事例紹介

Category  不動産

2018年07月03日 更新

共有名義の不動産を売却する時の注意点

共有名義の不動産を売却する時、どのようなことに注意したら良いでしょうか。土地や建物などの不動産には所有権が存在します。民法では単独所有を原則としていますが、不動産を購入するためには多額の資金を準備しなければなりません。

現実には、親子や夫婦などで、資金を出し合って購入するケースもあります。そのような場合に対応するため、複数の人が権利を持つ共有名義も認められているのです。しかし、共有名義の不動産を売却する場合、複数の人の権利が関わっている分、単独名義の不動産を売却する場合よりも、留意すべきポイントが増えて複雑になります。

この記事では、共有名義の不動産を売却する場合の注意点について、具体例を挙げながら、順番に見ていきます。

この記事でわかること

1. 不動産の持分とは

持分とは、その不動産の名義を誰が、どのくらいの割合を所有しているかを示すものです。土地の所有者が複数いれば、土地全体に対してどのくらいの権利を持っているか示す割合(持分割合といいます)があります。

すべての所有者は、土地に対して持分割合の権利を持ち、他の人から制限を受けません。

 

1-1. 持分割合の考え方

不動産を共有しているうちの1人をAさんとすると、Aさんの持分割合は、

Aさんの持分割合=Aさんが出した資金(借入金を含む)÷不動産全体の購入代金

という式で計算することが出来ます。

1000万円ずつの貯金がある夫婦が、4000万円の不動産の購入を検討しているとします。合計2000万円の貯金があるので、残りの2000万円分のローンを組むとします。

夫が単独で2000万円のローンを組むとすると、夫の出資額が3000万円、妻の出資額が1000万円となるので、持分割合は夫3/4、妻1/4となります。

一方、ローンを連帯債務型にして、夫1/2(1000万円)、妻1/2(1000万円)の割合で負担すると、出資額はそれぞれ2000万円ずつになります。この場合、夫婦の持分割合を1/2ずつにすることができます。

 

1-2. 共有名義とはその不動産全体の権利の共有

共有名義の人たちで、共有している不動産を「持分割合に応じた分だけそれぞれ所有している」と勘違いしがちです。しかし、所有権はあくまで共有名義の1人1人がその不動産全体について持っています。持分割合と所有権は別の概念になるのです。

共有名義では、全員が不動産に対する所有権を共有しています。

 

1-3. 所有者全員の同意がないと売却はできない

共有名義の不動産を売却するには、必ず共有名義人全員の承諾が必要になります。売却する際には、

  1. 不動産の登記済権利書または登記識別情報
  2. 土地測量図、境界確認書
  3. 共有者全員の身分証明書、実印、印鑑証明書、住民票

を用意します。その上で、共有名義者全員の承諾(実印の押印、契約書への記名)が必要です。

 

1-4. 3000万円の特別控除を人数分受けられる可能性がある

土地建物を売ったときの譲渡所得の金額の計算上、特例として特別控除が受けられる制度があります。マイホーム(居住用財産)を売ったときは、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる特例があります。これを、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例といいます。

この特例はマイホームとして住んでいる住居を売った場合にのみ適用されます。例えば、親から資金援助を受けて建てた場合に贈与とならないように持分登記するケースでは、親が同居していない場合には、親は特別控除を受けることができません。

特別控除額は共有者全員で3,000万円ではなく、この特例を受けることができる共有者1人につき最高3,000万円となります。共有のマイホームを売った場合には、この特例を受けることができるかどうかは共有者ごとに判定されます。

ただし、家屋は共有でなく、敷地だけを共有としている場合、家屋の所有者以外の者は原則としてこの特例を受けることはできません。

参考サイト
国税庁 共有のマイホームを売ったとき

 

2. 不動産が共有になる原因

土地が共有名義になる原因として、以下のような例が挙げられます。

  • 不動産の所有者が亡くなって複数人が相続をした
  • 夫婦で資金を出し合って購入した
  • 親子で資金を出し合って2世帯住宅を購入した

それぞれの場合について見ていきましょう。

 

