事例紹介
不動産が絡んだ相続税の節税対策は、とても複雑です。ここでは、基本的なことだけをまとめてあります。専門家に依頼するにしても、基本的なことは知っておかなければなりません。ここでは、基礎知識を習得していきましょう。
この記事でわかること
1. 不動産の相続税を節税するための基礎知識
相続税は、相続した全ての人にかかるわけではありません。相続財産の合計金額が相続税の基礎控除の額を超える場合にだけかかります。
相続税の基礎控除の額は、3000万円+(法定相続人×600万円)です。この基礎控除額を超える相続があるのは、全相続件数の1割以下ですから、普通は相続税を払わなくて良い場合がほとんどです。
基礎控除額だけでは足りない相続税の対策には、いろいろあります。注意が必要なのは、相続額の大きさによって、最適な相続税対策は大きく変わってきます。
1-1. 相続税の節税とは
主な相続税対策は、基本的には次の3種類に分類できます。
1)相続財産そのものを減らす
相続財産の中で大きな比率を占めるのは、預貯金や現金と不動産です。これを相続人達に生前に贈与することで、相続財産を減らせます。
2)財産の評価額を下げる
預貯金や現金は財産の評価額を下げることはできません。しかし、不動産は時価よりもかなり低く評価されます。そこでこれから述べるような方法で評価額を下げます。
3)特例などさまざまな制度を利用する
相続に関してはいろいろな特例や優遇制度などがあります。これらをうまく利用して相続税の節税をしましょう。
1-2. 相続税の節税対策ができる人
相続税が発生する場合は、節税対策が必要ですが、遺産総額によって対応はかわります。
1)財産総額が7000万円以下の場合の節税対策
(1)毎年、110万円贈与し、10年で約200万円の節税を生む生前贈与
(2)生命保険に加入し、「500万円×法定相続人の人数」の非課税枠を利用
(3)小規模宅地等の特例を活用
2)財産総額が7000万円以上で2億円以下の場合の節税対策
(1)ワンルームマンションを購入し、相続税を約300万円節税
(2)孫への教育資金の贈与の特例で1500万円を無税で贈与
(3)20年以上連れ添った配偶者への贈与で、自宅を2000万円まで無税で贈与
3)財産総額が2億円以上の場合の節税対策
(1)1年で500万円から1000万円の生前贈与を行い、10年間で約2000万円を節税
(2)賃貸マンションの建築や購入で相続税が3000万円も節税
(3)養子縁組をして相続人を1人増やすと相続税が2000万円以上も節税
(4)自宅を引っ越して小規模宅地等の特例の恩恵を受け相続税を3000万円以上節税
(5)海外移住で相続税をゼロにする節税対策
1-3. 相続税の節税対策を始める時期
相続税の節税対策を始める時期については、「生前にできること」と「実際に相続が生じた後にすること」に分けることができます。
1)生前にできること
(1)生前贈与
贈与税は、年間一人当たり110万円までは非課税になっています。子どもや孫など、毎年何人かに分けて何度も贈与することで、財産を減らすことができます。
また、一般的には、贈与税は相続税より高いと思われがちですが、贈与額が500万円であれば贈与税は、10%弱となります。財産額が2億円以上あるような相続の場合には、相続税率よりも贈与税が低くなる場合が多く、その分が節税となります。
(2)相続時精算課税を考えた生前贈与
「相続時精算課税」を利用すれば、同じ生前贈与でも2500万円までは特別控除となり非課税になります。ただし、この方法には条件がありますので、注意が必要です。また、この方法は、通常の生前贈与のように相続財産が減るわけではありません。単に、相続財産の前渡しということになります。それでも贈与した土地や株が値上がりした場合や不動産を貸すことにより得た収入に対しては、相続税はかかりませんので有効な方法です。
(3)住宅資金を子どもや孫に援助
一定の条件を満たせば、最高500万円、省エネ住宅の時は最高1000万円までが、非課税となります。
(4)教育資金を子どもや孫に援助
教育資金の一括贈与については1500万円までが非課税となります。ただし、税制の改正により特例や非課税枠が変化する可能性はあります。
