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Category  税金対策

2018年10月02日 更新

農地に関わる税金の優遇措置とは?6つの特例と土地活用のコツ

土地の使い道にはさまざまなものがありますが、農地として土地を使うときには税金が安くなる特典がつくことがあります。

これは国の政策を反映している税軽減措置です。

国はできる限り農家の人たちを保護しようと考えているため、さまざまな税金の優遇措置をつくって農地としての土地利用を促進しようと考えているわけですね。

通常の不動産取引では認められない税コストの軽減が認められますから、条件に該当する場合にはこれらの制度を活用するにようにしてください。

なお、実際に不動産取引に関する税金の負担額を計算する際には、専門の税理士にアドバイスを受けるのが適切です。

今回は、土地を農地として利用する場合に認められる税金の優遇措置について解説させていただきます。

1. 農地に関する税金には免除などの特例がいくつもある

所有している土地を農地として使っている場合には、税金負担に関しての特例が認められていることがあります。

具体的には、以下のようなケースで税金の優遇措置が認められます。

  • 相続税
  • 贈与税
  • 譲渡所得税
  • 登録免許税と不動産取得税
  • 固定資産税
  • 東日本大震災に関する特例措置

以下、これらの具体的な内容について順番に解説させていただきます。

2. 相続税

相続税は、財産を所有していた人が亡くなった場合に、その財産の相続人となる人に対して課税される税金です。

相続税は残された遺産の評価額に応じて負担しなくてはなりませんので、相続税の計算においては「遺産がどのぐらいの金額として評価されるのか」がとても重要になります。

なお、遺産の金額が大きくなれば大きくなるほど、相続税の負担も大きくなります。

特に、土地や建物などの不動産は金額も大きくなりますから、相続税の負担がどの程度発生するか?は重要な問題です。

土地の場合は「路線価×土地面積×補正率」で、建物の場合は固定資産税の納税通知書に記載されている「固定資産税評価額」で相続税の課税対象となる金額が計算されます。

このとき、土地を農地として使っている場合には、例外的な措置として以下のような相続税の納税猶予措置が認められています。

2-1. 相続税納税猶予制度

遺産に農地が含まれている場合には、その農地については以下のような納税猶予を認めてもらえます。

この猶予は土地を農地として使う限り続きますので、実質的に相続税を負担する必要がなくなります。

この相続税の納税猶予を受けるためには、亡くなった人に関する要件、相続する人に関する要件、さらに相続する農地の状況に関する要件をそれぞれ満たす必要があります。

詳細な条件は不動産相続に関する実務にくわしい税理士に確認していただく必要がありますが、おおまかにいうと生前に農業を営んでいた人、あるいは土地を農業を営む人に貸していた人が、引き続き土地を農業を営むために使う形で相続を行う際に、この納税猶予制度は適用してもらえます。

3. 贈与税

贈与税は、財産の贈与が行われた場合に課税される税金で、財産をもらった側の人が負担します。

贈与税は、1年間に受け取った財産の合計額から、110万円の基礎控除を差し引きした金額に対して、贈与税率をかけて計算します。

計算式にすると以下のようになります。

贈与税=(1年間で受け取った財産の合計額-110万円)×贈与税率

年間で110万円までの贈与であれば贈与税は非課税となりますので、例えば5人の子供に対して年間100万円を30年間にわたって贈与し続けた場合には、トータルで1億5000万円だけ遺産を非課税で分配することが可能になります。

3-1. 相続時精算課税制度

贈与税計算の原則的なルールは上の通りですが、贈与は相続税対策として行われることが多いため、贈与税の納税を将来的に相続が発生した時にまで待ってもらえる制度が認められています。

これを相続時精算課税制度といいます。

具体的には、65歳以上の親が20歳以上の人で、将来的に相続人となる人に対して贈与を行った場合に、一生涯で2500万円までは贈与税は非課税としてもらえます。

ただし、あくまでも課税を待ってもらえるだけで、免除されるわけではないですから、生前に贈与を行った財産の合計額は、相続時に遺産の金額にプラスして計算を行う必要があります。

3-2. 納税猶予制度

贈与税についても、贈与の対象が農地である場合には、相続税と同様に納税猶予が認められます。

相続税の猶予について亡くなった人、相続する人、農地そのもの、の3つに関する要件があったように、贈与税の納税猶予を受けるためには贈与者の要件、受贈者の要件、農地そのものについての要件を満たす必要があります。

具体的には贈与を行った時点からさかのぼって3年以上は農業を営んでいる必要があるほか、農業用地に使っている土地について一括して贈与を受ける必要があるなどの条件があります。

こちらも適用を受けるための要件については土地活用に詳しい税理士からアドバイスを受けるようにしてください。

4. 譲渡所得税

自分が所有している財産を他の人に売り渡した場合、買った時よりも売った時の方が高い値段で売れたら譲渡益が発生することになります。

この譲渡益に対しては譲渡所得税が課税されます。

通常、譲渡所得税の計算は事業所得や給与所得などの別の所得と合算して計算しますが、不動産に関する譲渡所得については分離課税の形で計算と申告を行う必要があります。

売却した財産が不動産である場合には、譲渡所得税の計算は「(収入金額-取得費-譲渡費用)×所得税および住民税率」で計算します。

4-1. 譲渡所得の特別控除

不動産の譲渡所得税の計算は原則的に上の計算式で行いますが、譲渡する不動産が農地である場合には、特別控除が認められます。

具体的には、上で紹介させていただいた譲渡所得税の計算式にくわえて、「1500万円または800万円の特別控除」を認めてもらえます。

800万円の特別控除が認められるのは、ごくおおまかにいうと市町村長や都道府県知事、あるいは農業委員会からのあっせん等により別の農業者に農地を譲渡した場合です。

1500万円の特別控除が認められるのは、農地中間管理機構や農地利用集積円滑化団体といった公的団体に対して農地を譲渡した場合です。

計算式にすると、以下のようになります。

(収入金額-取得費-譲渡費用-特別控除)×所得税および住民税率

なお、所得税や住民税は収入金額が取得のために要した費用を上回った時、つまり売買益が出て儲かった時にのみ課税される税金ですから、上記の計算式「収入金額-取得費-譲渡費用-特別控除」がゼロまたはマイナスとなる場合には税金は課税されません。

