親名義の不動産を代理で売却する場合の注意点

 

高齢化社会の進展によって、子供が高齢の親の代わりに不動産の売却をしなければならない状況は増えてきていると言えるでしょう。親本人に家や土地を売りたい意思があっても、高齢であればあるほど療養中などの理由で実際の手続きができない状況が起こり得ます。

さらに、認知症になってしまった場合など、本人の意思が確認しづらくなる状況もあり得ます。そのような場合には、本人以外が代理で契約をすることになるので、詐欺などの手口と見分けがつきづらく、買主側がかなり慎重になることが予想されます。

この記事では、必要書類、買主の信用を得やすくする方法、相続税、特別控除、成年後見制度など、親名義の不動産を代理で売る場合の注意点について見ていきます。

この記事でわかること

1. 親名義の不動産売却に必要なもの

親名義の不動産を子が代わりに売却するには、名義人の実印、名義人の印鑑証明、名義人の身分証明書、名義人の住民票などの書類が必要です。さらに、代理で売却するには、親が署名押印した委任状が必要です。

1-1. 名義人(親)の実印

印鑑証明書と同じ印鑑が必要になります。実印が無い場合は印鑑登録が必須です。

1-2. 名義人(親)の印鑑証明

発行後3カ月以内の物が必要です。買主が決まり、売却の契約時に使うので早く取りに行きすぎないように注意しましょう。

1-3. 名義人(親)の身分証明書

運転免許証、パスポート等顔写真付のものが望ましいですが、保険証などの顔写真のないものも2つ以上あれば身分証明書として使用できます。

1-4. 名義人(親)の住民票

登記住所と印鑑証明書の住所が異なる場合のみ必要です。発行後3カ月以上経過すると無効になるので、早く取りすぎないようにします。

1-5. 親の代理で売るには委任状が必要

親の代理として売るには、親が署名押印した「委任状」が必要です。親に代わって売る子(代理人)が、本人と同じ権限を持っているのか、一部の権限しか持っていないのかは、委任状の内容次第になります。親の代わりに子が不動産を売却する場合は、全権委任であることが多いでしょう。

しかし、買主にとっては、本人からの委任状があっても偽造の疑いはなくならないので、親本人に売却の意思を確認したいといわれることもあるでしょう。親子関係が確かである証明として、戸籍や本人証明を求められる可能性も高いです。

1-6. 弁護士を代理人にすると買主の信用が得やすい

大きな金額が動く不動産売買では、親子だからと無条件に委任状が信用されるようなことはありません。万が一にも騙されたくない買主側は、かなり慎重に手続きを進めようとします。この点で、子ではなく弁護士が代理人であると、買主も信用しやすくなります。

2. 親が介護施設に入った場合は売る方法もある

実家の親が介護施設などに入所することになった場合、空き家をどうするかには、主に①子どもや親族が住む、②賃貸に出す、③売却する、の3つの選択肢があります。入所するところが有料老人ホームなら、入居一時金や月額費用などまとまったお金が必要になります。

もし、実家に親族の誰かが住むなど利用する予定がない場合は、売るのも有力な方法です。

売却を検討する場合には、まず、所有者の親に売却する意思があるかどうかを確認しなければなりません。親の名義になっている家は、子どもといえども勝手に売ることはできないので、事前に売る意思があるかどうかを必ず確認して、同意を得ておきましょう。

3. 親が住んでいた家を売却した際でも特別控除が受けられる

マイホーム(居住用財産)を売ったときは、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除ができる特例があります。これを、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例といいます。家を売った場合に、取得費用よりも高い金額で売れてしまうと、その差額に所得税がかかります。しかし、この制度に当てはまれば、税金がかからない、または大幅に軽減されることが多くなります。

3-1. 親が住まなくなって3年経過後の12月までに売却

特例を受けるためには、自分が住んでいる家屋を売るか、家屋とともにその敷地や借地権を売ることが必要です。

老人ホームに親が入所した場合、親の持家(実家)は空き家となるので、税務署が居住用財産(マイホーム)とみてくれるかどうかが気になるところです。税金でのマイホームという定義は、「その者が生活の拠点として利用している家屋」とされています。

