不動産を任意売却した場合の所得税に関する基礎知識

任意売却を行った場合、売却金額によっては、所得税を負担する必要があるケースがあります。

任意売却は通常不動産を早期に現金化するために行うものですが、売却益が発生する場合には、売却代金のうちのいくらかは納税のために取っておかなくてはならないことに注意が必要です。

今回は、不動産を任意売却した場合の所得税(譲渡所得税)の負担について解説させていただきます。

1. 不動産を任意売却した場合にかかる譲渡所得税とは

所得税は、「もうけ」が出たときに発生する税金です。

そのため、不動産の任意売却によって生じる所得税(譲渡所得税)についても、売却益が発生した場合に限って負担することになります。

つまり、不動産を買ったときの値段よりも高く売れたときにのみ、譲渡所得税は発生するというわけですね。

居住用に使っていた不動産などの場合は、多くの場合で購入時よりも値段が下がっているほか、後で説明させていただく特別控除を適用してもらうことができますから、任意売却で譲渡所得税が発生するケースは少ないといえるかもしれません。

一方で、不動産投資などのために購入した不動産を任意売却するようなケースでは、譲渡所得税が発生するケースは必ずしも珍しくありません。

以下では譲渡所得税が発生する場合の、具体的な計算方法や納付の仕方について解説させていただきます。

2. 譲渡所得税の計算方法

譲渡所得税の計算方法は以下の通りです。

売却金額-(取得費+譲渡費用)=課税譲渡所得の金額

譲渡所得の金額-特別控除=課税譲渡所得

課税譲渡所得×税率=譲渡所得税

なお、居住用の不動産(マイホーム)を売却した場合には3000万円の特別控除を適用することが可能です。

そのため、居住用不動産の場合の譲渡所得税の計算方法は以下の通りです。

売却金額-取得費(減価償却除く)-特別控除3000万円=課税譲渡所得

課税譲渡所得×所得税率=譲渡所得税

譲渡所得税の税率は不動産の所有期間によって異なる

税率については、不動産の所有期間が何年間だったか?によって以下のように異なります(不動産売却で利益が出たときには所得税に加えて住民税も負担します)

不動産の所有期間が5年以下:所得税30.63%・住民税9%(合計39.63%)

不動産の所有期間が5年超:所得税15.315%・住民税5%(合計20.315%)

不動産の所有期間が5年以下の場合には得た利益の4割程度を税金として持っていかれてしまうことになりますから注意しましょう。

所得税計算の具体例

ここまで説明させていただいた計算方法に基づいて、以下のようなケースを用いて譲渡所得税の計算をしてみましょう。

  • 売却金額:8000万円
  • 購入金額:4000万円
  • 建物の減価償却累計額200万円
  • 取得費用:300万円
  • 譲渡費用:100万円
  • 不動産の所有期間は6年間で、居住用とします

8000万円-(4000万円-200万円+300万円+100万円)-特別控除3000万円=800万円

800万円×20.315%=162万5200円

所得税と住民税の合計で121万8900円の税金を負担する必要があります。

不動産の所有期間の判定方法

また、所有期間というのは「譲渡を行った年の1月1日時点」で計算を行います。

例えば、平成30年5月31日に不動産売却を行った場合には、平成30年1月1日時点で不動産の所有期間が5年間を超えているかを判断し、短期譲渡所得と長期譲渡所得のどちらに該当するかを決めます。

この場合に、不動産を購入したのが平成24年12月31日だったとすると、平成30年1月1日時点で所有期間は5年間超ということになります(平成29年12月31日で所有期間はちょうど5年間です)

一方で、購入日が平成25年1月1日以降だったとすると、所有期間は5年以内という扱いになります。

不動産の所有期間が5年超となるか否かによって譲渡所得税の負担は大きく変わってきますから注意しましょう。

10年超所有しているマイホームについての特例

上で説明させていただいた譲渡所得税の計算の例外として、10年以上住んだマイホームについては3000万円控除だけでなく「居住用財産を売却した場合の軽減税率の特例」も適用してもらうことができます。