2-1. 不動産の所有者が亡くなって複数人が相続をした

相続財産が金融資産であれば、法定相続分や話し合いで決めた通りに財産を分割しやすくなります。しかし、不動産の場合は物理的に分割することが難しいので、複数の相続人で別個に相続することはできません。

他に金融資産があれば、不動産を相続人のうちの1人に相続させて、金融資産で不公平が無いように調節することもできます。マイホームが主な資産といった場合や、親が亡くなった後も複数の子供が親名義の実家に住んでいるような場合、複数人が相続することが考えられます。

このような場合、相続した不動産が共有名義になります。

 

2-2. 夫婦で資金を出し合って購入した

最近では専業主婦世帯よりも共働き世帯の方が多くなっていることもあり、住宅資金を夫婦で出し合うケースも多くなっています。「1-1持分割合の考え方」の例で挙げたような場合です。

 

2-3. 親子で資金を出し合って2世帯住宅を購入した

2世帯住宅の場合に限らず、両親と子供世帯または独身の子供が同じ家に同居している場合や、配偶者が亡くなって1人になった父または母が子供と同居する場合なども考えられます。このように親子で資金を出し合って住宅を購入した場合も、共有名義になるでしょう。

 

3. 持分を調べる

共有名義の不動産を持っている場合、まず、自分の持分を把握することが重要です。自分の持分がわからない場合には、土地の登記簿で確認して調べることができます。

 

3-1. 登記簿で確認する

登記簿とは、法務局に保管されている土地の情報や権利を示す記録で、登記簿謄本や登記事項証明書として入手することができます。2017年5月現在、登記事項証明書の登記手数料は、書面請求が600円、オンライン請求・送付が500円、オンライン請求・窓口交付が480円となっています。

土地の登記簿を確認すると、単独名義なら所有者として、共有名義なら共有者としてそれぞれの氏名が記載されており、共有名義では持分割合も記載されています。ただし、相続で共有名義になり、相続登記を済ませていない場合は、元の所有者の名前が書かれているだけです。

参考サイト
法務省 登記手数料について 不動産登記,商業・法人登記における主な登記手数料

 

3-2. 相続登記をしていない場合は遺言書、遺産分割協議書などで確認

相続の場合は、相続が開始された時点の法定相続分か、遺言書で定められた相続分、または遺産分割協議で決まった相続分が、各相続人の土地の持分となります。ここで、相続で共有名義になる場合に、起こりやすいトラブル例を紹介します。

相続によって土地をA・B・Cの3人が共有名義で取得し、その土地の上にCが所有する住宅が建っているとします。このような場合、AとBが土地を売却して現金化したいと思っても、Cの同意を得ることが難しいので、AとBは自分が共有名義として所有している財産を活用できない形となってしまいます。

このようなトラブルを避けるために、相続不動産が共有名義にならないように、生前に遺言書を作成しておくことが望ましいでしょう。

 

4. 持分を売却する

共有名義とは、その不動産全体の権利を共有しているという意味です。例えば、「2分の1持ち分がある」というのは、その土地の半分を自分が持っているという意味ではありません。では、この「2分の1の持ち分」を売却することはできるのでしょうか。

 

4-1. 共有名義人の同意がなくても売れる

土地は1つでも、権利が持分に応じで分かれているため、共有者の誰でも自分の持分(権利)だけを他の人に売ることができます。自分の持分を売るだけなら、他の共有者の同意は不要です。その場合の売却の手続きも通常と変わりなく、売買契約を結び、売却代金の受け渡しと同時に、所有権の移転を登記します。

しかし、全体を自由に使えない土地の持分を買う第三者はまずいないので、持分の売却はほとんどが共有者同士で行われます。ビジネスとして買取りをしている専門業者もありますが、かなり安値になるでしょう。

 