国税庁の通達では、以前に住んでいた家屋や敷地等の場合には、住まなくなった日から3年目を経過する日の属する年の12月31日までに売れば、特例の適用対象に入るとされています。

3-2. 親と自分の共同名義ならそれぞれが3000万円の控除を受けられる

共有のマイホームを売った場合には、3,000万円の特別控除の特例を受けることができるかどうかは共有者ごとに判定されます。全員の合計で3,000万円ではなく、一人ずつ3,000万円です。共有のマイホームを売った人の譲渡所得の計算は、共有者の所有権持分に応じて行います。特別控除額は共有者全員で3,000万円ではなく、この特例を受けることができる共有者一人につき最高3,000万円です。

この特例を受けるためには、確定申告をすることが必要であり、確定申告書は一人一人が提出しなければなりません。さらに、家屋は共有でなく、敷地だけを共有としている場合、家屋の所有者以外の方は原則としてこの特例を受けることはできません。

4. 親がいない場合は空き家を賃貸に出すと相続時の評価が下がる

土地の評価は、通常、路線価額により計算しますが、路線価額の定められていない地域では、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて求めます。建物の評価は固定資産税評価額を基に算出されます。一般的に建物の固定資産税評価額は新築時の建築価格の6~7割前後となっています。

貸家については、30%の評価減が設けられています。建物の相続税の評価額が建築代金の6~7割で評価され、更に貸家の評価減があるため、貸家の相続税評価額は建築代金の約50%になるといわれています。

5. 親が認知症や痴呆症で判断できない場合の売却

認知症など、親が売却する意思表示をできない状態になった場合はどうなるでしょうか。先ほど、親の代わりに売る方法として、代理が可能であることを紹介しました。

しかし、代理には委任状が必要で、委任する意思表示をすることができない場合は、委任状が正しく本人の意思を反映しておらず無効ということになってしまいます。

このような場合に、判断能力の不十分な方々を保護し、支援するために、成年後見制度(せいねんこうけんせいど)があります。成年後見人であれば、認知症の親の不動産を売却することが可能になります。

5-1. 成年後見人をたてる

成年後見制度とは、認知症などで判断能力が十分ではない方を法律的に支援・援助するための制度で、任意後見と法定後見の2つがあります。任意の契約で依頼された専門家などが後見人になる場合と、本人の親族や専門家が後見人として選出されるケースがあります。

5-2. 親の代わりに成年後見人になれる人

成年後見人には、親族、裁判所に選任された方、法人などがなることができます。

5-3. 親族による後見人

成年後見制度の利用にあたっては、申し立てる人が成年後見人の「候補者」を選ぶことができ、親族を候補者として申し立てることができます。しかし、成年後見人の選任は裁判所が行うので、希望が通るとは限りません。

子どもや兄弟姉妹などの親族が後見人となるケースは全体のおよそ42%を占めていますが(平成25年司法統計)、親族が後見人となるケースが全体に占める割合は、年々減少しています。財産管理に注意が必要な事案や、ある程度まとまった資産がある事案では、裁判所が弁護士等の専門職後見人を選任するケースが増えているためです。その背景には、親族後見人による横領などの不正事件が多発していることがあります。

5-4. 裁判所による後見人の選任

申立人は、成年後見の後見人候補者を指名することができ、申立人が親族の場合、自分自身やその他の親族を候補者に挙げることも一般的です。しかし、いざ裁判所から親族後見人は認めないとされても、一旦裁判所に受理された申立は取り下げることができません。

従って、親族後見人が採用されなかった場合、親族申立人にとっては誰が後見人になるか分からないまま、裁判所の判断で後見人が選任されてしまうことになります。

例えば、子どもが認知症になった親のために自分が後見人になろうとして申し立てたところ、裁判所の判断で見ず知らずの専門職後見人が選任される場合があります。この場合、親の財産をすべて預けなければならないということにもなるのです。

