事例紹介
Category 不動産
2018年07月06日 更新
不動産の賃貸借契約と印紙税
不動産の賃貸借契約には、土地の場合と建物の場合があります。
この土地の賃貸借契約書や建物の賃貸借契約書には印紙税がかかるのでしょうか。
いろいろ例外も多いので、じっくり見ていきましょう。
この記事でわかること
1. 不動産の賃貸借契約書に印紙税がかかるケース
1-1. 印紙税とは
印紙税とは、日常の経済的な活動に伴って作られる、かなり広い範囲の契約書や領収書などの文書(課税文書)に対して、国が課税する軽度の税金です。
契約書や領収書などの文章には、取引に伴って発生する経済的利益が生ずるため、税金を取る必要があると考えられています。
印紙税は、この点に注目して課税する税金です。これは日本独自の税金ではなく、欧米でも類似の税金があります。
下に、平成 30 年5月現在の印紙税法の課税物件の欄に載っている文書の中の抜粋を掲載しました。
文 書 の 種 類(物 件 名) | 印紙税額(1通又は1冊につき) | 主な非課税文書 |
1 不動産、鉱業権、無体財産権、船舶若しくは 航空機又は営業の譲渡に関する契約書
(例) 不動産売買契約書、不動産交換契約書、 不動産売渡証書など 2 地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関 する契約書 (例) 土地賃貸借契約書、土地賃料変更契約書 など 3 消費貸借に関する契約書 (例)金銭借用証書、金銭消費貸借契約書など 4 運送に関する契約書 (注) 運送に関する契約書には、用船契約書を 含み、乗車券、乗船券、航空券及び運送状 は含まれません。 |
記載された契約金額が 1万円以上 10万円以下のもの 200円10万円を超え 50万円以下 〃 400円50万円を超え 100万円以下 〃 1千円 100万円を超え 500万円以下 〃 2千円 500万円を超え1千万円以下 〃 1万円 1千万円を超え5千万円以下 〃 2万円 5千万円を超え 1億円以下 〃 6万円 1億円を超え 5億円以下 〃 10万円 5億円を超え 10億円以下 〃 20万円 10億円を超え 50億円以下 〃 40万円 50億円を超えるもの 60万円 契約金額の記載のないもの 200円 |
記載された契約金額が 1万円未満のもの |
しかし、課税文書と非課税文書の境目はわかりにくく、税理士の人でも完全には把握できてない場合もあります。
詳しくは印紙税額の一覧表、すなわち「課税物件表」に掲げる20種類の文書(https://www.nta.go.jp/publication/pamph/inshi/pdf/zeigaku_ichiran.pdf)を参考にするのが良いでしょう。
1-2. 土地の賃貸借契約には印紙税がかる
不動産の賃貸借契約には、主に、土地の場合と建物の場合があります。このうち、土地の賃貸借契約書には、印紙税がかかります。
これに対して、建物の賃貸借契約書には印紙税はかかりません。建物の賃貸借契約書は非課税文書になります。
文書によっては、一つの文書で課税物件表の複数の課税文書に該当するものが出て来ます。
このような場合、規定がありますので、それを適用してどれかひとつの課税文書に決定することにします。
1-3. 土地の賃貸料は「記載された契約金額」に含まれない
土地の賃貸借契約書の印紙税の金額は、「記載された契約金額」によって決まりますが、土地の賃貸料は、「記載された契約金額」に含まれません。
「記載された契約金額」とは、権利金、名義変更料、更新料等の後日返還されることが予定されていないものを言います。
また、敷金などの契約終了後に返還されるものも「記載された契約金額」に含まれません。
つまり、土地の賃貸料と敷金しか記載されていない土地の賃貸借契約書の印紙税の金額は、「契約金額の記載のないもの」に該当し、貼るべき印紙税額は200円となります。間違いやすいので注意が必要です。
権利金、名義変更料、更新料等の後日返還されることが予定されていないものの記載がある場合、印紙税額は高額になる可能性があります。
土地の賃貸借契約書の印紙税の金額については、前述の表にまとめられていますので確認するようにしましょう。
