事例紹介

Category  不動産相続税

2018年10月01日

相続した不動産を売却した時の相続税と譲渡所得税は、二重課税じゃないの?

相続税は、基礎控除というものがありますが、それ以上の相続になるとかなりの高額になる場合が多いです。そのため急に現金が必要になり、相続した不動産を売却せざるを得ない時があります。そこで、不動産を売却すると、譲渡所得が生ずるために、相続税以外にも譲渡所得税も払わなければならなくなります。これを同じ財産に二度課税をする、いわゆる二重課税と感じる人は多いと思います。これは、ほんとうに二重課税じゃないのでしょうか、少し詳しく相続税と譲渡所得税について見てみましょう。

 1. 二重課税じゃないの?!相続した不動産売却時の相続税と譲渡所得税

相続した不動産の相続税を払うためにその不動産を売却をすると、相続税だけでなく、譲渡所得税も払わなければなりません。現金の相続ではこのようなことはないので、これは、二重課税ではないのでしょうか。

 

1-1. 相続税とは

まず、相続税とは、亡くなった人から各相続人が相続や遺贈などにより受け継いだ財産の合計額が基礎控除額を超えた場合に、超えた額に対してかかる税金のことです。基礎控除額というのは、通常、3000万円+600万円x相続人数と法律で決まっています。これ以上を超えて相続財産がある場合には、相続税が課税されます。

基礎控除以外の控除としては、「相続税の配偶者控除」という特例があります。亡くなった方の配偶者の場合、実際に配偶者が受け取った遺産の金額が、法定相続分の範囲内の時には、税金がかからないという規則があります。また、法定相続分を超えて相続しても配偶者の相続分が1億6,000万円までは税金がかかりません(相続税法第19条2項)。

夫婦同士は同世代の場合が多く、残された配偶者が比較的近い時期に故人になり再び遺産相続が起こる場合が多いためです。この控除の趣旨は短期に同じ資産に2度の相続税が課されることを配慮したものと言われています。この控除を使う場合には、申告期限までに配偶者の相続分を計算して、申告書を提出しておく必要があります。

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そのほかに、「小規模住宅等の特例」という特例があります。亡くなった方が住んでいた住宅等を相続した時には、その住宅の評価額を大幅に小さくする(80%〜50%)という規則がありますが、この特例に該当する人は少なく、主として配偶者か同居親族が相続すれば適用されます。住居であれば80%が控除されるため、かなりの高額になります。厳しい規定がありますので、税理士に相談してください。

 

1-2.譲渡所得税とは

土地や建物を売ったときに得られる所得を譲渡所得といいます。この譲渡所得に対しては 譲渡所得税と住民税が課税されることになっています。この税金は、分離課税といって給与所得などの他の所得と区分して計算します。ただし、確定申告の手続は他の所得と一緒に行うことになります。

売った土地や建物の所有期間が、売った年の1月1日現在で、5年を超えるかどうかにより、長期譲渡所得あるいは短期譲渡所得と言って、適用する税率が異なります。長期譲渡所得に対する課税は約20%なのに対して、短期譲渡所得に対する税率は約40%と高額です(住民税を含む)。これは、安易に土地を転売して利益をあげようとする行為を防ぐためです。

ここで注意したいのが、売却した不動産の所有期間のことです。特に不動産の購入日については、相続人が相続した日とは全く関係ありません。この不動産を購入した日であり、おそらく故人か、その祖先が購入したものでしょう。相続人は、故人からこの不動産の購入日と購入価格を引き継ぎます。したがって、相続直後に不動産を売っても短期譲渡所得にはなりません。安心してください。また、売却日については、契約日であって、引き渡しの日ではありません。なお、不動産の購入金額が不明の時には、売却額の5%としています。

また、相続が絡んでいる時には、期間に対して特に注意が必要です。故人が亡くなった日が8月末とすると、この年から5年後の12月31日までです。この場合は、4年と4ヶ月しかありません。そのために売った土地や建物の所有期間が長期譲渡期間に足りなくなり、40%の税率を課されることがあります。

分離課税である譲渡所得の課税の対象には、土地のほかに、借地権や耕作権など土地の上に存する権利も含みます。また、海外に所在する土地や建物も含みますので注意が必要です。

 

1-3. 二重課税ではないと言われる理由

相続税とは、亡くなった人から相続人が相続や遺贈などにより受け継いだ財産に対する課税なのに対して、譲渡所得税とは、土地や建物を売ったときに得られる譲渡所得に対する課税で、全く別物というのが国の立場です。何らかの理由で所得が得られた時に課税がなされるということを考えれば、国の立場は納得ができます。

