事例紹介
不動産を譲渡するとき、なるべく高く譲渡したいと思いますよね?
しかし不動産の譲渡によって売却益がでた場合は所得税がかかります。
ではその所得税はどのくらいかかるのでしょうか?
今回は、不動産の譲渡にかかる所得税とその計算方法等について解説していきます。
是非最後までお読みください。
この記事でわかること
1. 不動産の譲渡所得における所得税の計算方法
不動産の譲渡所得において課税される所得税を譲渡所得税といいます。
譲渡所得税は不動産の売却によって得た利益(所得)に対して課税されます。
次の項目から詳しく解説していきます。
1-1. 譲渡所得の計算式
課税譲渡所得は、不動産の売却価格-(不動産の購入価格+購入時にかかった取得費等+売却時にかかった諸費用等)で計算されます。
まず購入時にかかった取得費等は、例をあげると仲介手数料や、登録免許税、不動産取得税など
があります。
また取得のためにかかった取得費等が領収書の紛失等でわからない場合は概算取得費で計算することも認められています。
概算取得費は不動産の売却価格×5%で計算した金額を使うことができます。
概算取得費で計算した方が節税になる場合もありますのでよくご検討ください。
一方売却時にかかった諸費用等は仲介手数料や売却時にかかった広告費などです。
これらの金額を差し引きして譲渡所得の金額を計算します。
1-2. 譲渡所得の課税金額の計算式
課税譲渡所得に譲渡所得税の税率をかけることによって譲渡所得税を計算することができます。
計算式は次のとおりです。
課税譲渡所得×譲渡所得税の税率=譲渡所得税
1-3. 所有期間によって異なる課税方法
譲渡所得税の税率は、短期譲渡所得か長期譲渡所得によって違いがあります。
どちらになるかは不動産の所有期間によって判断します。
不動産の所有期間が売却した年の1月1日時点で、5年を超えていない場合は、短期譲渡所得になり5年を超えている場合は長期譲渡所得になる形です。
また譲渡所得税の税率については次のとおりです。
- 短期譲渡所得 所得税30% 住民税9%
- 長期譲渡所得 所得税15% 住民税5%
上記のように短期になるか長期になるかでおよそ2倍の違いがあります。
また売却した年の1月1日時点という判定を売却日などと誤解するケースが多いためご注意ください。
1-4. 計算における注意点
注意点として、先述したとおり短期譲渡所得と長期譲渡所得のどちらになるか判断する所有期間は売却する年の1月1日時点で判定するので間違えてしまうと実は短期譲渡所得に該当するものだったというケースもあります。
繰り返しになってしまいますが、短期譲渡所得の税率は長期譲渡所得の税率のおよそ2倍となっているため計算すると思わぬ税金になってしまうことがありますのでご注意ください。
2. 不動産の譲渡所得には3つの特例がある
不動産の譲渡所得には譲渡所得税を節税できる3つの特例があります。
以下では3つの特例について解説します。
なおいずれの特例も使って税額が0になる場合があるかと思いますが、特例を使って税額が0でも申告はおこなうようにご注意ください。
<h3>2-1. マイホームを売却したときの特別控除の特例
マイホームを売却したときに、一定の要件を満たすと使える特例があります。
この特例は3,000万円特別控除といい、物件の所有期間にかかわらず譲渡所得の計算から最高3,000万円を控除することができます。
なお要件として、3,000万円特別控除の特例を受けるためには、次の要件を満たす必要があります。
- 実際に自分が居住していた不動産であること
- 買い主と売り主の関係は、親子や夫婦など特別な血縁関係ではないこと
- 売却した年から遡って 2 年間にこの特例、もしくは譲渡損失などの他の特例を受けていないこと
計算方法は下記のようになります。
(課税譲渡所得(長期/短期)-3,000万円)×譲渡所得税の税率=譲渡所得税
例
売却した不動産の課税長期譲渡所得が4,000万円の場合、3,000万円の特別控除の特例を使うと譲渡所得税はいくらでしょうか?
