事例紹介

Category  不動産相続税税金対策

2018年09月26日 更新

共有名義の不動産を相続したらどうなるの?

共有名義の不動産を相続したけれども相続税はどうしていいかわからない、という方も多いかと思います。今回は相続税全体の計算方法から、共有不動産の相続税の計算方法、その際に注意するべきことなどを説明したいと思います。

1.不動産の相続について

まず、不動産の相続について説明します。不動産の相続は、法定相続の場合、その法定相続分に応じて不動産の持分が決まります。例えば夫・妻・子供2人の家族の夫が亡くなり、法定相続となった場合、妻は全体の2分の1、子供はそれぞれ4分の1ずつが取り分となります。不動産の相続はこの取り分に応じて持分が決定されます。そのため妻が2分の1、子供2人が4分の1ずつ、計3名の共有名義の不動産になります。

これが遺産分割協議等により、法定相続と異なる取り分が決まった場合、その取り分に応じて不動産の持分も決定されます。つまり、不動産は相続が発生すると、相続人が複数いる場合、共有名義となるケースが多いということです。

 

1-1.共有名義の不動産の相続登記について

不動産の相続が発生したら、相続登記を行いましょう。この相続登記は、実は必ずしなければいけないものではありません。相続を受けたらいつまでに相続登記をしなさい、という決まりはないのです。名義人が亡くなって10年以上たっている…というような不動産も少なくはありません。ですが相続登記をしないと今後いろいろなトラブルが起こり得ます。どのようなリスクがあるのか次項で説明したいと思います。

 

1-2.相続登記未了のリスク

相続登記未了の場合、どのような問題が起こるのでしょうか。

・相続人が登記前に死亡

相続した共有不動産の登記を行わずに放置した場合、相続人の誰かが亡くなってしまうリスクがあります。死亡した相続人に多数の相続人がいたとすると、問題が複雑化してしまいます。例えば、母親の自宅を兄弟3人で相続し、そのまま放置していた。5年後長男が亡くなりました。長男には妻と子供が3人の計4名の相続人がいました。こうなってしまうと不動産は6名の共有名義となります。この状態で処分を行おうにはまず相続登記を行わなければなりませんが、6名の足並みをそろえなければなりません。

 

・他の相続人が勝手に登記

不動産の相続が発生した場合、遺産分割協議が終わるまでは相続人全員の共有財産となります。相続登記自体は遺産分割協議前でも法定相続分であれば登記ができてしまいます。ご自身の権利を守るためにも、相続登記はすみやかに行うべきです。

 

2.相続登記の手続きについて

では、相続登記はどのようにおこなえばよいのでしょうか?ケースごとに説明していきたいと思います。

 

2-1. 法定相続による相続登記

法定相続による相続登記は最も手続きが簡単です。被相続人の戸籍謄本と除票、相続人税院の戸籍謄本と住民票、不動産の権利証と評価証明書がそろえば手続きを行うことができます。

 

2-2. 遺産分割協議による相続登記の場合

遺産分割協議による相続登記の場合、上記に加えて遺産分割協議書と各々の印鑑証明が必要となります。つまり、遺産分割協議による相続登記は協議が終わらないとできない、ということです。

 

2-3. 遺言相続による相続登記の場合

遺言相続による相続登記の場合は遺言書が必要となります。公正証書遺言であれば、相続発生後すぐに相続登記の手続きを進めることができますが、自筆証書遺言の場合、家庭裁判所で兼任を受けなければなりません。

 

3.共有名義の不動産の相続税トラブルを避けるための方法

3-1. 共有名義の不動産を相続した場合の相続税はいくら?

共有名義の不動産を相続した場合、一体どれくらいの相続税がかかるのでしょうか。まずは計算方法から説明していきます。

共有名義の不動産の相続税は、その共有持ち分に応じて相続税がかかります。例えば持分が2分の1だった場合は、半分が相続税、ということになります。

例)Aさんの母親は自宅(評価額は1億円)を残して亡くなった。Aさんには弟が1人いて、相続人はAさんとその弟、計2名。法定相続を行うことになりました。この場合のAさんの相続税はいくらになるでしょう。

この場合、Aさんの持分は2分の1ですので、1億円×1/2=5,000万円が相続税の対象となります。

 

3-2. 相続税の計算の仕方

では、上記のAさんの相続税は一体いくらになるでしょうか。それは相続を受けた財産の合計によって変わってきます。不動産の相続税は分離課税ではないため、他の財産と合計して課税がされます。まずは相続税の計算の仕方からみていきましょう。

