事例紹介
Category 不動産
2018年10月01日
不動産売買で売却損が生じた場合の所得税について
皆さんは不動産の売買を行った時に損をしたことはありませんか?不動産を売却する場合、買った時と同じ金額で売却出来るケースはほぼないので、多くは売却損が発生することになります。もちろん不動産を売却したことによって所得税も発生するので、その際の計算も必要です。
しかし、ここで分かりにくいのが、売却損が発生した時の所得税の計算方法です。損益通算もしなければならず、様々なケースによっては計算の算出方法が複雑になることも考えられます。はたして、売却損が生じた場合の所得税はどうなるのでしょうか。
そこで、今回は不動産を売却したことによって売却損が生じた場合、所得税はどうなるのかなどをご説明しましょう。
この記事でわかること
1. 不動産売買で売却損が生じた場合に所得税はどうなるか
通常、不動産を売却した際には譲渡所得となり、所得税や住民税が課税されることになります。しかし、上記で説明したように、不動産を売却してもほとんどは購入した時より売値が低くなるので損をすることになります。
この場合は譲渡損失となり、売却損となるのです。売却損となった場合は収益がプラスになっていないので所得税や住民税といった税金が課せられることはありません。また、不動産を売却したその年にその他の所得と相殺して所得税と住民税を減らすこともできます。これを、損益通算と言います。
つまり、譲渡損失が出た時に損益通算を行えば、通常よりも所得税や住民税といった税金を支払う金額が減るということになります。しかし、損益通算を行っても相殺しきれない場合もあるでしょう。このような場合に利用できるのが、繰越控除です。
繰越控除とはその年に所得税や住民税などが相殺しきれなかった場合、次の年以降の所得を繰越て相殺するというものです。これは譲渡損失の繰越控除という特例にあたるものであり、不動産を売却した年と合わせて最大4年の間に利用することができます。詳しくは下記でご説明します。
1-1. 課税譲渡所得金額の計算方法
基本的に不動産を売却した場合は譲渡所得となり、他の所得と分離されて課税される分離課税となります。つまり、譲渡所得をしたら譲渡所得税として税金を納めなければなりません。しかし、この譲渡所得税を納める為には、事前に課税譲渡所得金額を計算する必要性があります。
この課税譲渡所得金額を計算するには、譲渡価格から取得費・譲渡費用・特別控除額を引いた額が課税譲渡所得金額となります。取得費や譲渡費用、特別控除額は経費として引くことができるので、その分を譲渡価格から引くことになります。
なお、それぞれの内訳は、
- 譲渡価格=土地や建物の売却額
- 取得費=資産の購入価格に設備の増加費用や改良費用を加えた額
- 譲渡費用=仲介手数料や測量費、立退料や解体費用など
- 特別控除額=3000万円までの特別控除
以上となっています。取得費を計算する場合、不動産を売却する時は償却費相当額を差し引かなければなりません。償却費相当額とは、建物は年月が経つごとに価値が減少していく為、価値が減少した分だけ建物を購入した金額から差し引いた金額です。
次に譲渡費用ですが、建物の修繕費用や維持管理の際に使用した金額は譲渡費用として認められないので注意しましょう。
もう一つ覚えておきたいのは、譲渡所得税には長期譲渡所得と短期譲渡所得の2種類があることです。長期譲渡所得は不動産の所有期間が売却した1月1日の時点で5年以上の場合に適用されるもので、15%の所得税と5%の住民税がかかります。
短期譲渡所得の場合、不動産の所有期間が売却した1月1日の時点で5年以下の時に適用され、30%の所得税と9%の住民税がかかります。なお、所得税を計算する場合は復興特別所得税として本来の所得税の2.1%が合算されることになります。
つまり、長期譲渡所得の場合だと15.315%、短期譲渡所得の場合だと30.63%が加算されます。これを元に課税される税金を計算してみると、課税譲渡所得金額が3000万円かつ長期譲渡所得だった場合、3000万円×15.315%=459万4500円が所得税となり、そして住民税として3000万×5%=150万、これらを合わせた609万4500円が課税金額として納める必要性があります。
短期譲渡所得だった場合は3000万×30.63%=918万9000円となり、住民税として3000万×9%=270万円、これらを合わせた1188万9000円が課税金額として納める必要性があります。不動産の所有期間が5年を超えているかいないかで納める税金が大きく違う為、支払う税額を抑えたいなら5年以上経ってから売却する必要性があるでしょう。
もしこれらの計算によって譲渡損失となる場合に、損益通算を行う必要性が出てきます。
1-2. 不動産譲渡による所得以外の所得との損益通算はできない