(4,000万円ー3,000万円)×20%(長期譲渡所得税率)=200万円
2-2. 所有期間が10年超の場合の軽減税率の特例
不動産の所有期間が10年超である場合、3,000万円の特別控除の特例と併用して軽減税率の特例を使うことができます。
特例を受けるための要件として、売却した居住用不動産の所有期間が10 年超である必要がります。
なお税率は譲渡所得金額が6,000万円以下の場合は10%で、6,000万円超の場合は15%の税率で計算することができます。
例
所有期間が11年の居住用不動産を売却して3,000万円特別控除を使用した後、課税長期譲渡所得金額が2,000万円だった場合、譲渡所得税はいくらでしょうか?
なお復興特別所得税については今回考慮しないこととします。
計算方法
2,000万円×10%=200万円
2-3. 買換えの特例
不動産を売却し、代わりとなる居住用不動産を購入した場合で売却価格より買換えの購入価格のほうが大きければ買換えの特例を使うことができます
。
買換えの特例を使うと本来譲渡所得として計算される金額がなしという形にできるメリットがあります。
なお特例を受けるための要件として、売却した不動産と買換えた不動産がそれぞれ下記の条件を満たす必要があります。
売却した不動産
- 売却した年の1月1日時点で、所有期間が10年超の不動産であること(平成15年12月31日以前に取得した不動産であること)
- 居住期間が10年以上であること
- 譲渡価格が1億円以下であること
買換えした不動産
- 床面積が50㎡以上あること
- 築年数25年以内または耐震住宅であること
- 土地面積が500㎡以下あること
- 不動産を売却した年の前年から翌年までの3年の間に取得した不動産であること
- 一定の期間内に居住用すること
上記の要件を満たした場合、買換え特例を使うと譲渡所得税は、買換え資産の取得価格が譲渡資産の譲渡価格より高ければ譲渡所得税はかかりません。
一方買換え資産の取得価格より譲渡資産の譲渡価格が高い場合の計算は次のようになります。
譲渡資産の売却価格ー買換え資産価格=譲渡による収入
(譲渡資産の購入価格+譲渡資産売却時の諸経費)×(譲渡による収入/譲渡資産の売却価格)=諸費用等
譲渡による収入ー諸費用等=課税長期譲渡所得
課税長期譲渡所得×15%(税率)=譲渡所得税
続いて、買換えの特例を使用した場合の譲渡所得税の計算について解説します。
なおここでは売却した不動産は旧不動産、買換えした不動産は新不動産として計算していきます。
新不動産の購入価格が旧不動産の売却価格より高い場合
この場合は、譲渡がなかったものとされ、譲渡所得税はかからない形となります。
新不動産の購入価格が旧不動産の売却価格より低い場合
この場合は次のとおりとなります。
旧不動産の売却価格ー新不動産の購入価格=譲渡による収入
(旧不動産の購入価格+旧不動産売却時の諸費用等)×(譲渡による収入/旧不動産の売却価格)=必要経費
譲渡による収入ー必要経費=課税長期譲渡所得
課税長期譲渡所得×15%(税率)=譲渡所得税
上記に例として次の条件をあてはめたとき譲渡所得税はいくらでしょうか?
