事例紹介

Category  不動産

2018年10月20日

気になる農地の税金優遇!農地が安いというのは本当なのか?

農地の税金が安い、手持ちの土地がある時は農地にした方が良いといった話を耳にすることがありますが、本当なのでしょうか?また、なぜそのような話が出るのでしょうか?

そこで今回は、農地の税金優遇に関するあれこれをご紹介したいと思います!

1.農地は税金が優遇されるって本当?

皆さんは、「農地は安い」「土地を農地にすると税金が安くなる」という話を耳にした事がありますか?

その答えは、基本的にイエスです。

ではいったい何故、どのようにして農地が安くなるのでしょうか。

1-1.農地の税制特例とは

農地が安い、農地を持つと税金が安くなると言われる理由は、農地に税制特例というものがあるからです。

理由は後ほどご説明致しますが、日本国内のあらゆる土地の地目の中でも、農地は群を抜いて税が優遇されています。

財あるところに必ず税は存在します。特に不動産という財産にはその規模の大きさゆえ、必然的に高額な税金がつきまとってきます。不動産取引では、購入や売却、相続・贈与、住宅ローン組みなどでの抵当権設定、所有権を主張するための登記など隅から隅まで税が張り巡らされ、ちょっとした動きで数万円以上の課税がなされるのは珍しくありません。

そんな中でも農地には、たくさんの税制特例という抜け道が用意されており、これらを上手く活用することで場合によって非常にコストを抑えることができるのです。

1-2.農地は税金が優遇される理由

それではなぜ、農地の扱いでは税金が優遇されるのでしょうか?

ここでは、近年問題となっている食料自給率の低下を避けて話す事はできません。

現在、日本の食料自給率はカロリーベースで40%を下回っています。つまり単純に考えると、私たちが普段口にしている食べ物の半分以上が外国から輸入された食品なのです。

食料を外国からの輸入に頼っていると、私たちの食生活はほとんど外国の事情に左右されてしまうこととなります。

国はこの事態を喫緊の課題としており、その対策の一環として土地の農地活用を推進すべく、税を優遇しているのです。

食べ物は、人間が健康に生活していく上でなくてはならないものであり、それも外国に輸入に依存せず国内産の食料を用い、地産地消を心がけねばなりません。そのためにも、日本の農業の衰退に歯止めをかけ、出来る限り自分たちの食料を自分たちで確保できるようそのベースを整える必要があります。

また農地の優遇にはもう一つ理由があります。それは、農地は宅地に比べ利益が少ないと一般に考えられるためです。

極端な話空き地を持っていたとして、そこを農地にするよりアパートにする方が儲かるかもしれないから、という風に考えていただいても構いません。

1-3.農地を利用した固定資産税減免による節税効果

続いて、「土地を農地にすると安くなる」という話の回答です。

この答えはおおむね正解ですが、場合によっては不正解です。

なぜこのようなあいまいな返事になってしまうかと言うと、一口に農地と言っても種類があるためです。

農地の節税効果というのは、農地の固定資産税が他の地目に比べて安くなるケースが多いため吹聴されてしまいがちです。

確かに農地の固定資産税特例は存在しますが、問題はその農地が「どこにあるのか」という点です。

現在、国内のあらゆる土地は以下のように分類されています。

市街化区域内

①特定市街化区域:大都市圏など最も都市化を進めていく地域

②一般市街化区域:上記以外で都市化を進めていく地域

③生産緑地:環境の保全を指定された地域

市街化区域外

④市街化調整区域:開発を制限し環境を守るべき地域

以上の4つの土地のうち、農地にすると固定資産税が安くなりやすいのは実は③④くらいです。その他のパターンですとあまり期待しない方が良いでしょう。

つまり、土地を農地にすると良いのはあくまで田舎や行政が指定した生産緑地の話であって、大都市のど真ん中に農地を構えたところで意味はあまり無いというのが結論です。全てがそうだと断言できるわけではありませんが、ほとんどの場合当てはまります。

話をより具体的にしますが、固定資産税というのは、その土地の不動産価額に税率をかけて計算されるものです。

不動産価額とは、その土地をいくらで取得したかではなく、評価額のことを指しています。通常、固定資産税の計算には固定資産税評価額を用います。

固定資産税評価額…毎年国土交通省が交付する公示価格(土地取引の指標となる)の70%前後に設定されている。自身の不動産の固定資産税評価額は毎年5月ごろに送付される納付通知書添付の課税明細書「価格」欄(市区町村による微妙に欄名やフォーマットが違う)もしくは役場に必要書類を提出し一定の手数料(一件につき300円ほど)を納めて交付される「固定資産税台帳」で確認することができる。