4-2. 共同相続人が勝手に持分を売ってしまったら

相続が発生して、故人の土地が複数の相続人に相続されると、持分が登記される前でも、相続権により各相続人には法定相続分の持分があります。通説では、各相続人は、自分の相続分を第三者に譲渡でき、相続分の一部である土地の持分も譲渡できるとされています。

もし、遺産分割協議の前に、共同相続人の誰かが自分の土地の持分を勝手に第三者へ売却してしまったら、どうすれば良いでしょうか。売却したのがその人の相続分全体か、土地の持分だけかによって、取れる対応が変わってきます。

 

4-2-1. 相続分取戻権を使う

まず、誰かが自分の相続分全体を他の相続人に無断で第三者に譲渡した場合について見ていきます。譲渡されてから1ヶ月以内であれば、他の相続人が一方的に相当の対価で取り戻す、相続分取戻権が認められています。

相続分取戻権は、主に第三者に相続分が譲渡されることによって、遺産分割協議へ第三者が介入してくるのを防止する目的で作られた権利です。譲渡した相続分全体に効力があるので、相続分に含まれる土地の持分も取り戻すことができます。

一方、相続分のうち、土地の持分だけが第三者に売却された場合、判例では、相続分取戻権によって他の相続人が持分を取り戻すことはできないとされています。譲渡されたのが相続分全体ではなく、特定の不動産の持分に過ぎない場合は、相続分取戻権は認められていません。

この場合、その第三者から同意を取り付けて、持分を買い戻すしか方法がないことになります。

 

5. 分筆して売却する

共有名義の不動産が土地である場合は、分筆して複数の単独名義の土地にすれば、それぞれの持ち主が自由に売却することができます。

 

5-1. 分筆して複数の単独名義の土地にする

分筆とは、1つの土地を2つ以上の土地に分けることです。分筆された土地は、それぞれに所有権がある2つ以上の土地に変わります。共有名義の土地を分筆するときは、それぞれの持分に応じた面積で分け合い、それぞれを単独の土地にするのが一般的です。

 

5-2. 分筆後の土地の価値に注意する

分筆する際には、いくつか気を付けるべき注意点があります。「接道の義務」を満たさない土地は宅地として使用することができず、大幅に価値が下がります。さらに、角地を分筆する場合には、路線価の違いから、分け方によって土地の価値に違いが出る場合があります。

 

5-2-1. 土地の形状

建築基準法第43条の規定により、建物の敷地は幅4メートル以上の道路に2メートル以上接していなければなりません(道路についての規定は第42条)。これを「接道の義務」といいます。

土地の形状が長方形で、一辺を道路に接しているような場合は、比較的分筆が容易です。しかし、土地が細長いなど、特殊な形をしており、道路にギリギリ2メートルしか接していないような場合、分筆が困難になります。

 

5-2-2. 路線価の違い

角地で路線価の異なる道路に2方向以上接道している場合は、分筆方向に注意が必要です。角地なら縦に分割しても横に分割しても、2本の道路のどちらかに接しますが、分け方によって土地の価値が変わります。

例えば、角地の西に路線価30万円/㎡の道路、南に路線価25万円/㎡の道路が接しているとします。2つの土地が路線価の高い道路に接するように、東西方向の線で分筆すると、路線価の高い角地と、同じ路線価の隣地ができあがります。

一方、2つの土地が路線価の低い道路に接するように、南北方向の線で分筆すれば、路線価の高い角地と、路線価の低い隣地ができあがります。この場合、東西方向の線で分筆した方が、土地の価格が高くなります。

 

5-3. 分筆作業の流れ

一般的な分筆作業の流れを説明していきます。高額な機械を用いる測量以外の登記の部分は、自分で行うこともできます。

① 測量して境界を確定する
土地の境界の位置がはっきりしていないと分筆登記はできないため、境界確定測量を行います。

境界確定測量では、様々な資料を参照し、現況から境界の位置を計算し位置を推定します。さらに、推定した位置について、その土地に隣接する全ての土地所有者と立ち会いを行います。推定した位置を確認し、境界の位置に問題なく、土地所有者と合意に至った場合、土地所有者から署名と押印をもらい、境界標を設置します。