1-4. 印紙税は誰が払うのか
印紙税を支払う人は、課税文書を作った人です。
なお、契約書のように2人以上の人が共同して作成した課税文書に対する印紙税については、その2人以上の人が連帯して納税義務を負うことになります。
代理人が代理人名義で作成した文書の場合は、納税義務者は本人ではなく代理人になります。
また、作成された文書ごとに課税されるため、例えば仮契約と本契約というように二つの文書を作成すればそれぞれに課税されます。
国・地方公共団体が作成する文書は常に非課税になります。
国・地方公共団体と私人が共同作成した文書の場合、私人が作成して国・地方公共団体が保管するものは課税されますが、国・地方公共団体が作成して私人が保管する文書は非課税となります。
2通作成して各自1通ずつ保有する場合には、国・地方公共団体側が印紙税の消印をされている方を保有することが決まっています。
1-5. 払わない時はどうなるのか
契約書に収入印紙を貼付しなくても、契約は無効にはなりません。契約自体は有効ですが、印紙税の課税もれとなり罰金が科せられます。
印紙税の納付とは、契約書に収入印紙を貼付し、印章または署名で消印することで行います。
契約書に収入印紙を貼付しなかった時には、納付すべき印紙税額の3倍に当たる過怠税(罰金)が徴収されます。
また、貼付した収入印紙に消印をしなかった時には、消印をしなかった収入印紙と同額の過怠税が徴収されます。
課税文書が何らかの理由、つまり書損じた場合等.で使用する見込みがなくなった場合や課税文書に正しい金額を超えて収入印紙を貼ってしまった場合は、「印紙税過誤納手続」を管轄税務署で行うことにより、印紙税の還付や充当を受けることができます。
この場合、確認申請書あるいは充当請求書とともに、過誤納となった事実を証明する文書を提示しなければなりません。
税務署が確認後、1か月程度で確認申請書又は充当請求書で指定した方法で、印紙税が還付されます。なお、印紙部分には確認印が押され、返却されて来ます。
2. 不動産の賃貸借契約書に印紙税がかからないケース
2-1. 建物の賃貸借契約書
建物の賃貸借契約書には印紙税は必要ありません。
建物の賃貸借契約書は、非課税文書であり、契約書中に建物の立つ敷地の面積の記載があっても、建物の賃貸借契約書であれば、印紙税はかかりません。
2-2. リース、レンタル契約の場合
リース契約に関する契約書類は、以前は課税文書の対称として扱われていた経緯があります。
しかし、平成元年、「印紙税法の改正」により、一般的なリース契約に関する契約書などの文書は全て非課税文書として扱われるように法改正がなされました。
契約内容が動産の賃貸借契約だけである場合、課税文書ではありません。契約内容がリース、レンタル契約のような動産の賃貸借契約だけの場合は、課税文書とはなりません。
ただ、内容が不動産の賃貸借契約を越えて、目的が運送や請負にかかるような時には、課税文書となります。これは継続的取引であっても同じことです。
2-3. 非課税文書
非課税文書については、印紙税法第5条の(非課税文書)にまとめられており、以下の3つとなります。
・平成 30 年5月現在の印紙税法の課税物件一覧表の中の非課税物件の欄に掲げる文書
・国、地方公共団体又は別表に掲げる者が作成した文書
(別表はhttp://www.houko.com/00/01/S42/023.HTM#h02参照)
・別表第三の左欄に掲げる文書で、同表の右欄に掲げる者が作成したもの
(別表はhttp://www.houko.com/00/01/S42/023.HTM#h03参照)
2-4. 不課税文書
文書は、課税対象となる文書と課税対象にならない文書とあります。
課税対象になる文書のうち、印紙税法第5条に規定されている文書は、課税されず、これを非課税文書と呼びます。
これに対して、印紙税法の課税物件の欄に掲げる文書以外の文書を不課税文書と言います。
印紙税法は、「課税文書は印紙税法に列挙してあるものだけという立場」を採用しています。このため、課税対象となる文書のみが課税物件表として法律に記載されています。