 

  • 相続税の計算方法~遺産総額について~

まずは相続税の一番の基礎である、相続税の計算方法から見ていきます。相続税の計算は、大きく3段階に分けて考えることができます。1つ目は遺産総額を求めることです。遺産総額は預金や証券、不動産等すべての財産を合計し、そこから借金等のマイナス資産を差し引いた金額となります。

遺産総額=(プラス資産)-(マイナス資産)

 

  • 相続税の計算方法~基礎控除について~

2つ目の計算は基礎控除です。この遺産総額がまるまる課税対象額となるわけではなく、ここから3,000万円と相続人の数×600万円を差し引いた額が課税対象額となります。これを課税遺産総額といいます。

課税遺産総額=遺産総額-(3,000万円+600万円×相続人)

 

  • 相続税の計算方法~課税額について~

3つ目の計算が課税額の計算です。課税遺産総額が0円以下の場合は、非課税となります。それ以外の場合は、法定相続のあん分を計算し、各々の取得金額を求めます。取得金額ごとに税率が異なってきます。その一覧です。

法定相続分に応ずる取得金額  税率    控除額

1,000万円以下        10%     -
~3,000万円以下       15%    50万円

~5,000万円以下       20%    200万円

~1億円以下         30%    700万円

~2億円以下         40%     1,700万円

~3億円以下         45%     2,700万円

~6億円以下         50%     4,200万円

6億円超           55%     7,200万円

出典:https://tochikatsu.site/sozokuzei-hudosan-kantei/

 

  • 実際に計算してみましょう

さて、ここまで相続税全体の計算方法をみてきました。ここからは、実際に共有名義の不動産を相続した場合の税金を、具体例を出しておさらいしていきたいと思います。例)Aさんは母親を亡くした。母親は1億円の自宅、5,000万円のアパート、1億円の貯金を残していた。相続人はAさんの他に弟が2名の合計3名です。法定相続を行い、自宅とアパートは3名の共有となりました。このときのAさんの相続税はいくらになるでしょうか。

まず、遺産総額は2億5,000万円です。相続人が3名ですので基礎控除は4,800万円です。2億5,000万円-4,800万円=2億200万円が課税総額です。2億200万円×1/3≒6,733万円が所得金額とみなされます。1億円以下の税率は30%、控除額は700万円です。

6,733万円×30%-700万円=1,319万円がAさんの相続税です。

ここまでは、単独所有の不動産を共有で相続した場合について説明しました。今度は反対に、共有名義の持分の一部だけに相続が発生した場合についてみていきましょう。

例)今度はAさんが亡くなりました。Aさんは母親自宅(1億円)とアパート(5,000万円)、それから現預金3,000万円を残して亡くなりました。Aさんには妻と息子が2人、計3名の相続人がいました。法定相続を行った場合、相続人3名のそれぞれの相続税はいくらになるでしょうか。

まず、不動産は2つともAさんは3分の1だけ持っているので、5,000万円の不動産評価額となります。それに現金が3,000万円ですので遺産総額は8,000万円となります。基礎控除は4,800万円、Aさんの妻は法定相続ですので配偶者控除を申請すれば相続税は0円になります。子供2人は法定相続の場合それぞれ4分の1ずつということになります。3,200×1/4=800万円が子供2人のそれぞれの取得金額になります。税率は10%、控除はありません。

800万円×10%=80万円が子供のそれぞれの相続税です。

 

4. 共有名義の不動産の相続トラブルとは?

共有不動産の相続にはトラブルが多いといわれています。なぜなら、共有不動産は利用に制限があり、自由に使うことができないからです。トラブルを避けるためにはその制限の内容を理解することが重要といえます。では、どのような制限があるのでしょうか。

 

4-1. 単独でできること~保存行為~

共有名義の不動産で単独でできることは「保存行為」と呼ばれることです。これは、その不動産を維持するために必要な最低限の行為をいいます。例えば、水道管のトラブルがあって、直ちに修理しなければならない、というような共有物の修繕、腐敗しやすいものの売却、不法占拠者の立ち退きなどがあります。また、法定相続登記もこの保存行為の中に含まれています。つまり、法定相続分の持分であれば、他の相続人の許可なく相続登記ができるということです。

 

