事例紹介

Category  不動産

2018年08月10日

不動産の法人税における節税対策

サラリーマンをやりながら、不動産を所有し賃貸経営などをしようと考えている人もいるかと思います。

不動産から得た利益には、税金がかかりますが、個人で不動産を経営している場合には、個人事業主という形で、所得から税金が引かれることになっています。法人の場合は、法人税がかかります。

個人と法人の税率は違います。不動産のみならず、利益の金額が大きくなれば、法人税のほうが、税率が安いため、節税対策として個人事業主から法人に切り替える人もいます。

個人事業主として不動産経営するのと、法人として不動産経営するのとでは、具体的に、どちらのほうが節税できるのでしょうか?

1. 不動産を法人で取得する場合は法人税の部分が節税になる

法人税の節税について説明する前に、まず、個人事業主の場合にかかる所得税率と控除額を知る必要があります。個人事業主の所得税率と控除額は以下のとおりになります。

  • 課税所得金額が0から195万円:税率15%:控除額0円
  • 課税所得金額が195万円から330万円 :税率20%:控除額97,500円
  • 課税所得金額が330万円から695万円:税率30%:控除額427,500円
  • 課税所得金額が695万円から900万円:税率33% :控除額636,000円
  • 課税所得金額が900万円から1,800万円:税率43% :控除額1,536,000円
  • 課税所得金額が1,800万円以上:税率50% :控除額2,796,000円

 

法人の場合の、所得税率と控除額は以下のとおりになります。

  • 利益が0から400万円:税率約22%
  • 利益が400万円から800万円:税率約23%
  • 利益が800万円以上:税率約36%

 

個人事業主と法人の税率を見比べてみると、利益が330万円を超えた場合には、法人の方が税率が低くなることがわかります。

個人事業主の場合は、所得が330万円から695万円の場合の税率は30%ですが、法人の場合は利益が0から400万円の場合で税率約22%、400万円から800万円の場合税率は約23%です。したがって、所得が330万円を超えた場合には、法人にしたほうが、税率が低く抑えられるということになります。

また、サラリーマンをやりながら不動産経営をしている人の場合は、サラリーマンの仕事から得た所得に不動産経営の利益を足した金額で税率が計算されます。

例えば年収400万円の人が、不動産経営で300万円の利益を上げているとしたら、その人の所得は700万円になり、税率33%が課税されます。

しかし、法人として不動産経営を行なう場合は、サラリーマンとしての所得と、不動産経営の所得は別で計算されます。不動産経営から得た利益の300万円には税率約22%が課税されることになります。このように、法人にすることによって、個人の給与は税率に影響しなくなります。

ただし法人にした場合には、利益とは関係なく7万円程度の税金が徴収されます。この7万円を引かれても、お得になるならば、法人化した方が良いでしょう。

 

1-1. 節税にならないケースもある

このように、不動産経営で利益を得ている場合には、法人にしたほうが節税になるケースが多いですが、しかし、不動産経営に失敗し利益が出ていない場合には、法人化しないほうが節税になります。

また、サラリーマンの給与と不動産投資で得た利益を合わせても、所得が330万円に満たない場合には、税率は20%ですので、法人化しないほうが節税になります。

法人化してしまうと、利益に関係なく7万円程度の税金を取られますので、節税額が7万円に満たないような場合も、節税にならず、かえって損をすることになるかもしれません。利益の金額が微妙な場合は、7万円払っても得をするかどうか、計算してみた方が良いでしょう。

また、法人化すると、民間の住宅ローンが利用できなくなります。法人でローンを組む場合には、住宅ローンよりも金利の高いビジネスローンなどを組むことになります。 そのため、住宅ローン減税の適用ができなくなります。

住宅ローン減税を使って節税しようと考えている人は、法人化した場合の節税額と住宅ローン減税の節税額を見比べて、検討してみた方が良いでしょう。

 

2. 減価償却費は節税になる

建物は、建てた時点から少しずつ価値が下がっていくものです。したがって、建物は減価償却費として計上されます。個人の場合は「強制償却」という形で計上することになります。この場合は減価償却費の枠の中、全てを経費として計上しなくてはいけませんし、赤字の場合も計上しなくてはいけません。