つまり、この物件表に載っていない文書は、全部が全部、不課税文書ということになります。非課税と不課税は、印紙税がかからない所は似ていますが、そもそも意味が違うのです。
2-5. まぎらわしいケース
ただし、まぎらわしいケースは多くあります。
例えば、車庫を借りる賃貸借契約書や、駐車場内の一定の位置に駐車する契約書、車の保管契約書は、非課税ですが、土地を借りてそこを駐車場に使う場合は、土地の賃貸借契約書となり課税されます。
同じように、野菜栽培の時などのビニールハウスの賃貸借契約書は非課税ですが、土地を借りてそこにビニールハウスを作るような場合は、土地の賃貸借契約書となり課税対象になります。また、無償で土地を貸すという貸借契約の場合は、印紙税はかかりません。
ただし、建物の賃貸借に関する事項だけでない場合は注意が必要です。
保証金等として受け取った金銭であっても、その建物の賃貸借期間とは関係なく、一定期間据え置いた後に、一括返還又は分割返還することの記載がある場合は「消費貸借に関する契約書」となります。
この場合は、契約書に収入印紙を貼付しなければなりません。この場合の印紙税額は一括返還又は分割返還する金額に応じて決まります。
なお、建物の賃貸借契約に当たって、建物の賃貸人が賃借人から敷金を預かる時には、敷金の預り証を作ることがあります。この預り証は、「売上代金以外の金銭の受取書」となり、敷金の金額が5万円以上となる場合には、200円の印紙税がかかります。
2-6. 電子データは原則非課税
インターネット上で行われる電子商取引が活発化しています。
電子署名法により「電子署名が添付された電子データは、押印された文書と全く同じ法的効力が認められる」となりました。
さらに、IT書面一括法では、「本来、紙で交付すべき書面であっても、電子署名を添付した電子データを代わりにすることを認める」とされました。このため、電子商取引が法律的な裏づけを持つようになりました。
電子商取引内で作られたこのような電子データは、文書に該当しないので印紙税が課税されることはありません。したがって、請負契約書、売買契約書、領収書なども、電子文書にしていれば印紙税を節約できます。
控として印刷されたものは、コピーした文書と同様のものと認められます。このため、印紙税は課税されないことになります。
しかし、印刷したために契約の効力の特約を持つ電子データを印刷した場合などには注意が必要です。そのような場合、その印刷文書は課税対象となります。
3. 印紙税の対象になる記載金額の項目
土地の賃貸借契約書の印紙税の対象になるのは、権利金、名義変更料、更新料等の後日返還されることが予定されていないものだけです。
土地の価格や賃貸料や敷金などは、印紙税の対象になる記載金額には入りません。
4. 連帯保証人が保持する書類にも印紙税がかかる
4-1. 借入申込書のケース
借入申込書は、貸借契約書ではありませんので、印紙税の課税対象ではありません。
しかし、これに併記した連帯保証人の事項については、保証人になることを承知した人が、その事実を明らかにするために署名、押印してある場合、貸借契約書としてではなく、「債務の保証に関する契約書」に該当し印紙税がかかります。
この場合、保証予定者として、保証人欄に保証人の住所及び氏名を記載したものであっても、署名捺印がされていなければ、債務の保証のための契約書に該当しません。
4-2. 借用書のケース
借用書の債務の連帯保証に関する契約書でしたら課税文書となります。
この場合は、貸借契約書としてではなく、「債務の保証に関する契約書」に該当し印紙税がかかります。
身分保証に関するものについては、印紙税の非課税規定で「身元保証二開スル法律に定める身元保証に関する契約書」が明示されていますので、課税文書に該当しません。
5. まとめ
不動産の賃貸借契約には、主として、土地の場合と建物の場合があります。
このうち、土地の賃貸借契約書には、印紙税がかかります。これに対して、建物の賃貸借契約書には印紙税がかかりません。
ここでは、建物の賃貸借契約書としては非課税でも、「債務の保証に関する契約書」や「売上代金以外の金銭の受取書」などとなり、課税対象の契約書になっていないか注意するようにしましょう。