事例紹介
Category 不動産
2018年08月12日
不動産賃貸における事業税について
不動産賃貸業など不動産経営から利益を得た場合には、国や都道府県に税金を納めなければいけません。不動産業を営む人が納めなければいけない税金には、所得税、住民税、事業税があります。
今回はこの三つの税金のうち、事業税について説明いたします。
この記事でわかること
1. 不動産の賃貸でかかる事業税
不動産経営をして利益を得ていて、ある一定条件を満たした場合には、事業税を納めなければいけません。
不動産経営の場合は、事業税を納めなければいけない規模、というものがあります。
1-1. 不動産における事業的規模の判断基準
不動産における事業的規模の判断基準は以下になります。今回は、東京都を例に、土地と建物に分けて説明します。
1-1ー1. 土地
1.住宅用:10件以上または貸付総面積2000㎡以上
2.住宅用以外:10件以上
東京都の場合は、住宅用の土地を10件以上、または、住宅用以外の土地を10件以上持っており、そこから利益を得ている人は、事業税を納めなければいけません。
土地を10件以上持っている人が事業税の課税対象になる、と覚えておいても良いと思います。
1-1ー2. 建物
1.一戸建て住宅:10棟以上
2 一戸建て以外の住宅:10室以上
3.住宅以外の家屋:5室以上
4.住宅以外の家屋以外の建物:10室以上
(参考:東京都主税局ホームページより:http://www.tax.metro.tokyo.jp/kazei/kojin_ji.html#gaiyo_01)
東京都の場合は、住宅以外の家屋以外の建物を、10棟または10室以上貸付している場合に、事業税を納めなければいけません。
こちらも土地と同じように、建物を10件以上持っており、そこから利益を得ている人は事業税を納めなければいけないと覚えておいても良いと思います。
ただし、事業税は都道府県税ですので、各都道府県によって条件が違う場合もあります。詳細は、ご自身が納税する都道府県の条件を調べてみてください。
なお、事業税には290万円の控除額が適用されます。したがって、利益が290万円以下の場合は全額控除が適用されますから、事業税は納めなくても構いません。
不動産を10棟または10室以上保有しており、年間で290万円以上の利益のある場合には、事業税が課税されるということになります。
2. 事業税とは
事業税とは、事業を行っている個人が都道府県に納める税金のことです。
事業を行う際には、道路や公共施設など、都道府県や国が整備した施設や環境を使うことになります。事業を行っていない個人よりも、事業を行っている個人のほうが、これらの施設を積極的に利用する機会が多いであろうということから、これらの公共施設や公的な環境整備などにかかる費用を、事業者にも負担してもらう目的で事業税を徴収することになっています。
事業税は都道府県に納める税金ですので、細かな条件などは各都道府県によって変わってきます。
2-1. 事業税の対象となる業種
事業税の対象となる業種は三つの事業に分けられ、全部で70業種あります。
- 第1種事業(37業種)税率5%:物品販売業 、運送取扱業 、料理店業 、遊覧所業、保険業、船舶定係場業、飲食店業、商品取引業、金銭貸付業 、倉庫業、周旋業、不動産売買業、物品貸付業、駐車場業 、代理業 、広告業、不動産貸付業、請負業、仲立業、興信所業、製造業、印刷業 、問屋業、案内業など
- 第2種事業(3業種)税率4%:畜産業、水産業、薪炭製造業
- 第3種事業(30業種)税率5%:医業、公証人業、設計監督者業、公衆浴場業(銭湯)、歯科医業、弁理士業、不動産鑑定業、歯科衛生士業、薬剤師業、税理士業、デザイン業、歯科技工士業、獣医業、公認会計士業、諸芸師匠業、測量士業、弁護士業、計理士業、理容業、土地家屋調査士業など
※ただし、あんま・マッサージなど医業に類する事業は税率3%
(参考:東京都主税局ホームページより:http://www.tax.metro.tokyo.jp/kazei/kojin_ji.html#gaiyo_01)
不動産貸付業、不動産売買業は第一業種にあたりますので、東京都の場合は税率は5%となります。
2-2. 事業税の税額
事業税の税額は、所得税を計算するときに使う所得の金額を使って計算します。