この特例の内容をごく簡単に説明すると、所得税率を10.21%(住民税は4%)に軽減してもらうことができるというものです。

ただし、この特例税率が適用されるのは課税される所得金額の6000万円以下の部分のみです。

例えば、譲渡所得の金額が8000万円となった場合には、所得税額は612万6000円(6000万円×10.21%)+306万3000円(2000万円×15.315%)=918万9000円ということになります。

家屋の所有者と敷地の所有者が異なる場合

家屋敷地の所有者と家屋の所有者が異なる場合に、上の「居住用財産を売却した場合の軽減税率の特例」を適用してもらうためには、以下のような要件を満たす必要があります。

  • 敷地の所有者は家屋の所有者とともに家屋に同居していること
  • 家屋と敷地の所有者が違う場合、その人たちが親族関係にあること、かつ生計が一であること
  • 不動産の家屋と敷地が同時に譲渡されていること

具体的なケースとしては、敷地は親の所有で、その上に二世帯住宅を建てて同居しているような場合が該当するでしょう。

敷地の所有者と建物の所有者が別居している場合にはこの特例を適用してもらうことができないので注意してください。

3. 譲渡所得税の納税方法

所得税は毎年2月16日~3月15日の間に確定申告を行い、3月15日までに納税を行います。

確定申告というのは、ごく簡単に言うと税務署に対して「私の所得はこれだけで、そこから計算すると税金はこれだけです」と報告する手続きのことです。

確定申告は税務署でもらえる確定申告書類に書きこんで提出することで行いますが、インターネットを通じて申告を行うことも可能です。

確定申告は自力で行うことも不可能ではありませんが、特に不動産の場合には専門的な知識が必要となりますので、場合によっては不動産にくわしい税理士などの専門家のアドバイスを受けるのが良いでしょう。

なお、確定申告の時期には税務署の窓口で納税相談などを受け付けていることがほとんどですから、税理士に相談する前に相談してみるとよいでしょう(ただし、確定申告時期にはものすごく込み合います)

住民税の納税方法

なお、住民税については所得税の確定申告の内容に基づいて、役所が自動的に計算して6月ごろに納付額の決定通知書と納付書を送ってきます。

住民税は第1期~第4期の4回に分けて納付します(それぞれの納付期限は以下の通りです)

第1期:6月末日

第2期:8月末日

第3期:11月末日

第4期:翌年1月末日

なお、サラリーマンの方の場合、住民税については勤務先の会社に特別徴収(お給料から天引き)の形で納税してもらうことも可能です。

所得税の確定申告書類に普通徴収と特別徴収の選択項目がありますから、希望するほうにチェックを入れるようにしましょう。

住民税の特別徴収を選択した場合、自分で納税を行う手間を省く(勤務先に代わりに納付してもらう)ことができるわけですが、その場合には当然勤務先に給与収入以外の収入があったことを知られてしまうことになります。

勤務先で副業を禁止しているような場合には「不動産投資などの副業をやっているのでは?」とトラブルとなるようなことも考えられますので注意が必要です。

任意売却を行った場合の納税手続きのスケジュール

以上をまとめると、例えば平成30年5月31日に任意売却を行った場合の税金納付のスケジュールは以下のようになります。

平成30年5月31日:任意売却を行った

平成31年2月16日~3月15日:確定申告を行い、住民税に関する事項欄に普通徴収を選択し、3月15日までに所得税を納付

平成31年6月ごろ :住民税の決定通知書と納付書が届く

平成31年6月末日 :第1期の住民税を納める

平成31年8月末日 :第2期の住民税を納める

平成31年11月末日 :第3期の住民税を納める

平成32年1月末日 :第4期の住民税を納める

もし納税の期限までに納税を行わない場合、延滞税や不納付加算税というペナルティが課せられてしまいます(期限までに確定申告を行わなかった場合にも無申告加算税というペナルティが課せられます)