(5)不動産の賃貸経営
建物や土地を貸すということは、被相続人以外の誰かが利益を得ているので、相続税は減額されます。これを、借地権割合および借家権割合による減額と言います。
借地権割合については、土地に対応して30~90%までで決定しています。具体的には路線価図に書いてあるアルファベットが借地権割合を示します。
アパートやマンションの建つ土地を貸家建付地と言います。貸家建付地は貸家建付地の減額の評価額に借地権割合を乗じて、さらに借家権割合を乗じます。借家権割合は、一律30%で計算されますので、借家権が利用されている割合として、貸している貸家の部屋の床面積の割合である賃貸割合を乗じます。
貸家建付地の評価額=本来の評価額×(1-借地権割合×借家権割合(30%)×賃貸割合)
貸家の評価額=固定資産税評価額-固定資産税評価額×30%×賃貸割合
となります。
(6)土地の分割相続
土地を二つに分割すると、土地の評価を下げられる場合があります。土地の評価が下がると相続税の課税対象財産が少なくなるので、節税対策になります。相続税は,相続財産や遺贈財産が大きいほど税負担が大きくなります。
たとえば、二面道路の土地には、路線価が二つあります。二面道路の土地の場合,値段の高い方の路線価を正面路線価と言い、高い方の路線価の影響力が強い計算方式をもとに土地の評価をします。路線価が高くなるのは、二面道路は一般的に便利だという考え方から生じています。一方だけが路線に接する宅地に比較して高く評価されてしまうのです。このような土地を分割して、一方だけが路線に接する土地にすれば、土地の評価は、大きく下がります。
(7)生命保険の利用
遺族が受け取る生命保険では、「500万円×法定相続人の数」が非課税です。
生命保険というと、加入できる年齢ではないとあきらめる方も多いですが、実際には相続税の対策用として、90歳まで健康診断がいらずに加入できる生命保険があります。
一般的には「一時払い終身保険」という保険商品がこれにあたります。保険料を支払った時点で、終身において保険金額が保証されますので、元本割れ等のリスクもなく、安心して相続を行うことが可能です。
(8)非課税財産の購入
墓地や仏壇等の祭祀財産は、相続税法上においては非課税扱いです。生前に仏壇や墓地を購入すれば、節税対策になります。
2)実際に相続が生じた後にすること
(1)小規模宅地等の特例
亡くなった方が住んでいた住宅等を相続した時には、その住宅の評価額が大幅に小さくなる(80%〜50%)という規則があります。この特例に当てはまる人は少なく、主として同居親族か配偶者が相続すれば適用されます。住居なら80%が控除されますので、高額になります。細かい規定がありますので、税理士に相談してください。
(2)法定相続人を増やす
子どもが1人しかいない時など、法定相続人の数が少ない時は、養子縁組をおこなうことで法定相続人の数を増やし、基礎控除額を増やせます。相続税対策として孫を養子にする例は多いです。
(3)配偶者控除の利用
1度限りですが、配偶者は、法定相続分または1億6000万円以下までなら相続税がかかりません。この制度を利用することにより相続税額を大幅に軽減できます。
2. 不動産を相続した場合の相続税の節税対策
ここでは、相続時の特例についてまとめました。
1)小規模宅地等の特例
前述しました。
2)配偶者控除
前述しました。
3)未成年者控除
未成年者については満20歳になるまで、年数1年につき10万円づつが相続税から控除されます。
4)障害者控除
障害者が85歳になるまで年数1年について、10万円を控除できます。また特別障害者の時は1年について、20万円が控除額となります。
5)相次相続控除
過去10年間について2回以上の相続があった時には、相続税の二重払いを防ぐ立場から、一定額の相続税が控除されます。
6)贈与税額控除
相続が発生する前の3年の間に、故人から生前贈与があった場合、その生前贈与の額を相続税に加えなければなりません。しかし、相続発生3年以内の間に納税した贈与税については、相続税から控除できます。
7)外国税額控除
海外に財産がある時に、海外で支払った相続税については日本での相続税から控除できます。