この評価額に、標準税率1.4%を掛けて計算を行い、固定資産税を算出します。

農地の評価方法には大きく2つ種類があり、上記の①~④の土地分類を使うと

①②…宅地並み評価

③④…農地評価

となります。

農地評価とは…農地利用を目的として売買実例価格を基準とし評価する方法

宅地並み評価とは…宅地(家屋を建てるための土地)の売買実例価格を基準として評価した価格から、造成費相当額を控除した価格

このように、市街化区域内に生産緑地でない農地を持っても固定資産税は宅地と大して変わらないことになります。また市街化区域内と言っても、土地が生産緑地となれば場合多くの条件をクリアしなければならず、その後の維持や厳しい規制を考えると大変です。

固定資産税が安くなるからと言って安易に土地を農地転用せず、よく検討するようにしましょう。

2.農地の税金優遇措置一覧

さて、それでは具体的に農地に関する税金優遇にどんなものがあるのか見ていきましょう。

ザッとリストアップすると、

農地を持つ 固定資産税 ①負担調整措置
    ②農地中間管理機構に貸し付けた農地の課税軽減
農地を売る 贈与所得税 ③贈与所得の特別控除
    ④特定事業用資産の買替え・交換の特例
農地を買う 登録免許税・不動産取得税 ⑤登録免許税及び不動産取得税の軽減措置
農地を継ぐ 相続税 ⑥相続税納税猶予制度
  贈与税 ⑦贈与税納税猶予制度
被災農地 印紙税、登録免許税、不動産取得税 ⑧東日本大震災に関する特例

 

以上のような特例が備えられています。

2-1.負担調整措置

前半で、土地を農地にしてもそこまで安くならないかもしれない、という話をしましたが、実際の固定資産税の計算ではこちらの特例を通して算出されることとなりますので、一度確認しておきましょう。

概要

固定資産税の計算の際、通常の「固定資産税評価額×1.4%」という方法ではなく、以下のように細かく条件ごとに分類して算出する特例です。

前半で土地分類した番号をそのまま使い、土地の評価方法別に分けて掲載します。

宅地並み評価

①特定市街化区域農地

宅地化農地として宅地と同じように計算がなされます。

ABいずれか少ない額

A : 評価額×1/3×軽減率×税率

B : (前年度の課税標準額+当該年度の評価額×1/3×5%)×税率

②市街化区域農地

土地の評価方法は宅地並み評価ですが、実際の課税方法は農地と同様です。

ABいずれか少ない額

A : 評価額×1/3×税率

B : 前年度の課税標準額×負担調整率×税率

農地評価

③④一般農地・生産緑地

ABいずれか少ない額

A:評価額×税率

B:前年度の課税標準額×負担調整率×税率

※特定市街化区域農地の特例

特定市街化区域農地においては、上記①Bの額が以下の式より下回る場合は、以下の式で算出された額が税額として採用されます。

(当該年度の評価額 × 1/3) × 2/10 × 税率

2-2.農地中間管理機構に貸し付けた農地の課税軽減

概要

当該機構に新しく貸し付けた農地の固定資産税が半分になります。

その貸し付けの長さに応じて以下の期間、この特例が適用されます。

15年以上の貸し付け…5年間

10年以上15年未満の貸し付け…3年間

適用要件

所有する全農地(10アール未満の自作地を残した全農地)をまとめて農地中間管理機構に10年以上の期間で貸し付ける

2-3.譲渡所得の特別控除

土地を売った額が買った時よりの額より大きい場合、その差額は譲渡所得として扱われ課税されます。

(収入金額-取得費-譲渡費用)×所得税および住民税率

税額は以上の式を基本として算出しますが、扱う不動産が農地の場合はこの特例が適用されます。

概要

売却する農地の条件によって、その譲渡所得から800万円または1,500万円が控除されます。

(収入金額-取得費-譲渡費用-特別控除)×所得税および住民税率

もし以上の計算の結果出た数値が0またはマイナスの場合は非課税、つまり譲渡所得税は課せられません。

適用要件

○800万円の特別控除となる場合

以下の①~③どれかに当てはまる場合です。

①勧告に係る協議、調停又はあっせんにより譲渡した場合

②農地中間管理機構又は農地利用集積円滑化団体に譲渡した場合

③農用地利用集積計画により譲渡した場合

○1,500万円の特別控除となる場合

以下のような公的団体に買い取れた場合は、1,500万円の特別控除対象となります。

農業経営基盤強化促進法に基づく買入協議により農地中間管理機構または農地利用集積円滑化団体に買い入れられた場合

2-4.特定事業用資産の買替え・交換の特例

農業用地を新しく買い替えたり交換したりする際、買い替えに要した金額の8割が非課税となる特例です。

概要

譲渡所得税の対象価額が、

①譲渡収入金額が取得価格よりも下回る場合…譲渡収入金額の8割超の部分

②譲渡収入金額が取得価格を上回る場合…取得価格の8割超の部分

となります。

適用要件

  • 取得する土地の面積が、原則として譲渡した土地の面積の5倍以内であること

※平成31年12月31日までの譲渡に限って、一定の農地への買換えの場合は10倍以内とされることがあります。

  • 農地を譲渡した年、その前年中、あるいは翌年中に当該農地を取得すること
  • 交換・買い替えする土地が双方事業用であること
  • 新しい農地の取得後1年以内に事業を始め、また続けること
  • 原則として譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年を超えていることです。※平成32年(2020年)3月31日までにした土地の譲渡については、この要件が停止されている。
  • 収用等、贈与、出資によるもの及び代物弁済としての譲渡ではないこと