土地境界確定測量は、土地家屋調査士に依頼するのが一般的ですが、費用は土地の大きさや形状、立ち会いを行う人数により大きく異なります。30万円以上はみておいた方がいいでしょう。

② 分筆登記申請
分筆しても土地の権利は共有名義のままなので、分筆登記は共有者全員で行う必要があります。

分筆登記を行う土地の境界や境界線、分筆する境界標を含んだ全ての境界標を表した地積測量図を、その土地を管轄する登記所(法務局・支局・出張所)で取得します。それに加えて、申請書を作成し、筆界確認書(境界確認書・境界の同意書・境界の協定書)などの添付書類を付けて、登記所に申請します。

③ 所有権移転登記
分筆登記直後は、分筆後の土地1つずつが、共有者全員の名義になっています。

分筆した土地の持ち主が変わった場合、法的にその人の所有物とするためには、所有権移転登記を行う必要があります。この手続きをしていないと、第三者の所有権が優先されて土地を取られる危険性があります。

共有名義の土地を分筆した場合、それぞれの土地の持分も分筆前と変わりません。従って、それぞれの土地の持分を交換(所有権移転)すると、単独名義の土地にすることが可能です(共有物分割といいます)。

所有権移転登記を自分で行う場合、登記申請書、登記識別情報、印鑑証明書、住民票、固定資産評価証明書などを用意します。不明な点は、あらかじめ法務局に問い合わせておきましょう。司法書士に頼む場合は、委任状も必要です。

費用は土地価格の0.4%に相当する登録免許税と、司法書士報酬5万円程度とされています。

参考サイト
法務局 不動産登記申請手続

 

6. 売却代金を持分割合に応じて分配する

「持分を売却する」と「分筆して売却する」は、共有名義人の間で土地の売却について意見が割れている場合に多く取られる方法です。それに対して、共有名義人全員が土地の売却に賛成している場合、土地を売却した後に、代金を持分割合に応じて分配するという方法を取ることが可能です。

 

6-1. 名義人全員が売主となる

共有名義の土地を売る場合、原則として、全員が売主となって、合同で売る手順になります。手続きには共有者全員が立ち会って、印鑑証明、住民票、本人確認書類などをそれぞれ用意し、売買契約書に署名と実印での押印をします。

 

6-2. 代表者が売却する場合は委任状が必要

しかし、全員を集めて契約や決済などの手続きをしたくても、日程が合わない、遠方でなかなか来られないなど、難しい場合もあります。その場合には、来られない方からの委任状を用意すれば、代表者が手続きをすることができます。

委任状があると、委任状で与えられた権限の範囲内において、本人に代わって売却手続きが可能になるためです。極端な場合、共有人全員(代表する人を除く)が1人に全権委任する委任状を作成すれば、1人でも売却手続きを行うことができます。共有人全員の委任状があれば、不動産会社に売却を任せることもできます。

 

6-3. 委任状があっても所有者の意思確認は必要

委任状と添付書類のすべてが揃い、手続きする上では問題のない状態であっても、委任した共有者本人の売却意思は確認されます。不正な委任状で勝手に売却されることを防ぐためです。

 

6-4. 委任状に記載する内容

「委任」とは、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に頼み、相手方がこれを承諾することにより成立する契約をいいます。本人のために意思表示をする者(当事者の代わりに法律行為をする人)を代理人と呼びます。

代理委任によって不動産を売却する場合は、委任状が必要となります。法律上必要というよりは、トラブルを回避するため、実務上必要だといえるでしょう。

代理権というのは意思決定が可能という強烈な権利を他人に与えるため、トラブルになることも少なくないからです。後から裁判になることも多く、その際、書面の交付・作成がなされていない場合は、関係当事者が多大なる損害を被ります。

民法では、口頭で言っただけでも代理権は成立しますが、後でトラブルになった場合、書面がないと代理権の範囲を証明することができません。例えば、代理人が本人の指示を勘違いして、本人が意図した以上の越権行為を行ったとします。