つまり、個人の場合は、あまり利益がなかった年も、決められた計算方法で減価償却費を計上しなければいけないということになります。赤字の年は、厳しいものがあります。

しかし、法人にした場合には「任意償却」という形をとります。法人の形をとることで、政令で定められた方法で計算した金額の範囲内で、自由に減価償却費を設定できるのです。この場合は減価償却費の枠内であれば0円から、上限なく、減価償却費を計上することができます。

個人は計算した金額そのものを、法人は計算した金額に達するまでの金額を、それぞれ計上することです。

法人にすることで、赤字の年は減価償却を止めるなどの対策をとることが出来ます。

 

3. 不動産管理会社を使って節税できることもある

個人で不動産経営をしている人が、不動産管理会社を作って節税することもできます。

不動産管理会社には以下の三つの方式があります。

  • 不動産保有方式
  • 管理委託方式
  • 一括賃貸方式

それぞれのタイプ別に節税の方法を説明していきましょう。

 

3ー1. 不動産保有方式

不動産保有方式は、不動産管理会社が不動産を所有するという形をとる方法です。

オーナーである自分は、その不動産会社に出資をして株主になります。

賃料は不動産管理会社の収益となり、 そこからオーナーである自分が給料を受け取る形をとります。オーナーの立場は、役員ということになります。

この形をとることによって、以下の三つの形で節税をすることができます。

 

3ー1ー1.所得税の節税

オーナーが個人事業主として不動産経営をした場合には、不動産経営から得た、賃料などの利益は、全てオーナー個人の利益になります。規模が小さい場合には不動産所得として、規模が大きい場合は事業所得として、そこに課税される形となります。

しかし、不動産会社を使った場合には、賃料などは不動産会社に支払われ、不動産会社からオーナーに給与という形で利益の一部が支払われることになります。

給与所得には給与所得控除がありますから、その分の税金が安くなります。

個人経営の場合は賃料などの収益から経費を引いた残りの利益全てに課税されますが、給与所得の場合は賃料などの収益から経費を引いた残りから、さらに所得控除を引いた金額に課税されることになりますから、所得控除分を節税できます。

さらに家族を従業員として、家族にも給料を支払うことにすれば、さらに節税ができます。例えば、不動産会社から受け取る給料が600万円だった場合、給与として利益を受け取る人物が自分一人なら、600万円から所得控除を引いた金額に課税されることになります。

しかし、妻などの家族も給与として利益を受け取れるようにして、二人に給与を分配する形をとれば、一人あたり300万円の給与受け取る計算になります。例えば妻と自分が給与を受け取る場合なら、それぞれが300万円の給与を受け取り、その給与に応じた税金を支払うことになります。

所得税率は330万円までが10%、330万円から695万円までか20%です。一人で600万円の給料を受け取れば、20%の税率がかかることになりますが、600万円を家族二人で分ければ一人当たり300万円ですから、それぞれ10%の税率がかかります。10%分の税金が節税になります。

 

3ー1ー2.相続税の節税

遺産相続の場合も、不動産管理会社を作ることで、相続税の節税をすることができます。

例えば、賃貸経営をしていた建物を遺産相続として譲渡された場合には、通常ならば、相続された不動産は相続人の財産になります。 その場合、相続した個人が全ての相続税を支払わなければいけません。相続するのは家族の中で一人の人間ですから、その人が一人で全ての相続税を支払わなければいけないということになります。

しかし、管理会社を作った場合は、相続人以外の家族にも給与として、賃貸収入を分け与えることができます。一人当たりの受け取る金額は減りますが、そのぶん相続税も安く抑えられます。

 

3ー1ー3.税率が低く抑えられることがある

不動産管理会社から、オーナーである自分自身や家族に給与を払った後に残ったお金は、会社のお金としてプールしておくことができます。この残ったお金に対しても、法人税がかかります。

しかし、この時にかかる税率は資本金が1億円以下の中小企業であれば、34%程度です。不動産経営の利益が大きい場合には、法人化したほうが節税になります。

ただし、その場合については法人税の対策も必要になってくるので注意が必要です。

 