8)贈与税額の相続時精算課税控除
生前に相続時精算課税制度を利用して、贈与税を支払っていた時には相続税額から、相続時精算課税制度により、贈与税額を控除できます。
3. 所有の不動産を有効活用した相続税の節税対策
ここにまとめるものは、生前に相続税の節税対策として考えられるもので、不動産投資については次の項でまとめます。
1)個人で賃貸不動産を持っている場合は、法人所有に切り替える
個人で賃貸不動産を持っている場合、その不動産を法人名義にすることで、所得税や相続税を節税することができます。家族を株主とする法人を設立し、個人所有の賃貸不動産の建物部分だけを法人に譲渡します。
2)相続時精算課税制度を利用し、不動産を贈与
「1-3.相続税の節税対策を始める時期」にまとめました。
3)不動産の売却
これは、相続税の軽減にはなりませんが、相続時に必要となる現金の準備のために有効です。
4)現金を建物に替えると半分以下の相続税評価額となる
相続になった場合の建物評価額は、実際にかかった建築費用でなく、固定資産税評価額で評価されます。一般的に、評価額は土地は公示価格の70%、建物は建築費の50~70%とされています。しかし、現実にはこの割合以下になることが多く、建築費の半分以下になることがほとんどです。
5)建物は「親の現金」、「親名義で建てる」ことが節税
相続税の節税から考えると、「親の現金」を利用して「親名義で建てる」ことが節税です。
二世帯住宅を建てる場合など、ローンは子どもの方が借りやすいからという理由で、親の土地に子ども名義で建ててしまう場合が多いです。しかし、これは親の節税になりません。節税対策では、現金の余裕がある親の場合は、建物代金に使うことにより節税になります。
6)親は、借金せずに現金で自宅を建てることで節税
自宅であっても現金を建物に変えることで、固定資産税評価では、資産評価は半分以下に圧縮できます。賃貸住宅であっても、借入せずに、現金で支払うことで、固定資産税評価の70%となるため、結果的に考えれば、建築代金の40%程度になります。返済の不要の節税対策となります。
4. 不動産投資による相続税の節税対策
一般的に評価額については、土地は公示価格の70%、建物は建築費の50~70%とされています。しかし、現実にはこの割合以下になることが多く、建築費の半分以下になることがほとんどです。さらに、建物を賃貸にしていれば、貸家となります。借家人がいる場合の家屋の評価額は、賃借人に一定の権利があると考えられ、借家権割合の30%を引きます。そのため、固定資産税の評価額の70%として評価されることになります。
1)賃貸マンション(アパート)の建築
所有している土地にマンションやアパートを建築して、不動産賃貸を行います。現金を賃貸不動産にすると、評価額は半分以下になります。さらに、建物を建てて他人に賃貸することで、建物や土地の評価額を大きく下げることができます。
2)土地の相続税評価額を下げることが出来る
賃貸用に貸されている土地は「貸家建付地」となります。そして、相続税評価額から一定額だけ割り引かれます。割引後における土地の相続税評価額は次ように決まります。
割引後における土地相続税評価額=土地相続税評価額×(1-借地権割合×貸家権割合×賃貸割合)
借地権とは土地所有者から土地を借りる権利のことです。借地権で土地所有者の権利が一部制限されます。この割合について、相続税評価額から割り引く値を借地権割合と言います。
借地権割合は地域で違い、「国税庁のホームページ」で確認することもできます。借地権割合は通常30%~90%となっていて、地価が高いほど借地権割合も高くなります。
賃貸割合とは、相続が発生した時に賃貸として賃借人契約している部屋面積合計が、建物の全部屋の面積に占める割合です。たとえば賃貸用マンションが10部屋あるとして、相続が発生した際に5部屋貸し出していれば、賃貸割合は50%となり、10部屋貸し出していると賃貸割合は100%となります。
3)マンションの購入
タワーマンションやワンルームマンションを購入します。賃貸用のワンルームマンションは、1部屋1000~2500万円位で購入できます。タワーマンションは、プレミア価格となる「高層階」を購入することが、大きく節税可能なポイントになります。現金をマンションにすると相続税評価額が、時価の3分の1程度になります。