不動産賃貸業や不動産売買業は第一業種にあたり、税率が5%ですので。計算式は以下の通りです。
(動産所得 ― 控除額)×5%=事業税
シンプルな数式なので、比較的簡単に計算ができると思います。
控除額の内容については、以下のものがあります。控除されるものを調べ、届出の方法を工夫することで、節税になる場合もあります。節税対策を考えている人は、控除されるものは何なのか、しっかりと調べてみると良いかもしれません。
2-2ー1.事業主控除290万円
事業税には、事業主控除が適用されます。事業主控除の金額は一律290万円です。
例えば、不動産所得が600万円あった人は、600万円から290万円を引いた310万円(さらにここから各種控除を引いた金額)に事業税がかかるということになります。
事業主控除は、一律290万円ですので、不動産所得が290万円に満たない人には事業税はかからないということになります。
青色申告をしている人は、所得から青色申告特別控除(65万円または10万円)が控除された金額を使って所得税額を計算しますが、事業税には青色申告特別控除の適用はされません。
青色申告特別控除と、事業主控除を混同してしまい、
(所得ー青色申告特別控除ー事業主控除290万円ーその他の控除)×5%=事業税 と計算してしまう人もいるようですが、これは間違いです。
(所得ー事業主控除290万円ーその他の控除)×5%=事業税額
というのが、正しい事業税の計算式になります。
事業税の場合は、青色申告特別控除の代わりに事業主控除290万円が控除される、という風に覚えておくとよいかもしれません。
2-2ー2. 繰越控除
前年度に何らかの形で損失があった時には、その分は繰越控除として計上できます。
繰越控除には以下の三つの控除があります。
1.損失の繰越控除
青色申告している人が事業で赤字を出した時、その年から3年間にわたって赤字分を繰り越して控除できます。
2.被災事業用資産損失の繰越控除
白色申告をしている人が、地震や津波、火事などの災害にあったときは、その災害の翌年から3年間にわたって、災害による損失額を繰り越して控除できます。
3.譲渡損失の控除と繰越控除
車や設備、機器など、事業用資産を譲渡した時に損失が出た場合、その損失を控除することができます。ただし、事業用資産の中に土地や建物は含まれませんので、注意しましょう。
青色申告をしている人の場合は、損失があった年の翌年から3年間にわたって、損失額を繰り越して控除できます。
2-2ー3. 専従者給与
事業主の家族や親族が不動産経営の従業員となっている場合は、その家族を専従者とよび、この家族に支払った給与を控除できます。この場合の専従者というのは、生計を一緒にする家族ということになります。
青色申告をしている場合と白色申告をしている場合では、控除できる金額に違いが出てきます。
青色申告者:給与支払額が控除される
白色申告者:配偶者は86万円まで、その他の家族とは一人当たり50万円までが控除される
というように、青色申告をしているか白色申告をしているかによって、控除額が変わってきます。専従者がいる場合は、所得に応じて申告方法を見直してみると、節税になるかもしれません。
2-4. 事業税の税額の計算例
所得から上記の控除額を引いた金額に税率5%を掛けた金額が、事業税額となります。
不動産所得600万円の以下の人を例にして計算してみましょう。
・不動産所得:600万円
・繰越控除:50万円
・専従者給与:30万円
(不動産所得600万円-(事業主控除290万円 + 繰越控除50万円 + 専従者給与30万円))×5%=11万5000円
この人の事業税は11万5千円ということになります。
2-3. 申告と納税の日程
個人事業税は普通徴収で納税します。普通徴収というのは、納税者のもとに納税通知書が届けられ、その納税通知書を使って税金を納める方法のことです。
個人事業税の場合は、納税通知書が毎年8月頃に届き、8月と11月に納税することになっています。
事業税納付は年に2回、8月と11月に行いますが、一回ぶんの納付金額が30万円に満たないときは、コンビニからの納付も可能です。また他の税金と同じように、銀行口座からの口座振替も可能です。
