事例紹介
事業用定期借地権は定期借地権のひとつですが、他の定期借地権と違うところは「住居以外の事業用建物」として土地を使用することです。普通の定期借地権とは違うということで登記の必要性や契約書の内容などが異なってきます。
この記事でわかること
1.事業用定期借地権とは?
事業用定期借地権とは、その名のとおり事業用の定期借地権になります。そもそも定期借地権という権利が存在しますが、これは平成4年8月に施行された「借地借家法」の中で定められたものです。定められた期間のみ与えられた借地権のことで、この期間中は土地を貸すことができないといわれています。事業用定期借地権はその事業用となりますから、期間中は土地の貸し借りができなくなります。
事業用定期借地権は平成20年1月1日の法改正で2つの期間が設けられました。もともと10年以上20年以下と設定されていましたが、改正後は「10年以上30年未満」「30年以上50年未満」の2つに区分され、どちらか選択することで設定できるようになります。これらの期間は、契約の更新や借地人から建物の買い取りを請求できる権利の有無が異なり、10年以上30年未満の場合はどちらも「無し」となっていますが、10年以上50年未満の場合は特約によって「無し」にすることもできます。しかし基本的に「有り」となっています。
事業用定期借地権の詳しい特徴については後述しますが、まずは「定期借地権」の種類について説明しましょう。
1-1.定期借地権の種類
定期借地権には大きく3つの種類があります。そのひとつが事業用定期借地権ですが、残りの2つは「一般定期借地権」と「建物譲渡特約付借地権」です。一般定期借地権の特徴は、存続期間が50年以上と定められているということです。一方、建物譲渡特約付借地権は、30年以上です。事業用定期借地権が10年以上30年未満・10年以上50年未満の2つのタイプに区分されており、このなかでもっとも存続期間が長いのが一般定期借地権になります。長期借地権ということで転用を考えている方には不向きであり、契約期間が満了すると更地に戻すことができます。ですから、長らく放置している土地がある方に適した定期借地権といえるでしょう。建物の用途は問わないため、分譲マンションなど居住地として貸す方が多いといわれています。
建物譲渡特約付借地権は、30年以上の設定が可能です。こちらも建物の用途に決まりがないのでアパート・マンション経営として利用される方が多いでしょう。契約期間が満了すると、建物付きのまま土地の返還が可能になります。
一般定期借地権の場合、契約期間が長いということで借地料の収入が安定していますし、相続税の節約にも繋がります。ただ先にも述べたように一度契約すると50年は土地の転用ができないため、使用していない土地以外は不向きです。建物譲渡特約付借地権は、30年借地料を得られます。しかし満了後は建物付きで土地を返還することになるため、アパート・マンションが建っている場合は買い取ることになるでしょう。
1-2.事業用定期借地権の特徴
一方で事業用定期借地権は、10年以上30年未満と10年以上50年未満の2つの契約期間を選択できるため、事業に合わせて契約できるでしょう。ただしその名のとおり事業用の定期借地権であるため、土地に住宅を建てることはできません。コンビニや施設などを建てるケースが多く、50年未満を選択した場合でも特約を使えば更新や建物買取請求を「無し」にすることができます。
先ほど事業用の定期借地権について簡単に説明しましたが、ここではもう少し詳しくこの借地権について紹介します。まず、契約期間が2つあることはすでにご存知でしょう。次に、契約時には必ず「公正証書」が必要になります。契約期間が長いケースや特殊な契約の場合は、公正証書で認識を明確にしておかなければ後々トラブルになりかねないからです。もしきちんと契約が交わされていなかった場合、土地が返ってこないこともありますので十分注意してください。
ちなみに、事業用の定期借地権でもっとも多い活用方法は30年未満と50年未満で異なります。前者の場合、「コンビニ」「ファミレス」「レンタルショップ」「飲食店」などで利用される方が多いでしょう。後者の場合、「ディスカウントショップ」「大型物流倉庫」「パチンコ店」などが挙げられます。
2.事業用定期借地権の登記の必要性とは?
事業用定期借地権の登記については賛否両論あります。登記することで借地権を公に提示することになるため「土地を貸している」という証明に繋がりますが、実際は登記を拒む地主も少なくないといいます。ですから、事業用定期借地権の登記は必ずしも行ったほうが良いという決まりはないでしょう。とはいえ、賛否両論ありますから、メリット・デメリットを理解し検討することをおすすめします。
2-1.メリット
登記をする一番のメリットは、やはりトラブルを防げるという点です。そもそも登記というのはある事柄を公に提示することで、取引で第三者のトラブルを防ぎます。事業用定期借地権なら、「この土地は事業用に使用している」ということを証明できますし、登記することで争いは起きません。どちらかというと、土地を貸している側(地主)にメリットのあるものになります。この登記があることで譲渡されることも競売等にかけられることもないでしょう。土地を守るためにとても大きなメリットになるというわけです。
2-2.デメリット
一方でデメリットですが、土地を貸す側にとってはほぼないといっても良いでしょう。土地を貸したことの証明を公に提示しているわけですから、むしろ万が一のことがあった場合に守られます。強いていうのであれば「登記費用」がかかることです。しかし、先にも述べたように「権利証を汚したくない」という地主がいるのも事実で、そういった方にとっては登記をすること自体デメリットになるかもしれません。
3.事業用定期借地権の契約書とは?