例
旧不動産の売却価格が5,000万円、旧不動産の購入価格が4,000万円、旧不動産の売却時の諸費用等が100万円で、新不動産の購入価格が4,200万円として買換え特例を使用した場合
計算方法
5,000万円ー4,200万円=800万円(譲渡による収入)
(4,000万円+100万円)×(800万円/5,000万円)=656万円(必要経費)
800万円ー656万円=144万円(課税長期譲渡所得)
144万円×15%=21万6000円
なお買換え特例については、マイホームを売却したときの特例、軽減税率の特例とは併用できないのでご注意ください。
3. 譲渡所得の対象になる資産・ならない資産
譲渡所得の対象になる資産の範囲は広い範囲となります。
下記に対象となる資産、ならない資産をあげていきます。
3-1. 譲渡所得の対象になる資産
譲渡所得の対象となる資産は次のとおりとなります。
- 土地
- 借地権
- 建物
- 株式等
- 特定の公社債
- 金地金
- 宝石
- 書画
- 骨とう
- 船舶
- 機械器具
- 漁業権
- 取引慣行のある借家権
- ゴルフ会員権
- 特許権
- 著作権
- 鉱業権
- 土石等
3-2. 譲渡所得の対象にならない資産
一方、譲渡所得の対象とならない資産は貸付金や売掛金などの金銭債権の譲渡です。
4. 不動産の売却で損失が出た場合は?
不動産を売却して、損失が出てしまうこともあります。
そのような場合、一定の要件を満たすことによって使うことができる2つの特例があります。
特例を使うことによって、不動産を売却した年度に給与などの他の所得から譲渡損失分を差し引くことができます。
これを損益通算といいますが、譲渡損失分を差し引けるため、その分税金が節税できます。
またこの年度で損失の控除がしきれなくても、譲渡した年の翌年以降最大3年間損失を繰り越すことができる場合もあるので節税効果がとても大きいです。
それでは以下で2つの特例について解説します。
- 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
特例を受けるための要件として所有期間5年超の不動産を売却し、また買換える不動産については床面積50㎡以上、前の不動産を売却した年の前年から翌年まで3年の間に取得、取得した年の12月31日時点において、住宅ローンが残り10年以上、取得した年の翌年12月31日までに居住する見込みがあることなどがあげられます。
繰越控除の特例については合計所得が3,000万円以下の年度である場合に限られますのでご注意ください。
計算方法として、譲渡損失の金額は以下のように計算されます。
売却した不動産の購入価格ー(売却した不動産の購入時の諸費用+売却した不動産の売却価格)=譲渡損失の金額
例
6年前に4,000万円(諸費用150万円)で購入したマンションを、3,000万円で売却した場合の譲渡損失はいくらでしょうか?
4,000万円ー(150万円+3,000万円)=850万円
- 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
特例を受けるための要件として、所有期間5年超、売却の契約締結前日までの住宅ローンの期間の残りが10年以上であることがあげられます。
計算方法として、こちらの特例についても譲渡損失の金額は以下のように計算されます。
売却した不動産の購入価格ー(売却した不動産の購入時の諸費用+売却した不動産の売却価格)=譲渡損失の金額
一点、注意点として不動産の売却価格が、不動産売却の前日までの住宅ローンの残高よりも低い場合は損益通算及び繰越控除できる譲渡損失の金額に限度額が設けられてしまうことになります。
この場合は下記の計算式のようになります。
住宅ローン残高ー売却価格=譲渡損失限度額の金額
例
7年前に諸費用を含め、合計5,000万円で取得した不動産を2,500万円で売却し、売却の前日までの住宅ローンの残高は不動産の売却価格より高い3,500万円だった場合、損益通算及び繰越控除で受けられる譲渡損失の限度額はいくらでしょうか?
計算方法
3,500万円ー2,500万円=1,000万円(譲渡損失の限度額)
5. まとめ
以上ここまで不動産の譲渡所得について解説してきましたがいかがでしょうか?
上記から次のようなことがわかりました。
不動産の譲渡所得における所得税の計算方法について
不動産の譲渡所得にはマイホームを売却したときの特別控除、所有期間が10年超の場合の軽減特例、買換えの特例の3つの特例がある
譲渡所得の対象となる資産、ならない資産があるが対象となる資産の範囲は広い
不動産の売却で損失が出た場合、使える特例や繰越控除などがある
以上のことがわかりました。
不動産取引は高額になりがちですが、知っていると知らないのとでは税額に大きく違いがでる特例が多くあります。
今回の記事を参考に、もっと詳しく知りたいという方は国税庁のHPをご確認ください。