お互いに自分が正しいと思っても、書面という証拠がなければ証明することができません。本人と代理人の意見が食い違うと、その代理人に権限があると信じて取引を行った相手方にまで被害が及びます。従って、通常、代理による売却は本人から代理人への委任状を必須としているのです。

委任状のポイントとしては、付与する権限を絞り明確化することです。白紙の委任状などは何でも出来てしまうので、決して渡してはいけません。これから、委任状に記載するべき内容について、解説していきます。

 

6-4-1. 委任者の住所氏名と受任者の住所氏名押印

委任者の住所氏名と受任者の住所氏名押印が必要です。委任状の下部に以下のように書くことが多いです。委任状の押印については、「実印」で行います。

平成○○年○月○日

甲(委任者) 住所 ○○○○○○○○○○○○

氏名 ○○○○ 印

平成○○年○月○日

乙(受任者) 住所 ○○○○○○○○○○○○

氏名 ○○○○ 印

 

6-4-2. 委任者が受任者に委任する旨

例えば、委任状の最初の部分に、「委任者○○○○(以下「甲」という。)は、受任者○○○○(以下「乙」という。)に対し、甲所有の下記不動産を下記条件で売却することを委任し、その代理権を付与する。」と記述するとします。

この場合、「委任者○○○○は、受任者○○○○に対し、~することを委任し、その代理権を付与する。」の部分が、委任者が受任者に委任する旨を表していることになります。

 

6-4-3. 受任者に委任する権限

上記の例では、「甲所有の下記不動産を下記条件で売却すること」が、受任者に委任する権限の内容になります。委任状の中央部分に、以下のように細かい条件を記述していきます。

売却条件

⑴売買価額 金○○○○万円

⑵手付金の額 金○○○○万円

⑶引渡の予定日 平成○○年○○月○○日

⑷違約金の額 売買価額の10%相当額以上で、乙が買主と協議して定める。

⑸公租公課の分担起算日 引渡日

⑹金銭の取扱い

⑺所有権移転登記申請手続等

⑻ その他の条件

 

6-4-4. 土地の表示

売買物件の表示と登記簿上の記載事項は不動産売買契約書の中でも最も注意してチェックする必要があります。最新の登記簿謄本または登記事項証明書(電算化済みの法務局の場合)を取得し、物件の表示や所有者欄の記載に誤りが無いか確かめておきます。

以下に、売買物件の表示の例(土地と建物の場合)を紹介します。

(売買物件の表示)
土 地 所 在 地 ○○県○○郡○○町字○○
地  番 ○○○○番○
地  目 原野
面  積 ○○○㎡

建 物 所 在 地 ○○県○○郡○○町字○○  ○○○○番地○
家屋番号 ○○○○番○
種  別 居宅
構  造 木造スレート瓦葺き屋根弐階建
面  積 ○○○.○○㎡

(登記簿上の所有者の住所、氏名)
土 地 住  所 ○○県○○郡○○町字○○  ○○○○番地○
氏  名 山田太郎

建 物 住  所 土地に同じ
氏  名 土地に同じ

委任状の場合だと、単に「売買物件の表示 ○○○○○○○○○○」と、簡略な記述で済ませることもあります。

 

6-5. 委任状の添付書類

委任状の添付書類として、「印鑑証明書」と「住民票の写し」もあわせて用意します。さらに、犯罪収益移転防止法により本人確認が必要となります。

 

6-5-1. 印鑑証明書

印鑑登録証明書(印鑑証明書)を初めて取る方は、先に「印鑑登録」をしなければ取得することができません。三文判ではないオリジナルの印鑑をあらかじめ登録しておきましょう。

印鑑証明書を発行するには、印鑑登録の際に取得した「印鑑登録証」または「印鑑登録カード」を持参して市町村の窓口で申請します。手数料は数百円程度です。お住いの市町村のホームページで調べてみましょう。

参考サイト
東京都北区 印鑑登録証明書の請求方法
名古屋市 印鑑登録申請・印鑑登録証明書・その他の印鑑に関する申請(各種届出と証明制度のご案内)