事業用定期借地権は契約が必要不可欠ですが、その契約書は主に3つあります。ここでは、それぞれの契約書について説明します。なかでも「公正証書」はもっとも重要といわれていますから、事業用として定期借地権を契約する場合はしっかり覚えておきましょう。
3-1.設定契約
設定契約とは、存続期間が10年以上50年未満で事業用として土地を利用する場合に行われる契約です。この契約が交わされるのは50年未満の場合のみになります。そして、土地活用はディスカウントショップや大型物流倉庫などの事業用でなければいけません。この契約が交わされると、存続期間中は土地を転用することはもちろんのこと建物を買取ることもできないでしょう。
ちなみに、設定契約は事業用定期借地権以外にもすべての定期借地権で行われます。一般定期借地権の場合は、契約することで更新や買取請求権が「無し」になります。建物譲渡特約付借地権の場合でも同様ですが、これらはすべて口頭契約にならないようにきちんと公正証書での契約も交えなければいけません。
3-2.公正証書
事業用定期借地権を契約するうえで忘れてはいけないのがこの契約です。公正証書を行わないと、この契約は無効になります。というのも、公正証書を行ううえで「事業用として土地・建物を利用する」ということが証明されることになるからです。万が一のトラブルを未然に防ぐことができます。ですから、設定契約を行ったら必ず公正証書を行い、最後に覚書を締結しておきましょう。
ちなみに、公正証書を作成しなかった場合は普通借地権が設定されてしまうことになります。この場合、正当事由がない限り契約が更新されてしまいますので必ず公正証書を作成するようにしてください。事業用定期借地権のように長期的な契約を行う場合は、きちんと作成するのが基本になるでしょう。
3-3.覚書
最後に「覚書」です。事業用定期借地権は、覚書を含めた3つの契約書を作成することで契約が認められます。覚書は、正式契約になる前の合意書のことで、この契約書だけでは契約は成立しませんが、事業用定期借地権には欠かせないものといえるでしょう。注意点としては、覚書を結んだあとは必ずその通りの契約を交わすことになります。そのため、万が一契約に背いた場合は、損害賠償が発生することになるでしょう。ですから、一度締結したら拒否することは絶対にできないと考えておいてください。それを踏まえたうえで覚書を結ばなければいけません。
4.事業用定期借地権の登記方法
事業用定期借地権の登記方法は、借地借家法23条1項・2項何れかの「事業用定期借地権」であることをきちんと区別しなければいけません。なかには登記をしなくても良いという意見もありますが、第三者からのトラブルを避けるために、ここでは登記したほうが良いことを前提に説明します。
4-1.登記申請書に記載する事項
登記事項には、なぜ登記するのかという「登記目的」、申請の受付年月日と番号、登記する原因と日付、登記権利者の氏名などが挙げられます。これらは絶対的登記事項といって、必ず記入しなければいけない事項です。事業用定期借地権はもちろんのこと、他の定期借地権でも記載することになります。しかし、相対的登記事項といって、場合によって記載しなければいけない事項もあります。たとえば、「権利消滅」「共有物分割禁止」「代位申請の登記」「存続期間または賃料支払い時期」などが挙げられます。
4-2.登記手続き
登記手続きを行うには、必要書類を用意しなければいけません。
必要書類は
- 登記識別情報or登記済証
- 登記原因証明情報、委任状
- 資格証明書、印鑑証明書
- 固定資産評価証明書
登記原因証明情報は、事業用定期借地権の場合は設定契約公正証書になります。印鑑証明書は、必ず発行から3ヶ月以内のものを用意してください。また書類以外に登録免許税も必要になりますので準備しておきましょう。
登記が完了するまでにかかる期間は1~2週間程度。必要書類を持参して法務局に持参するだけで良いので、手続き自体は簡単です。
5.事業用定期借地権の相続税評価額の算定方法
相続税評価額とは、言葉のとおり相続税を評価した額のことをいいますこの相続税評価額は、土地・建物・株式などで算定方法が異なります。ここでは事業用定期借地権ということで「土地」が当てはまりますが、実は土地を算定するのがもっとも難しいといわれています。そのため、専門家に相談することをおすすめします。ここではざっと方法を紹介しましょう。
まず、土地の相続税評価額は路線価方式と倍率方式によって算定します。前者は道路側の宅地1㎡あたりから計算し、後者は固定資産税評価額から定められた倍率をかけて計算します。路線価は各税務署で確認できますので、確認すると良いでしょう。たとえば、路線価15万円・宅地面積110平方メートルだった場合は、この2つをかけて評価額を出すことになるため1,650万円ということになります。しかし、土地の形状などによって評価が変わってくるため、正確な算定を出すのは素人には困難です。専門家によって算定してもらう必要があるでしょう。
6.まとめ
定期借地権は主に3つありますが、そのなかで事業用定期借地権は10年以上30年未満と10年以上50年未満の2つの存続期間があり、住居以外の建物を建てる場合にのみ利用されることが分かりました。事業用定期借地権は一般定期借地権とは契約内容や方法が異なりますので、しっかり目を通してトラブルの内容にしましょう。