この二重課税の問題は、相続の時に相続税の支払いに高額の現金が必要となり、不動産等の売却が絡むと同時に生じる場合が多く、混乱が起こります。これを区別するには、故人が生前に不動産等の売却をしていた時と相続後に相続人が不動産等の売却をした時の二つのケースを比べてみるとよく分かります。

故人が生前に不動産等の売却をした場合は、故人が不動産等の譲渡所得を得て、故人が譲渡所得税を払うことになります。

もう一つのケースは、相続後に相続人が不動産等の売却をして譲渡所得を得た場合です。この場合には、相続人が譲渡所得税を払わなければなりません。

特例を考えなければ、どちらも同じ程度の相続税を払ったはずです。しかし、後者のケースで、もし、譲渡所得税を払わないとしたら、はじめのケースより、譲渡所得税分だけ得をした事になってしまいます。

不動産売却により譲渡所得が有ったなら、たとえ相続税を払ったばかりであっても、譲渡所得税を払いなさいと言うのが国の見解です。特に、譲渡所得税は高額になる場合が多く、税務署としても無視するわけにはいかないのでしょう。

ここまでは、わかりやすくするためにあえて指摘していませんでしたが、この相続税と譲渡所得税の二重課税の問題は、残っています。話をわかりやすくするために、具体的な例で説明します。

ここに、父と子供一人の家族がいます。父親は、10年以上前に1000万円の土地を購入しました。しかし、その後、父親は他界し、子供が資産を相続しました。裕福な家庭だったので、基礎控除分は、金融資産で使い切り、この土地が相続税の対象になりました。相続税の評価額は、1億1000万円で、相続税の課税対象は1億円となり、これを現金で支払いました。相続が終了して5年が経って金銭的な余裕がなくなってきたので、この不動産を売却しました。売却額は、2億1000万円でした。

土地の購入価格と購入日は、相続でそのまま継承されますので、この時の譲渡所得は、売却額から購入額1000万円を差し引いた2億円となり、これに対して譲渡所得税が課税されます。この場合、相続の時に支払った相続税は、二重課税となります。なぜなら、相続の時に土地の価格は1億1000万円として、相続税を支払っているからです。3年以内の場合は、「相続税の取得費加算の特例」があるために、二重課税は回避できますが、それ以上の期間になれば、二重課税となります。このことは、すでに最高裁判所の決定で確定していますが(「生保年金二重課税判決」(最三小判平成22年7月6日)、国の見解は次のようなものです。

二重課税については、「二重課税に該当するとしても、これを排除又は調整するか否かは、専ら立法政策上の問題であり、仮にその課税が二重課税に該当するものであるとしても、これを排除する租税法上の明文の規定がない限り、そのことをもって直ちに違法(憲法違反)であるということはできない」とする見解がある。つまるところ、二重課税であるからといって、直ちに違法又は違憲であるとする根拠も見当たらず、どのような税体系を仕組み、どのような二重課税を排除するかは租税政策の問題であり、立法府の裁量に委ねられているということであろう(https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/90/03/index.htm)。

 

2. 節税対策!

それでは、この2つの税金に対する節税対策はないのでしょうか。いいえ、それがあるのです。いろいろな特例があるので、それらをうまく使いましょう。そうすることにより、高額の節税が可能になります。ぜひ、戦略を十分に練って合法的な節税を十分におこなってください。ここでは、多くの特例を、わかりやすく解説しました。

 

2-1. 相続税の取得費加算の特例とは?

「相続税の取得費加算の特例」とは、わかりやすく言うと次のようになります。

不動産を一定期間内に売却した時に得られる譲渡所得のための必要経費として、相続税が認められるというものです。譲渡所得税は、譲渡所得から必要経費を差し引いたものにかかりますので、相続税が必要経費として認められるというのはかなり高額の節税になります。この場合、相続税が高ければ高いほど、節税効果は絶大になります。