4-2. 特定事業用資産の買替え・交換の特例

農業を営むために使う土地を買い換えたり、交換したりするときにも、税負担上有利なルールがもうけられています。

具体的には、①譲渡収入金額が取得価額よりも下回る場合には、譲渡収入金額の8割超の部分、②譲渡収入金額が取得価額を上回る場合には、取得価額の8割超の部分について、譲渡所得税が課税されるというものです。

なお、交換は買い換えと同じとみなされます。

単純化して言うと、譲渡収入のうち、買い替えのために要した金額の8割については今回は課税なしとしてもらえます。

現在使っている土地から、収益性がより高い土地に移りたいときに税負担を小さくしてもらえる方法ですから、活用しましょう。

5. 登録免許税と不動産取得税

不動産を取得した時には不動産取得税、さらにその不動産を法務局で登記するときには登録免許税を負担しなくてはなりません。

登録免許税、不動産取得税ともに、「購入した不動産の固定資産税評価額×税率」で計算します。

これら2つの税金についても、取得した不動産が農地である場合には特例措置が認められています。

5-1. 登録免許税及び不動産取得税の軽減

平成30年現在、登録免許税の税率は2%(軽減税率の適用で実質1.5%:平成31年3月31日まで)となっていますが、農地を取得した場合には税率は1%としてもらえます。

不動産取得税については固定資産税評価額の金額を3分の2で計算した税額にしてもらえます。

6. 固定資産税

不動産は、所有しているだけでも固定資産税という税金が発生します。

固定資産税の計算は「固定資産税評価額×税率1.4%」で計算しますが、所有している不動産が農地である場合にはここでも特例措置が認められています。

具体的には、農地については次の2つの特例が認められています。

・固定資産税の負担調整措置
・農地中間管理機構に貸し付けた農地の課税軽減

具体的には一般農地、市街化区域農地、宅地介在農地の三種類の区分に従って「負担調整率」という割合を適用し、固定資産税の負担額を小さくしてもらえる仕組みとなっています。

7. 東日本大震災にかかわる特例もある

東日本大震災によって被災した農業を営んでいた人が、代替用の農地を取得する際の税負担が小さくなる特例が認められています。

具体的には登記時の登録免許税、契約書等を作成する際の印紙税、不動産取得税について特例が認められます。

なお、特例が適用されるのは平成23年3月11日~平成33年3月31日までの間に行われる不動産取得や登記、契約書作成に限ります。

7-1. 登録免許税

東日本大震災の被災者が、被災した農地の代わりにつかう農地を購入した場合には、被災した農地の免責の1.5倍を超えない部分について、所有権移転のための登記や抵当権を設定するための登記の登録免許税が免除してもらえます。

登録免許税は本来は「不動産の固定資産税評価額×税率2%(軽減税率で1.5%)」で計算しますが、この負担が免除となるので非常にメリットの大きい特例措置といえます。

被災した人が亡くなっている場合には、その人の相続人となる人がこれらの農地を取得する際に適用してもらうことが可能です。

なお、この特例を受けるためには、農業のために使っていた土地が震災によって被災したことを証明する証明書が必要になりますから注意してください。

7-2. 印紙税

本来であれば、契約書を作成したときには収入印紙を購入してきてその契約書に張り付けるという形で印紙税を負担する必要があります。

しかし、東日本大震災で被災した人が、被災をきっかけにして農地を他人に譲渡したり、代替のための農地を購入したりする際に売買契約書や賃貸借契約書をつくったときには、特例として印紙税を負担しなくて良いという扱いになっています。

こちらも特例を受けるためには農地として使っていた土地が被災した旨を証明する証明書が必要となります。

7-3. 不動産取得税

東日本大震災の被災者が被災によって農地を使用することができなくなり、別の土地を使って農業を営む場合には、不動産取得税を軽減してもらえます。

被災以前につかっていた農地の面積と同じ広さまでであれば不動産取得税は課税されません。

被災以前につかっていた農地よりも広い農地を取得した場合には、不動産取得税の金額は以下の計算式で求めます。

不動産取得税の金額=取得価額(固定資産税評価額)×(1-被災以前の農地面積÷購入した農地面積)×不動産取得税率4%

東日本大震災の被災をきっかけとして農地を買い換えたりしたときには税金のコストを大幅に軽減できる仕組みとなっていますので、該当する方は必ずこれらの制度を活用するようにしてください。

なお、実際に申請を行う際の条件などについては専門の税理士に確認するのが適切です。

8. まとめ

今回は、不動産を農地として使う場合に認められる税金の優遇措置について解説させていただきました。

本文で解説させていただいた通り、農地にはさまざまな税金の優遇措置が認められています。

現在農地として不動産を所有している方や、これから農業を始めることを検討している方は、不動産取引にくわしい税理士と相談しながら土地の活用方法を検討してみてください。