2-5.登録免許税及び不動産取得税の軽減措置

いずれも不動産の購入時にかかる税です。登録免許税は不動産登記にかかる税で、通常は固定資産税評価額に税率2%(軽減税率:1.5%)、不動産取得税は4%(軽減税率:3%)をかけて計算しますが、不動産が農地の場合は以下の軽減措置が取られます。

概要

登録免許税…1%に軽減

不動産取得税…

課税標準(固定資産税評価額)が3分の2になる。

また、農地中間管理機構または農地利用集積円滑化団体が、農地売買等事業の実施により農地を買い入れた場合には徴収を猶予、5年以内に売り渡した場合は納税が免除される

適用要件

農用地区域内に限る

2-6.相続税納税猶予制度

相続財産に農業用地が含まれる場合、以下のような特例があります。

概要

相続された農業用地をそのまま農地として使い続ける場合、相続税の納付が猶予される。

適用要件

特例を受けるためには、相続人、被相続人、農地それぞれ①~③(または④)いずれかの条件を満たしている必要があります。

○被相続人

①死亡の日まで農業を行っていた

②生前に農地を一括贈与している

③死亡の日まで営農困難時貸付や特定貸付を行っていた

営農困難時貸付…障害・疾病などにより農業を続けることが困難となった場合に、その農地を他人に貸し付けること

特定貸付…市街化区域外の一般農地を農業経営基盤強化促進法等の規定に基づく事業により貸し付けること

○相続人

①相続税の申告期限までに農業を引き継ぎ、その後も継続する

②農地等を生前一括贈与されて贈与税の納税猶予の特例を適用していた

③相続税の申告期限までに特定貸付を行った

④その他一定の事項

○特例の対象となる農地

※被相続人が農業を行っていたか特定貸付を行っていた農地である事が前提

①相続税の申告期限までに遺産分割されている農地

②贈与税の納税猶予の特例を適用していた農地

③相続があった年に被相続人から生前一括贈与を受けていた農地

2-7.贈与税納税猶予制度

⑥と同じく、贈与された農地をそのまま使い続ける場合、以下の特例が適用されます。

概要

農地が贈与された場合、条件に該当していれば農地の贈与税納付が猶予される

適用要件

贈与者、被贈与者、贈与される農地それぞれが以下の条件をすべて満たしている必要があります。

○贈与者の条件

①3年以上農業を営む個人

②相続時精算課税制度の適用を受けていないこと

③対象年度において他に農地の贈与を行っていないこと

④過去にこの特例を利用して農地の一括贈与を行っていないこと

○被贈与者の条件

①贈与者の推定相続人であること

②次の要件の全てに該当することを農業委員会が証明した個人

⑴贈与された農地を取得した時点で18歳以上であること

⑵農地を取得した日まで引き続き3年以上農業を営んでいること

⑶農地の取得日からも農業を行い、農業委員会の証明時に農業に従事していること

○農地の条件

贈与者が農業を行っている農地の全て、主に採草放牧地や準農地の3分の2以上を相続人の1人の農業後継者に一括して贈与すること

また被贈与者については、当該農地について相続時精算課税制度の適用を受けることはできません。

2-8.東日本大震災の被災(震災特例法)に関わる特例

東日本大震災での被災農業者については、以下の特例が適用されます。

概要

東日本大震災で被災した農業者がその代替農地を取得する際、これらの税が優遇されます。

○登録免許税

代替農地が被災農地の1.5倍の面積を超えない部分について、所有権移転登記及び抵当権設定登記に際する登録免許税が免除となります。

○印紙税

東日本大震災の被災農業者が、被災のため農地を譲渡したり代替地を購入したり際、売買契約書や賃貸借契約書の印紙税を負担する必要がなくなります。

○不動産取得税

東日本大震災の被災者が代替農地を取得した際、その代替農地が被災農地の面積を超えない場合は不動産取得税が非課税となります。

また、代替農地が被災農地面積を超える場合は、以下の式で不動産取得税が算出されます。

代替農地の取得価額(固定資産税評価額)×(1-被災農地面積÷代替農地面積)×不動産取得税率4%

適用要件

○平成23年3月11日~平成33年3月31日までが適用期間

○農地が震災により被災した旨を証明する書類を提出しなければならない(り災証明書)

○被災農業者が亡くなっている場合、その相続人(合併法人・承継法人の場合は当該法人)が、り災証明書の交付および特例の申請を行わなければならない

3.まとめ

いかがでしたでしょうか?

農地に関する様々な税優遇についてご紹介致しました。

固定資産税対策としての農地転用には一度疑問を投げかけてはいましたが、全体的に見れば農地の税優遇は大変大きく、また範囲の広さがうかがえます。

これらの制度をいかし、より有用な土地活用・農地運営に努めてくださいね!