上記で説明したように短気譲渡所得や長期譲渡所得による金額を計算した時に譲渡損失が発生すると損益通算を行う必要性が生まれてきますが、ここで気を付けておきたいのは他の所得で損益通算を行うことができないということです。
譲渡損失が発生した場合に損失分の金額を他の土地や建物の譲渡所得によって発生する金額で控除することはできます。しかし、控除しても相殺しきれなかった分の金額を不動産とは関係がない事業所得や給与所得といった他の所得で控除することはできません。
もしも控除しきれなかった時の為に様々な対策を練る必要性がありますが、例外もあります。それは上記で説明した、譲渡所得の繰越控除です。譲渡所得の繰越控除を利用することにより、通常なら事業所得や給与所得といった関係がない所得との損益通算は行えません。
しかし、譲渡所得の繰越控除であれば一定の条件を満たしている場合にのみ、事業所得や給与所得といった他の所得との損益通算を行うことが可能であり、さらに相殺しきれなかったとしても翌年から3年間の繰越控除が利用できます。
もしも譲渡損失分の金額が相殺しきれなかった場合は、繰越控除の利用を検討する必要性があるでしょう。
2. 不動産の売却損が生じた場合の特例
不動産の売却損が発生した場合、損益通算を行う必要性が出てきますが、これには様々な特例があります。それが、先ほどからご説明に挙がっている譲渡損失の繰越控除というものです
譲渡損失の繰越控除には特定居住用財産を売却した際に発生した時に利用できるタイプと、居住用財産を売却した際に発生した時に利用できるタイプの2種類があることを知っておきましょう。これら2つのタイプは売却した不動産が特定かそうでないかの違いがありますが、厳密には不動産を売却しただけなのか、それとも買い替えるのかで適用される特例が違ってきます。
基本的に不動産の売却によって売却損が発生した際に適用されるもので、他の所得からも差し引けるという共通点があります。では、この2つのタイプについてご説明します。
2-1. 特定居住用財産の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
ここで言われている特定居住用財産というのは、居住用財産の所有期間が5年を超えており、なおかつ住宅ローンが残っていること、そして居住用財産を売却した際に売却損が発生した住宅のことを指します。
では、特例の内容を詳しくご説明しましょう。
2-1-1. 特例の内容
この特例は、様々な条件を満たしている場合にのみ、不動産を売却したその年の所得から損益通算を行っても相殺しきれなかった場合に、本来適用されないはずのその他の所得から差し引くことができるという特例です。
もしその年の所得でどうしても相殺しきれなかった場合は、不動産を売却した翌年から3年間にわたって所得を繰り越して控除することができます。控除される金額には限度額が設定されており、不動産を売却した前日の住宅ローンの残高から不動産の売却価格を差し引いた金額が限度額となっています。
限度額を超えた分は特例の対象外となるので注意しましょう。
2-1-2. 適用要件
特定居住用財産の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例を適用する為には、様々な要件を満たしていなければなりません。その要件は、以下の通りです。
- 不動産を売却した1月1日の時点で住宅の所有期間が5年を超えていること
- 不動産を売却する前日の時点で、返済期間が10年以上の住宅ローンの残高があること
- 返済期間が10年以上の住宅ローンの残高を自宅の売却価格が下回っていること
以上の3に加え、譲渡するその年の1月1日の時点で所有期間が5年を超えていること、もしくは所有期間が5年の住宅に個人で住まなくなってから3年後の12月31日までに譲渡されるものであること、もしくは家屋や家屋が建つ土地を所有しているか、もしくは譲渡するその年に火事などの災害によって被害を受けてもなお所有し続けていた場合は、譲渡した年の1月1日の時点で所有期間が5年を超えているものとし、災害があった日から3年の間に譲渡されること。
以上のいずれかの条件を満たしている必要性があります。これら全ての要件を満たしていれば、特例が適用されて繰越控除が利用できるようになります。しかし、場合によってはこの特例が適用されないケースがあります。それは以下の通りです。
- 損益通算をする3年前までの間に他の特定居住用財産の譲渡損失における特例が適用されていた場合
- 居住用財産の場合の譲渡損失の繰越控除の特例が譲渡した年より前年、または前々年に適用されていた場合
- 3000万円の特別控除
- 特定居住用財産の買い替え及び交換した時に長期譲渡所得の特例が譲渡した年より前年、または前々年に適用されていた場合
- 居住用財産の譲渡の際に長期譲渡所得の特例が譲渡した年より前年、または前々年に適用されていた場合