払い忘れる心配のある人は、払い忘れのない口座振替にした方が良いかもしれません。口座振替は、ゆうちょ銀行をはじめとした、各種金融機関で対応しています。
事業税を納める場合には、基本的には申請などは必要ありません。なぜかと言うと、事業税を納める人は、確定申告も行いますが、確定申告の時の情報が税務署から各都道府県に送られることになっています。そのため特別な届出をしなくても、都道府県から事業税の納付書が送られてきます。
ただし、何らかの事情で確定申告を行わなかった場合や、個人住民税の申告書を出していない人は、毎年3月15日までに事業税の申請を行わなければなりません。
3. 事業税の注意点
3ー1.事業税の納付を忘れると滞納金を取られる
事業税も他の税金と同じように、払い忘れをして放置すると、延滞金を取られる場合があります。また、わざと支払わなかったりすると、悪質だとみなされ、重加算税が課されることもあります。
3ー2.利益の多かった年の翌年に注意
事業税を支払わなければいけないのは、基本的に開業してから2年目以降です。不動産経営を始めて一年目には、事業税の納付書は届きませんが、1年間不動産経営を続けて、収益が290万を超え、さらに、事業税課税対象者としてみなされた場合には、2年目以降に納付書が届くことがあります。
また、何年もの間、不動産経営をしてはいたけれども、利益が290万円に満たないので、事業税を納める必要がなかった、という人もいるかと思います。そういう人も、ある年だけ、不動産所得が290万を超えることがあるかもしれません。
その場合は、翌年から事業税の支払いを命じられることもあります。(実際には、何棟所有しているかなどの、その他の条件も加わりますが。)
事業税のことをすっかり忘れていた頃に納付書が届くと、びっくりすると思いますし、お金を使ってしまって、税金が払えなくなったら困ります。不動産経営の収益が増えてきたら、事業税の事も考えておきましょう
払い忘れをして、放置してしまうと、ペナルティが課されますので、注意しましょう。
3ー3.事業税と事業所税は違う
事業税と似た名前の前に、事業所税というものがあります。この二つの税は、名前は似ているのですが、内容は全く違います。
事業税は、事業を行っている個人に課される税金ですが、事業所税は事業所に課される税金です。
事業所税は、東京23区の人口30万人以上の都市または政令指定都市など、ある程度の規模の地方公共団体に課税されるものです。事業所税は、道路や公園図書館などの、大都市の環境整備に使われます。事業所税は事業所の床面積や、従業員の給与によって課税額が変わります。
事業税と事業所税は全く違うものです。不動産経営をしている個人事業主が払う税金は、事業税です。混同しないようにしましょう。
4. まとめ
不動産経営をしている個人が払わなければいけない税金には、住民税、所得税、事業税があります。
このうち、事業税を払わなければいけないのは、年間の所得が290万円以上で、10以上の投資物件から利益を得ている個人事業主です。
ただし事業税は都道府県税ですので、各都道府県によって課税対象となる条件が違ってきます。都道府県によって細かい違いがありますので、詳しくは、納税する都道府県の情報を調べてみてください。
事業税の計算方法は、所得から各種控除額を引き、税率をかけた金額です。不動産売買や不動産賃貸の税率は5%です。事業税は一律290万円の控除枠があります。また、繰越控除や専従者給与も控除されます。
事業税は、毎月8月と11月に納税する事になっています。事業税は、普通徴収ですので各都道府県から納付書が届きます。支払い方は、住民税などの納付と同じように、納付書をもって、銀行などの金融機関、もしくは税務署などに行って納付してください。口座振替も可能ですし、金額によってはコンビニ納付も利用できます。
不動産経営はしていたけれども、事業税を払ったことはないという人も、その年の不動産経営の収益が多い場合には、翌年に事業税を取られる可能性があります。8月になって急に納付書が来て慌てることのないように、収益が290万を超えそうになったら、事業税の事も念頭におきながら、お金の計算をしておいた方が良いでしょう。
事業税も他の税金と同じく、滞納したり納付を拒んだりすると、延滞金や重加算税を取られます。滞納すると損をしますので、気をつけましょう。