事例紹介
近年、日本国内では空き家や増え続けておりもはや社会問題化しています。
空き家というのは、実は所有者もそうでない地域の人にとっても油断すると大きなリスクになりかねないものです。
そんな中、平成27年に空き家所有者にとって大事となりうる固定資産税の見直しがありました。
今回はそんな空き家に係る固定資産税と見直し、その対策についてご紹介したいと思います。
この記事でわかること
1.空き家の固定資産税見直しで増税?!
皆さんは、平成27年に空き家に関する固定資産税の見直しが行われたことをご存知でしょうか?
何も固定資産税の税率が上がったわけではなく、不動産評価額や公示価格が爆発的に上がったわけではありません。では、何がそんなに問題なのでしょうか。
実は今回の見直しというのは、何かを足したわけではなく、空き家に関しての税率優遇を「撤廃」した事で大きな話題を呼んでいるのです。これを「空き家等の対策に関する特別措置法」と言います。
これまで不動産に対しては、そこに人が住んでいても住んでいなくても、宅地(家屋を建てる土地)の上に家屋が立っていれば固定資産税の優遇措置が適用されていました。ところが今回の見直しで、人が住んでいる状態でないいわゆる「空き家」に対して、この優遇が取り下げられたのです。
親が亡くなったが自分の育った実家は壊したくない、田舎の家を相続したが自分は都会に住んでいるので使いようがない、こういった空き家持ち達が今、決断を迫られています。
2.空き家の固定資産税が見直しされた理由
総務省は5年に一度「住宅・土地統計調査」を行っています。
これは全国にある建物の使用状況を中心に「家」のあり方を明らかにするこの調査で、最新のデータは平成25年のもの(平成30年度は現在調査中)です。ここでまず明らかになったのが、現在日本国内で空き家が爆発的に増えており、その割合がついに20%を超えようとしているという事でした。つまり、5軒に1件が空き家というにわかに信じがたい光景がもう目と鼻の先という状態にあるのです。
「でも、空き家は無害なんじゃないの?」という声が聞こえてきそうですが、実はそうではありません。
人の住んでいない家は維持・管理がされていないという事であり、老朽化した家屋の一部が倒壊しかけていてその辺り一帯が危険地帯と化していたり、不衛生であったり、不審火の原因となったり、不審者の溜まり場となったり、景観を損なったりします。地域をおびやかす言わば爆弾になり得るのです。
そして、これからもこういった空き家は増加するとの見方がもはや一般的になっています。少子高齢化、地方の過疎化などが主な原因ですが、この流れに反して実は新築住宅の建設件数は年間約90万戸。空き家はどんどん増えているのに、相変わらず新しい家はそこら中に建っている状況です。
こうして深刻な社会問題となった空き家と、歯止めのかからない住宅整理にブレーキをかけるべく施行されたのが、前述の空き家対策特別措置法なのです。
3.空き家の固定資産税見直しの具体的な内容
それではより具体的に、今回の特別措置法にどのような内容が施行されたのか見ていきましょう。
まず固定資産税のシステムについてですが、課税対象となるのは土地・家屋・償却資産を所有している方です。毎年1月1日時点で「固定資産台帳」に名前が載っている方が自動的に納税義務者となり、たとえ年度途中に当該資産を手放しても納税の義務は消えません。
固定資産税の税額は、基本的に以下の式で求められます。
不動産評価額(固定資産税評価額)×標準税率1.4%=固定資産税
固定資産税評価額とは、国土交通省が公表している「公示地価」の7割ほどになるよう設定されている価額です。
毎年5月ごろに送付される納税通知書添付の課税明細書の「価格」欄(市区町村により欄名やフォーマットは微妙に異なります)や、市区町村に必要書類を提出し一定の手数料(不動産一件につき300円ほど)を納めて交付される固定資産台帳にて確認することができます。
このようにして固定資産税は計算されますが、所有している不動産の条件によってこの税が軽減されることがあります。
その軽減措置のうち、最も利用する・見る頻度が高いであろう措置が、まさしく今回空き家に対して撤廃されることになった「小規模住宅用地の特例」と「一般住宅用地の特例」です。(居住用として使われる地の面積が200平方メートル以下なら小規模住宅用地、超える場合は一般住宅用地となります)
この2つの特例は、所有不動産が宅地ならそれぞれ固定資産税を6分の1もしくは3分の1にしてくれる魔法の特例だったのですが、空き家に対してもこれまで適用されていた実態があります。
すなわち、今回の空き家対策特別措置法の施行により、空き家を持つ人の当該固定資産税が小規模住宅用地なら6倍、一般住宅用地なら3倍に膨れ上がる可能性があります。
それでは続いて今回のテーマである「空き家等」と、加えて「特定空き家等」がいったいどういった家を指すのか、定義を見ていきましょう。