不動産売却によって発生する税金は金額的にも大きいことが多いため、これらのペナルティとしての税金負担も大きな金額となってしまう可能性が高いです。

税金の納付は期限までに必ず行うようにしましょう。

4. 譲渡所得税が非課税になるケースはあるか

上では譲渡所得税が課税される原則的なケースについて説明をさせていただきましたが、任意売却で譲渡益が発生していても譲渡所得税が課税されない特殊なケースがあります。

ごく簡単に言うと、住宅ローンの支払いができなくなり、資力を喪失して債務弁済することが著しく困難である場合にやむを得ず任意売却を行うような場合には譲渡所得税は課税されません。

逆に言うと、必ずしもローン返済が不可能な状態でないときに任意売却を選択した場合には譲渡所得税の負担が発生することになります。

具体的には、所得税法9条の「非課税所得」に該当するときには譲渡所得税は発生しません。

ここでいう非課税所得とみなしてもらうためには、以下の3つの条件を満たす必要があります。

①債務超過の状態であること

ごく簡単に言うと、不動産を含む自分のすべての財産をお金に換えても住宅ローンを返済できない場合です。

このような場合に譲渡所得税を課税してもほとんどのケースで納税を期待できませんので、譲渡所得税を非課税とする特別な扱いが認められています。

②任意売却をしない場合、競売手続きが行われるのを避けられないこと

任意売却が行われる場合、ほとんどのケースで抵当権者は競売の申し立てを行っていると思われます。

このような場合には、任意売却で譲渡益が発生しても譲渡所得税の負担義務は生じないという扱いになっています。

なお、ローンの貸し付けを行った金融機関のみならず、代位弁済を行った保証会社によっても競売申し立ては行われる可能性があります。

③任意売却による売買代金のすべてがローン返済にあてられること

任意売却によってもとの不動産所有者が得ることになる売買代金が、すべて住宅ローンの返済に充てられるような場合には、譲渡所得税は課税されないことになっています。

取得した代金の一部を生活費などにあててしまうとこの条件に該当しないことになりますから、注意が必要です。

5. 譲渡所得税の他に課税されるものは何か

上でも説明させていただいた通り、譲渡所得税が発生する場合には住民税が同時に発生します。

住民税の計算については所得税の確定申告書内容に基づいて市役所が計算し、納付金額を通知してくれます(自分で計算する必要はありません)

また、平成25年から25年間に生じた所得税については、復興特別所得税として2.1%が加算されます。

上で所得税の税率を長期譲渡所得に該当する場合は15.315%、短期譲渡所得に該当する場合には30.63%と説明させていただきましたが、これは本来の税率である15%(30%)に復興所得税2.1%を加算した税率です。

なお、復興所得税は東日本大震災からの復興のための財源として用いられる税金で、譲渡所得税以外のすべての所得税で負担が必要になります。

6. 任意売却後の譲渡所得税対策における注意点

任意売却を行った場合、納税(譲渡所得税)のための資金については住宅ローンの債権者には分配することなく手元に置いておくことが認められるのが普通です。

しかし、債権者が銀行などである場合には、この納税資金については定期預金などの形で預金担保とされてしまうケースが多いです。

数か月後には納税のためになくなる資金とはいえ、一時的に手元に現金を確保できると考えていたら、銀行に預金担保にされているため使えない…という状況になる可能性があるため、不測の事態とならないように注意をしておきたいところです。

7. まとめ

今回は、不動産の任意売却を行った場合に生じる所得税の計算方法について解説させていただきました。

不動産に関する取引は大きな金額が動くほか、税金の計算についてもかなり複雑になります。

普段から不動産取引について実務に慣れている方でない限り、不動産に詳しい税理士のアドバイスを受けながら手続きを行うのが良いでしょう。

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