4-2. 共有者の過半数の同意でできること~管理行為~

共有者の過半数の同意があると、共有物の管理行為を行うことができます。これは、共有物の利用並びに改良を指します。まず、利用というのは、共有財産の性質を変更せずに収益を上げる行為です。共有不動産を賃貸に出す等の行為がこれに当たります。改良とは共有財産の交換価値を増加させる行為を指します。例えば、共有名義の建物のトイレを和式から様式に変更するなどがこれに当たります。

 

4-3. 共有者全員の同意でできること~変更行為~

法律的・物理的に変更を伴う行為は、共有者全員の合意が必要です。法律的な変更行為とは、所有権を失う契約の締結(売買契約や贈与契約)、売買契約の解除、用益物権の設定(地上権設定等)、借地借家法の適法がある賃貸借契約および長期間の賃貸借契約の締結、担保権の設定、サブリース契約の賃料変更などがこれに当たります。共有不動産を売ったり、借地として貸したり、担保に出したりするときには、全員から同意を得なければなりません。一方、物理的な変更とは、土地の造成(農地転用・土盛り工事等)、土地上に建物建築、建て替え、山林の樹木伐採等が該当します。

 

4-4. 現金化したくても売れない

共有不動産は単独での売却ができません。共有名義の不動産を相続した場合に起こりうるトラブルとして最初に考えられるのが、相続を受けた不動産を処分できない、というケースです。例えば、3名の兄弟がいたとします。長男と両親が実家に住んでいたがまず父が亡くなり、母が遺産をすべて相続しました。この時は何のトラブルもなく、相続手続きは進みました。しかし、母が亡くなり、残っていた遺産は現金500万円と実家のみ。現金は3人で分けることができますが、不動産は分割することはできません。結局実家は兄弟3人で相続することにしました。長男は妻と子供と実家に住み続け、父と母の老後の面倒も見ていました。残りの2人の兄弟は住んでおらず、戻ることもありませんから売って現金化したいと思っていても、兄は出ていく気がない。このようなケースは非常に多いです。不動産は単独で相続した場合は売る・貸す・建て替える、何をしても自由ですが、共有名義の不動産は自分一人の意志でできることが限られています。

 

4-5. 権利関係の複雑化

また、ここからさらに長男が亡くなり、長男の妻と子供も実家の共有者になってしまえば、さらに足並みはそろわないでしょう。共有名義の不動産は時間が経過するほど権利関係が複雑になり、処分へのハードルが上がっていきます。

 

4-6. 勝手に相続登記

相続した不動産は、法定相続分であれば単独で相続登記を行うことができます。どの財産をだれが相続するのか、決まらない間に相続人の一人が勝手に相続登記をしてしまう、ということも起こり得ます。

 

5. 相続後の相続税対策

さて、ここまで共有不動産の相続についてみてきました。できれば相続が発生したら、税金は安く抑えたいですよね。ここでは相続後にできる相続税対策について説明したいと思います。

・配偶者控除

配偶者が相続を受けたとき、遺産全体のうち配偶者が相続する割合が法定相続分以内、または相続する財産の額が1億6,000万円以内の場合は無税となります。この制度は相続税の申告期限(相続人が亡くなった翌日から10か月以内)までに申告書を提出しなくてはいけません。

・相次相続税控除

相次相続控除とは、過去10年以内に被相続人が相続税を支払っていた場合、被相続人が支払っていた相続税のうち一定額を控除するというものです。

・小規模住宅地等の特例

自宅の土地や、事業で使っていた土地は、配偶者もしくは同居している相続人、借家に3年以上住んでいる相続人が相続した場合、その土地の相続税評価額が最大で80%減額されます。

 

6. 相続前からできる相続税対策

まだ相続まで時間があるな、という方のために、いくつか相続前からできる対策をご紹介します。

・住宅取得等資金贈与の非課税特例

両親等、直系尊属から住宅取得のための資金援助を受けた場合、一定の条件を満たせば最大で3,000万円まで贈与税が非課税となります。この特例を使えば現金を不動産に変え、子供に資産を残すことができます。

・アパート経営

一等収益物件を相続した場合、土地の評価額は通常から(1-借地権割合×借家割合)を乗じた額に圧縮することができ、建物の評価額は一律30%減額することができます。

 

7. まとめ

以上、共有名義の不動産の相続についてみてきました。不動産として相続を受けると、現金よりも評価が低くなるため、相続税対策として有効ですが、相続で共有名義となると、不動産は処分がしにくくなるため注意が必要です。