「空き家等」の定義
「空き家等」とは、建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)をいう。ただし、国又は地方公共団体が所有し、又は管理するものを除く。
「特定空き家等」の定義
- 倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
- 著しく衛生上有害となるおそれのある状態
- 適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態
- その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
にある空き家等をいう。
つまり、ずっとほったらかしになっていたら特定空き家と思っていただいて良いかと思われます。
次に、ではこの空き家、殊に特定空き家等はどのような処置が取られるのか見てみましょう。
第1段階:まず、行政が調査を行い、管理の行われていない危険な空き家だと判断されると「特定空き家等」に指定されます。この時点ではまだ住宅用地の特例は解除されず、そのまま行政により持ち主に対して助言・指導が入ります。
ここで指摘された問題を解決できれば、特定空き家の指定は解除されます。
第2段階:第1段階で改善が見られずそのまま放置すると、「勧告」がなされ住宅用地の特例は取り消しになります。
第3段階:勧告でも前向きなアクションが見られない場合、「改善命令」が出され、この命令に違反した場合最大50万円以下の罰金が課せられることもあります。
最終段階:特に危険な空き家については行政代執行により強制的に解体されたりします。解体費用はもちろん所有者負担です。
このように、場合によっては大きな損失の出る恐れがあることがわかります。
しかし実際、ここまでしないといけない、やらないと雑魚寝状態の所有者が増えてしまうので仕方がないのでしょう。
4.空き家の固定資産税見直しによるリスクは?
前述の通り、空き家に対する住宅用地の優遇が適用されなくなるというだけで、不動産所有者にとっては大変な痛手です。それまで土地を持っていたら更地より家が建っている方が安かったのですから、正に寝耳に水でしょう。
それでは具体的に、100平方メートル評価額3,000万円の土地を例にとって見てみましょう。ここが更地であった場合と、宅地であった場合のシミュレーションです。
後者の場合、面積が基準である200平方メートルを下回っているため、評価額が6分の1に軽減される「小規模住宅用地の特例」が適用されます。
例)
更地の場合…評価額3,000万円×標準税率1.4%=固定資産税42万円
宅地の場合…評価額3,000万円×軽減措置1/6×標準税率1.4%=固定資産税7万円
42万円−7万円=差額35万円
このように、土地が小規模住宅用地と認められるだけで固定資産税が35万円も安くなってしまいました。
手持ちの不動産が特定空き家として指定され、その後何らかの処置を取らねば、軽減措置は適用されなくなりここまで税が跳ね上がってしまうのですね。
5.空き家対策はどうすればいい?
では具体的に、使っていない空き家が特定空き家となり悲惨な事態に陥らないよう、どんな手立てが考えられるでしょうか?
以下にその例を挙げてみましたので、参考にしてください。
売却する
これが誰もが1番最初に思いつく方法でしょう。確かに理論的には、特定空き家になる前に売ってしまえばいくらかの利益が出る上にその後税もかからなくなるのでハッピーですね。
ちなみに、平成28年の税制改正により、以下のような条件を満たす空き家を売却する場合は、その譲渡所得から3,000万円もの控除を受けることができます。
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋
- 相続の開始の直前において被相続人以外に居住していた者がいなかったもの
- 平成 28 年4月1日から平成 31 年 12 月 31 日までの間に譲渡しているもの
- 相続開始の日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡しているもの
- 譲渡の対価の額が1億円以下のもの
家屋や家屋と土地を売る場合の条件
相続から譲渡までの間に事業や不動産の賃貸、居住用に使われていない、譲渡する際に耐震基準を満たす必要がある等の条件があります。
しかし、そんなに簡単に上手く行くかと言えばそうでもありません。
何せずっとほったらかしにされていた空き家ですから、その後使おうにも色々部分を補修せねばならなかったり、老朽化でそもそも寿命が来ていたりする場合だって考えられます。
こうなってしまえば、持ち主から見ていくら大切な財産だと言っても、他人から見れば残念ながら大きな荷物でしかありません。