ただし、一定期間とは相続税の申告期間が終了した後、3年以内となっています。不動産の売却には時間がかかることがありますので、この期間を守ることが大切です。

また、この特例を受けるためには、

1)相続または遺贈により得られた不動産等であること

2)相続の際に、相続税が課税され、納税していること

3)相続税の申告期間が終了した後、3年以内にこの不動産が売却されていること

の各条件がそろっていることが必要です。

ここでは、不動産等の相続は、生前に売却しておくのが有利なのか、不動産等で相続して死後に売却したほうが有利なのかを考えてみましょう。

一般的には、不動産で相続して、死後売却したほうが税金のことを考える上では有利な場合が多いです。もともと、相続税では、不動産見積額は路線価を基準にしていて、大雑把に考えても市場価格の7割程度の評価額となります。この評価額で相続できるため、現金で相続するより有利になります。

また、「小規模住宅等の特例」があり、亡くなった方が住んでいた住宅等を相続した時にはその住宅の評価額を大幅に小さくする(80%〜50%)という規則があります。

さらに、不動産を死後売却した場合には、ここで述べている「相続税の取得費加算の特例」があり、譲渡所得から必要経費として支払った相続税の一部が認められますの譲渡所得税がかなり軽減され、節税になります。

しかし、相続人がたくさんいる場合は意見がまとまりにくく、不動産の売却が遅れ、3年の期限を過ぎてしまったり、相続税がかなりの金額になり現金の都合がつきにくい場合などは、問題を生ずる場合が多いです。

普通、相続税がかかる場合は、不動産は高額で、譲渡所得税も高額になる場合が多いので、手数料を払っても税金のプロである税理士に依頼した方が結果的には節税になる場合が多いようです。

 

2-2. 居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例

居住用不動産すなわちマイホームを売却して売却利益が出た場合、譲渡所得から最高3,000万円まで控除ができるという譲渡税の特例があります。この特例を「居住用不動産を譲渡した場合の3,000万円特別控除」といいます。この特例を適用すれば、譲渡所得が3,000万円までは、税金がかかってきません。この特例は、かなり高額の節税になります。

この特例を受けるためには、自分が住んでいる家屋を売るか、家屋とともにその敷地や借地権を売ることが必要です。なお、前に住んでいた家屋や敷地等の時には、住まなくなった日から3年目を経過する日の年の12月31日までに売ることが必要となります。

実家で同居していた場合には、その同居していた不動産を自分で相続して、自分の名義にすれば、この控除は適用できます。しかし、同居していない場合には、この控除は受けられません。また、この控除を受けるために入居したような場合も適用はされません。故人の配偶者が同居していたような場合には、配偶者が相続してこの特別控除を受けることができますので、まずはこの特別控除を受けることが節税の第一歩となります。

 

2-3. 被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例

平成28年4月1日から、相続した空き家を売却した時にも、一定の条件を満たせば、3,000万円の特別控除が適用されることになりました。この特例を「相続空き家に係る3,000万円特別控除」といいます。

この特例の要件は、次の通りになります。

1)相続開始直前において故人が一人で居住していたもの

2)売却する家屋は、マンション等の区分所有建物ではないこと

3)売却する家屋は、昭和56年5月31日より前に建築されたもの

(実家が昭和56年5月31日より前に建築されたものかどうかは、謄本を確認すれば分かります)

4)相続時から売却時まで、事業、貸付、居住の用に供されていないこと

5)譲渡価額が1億円以下(共有の場合は、合計が1億円以下)であること

6)相続開始の日から3年を経過した年末までに売却すること

7)家屋を取り壊した後で売却すること

8)家屋を取り壊さず売却する場合は、その家屋が新耐震基準に適合すること

この特例を適用した時には、「相続税の取得費加算の特例」は併用して適用は不可です。どちらか有利な方法を選択して、申告をすることになります。

 

3. 相続税と譲渡所得税の二重課税問題のまとめ

相続税とは、亡くなった人から相続人が相続や遺贈などにより受け継いだ財産に対する課税に対して支払うものです。一方、譲渡所得税とは、土地や建物を売ったときに得られる譲渡所得に対する課税です。両者は全く別物であって、二重課税問題は存在しないというのが国の見解です。

不動産売却により譲渡所得が有ったなら、たとえ相続税を払ったばかりであっても譲渡所得税を払いなさいと言っています。しかし、どちらの税金も庶民にとっては高額になる場合が多いので、国も多少の考慮をしたのでしょう、「相続税の取得費加算の特例」があり、譲渡所得税を大幅に節税することができます。

普通、相続税がかかる場合は、不動産は高額で、譲渡所得税も高額になる場合が多いです。手数料を払っても税金のプロである税理士に依頼した方が総合的な立場から見ることができ、結果的には節税になる場合が多いようです。