 

6-5-2. 住民票の写し

住民票に記載されている事項(住民の方の氏名、住所、生年月日等)の写しのことです。この住民票の写しは、住民の方の住所、世帯構成など住民の方の居住関係を公に証明するものです。市区町村役場で発行することができます。本人確認書類と印鑑、代理人申請の場合は委任状も必要です。

マイナンバーカード(又は住民基本台帳カード)を利用して全国のコンビニエンスストア等のキオスク端末(マルチコピー機)から取得できる「コンビニ交付」というサービスもあります。

参考サイト
東京都北区 住民票の写し等の交付
コンビニ交付

 

6-5-3. 本人確認書類

委任の話とは別になりますが、現在では不動産売買において犯罪収益移転防止法で本人確認が必要となります。不動産会社が仲介や代理を行っている場合には、本人確認書類を提出して、本人確認をしておきましょう。

本人確認書類は、マイナンバーカード、運転免許証、パスポート、外国籍の場合は在留カードなどが用いられます。

 

6-6. 登記簿上の住所と住民票の住所が異なる場合

所有者の登記簿上の住所が、現在の住民票上の住所と異なる時、どうすればよいでしょうか。このような場合には、登記名義人の表示の変更の登記をして、登記簿上の昔の住所を現在の住所に変更した上で、所有権移転などの登記をすることになります。

 

6-6-1. 住所変更登記が必要

住所変更登記をする場合、登記名義人表示変更の登記を行い、添付書面として、登記簿上の住所とつながりの分かる住民票(住民票の写し)を提出する必要があります。登記申請書に添付する書面(添付情報)は原本の添付が原則なので、「住民票の写し」等についてもその証明書の原本を添付する必要があります(コピーは不可)。

参考サイト
法務局 不動産登記の申請書様式について

 

6-6-1-1. 住所移転の履歴が必要な場合は戸籍の附票が便利

何度も住所移転を繰り返している場合は、住所移転の履歴の提出が必要になります。そのような場合に便利なのが、戸籍の附票という、住所変更の変遷が記録された書類です。戸籍の附票は、本籍地の役所で取得することができます。

問題となるのが、住所が何度も変わっていて、本籍地も移転しているような場合です。この場合、登記簿上の住所の移り変わりが現在の本籍地で取得できる戸籍の附票で追い切れなければ、旧本籍地において戸籍の附票を取得しなければなりません。

しかし、戸籍の附票は、転籍などがあって除票となってしまうと、基本的に5年間しか保存してくれません。保存期間が切れてしまった場合、可能な範囲で現在の住民票ないし戸籍の附票や除票を用意します。

さらに登記簿上の住所に居住していないことの証明である不在住証明書を取ることになります。出来れば、同じようにそこに戸籍がないという証明書である不在籍証明書も取得します。

 

6-7. 相続直後で登記済みの場合

土地などの不動産を相続する場合、相続直後は、遺言などがなければ相続人全員が法定相続分に応じて、遺言があればそれに従って、相続する権利を持っています。しかし、共有名義になってしまうと、売却するのに手間がかかります。

そのため、遺産分割協議で売却することが決まった場合は、誰か代表者1人の名義で登記して、売却した後に代金を分配する、「換価分割」という方法が使われます。

 

6-7-1. 換価分割を使うと便利

換価分割では、本来は共有名義で登記されるはずの土地を、代表者の単独名義にしてしまいます。実質的な名義変更が代表者への贈与、代金の分配が各相続人への贈与に該当しそうに思われるかもしれませんが、相続時の換価分割では贈与とはなりません。

このため、相続税と贈与税が二重にかかることはありません。

 

6-7-2. 税務署への申告用に遺産分割協議書を用意する

制度上は贈与税の対象にはなりませんが、税務署に疑われる可能性もあります。遺産分割協議書などに換価分割であること、手続上の便宜から代表者1人の単独名義にすることを明記して、税務署に理由を説明できるようにしておきましょう。