結局建っている家を取り壊さなければならないパターンは稀ではなく、後はその撤去費用を買主か売主どちらが負担するかというだけの話です。
そのまま売れば考えられないような安値で取引されるでしょうし、更地にして売るにも数百万円の撤去費用の投資を余儀なくされる事でしょう。
よほど良い条件で無い限り、このような空き家の売却は現実的ではないと言えるでしょう。
家屋を解体し更地を売る場合の条件
相続から解体する間に事業や不動産の賃貸、居住用に使われていない、相続した時から譲渡する間に事業や不動産の賃貸又は居住用に使われていない等の条件を満たしている
転用する
家を取り壊し、土地を全く別の用途に活用してしまう方法で、特に人気なのは農地です。農地は国内でかなり税が優遇されており、固定資産税の軽減にも期待が寄せられています。
しかし元々家が建っていた土地を農地転用し財布を温めるには、それなりのリスクが存在します。
まず前述の通り家の通り壊しには数百万円ほどの費用がかかります。農地で税優遇を受けるには基礎さえ残すことも許されないので、徹底的に取り去らねばなりません。
そして、家を取り壊したら土壌の入れ換えや耕作を行い、いつでも農業ができる状態にして速やかに役所に農地への転用届を提出せねばなりません。もし一カ月以内という転用届の期限を過ぎ提出が遅れると、優遇対象とならないばかりか過料(罰金に近い)が科せられてしまいます。そして、転用をすればその後も農業を営み続けねば基本的に軽減措置は撤回されてしまいます。
更に追い討ちをかけるようですが、そもそも農地だからといって税が安くなるとは限らないのも難点です。
国内の土地には、都市化を進めるべき(特定)市街化区域と、逆に開発を止め環境の保全に努めるべきとされる市街化調整区域や生産緑地という地域区分が存在します。そして農地もこれに準じて区分があり、
①特定市街化区域農地
➁一般市街化区域農地
③生産緑地
④一般農地
と分けられ、基本的に①②は高額な固定資産税がかかり、③④は安くなると考えていただいて良いでしょう。
つまり何でも農地にすれば良い、というわけではないということです。
例えば生産緑地でもない都会のど真ん中に農地を作ったところで、数十万というべらぼうな固定資産税が課税され莫大な造成費用がのしかかることになります。
その他の農地の税優遇にも基本的に一定の要件を満たしていなければ適用されないため、土地の転用は慎重に検討せねばなりません。ある程度のリスク回収力を持ち、また計画性のある土地造成を行えなければあまりオススメできません。
代行業者に依頼する
空き家の管理を所有者の代わりに行ってくれる代行業者というものが存在します。民間の住宅業者が行ういわゆる「空き家管理サービス」という事業で、ともすると相続せずにこちらに預けるという手も考えられます。
もちろんそれ相応の出費は覚悟しなければならず、相場はおよそ月1万円ほど。単純計算で年額12万円をコンスタントに払い続けるのは忍びないかもしれませんが、少なくとも特定空き家になって高い固定資産税を払うよりは確実にマシと言えるでしょう。
賃貸にする
空き家を必要に応じて増改築・補修を行い、賃貸物件として貸し出すのはかなり現実的な方法です。
一戸を買うほどのコストは払いたくないけれど、ある程度ちゃんとした物件に住みたいと思っている人々は一定層いるので、よほど家の老朽化が進んでいない限りは充分アリでしょう。
デメリットとしては初期投資と維持費。またもちろん収益物件にするならば税の申告が必要ですし、事業として営むなら不動産業者や税理士とも関わってより本格的に取りかからなければなりません。
タダで貸す
「えっ、そんな方法が…」と思われるかもしれませんが、こんな予想外の奥の手も存在します。
要は空き家にしなければ良いわけですし、それに売っても対した額にならずコストもかさむなら贅沢は言っていられません。管理してくれる人がいるだけありがたいのです。
6 まとめ
いかがでしたでしょうか?
空き家にまつわる固定資産税の恐ろしい話と、それに対する対策案をご紹介致しました。
もしここで、ご紹介したような対策をどれも渋っている方は赤信号です。
政府はこれから空き家に対するどんどん追い討ちをかけることが予想されますから、決断を後回しにするのは大変危険な選択と言わざるを得ません。
いずれはこの数年内に空き家に手立てを打たねば、リスクはどんどん膨らみます。よほど現実的でない限り、それこそ最終的に更地にして売却した方が得だった、なんてことになりかねません。
また、もし空き家の扱いに悩むならば、まずはお住まいの市区町村に何か良い策が用意されていないか調べるのは必須です。
地域によっては空き家の処理にいくらか補助金を出してくれたり、もっと大きく出ると整地費の大半を負担してくれたり、不燃化住宅への建て替えで固定資産税などの土地保有コストを免除してくれたりする市町村もあります。
以上のようなポイントも踏まえ、来たる空き家問題の激化に出来る限り早く先手を打ちましょう。