4)個人所有の賃貸不動産を法人所有に切り替える
「3. 所有の不動産を有効活用した相続税の節税対策」にまとめました。
5. 生前贈与と相続税対策
「1-3. 相続税の節税対策を始める時期」にまとめました。そのほかに
1)結婚・子育ての一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度
これから結婚する予定や赤ちゃんが生まれる予定(すでに育てている)の子供や孫がいる両親や祖父母にお勧めの制度です。子供や孫に対して、結婚や子育ての資金として一括に贈与する場合に、1,000万円までが非課税となります。
教育資金と同様、金融機関に受領人の専用口座を設け、そこに贈与し、受領人が引き出して結婚や子育てに利用します。ただし、50歳の時点で残額があると贈与税がかかります。
6. 不動産に関する相続税の節税対策の注意点
相続税は、金額が大きくなるので、種々の控除額も大きくなり、万が一条件に満たないときは大きな損失となるので、手数料を支払っても専門の税理士に依頼した方が安全です。
そのほか、不動産投資はいろいろなリスクを含んでいるので、注意が必要です。
1)空室リスク
賃貸に空きが出るとその間の家賃収入が減ります。そうなれば、固定資産税やローンの返済が滞る可能性があります。土地周囲の賃貸住宅の需要により、空家のリスクはいつでもあります。
購入する土地の周囲には単身が多いか、家族層が多いか、賃貸住宅の需要があるかなど、事前に調査を行っておく必要があります。
2)ランニングコスト変動リスク
投資として、不動産投資を行う時、銀行から借り入れを行うことがよくあります。不動産投資で金融機関から費用等の借り入れをした時、多額になることが多く、返済期間が20年~30年と長くなります。この際に金利が上がると返済額が多くなり、ランニングコストが増します。
また賃貸集合住宅は長期間経営を行うと、物件の老朽化で修繕費は高くなります。さらに賃貸住宅経営を長期間行うと家賃が下がりますので、減収になります。
3)家賃滞納リスク
集合住宅経営については、入居率が高くなると安定した収益を得られますが、家賃滞納のリスクが常にあります。家賃滞納になれば減収だけでなく、手間と時間がかかります。
そのような時には入居の審査を厳しくするか、管理を任せる方法があります。入居の審査を厳しくすれば、家賃滞納の確率を減らすことができます。管理を業者に任せれば、管理費は必要になりますが、家賃集金、滞納督促、入居と退去の業務等を行ってくれます。
4)災害のリスク
建設した集合住宅が台風や津波や地震で倒壊したり、大雨で浸水する可能性もあります。集合住宅が倒壊した場合は、資産価値が大きく下落します。これを防ぐには保険に入る必要がありますが、ランニングコストは増加となります。
5)現金化のリスク
不動産というのは、現金化するまで時間がかかる資産です。不動産を現金化する時には、数か月以上かかるので注意が必要です。このため、現金が必要な時に資金を調達できないリスクがあります。
6)資産減少のリスク
不動産投資は、投資ですので、資産が大きく減少するリスクもあります。
7)不動産投資の本来の目的は長期安定収入
不動産への投資は、長期の安定収入を目的として行うべきです。節税対策だけを目的にする時は、お勧めできません。不動産への投資は、専門に行っている業者も多く、彼等と競合して利益を出し続けなければなりません。
節税対策のためなので、利益が出なくても良いと考えるのは危険です。不動産投資はリスクの大きい投資であり、必ず利益を出すことが必要です。
7. まとめ
不動産には、多くの相続税がかかる場合が多いですが、現金よりもその比率はかなり低くなります。したがって、基本的には、現金や預金の比率を下げ、不動産の比率を上げて相続するのが有利です。
しかし、相続税の節約には、贈与税や譲渡取得税などの複合的な知識も必要で、それらの総合的な利用が欠かせません。この意味で、手数料を払ってでも専門家である税理士に依頼した方が、安全で結果的には節税になることが多いです。