こうした事態を回避するためには、専門職後見人が選任される可能性の高い事案では、予め申立人が信頼している弁護士等に申立手続を依頼しておくと良いでしょう。専門職を後見人候補者にしておけば、希望が通りやすくなるでしょう。

5-5. 法人による後見人

社会福祉協議会をはじめとする法人も成年後見人になることができます。高齢者人口の増加や各種福祉サービスを受けるための契約締結の必要などから、成年後見制度の利用件数が大幅に増加し、かつ、事案が多様化しています。法人が成年後見人になることができることで、成年後見人のなり手を確保することにつながるものと期待されています。

5-6. 成年後見人は家庭裁判所によって選任される

任意後見制度では契約を結んだ人が後見人になりますが、法定後見制度では家庭裁判所から選任された人がなります。誰になって欲しいか、希望を伝えることはできます。平成26年1月〜12月までのデータによると約35%のケースで本人の親族が後見人等に選任されています。ただし、親族後見人を希望しても、内容が複雑だったり、トラブルが予想される場合は、弁護士や司法書士などの専門家が成年後見人等に選任されることもあります。

裁判所が候補者以外の後見人を選任する場合の基準は、以下のように発表されています。

(1) 親族間に意見の対立がある場合

(2) 流動資産の額や種類が多い場合

(3) 不動産の売買や生命保険金の受領など,申立ての動機となった課題が重大な法律行為である場合

(4) 遺産分割協議など後見人等と本人との間で利益相反する行為について後見監督人等に本人の代理をしてもらう必要がある場合

(5) 後見人等候補者と本人との間に高額な貸借や立替金があり,その清算について本人の利益を特に保護する必要がある場合

(6) 従前,本人との関係が疎遠であった場合

(7) 賃料収入など,年によっては大きな変動が予想される財産を保有するため,定期的な収入状況を確認する必要がある場合

(8) 後見人等候補者と本人との生活費等が十分に分離されていない場合

(9) 申立時に提出された財産目録や収支状況報告書の記載が十分でないなどから,今後の後見人等としての適正な事務遂行が難しいと思われる場合

(10) 後見人等候補者が後見事務に自信がなかったり,相談できる者を希望したりした場合

(11) 後見人等候補者が自己もしくは自己の親族のために本人の財産を利用(担保提供を含む。)し,または利用する予定がある場合

(12) 後見人等候補者が,本人の財産の運用(投資)を目的として申し立てている場合

(13) 後見人等候補者が健康上の問題や多忙などで適正な後見等の事務を行えない,または行うことが難しい場合

(14) 本人について,訴訟・調停・債務整理等の法的手続を予定している場合

(15) 本人の財産状況が不明確であり,専門職による調査を要する場合

引用元:東京家庭裁判所

この2番の「高額の流動資産」の基準は、2千万円が一定の目安になるようです。申立時には「高額」でなくても、保険金や相続財産、不動産の売却などで、固定資産が流動資産になり、その基準額を超えることが想定されている場合も含まれると考えられます。

6. 成年後見人の申し立てに必要な書類

申立に必要主な書類(後見<保佐・補助>開始の申立の場合)

申立書,診断書(成年後見用),手数料,郵便切手,本人の戸籍謄本 登記されていないことの証明書

引用元:東京法務局 成年後見登記

6-1. 申立書(家庭裁判所で無料でもらえる)

家庭裁判所に行けば定型の書式を無料でもらうことができます。

6-2. 診断書1通(主治医に作成してもらう)

認知症は意識障害+記憶障害+判断力障害によるものですが、ご本人の症状のレベルによって法的な判断能力があるかないかを判断する必要があります。成年後見用の様式の診断書を主治医に作成してもらいます。

6-3. 本人の戸籍謄本1通(全部事項証明書)