 

6-7-3. 相続時以外に誰かの名義に変更すると贈与税が必要となる

共有名義の場合、共有名義人同士で持分を売買しなくても、誰か1人の名義に変更してから、他の方に売ってお金を分けたほうが楽だと思うのではないでしょうか。しかし、相続が絡まない状況で単に名義変更してしまうと、それは贈与とみなされて贈与税の対象になります。

贈与税の税率は高く、共有者同士の売買では代金が発生しないのに税金だけかかるため、贈与にすると結局損をしてしまいます(年間で110万円以内の贈与なら非課税です)。

贈与税がかからないのは、あくまで相続時に行われた換価分割の場合です。例えば、売却代金の分配が遺産分割協議の割合と違う割合でされた場合でも、分配金を過少に受け取った相続人から、過大に受け取った相続人への贈与になると考えられます。

 

6-8. 売却で得た利益もかかった経費も持分割合でわける

換価分割によって、誰か代表者1人の名義で登記して売却した後、売却した利益を持分割合で分け合います。同様に、売却するためにかかった一連の費用も、持分割合で分け合います。

 

7. 共有底地権を売却する

共有名義の土地の上に建物が建っていて、土地と建物の所有者が別々の場合を考えてみましょう。底地権とは土地所有者が第三者に土地を貸し、地代収入を得ている土地所有権のことです。

一般的に、底地権を持っている人のことを地主と呼びます。この場合、地主は土地を自己使用することはできません。

一方、借地権とは建物を建てるための土地利用権を指します。借地権の譲渡などをする際に、地主の承諾が必要になるなどの制約がかかります。

Aが地主で底地権を持っており、Bが借地権者としてその土地の上に建物を建てて住んでいるとします。Aが亡くなり、CとDの2人がAの底地権を相続し、共有底地権になっているとします。Cが共有底地権の自分の持分を売却したい場合、どうなるでしょうか。

底地の路線価における財産評価割合は30~40%であることが多いですが、第三者に売却する場合、この割合で売却できるかというと可能性はほとんどありません。買っても活用できない土地の権利だからです。底地の価値を最大限生かせるのは他の地主(共有名義人)と借地権者になります。

 

7-1. 共有名義人に買い取ってもらう

共有名義人のDが、共有底地権のCの持分を買い取る場合を考えます。結果的に、底地権を持っている人がDの1人になります。「Dが地主で底地権を持っており、Bが借地権者としてその土地の上に建物を建てて住んでいる」という、AがDに変わっただけのシンプルな状態に戻ります。

 

7-2. 借地人に買い取ってもらう

次に、借地権者のBが、共有底地権のCの持分を買い取る場合を考えます。Bは、土地に対して、Cの持分の割合の所有権を、Dと共有して持つことになります。

上記の例で、共有名義人のDが、共有底地権のCの持分を買い取って、D単独の底地権になってから、Bが底地権を買い取った場合はどうでしょうか。借地権者が底地権を購入すれば、自身の借地権と併せて所有権になるので、Bは土地と建物両方の所有者になります。

 

8. まとめ

今回の記事では、共有名義の不動産を売る方法について、考えられるケースや、具体的に気を付けるべき点などを見てきました。相続、夫婦や親子で資金を出し合って住宅を購入した場合など、不動産が共有名義になるケースはよくあります。

共有名義人同士で、共有している不動産の活用方法について意見が一致している場合や、共有名義人同士の仲が良好な場合は、あまり問題にはならないでしょう。

しかし、兄弟仲が悪いのに相続で共有名義人同士になった場合や、住宅を共有名義で取得した夫婦が離婚する場合などは困難になるケースがあります。

共有名義には、特別控除を人数分受けられるというメリットがある一方、権利関係が複雑になり、不動産の活用や売却が困難になるというデメリットもあります。共有名義の土地の売却には、原則として共有名義人全員の同意が必要になります。

当事者間の話し合いで解決できない場合は、弁護士などの専門家に相談することも必要になるでしょう。