以上に当てはまっている場合は、特定居住用財産の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例が適用されなくなるので注意しましょう。
2-1-3. 特例申請のために必要な書類
特例の申請を行う為に必要な書類は、
- 特定居住用財産の譲渡損失の金額の明細書
- 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算と繰越控除の対象となる金額の計算書
- 譲渡契約締結日の前日に用意した住宅借入金などの残高証明書
- 住宅の所有期間が5年以上ということを証明できるもの
- 居住の為に住宅を所有していたことを証明できるもの
確定申告に加えて以上の書類が必要です。
2-2. 居住用財産の場合の譲渡損失の繰越控除の特例
もう一つのタイプである居住用財産の場合の譲渡損失の繰越控除の特例というのは、多くが特定居住用財産の場合の譲渡損失の繰越控除の特例と同じ部分があるので、覚えるのはそう難しいことではありません。ですが、些細な違いがあるのでしっかりとチェックする必要性があるでしょう。
2-2-1. 特例の内容
居住用財産の場合の譲渡損失の繰越控除の特例は特定居住用財産の場合の譲渡損失の繰越控除の特例とは違い、所有期間が5年を超えている居住用財産を売却して所定の住居に買い替える場合に売却損が出た時に適用されるものです。
買い替えによって売却損が発生した場合、その年の他の所得との損益通算を行うことが可能になり、相殺しきれなかった分は売却した翌年から3年間まで所得を繰り越すことができるようになります。ただし、必要な要件を全て満たしていなければ適用されないので注意しましょう。
2-2-2. 適用要件
譲渡資産に関わる要件は特定居住用財産の場合の譲渡損失の繰越控除の特例と同じですが、その他の要件は大きく違うのでチェックしましょう。以下が求められる要件です。
- 売却する年の1月1日の時点で土地と建物の所有期間が5年を超えていること
- 自宅を売却した翌年の1月1日から同年の12月31日までに住居を買い替えること
- 自宅を買い替えた翌年の12月31日までに入居するか、入居する見込みがあること
- 資産の譲渡に関わる損失が出ていること
- 敷地面積が500平方メートルを超えていないこと
- 所得金額の合計が3000万円を超えていないこと
以上が自宅を売却した際に関わる要件です。特に自宅の敷地面積が500平方メートルを超えていると、超えた分だけ繰越控除が受けられなくなりますし、所得金額の合計が3000万円を超えていると、その年に繰越控除を受けることができなくなります。
また、買い替える自宅にも適用要件があります。
- 床面積が50平方メートル以上であること
- 返済期間が10年以上の住宅ローンを借りること
以上の要件を満たす必要性があります。さらに特定居住用財産の場合の譲渡損失の繰越控除の特例と同じように、要件によっては適用が認められないこともあります。それは、以下の通りです。
- 損益通算をする3年前までの間に他の特定居住用財産の譲渡損失における特例が適用されていた場合
- 居住用財産の場合の譲渡損失の繰越控除の特例が譲渡した年より前年、または前々年に適用されていた場合
- 3000万円の特別控除
- 特定居住用財産の買い替え及び交換した時に長期譲渡所得の特例が譲渡した年より前年、または前々年に適用されていた場合
- 居住用財産の譲渡の際に長期譲渡所得の特例が譲渡した年より前年、または前々年に適用されていた場合
- 譲渡した年や、その年から3年の間に特定居住用財産の場合の譲渡損失の繰越控除の特例が適用されていた場合
以上が適用されない条件となります。
2-2-3. 特例申請のために必要な書類
特例を申請する為には確定申告が必要になりますが、様々な書類を添付する必要性があります。それは、以下の通りです。
- 居住用財産の譲渡損失の金額の明細書
- 居住用財産の譲渡損失の損益通算と繰越控除の対象となる金額の計算書
- 譲渡契約締結日の前日に用意した住宅借入金などの残高証明書
- 住宅の所有期間が5年以上ということと面積を証明できるもの
- 売却した居住用財産が国内にあることを証明できるもの
- 買い替えた住宅を購入した年月日と床面積を証明できるもの
- 12月31日の時点での住宅借入金などの残高証明書
- 確定申告を提出するまでに買い替えた自宅に住んでいなかった場合、住んでいないことといつまでに住まいとして使用するのか予定日を記載したもの
以上の書類が必要です。
3. まとめ
住宅において、ほとんどの場合に売却損が発生するのは仕方がないことかもしれません。しかし、売却損が発生した場合の措置もきちんとあるので、できる限り損をしない為にもしっかりと特例の内容を確認して申請するのが得策だと言えるでしょう。