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Category  不動産

2019年09月05日 更新

定期借地の一つ、事業用定期借地権のメリット・デメリット

一般に土地を貸す場合、契約により借地権が発生しますが、借地権は借地人保護の観点から法定更新のルールが定められているため、一度設定すると、貸主側から契約を終了するためには、正当な理由による更新の拒否か、明渡料を支払うかしないと契約の解消はなりません。これだと貸主側としてはリスクが大きく、安心して土地を貸すことができませんよね。そうなると、土地の活用の阻害やひいては社会経済にも悪影響を及ぼします。

この悪循環を解消してくれるのが、「定期借地権」です。定期借地権は期間を決めて土地を貸すため、貸主側も土地の返還の見通しがしやすく、貸主側に安心な借地権となっています。

今回はこの「定期借地権」の一つ、「事業用定期借地権」についてご紹介します。

1.事業用定期借地権とは?

土地を貸す際に期間限定での賃貸契約をした場合に発生する権利を定期借地権といいますが、事業用定期借地権は、もっぱら事業の用に供する建物の所有を目的とする場合に設定する定期借地権となります。一般的な定期借地権は存続期間が50年以上でなければ設定できないのに対し、事業用定期借地権は10年以上50年未満の存続期間で設定できるため、短期間だけ借地に出したい場合などに有効です。

短期契約(10年以上30年未満)と長期契約(30年以上50年未満)に分かれ、短期契約では更新・建物買取請求権が原則なしとなるのに対し、長期契約では更新・建物買取請求権を特約として任意で付与することもできます。例えば、長期契約の場合、「更新はなしだけど、建物買取請求権だけはつける」といったこともできるため、契約の幅が広がり、自由度が高いです。

なお、契約は公正証書による契約が必要となります。

2.事業用定期借地権のメリット

2-1.短期で法定更新のルールがないため土地返還の見通しがしやすい

普通借地権では50年以上という長い存続期間の設定が要件な上、正当な理由がない限り、借主側からの更新を拒否することができないなど、強い借地人保護がありましたが、定期借地により原則更新なしとなっており、さらに事業用では10年以上からという短い期間での借地が可能なため、近い将来に土地活用を控えている地主の方も貸しやすくなっています。

2-2.事業の用に供するため、住居用より高い地代収入が見込める

事業用定期借地では建物の利用目的が事業用途に限定されるため、地代の利回りがよく、マンションなどの住居用での活用よりも高い地代収入が期待できます。

ちなみに定期借地の場合、地代は「相当地代」と呼ばれる地代が一般的で、「相当地代」は年額で更地価格の6%が基準となります。

2-3.初期費用がほとんどかからず、借入の返済等のリスクもない

例えば、所有している土地に自らマンションやアパートを建設し、運営していこうとした場合、建物の建設費や設備費、入居者を募集するための広告費など多くの資金が必要になります。この初期投資を自己資金でまかなうことは難しいので、多くの方が金融機関から借入をするkことになるのですが、運用に失敗し、返済不可となった場合、土地だけでなく、自宅等の資産まで差し押さえになってしまうなど、リスクが大きいです。

しかし、事業用定期借地の場合は借主側がすべてを負担するため、地主側にとってはリスクがほとんどなく、事業用借地の提案を受けいれる地主はとても多いです。

2-4.住人がいないため、住人同士のトラブルなどがない

アパートやマンションの居住用途では住人が多数いるため、住人同士のトラブルなども起こりえます。自身で管理していくと、こういったトラブルも対応していかなければなりませんが、事業用定期借地の場合はそもそも事業用途に限定されるため、住人等はおらず、管理も借主側で行うため、こういった管理面での心配もありません。

3.事業用定期借地権のデメリット

3-1.用途限定によるマーケットの縮小

上記ではメリットとして挙がった用途の限定ですが、事業用に限定することで、自ずと借地人も限定され、借り手が少なくなることから、貸したくても貸せないという事もあります。

3-2.保証金が安い

事業用定期借地では借主が建物投資を行い、返還時の原状回復も借主負担のため、貸主のリスクは少なく、保証金は安く設定されることが多いです。

最長50年未満という長い年月で行われる契約では契約の途中で代が代わることも多くあります、そうなると、契約時に設定していた保証金や敷金を返還する義務は子に託され、高額な保証金を設定していたために契約満了時に子に資力がなく、保証金の返還ができないなどのトラブルが発生することがあったため、保証金は安めに設定せざるを得なくなります。

事業用定期借地の場合、地主側にほとんどリスクはありませんが、唯一、借主がいわゆる「夜逃げ」より撤退した場合は残された建物の取り壊し等は貸主側でやる他なくなり、取り壊し費用は保証金・敷金から充当することになります。

このため、保証金に取り壊し費用を含めた高額な保証金を設定した例がありますが、契約満了時に子が資金不足で返還できないなどのトラブルが発生しています。

4.事業用定期借地権は登記が必要?

登記とは、不動産登記のことで、当該不動産のことが書かれている説明書のようなものです。所有者の変更や権利関係の変更などがあった場合には登記をすることによって第三者が現れたときに対抗(登記の内容を主張)できるものになります。

普通借地権では地主にとってデメリットが大きいため、登記をされないことが多いですが、定期借地権の場合、登記をしておくことで回避できるリスクもあります。

5.事業用定期借地権を登記するメリット

借地権が「定期」であることを第三者に対抗できることです。普通借地権の場合、更新などにより半永久的に借主に所有されてしまうため、借主が第三者に売買、譲渡などをした場合には更新される限り、地主は第三者に返還の主張が出来なくなってしまいます。

しかし、定期借地権の場合は登記をしておくことで、譲渡契約により第三者に所有権が移転したとしても「定期」であることを理由に、期間が満了すれば最終的には当該土地の返還を主張できます。

6.事業用定期借地権を登記するデメリット

事業用定期借地権を登記する上での地主側のデメリットはほとんどありません。強いて挙げるとすれば、登記にかかる費用くらいでしょうか。

そもそも、事業用定期借地契約は公正証書が要件となっているので、登記を備えなくても公正証書をもって対抗することも可能なため、費用をかけず、仮登記で済ませてしまう方も多いです。

7.まとめ

余っている土地がある場合、なかなか自分で運用するのは費用も時間もかかりリスクも大きいですが、普通借地として貸したのでは利益はほとんど出ず、固定資産税を賄う程度。

この点「定期借地」であれば、地主側にリスクはほとんどなく、契約期間満了で理由なく、土地の返還を受けられるため、安心・安全に土地を活用していくことができます。なかでも、「土地を余しておくのはもったいないけど、運用する暇もないし、将来的にはこの土地に子供の家を建てたいから10年後、20年後には確実に返して欲しい」という方には「事業用定期借地」がまさにうってつけと言えるでしょう。

短期間で貸せて、リスクも少なく、事業用に限定することでマーケットは縮小されますが、利回りもよく、比較的高い地代が期待できます。契約時、保証金・敷金を設定する際には「誰が保証金・敷金の返還をすることになるのか」を念頭において契約を進めることをおすすめします。