3ー2. 管理委託方式

管理委託方式は、オーナーが管理会社に対して収益の一部を管理費として支払うやり方です。

オーナーから支払った管理費の中から、家族にも給料を支払います。

管理費は賃料の5%から10%程度が相場と言われています。

この場合も、利益を家族に対しても給与として支払うこととなり、一人分の所得が少なくなるため税率を安く抑えられます。また、所得控除分も節税になります。

 

3ー3. 一括賃貸方式

一括賃貸方式は、オーナーが不動産を不動産管理会社に貸し出し、不動産管理会社がその不動産を借主にまた貸しする形をとります。

一括賃貸方式では、個人と管理会社の間で賃貸契約を結んだのち、管理会社と入居者の間にも賃貸契約を結ぶことになります。

そして、会社が入居者から受け取った賃料から管理費を引いた、残りのお金をオーナーに支払います。賃料から差し引いた管理費が会社の収入となります。

この管理費の中から、家族にも給料を支払うこともできます。この場合も、賃料の一部を家族にも分けることになりますので、収入が細分化され、節税になります。

管理費は、賃料の10%から15%と言われています。

 

4. 他にも期待できる節税効果一覧

他にも期待できる節税効果があります。

 

4ー1.法人税率による節税

法人税率による節税について見ていきましょう。

 

4ー1ー1.給与所得控除

法人化した場合には、給与所得控除が使えます。給与所得控除は給与という形でお金をもらっている人は税金が優遇される仕組みです。

不動産会社をつくり、家族を従業員にして給与を支払えば、給与所得控除が適用され節税になります。

法人の給与所得控除は65万円ですから、家族に支払う給与のうち65万円までにかかる税金を節税できるということになります。

 

4ー1ー2.事業税

個人でも、不動産経営の規模や利益が大きくなってくると、事業税を支払わなければいけない場合があります。個人の場合の不動産業の事業税は5%です。

法人の場合の事業税は、所得400万円以下で税率2.7%、所得400万円~800万円で税率4.0%、所得800万円以上で税率5.3%です。

事業所得の金額にもよりますが、場合によっては法人化した方が、お得になることもあります。

 

4ー1ー3.消費税

個人の場合であれば、2年前もしくは、前の年の前半の6ヶ月の売り上げが1千万円以上になると消費税の課税業者とみなされ、消費税を納めなければいけません。

2年前や1年前に売り上げが1千万円あったとしても、今年度は赤字ということもあるでしょう。赤字の年も消費税を課税されると、経営が苦しくなってしまうこともあると思います。

しかし、法人化すると、消費税課税事業者となるタイミングを遅らせることができます。 法人設立してから1年目には、2年前や前年度の売上がゼロだった、という形で計上できます。 この場合は、消費税が免税されます。

 

5. まとめ

個人で不動産経営をしている場合には、家賃収入などの収益に所得税が課税されます。サラリーマンと兼業で不動産経営をしている人の場合は、サラリーマンの給与と不動産経営で得た収益を合わせた合計金額に税金が課税されます。

日本は累進課税を採用していますから、個人の所得が高額になればなるほど税率も高くなります。サラリーマンと不動産のオーナーを兼業してる人にとっては頭の痛い問題かもしれません。

しかし、そういった場合には、法人化をすることで、サラリーマンとしての給与と、法人としての不動産経営の収益を分けて計上できますから、税率を低く抑えることができる場合があります。

しかし、法人化することで、利益に関係なく徴収される7万円程度の法人税を取られます。また、利益の金額によっては、法人化しても節税にならない場合もあります。法人化をして節税対策をする際には、かえって損をしないように、あらかじめ、きちんと計算すると良いでしょう。

また、不動産管理会社を設立して節税する方法もあります。 不動産管理会社には不動産保有方式、 管理委託方式、 一括賃貸方式の三つのタイプがありますが、三つとも基本的には、管理会社から給与を支払う方法をとります。

管理会社を通して、オーナー自身に給料を支払う形にすれば、給与所得控除の分だけ節税ができます。また、家族にも給料を支払えば、一人当たりの所得を安く抑えることができ、税率を安くすることができます。

この他にも法人成りすることで、事業税を安く抑えたり、消費税課税業者になる期間を遅らせる事もできます。

不動産経営である程度利益が出てきた場合には、法人成りを考えてみると良いかもしれません。