本籍のある市町村役場で取得します。

6-4. 本人と後見人候補者の住民票又は戸籍附票各1通

住所地又は本籍のある市町村役場で取得します。

6-5. 本人に成年後見等の登記がされていない証明書1通

登記されていないことの証明書とは、成年後見制度における保護・支援を受けていないことを証明するものです。

引用元:津地方法務局

証明書の発行手続きは、東京法務局後見登録課、全国の法務局・地方法務局(本局)の 戸籍課の窓口で行われています。直接窓口で申請するほか、東京法務局後見登録課あてに郵送で申請することもできます。

6-6. 本人の健康状態が分かる資料(障害手帳など)

精神障害者手帳,身体障害者手帳,療育手帳,要介護度がわかるもの(介護保険認定書等)の原本とA4版のコピーが必要です。

6-7. 本人所有の不動産の資料(不動産全部事項証明書など)

後見開始又は保佐・補助開始で本人の財産(不動産の売却)に代理権をつける場合に必要です。さらに、本人が相続人となっている遺産分割未了の相続財産がある場合には,その遺産目録も必要です。

6-8. 申し立て手数料(800円)

収入印紙代800円が必要です。細かい内訳は成年後見・補佐・補助によって以下のように分かれています。

  • 後見/保佐/補助開始  800円
  • 保佐(補助)開始+代理権(または同意権)付与  1600円
  • 保佐(補助)開始+代理権付与+同意権付与   2400円

6-9. 郵便切手(3000円~5000円程度)

裁判所からの書類の送達・送付費用です。各裁判所によって異なりますが、およそ3,000~5,000円程度です。

6-10. 登記手数料(収入印紙2600円分)

成年後見制度では、その結果を登記する必要があります。そのための費用として収入印紙2,600円分が必要となります。

6-11. 鑑定費用(5~10万円)・・・必要な場合は裁判所から連絡あり

成年後見制度を利用する場合は、明らかにその必要がないと認められる場合を除いて、 本人の精神の状況について医師その他適当な者に鑑定をしてもらう必要があります。しかし、 実際に鑑定がおこなわれるのは全体の約1割に過ぎません。鑑定費用の額は事案にもよりますがおよそ5~10万円程度です。

7. 後見人選定から不動産売却までの流れ

後見人選定から不動産売却までの流れは次のようになります。まず、本人の住所地の家庭裁判所に成年後見制度開始の審判を申し立て、裁判所から依頼された医師が本人の意思能力を評価します。その後、後見人の選定、審判の確定(本人の判断能力が低い順に成年後見、保佐、補助)が行われます。

後見人が選定されたら、不動産業者と契約し買主を探し、後見人が本人に代わり、代理人として買主と売買契約を結びます。その後、売買契約について家庭裁判所の許可を得ます(買主の名前や売買金額、売却した資金の使い道など、明確な記載が必要)。そして、家庭裁判所から許可がおりれば売買代金の精算、所有権移転の登記を行います。

8. 親名義の不動産を代理で売却する場合の注意点まとめ

この記事では、必要書類、買主の信用を得やすくする方法、相続税、特別控除、成年後見制度など、親名義の不動産を代理で売る場合の注意点について見てきました。

日本では高齢化の進展とともに、認知症の人数も増加しています。65歳以上の高齢者では平成22年の時点で、7人に1人程度、約15%とされています。そして、最近の不動産取引実務においても、認知症の疑いがある方の不動産の売買の相談が増えていると言われています。

法律上、不動産の売買取引などの契約を行うには、本人の「意思表示」が必要です。認知症などで明確な意思表示ができない場合は、契約は無効になってしまします。このような状況への打開策として作られた制度が、成年後見制度です。成年後見人は成年被後見人の代理人として、本人のための様々な法律行為を代理して行なう、本人にとって代わるものすごく強い権限を有することになります。

そのため、親族のみならず、専門職後見人であっても本人の財産を横領するような事件が後を絶たないというマイナス面もあります。しかし、現時点ではこの制度を活用するしかないでしょう。制度についてよく知ったうえで、上手く活用するようにしましょう。