

 

2-1-2. 譲渡費用

譲渡費用としては以下のようなものがあります。

・仲介手数料

・印紙税のうち、売主側が負担したもの

・賃貸物件だった場合、借家人に支払った立ち退き料

・測量費

・司法書士費用

 

2-2. 税率

上述した益金は他の事業での益金、損金と合算され、年間としてプラスであれば課税されます。その際の税率は以下のとおりです。

所得(益金額)×税率=税額

 

区分 税率
中小法人 所得のうち年800万円
以下の部分
19%
(15%)
所得のうち年800万円
を超える部分
23.20%
大法人(期末資本などの額
        1億円超)
23.20%

※適用関係平成30年4月1日以後開始事業年度
※カッコ内は平成31年3月31日までに開始する事業年度について適用

出典:国税庁HP

 

 

3. 不動産売買で法人税以外に必要な税金

法人で不動産売買を行うと、法人税以外にも様々な税金が課せられます。特に消費税には注意が必要です。それぞれを見ていきましょう。

 

3-1. 法人住民税

個人の住民税にあたる地方税が法人住民税です。

法人住民税は、所得から計算された法人税額に住民税率をかけた「法人税割」と、資本金等の額によって決められる「均等割」で構成されます。

法人住民税=法人税割+均等割

このうち、法人税割は所得がマイナスの場合は法人税がゼロですから、法人税割もゼロとなります。

一方均等割は所得に関係なく、その自治体に事業所を構えているだけで、会社の規模によって決められた額が課税されます。

 

3-2. 法人事業税

法人事業税は、簡単に言うと「その土地で商売をさせてもらっているので、その地方自治体にかかる費用を負担するための税金」です。

法人事業税を課税しているのは都道府県なので、都道府県に納税します。

算出方法は、

法人事業税額=所得×法人事業税率

で求めることができます。

つまり法人税と同じで、所得がゼロまたはマイナスであれば課税されることはありません。

また法人税や法人地方税と異なり、「損金算入」ができるのが特徴です。

 

3-3. 消費税

不動産売買をした法人が消費税の課税事業者である場合は、消費税がかかります。

ただ土地と建物では扱いが異なるため、別々に解説していきます。

 

3-3-1. 土地は消費税非課税

消費税法第6条では、課税の対象としてなじまないものや、社会的配慮から消費税の対象とならないものを規定しています。

土地の売買もその一つに含まれます。土地はいくら売買を繰り返しても、また使用を繰り返しても「消費」されることはないため、非課税取引として定められています。

 

3-3-2. 建物は課税される

建物の場合は、使用を繰り返せば「消費」されることから、建物の売買には消費税がかかります。

土地は消費税非課税、建物は課税ということですから、不動産売買金額の内訳をきちんと把握しておかないと、消費税の計算ができないことになります。

 

3-3-4. 登録免許税

不動産の売買をした場合、土地の所有権の移転登記を行います。その際にかかるのが登録免許税です。

税額は以下のとおりです。

土地 不動産の価額×1,000分の20

※平成31年3月31日までの間に登記をした場合は1,000分の15

建物 不動産の価額×1,000分の20

 

3-4. 印紙税

不動産売買をする際の契約書には記載されている金額に応じた印紙を貼る必要があります。

印紙税の税率は以下のとおりです。なお平成32年3月31日までに作成される不動産売買契約書については軽減措置が適用されます。

契約金額 本則税率 軽減税率
10万円を超え 50万円以下のもの 400円 200円
50万円を超え 100万円以下のもの 1千円 500円
100万円を超え 500万円以下のもの 2千円 1千円
500万円を超え1千万円以下のもの 1万円 5千円
1千万円を超え5千万円以下のもの 2万円 1万円
5千万円を超え1億円以下のもの 6万円 3万円
1億円を超え 5億円以下のもの 10万円 6万円
5億円を超え 10億円以下のもの 20万円 16万円
10億円を超え 50億円以下のもの 40万円 32万円
50億円を超えるもの 60万円 48万円

(注) 不動産譲渡に関する契約書のうち、その契約書に記載された金額が10万円以下のものは、軽減措置の対象にはならない(税率200円)。また、契約書に記載された金額が1万円未満のものは非課税となる。

(以上 国税庁 不動産売買契約書の印紙税の軽減措置 より)

 

 

4. 法人の土地の譲渡益に対する重課税(平成32年3月31日まで停止中)

1973年(昭和48年)に、当時の地価の高騰を背景に法人などによる土地投機が横行したため、それを抑制する目的で通常の法人税の他に重課税が課せられました。

しかしこの重課税措置は、バブル崩壊後の土地価格の下落により停滞した土地取引を再度活発化させるため、現在課税停止措置が取られています。

  • 長期保有土地(所有期間5年超)→一般重課税 税率5%
  • 短期保有土地(所有期間5年未満)→短期所有土地譲渡益重課税 税率10%

 

 

5. 個人の場合の短期譲渡・長期譲渡

法人の場合は上記の重課税以外は、保有する期間によって税額が変わることはありません。

しかし個人で不動産売買をする場合、所有期間によって税額が大きく変わってきます。

 

5-1. 税額

短期譲渡・・・短期譲渡所得金額×30%(+住民税9%+復興特別所得税2.1%)

長期譲渡・・・長期譲渡所得金額×15%(+住民税5%+復興特別所得税2.1%)

 

5-2. 長期譲渡なら個人・短期譲渡なら法人

長期譲渡であれば、個人の税率は20.21%なので、法人の法人税よりも低く、個人で売買したほうが得になります。

一方短期譲渡の場合、個人で売買すると39.21%もの税率がかかってくるので、法人で処理したほうが得になります。

売却する物件を取得する際、所有期間も含め、個人で取得するか、法人で取得するか検討する必要があります。

 

 

6. 低額譲渡に注意

不動産仲介会社が間に入る場合は、基本的にその時の適正価格で取引されるため問題はありません。

しかし、法人が自社の役員などに時価よりもかなり安い金額で売却する場合があります。これを「低額譲渡」といいます。

低額譲渡とみなされると、思わぬところで課税額が増えることがあり、注意が必要です。代表的な例をあげてみます。

 

6-1. 自社の役員などに自社物件を売却した場合

自社で保有していた時価3,000万円の土地を役員に1,500万円で売却したとします。国税庁の見解によると、時価の半額以下での売却は低額譲渡とみなすとしています。この場合、差額の1,500万円については役員に対する報酬とみなされてしまうのです。

役員個人に対しては、当然この1,500万円に対し給与所得税がかかります。

一方法人にとっては役員報酬は経費となり問題がないように思われますが、この役員報酬は定期同額給与に該当しないため(つまり毎月の給料ではなく、特別ボーナスと認定される)、そのまま会社の所得として扱われます。

したがって法人税の課税対象になってしまうわけです。

この例のように節税対策で、自己取引による不動産売買を行う場合がありますが、税務署に合理性を否定される場合があるので注意が必要です。

 

 

7. 不動産売買に関する税金で損をしないために

不動産売買に関する税金について見てきました。

一般的に言えば、一年間の所得を合算し、損金算入もできる法人で不動産売買を扱ったほうが、個人で扱うよりも有利と言えます。

ただ短期譲渡・長期譲渡や低額譲渡のパートでお伝えしたように注意点もあります。

正しい知識を備え、賢い不動産売買を行うようにしましょう。