事例紹介
「使用貸借として親名義の土地を無料で借りているので、それを活用して収入を得ることはできないか」
「そうした場合、所得税や経費はどうなるのか」
上記のように考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
不動産をタダで借りることを「使用貸借」といいますが、そうした不動産で収益を得ようとする場合、所得税や経費の考え方を押さえておく必要があります。
この記事では、不動産を使用貸借して収益を得た場合の所得税はどうなるかを、収益は誰のものかという観点から考え、そもそも不動産の使用貸借とはどういうものか、税金面から見て地代は払った方がいいのかなどについて解説します。
この記事でわかること
1.不動産を使用賃借して収益を得た場合の所得税はどうなるか
例えば、親が持っているマンションを子どもが無料で借りて、自分で住むのではなく、さらに誰かに貸すことで家賃収入を得たい、というケースがあるとします。
または、親の土地を子どもが無料で借りて駐車場にしたい、もしくは、親の土地を子どもが無料で借りて、その上に子ども名義のマンションを建てて第三者に貸したい、などのケースもあるでしょう。
このように、親が子どもにタダで貸した(使用貸借)不動産を活用して、子どもが収益を得ようとする場合、所得税や経費はどうなるのでしょうか。
この場合、「A)土地も建物も親名義の場合」と、「B)土地は親名義で、建物は子ども名義の場合」とでは結果が異なりますので、1つ1つ解説していきます。
Aの「土地も建物も親名義の場合」とは、例えば、土地・建物ともに親名義の貸家を子どもが使用貸借して家賃収入を得ようとする場合や、親名義の土地を子どもが使用貸借して駐車場収入を得ようとする場合などが考えられます。
Bの「土地は親名義で、建物は子ども名義の場合」とは、例えば、親名義の土地を子どもが使用貸借して、その土地の上に建物を子ども名義で建て、貸家にして家賃収入を得ようとする場合などが考えられます。
1-1.収益は誰のものか
不動産を使用貸借して収益が出た場合は、その収益が誰のものなのかを考える必要があります。
所得税を考える上でベースとなる所得税法第12条には、「実質所得者課税の原則」が定められています。これは、土地や建物などの資産から発生する収益を受け取る人が誰についてはかは、資産の「真実の権利者」が誰であるかによって判定すべきである、というものです。
資産の権利者が明らかでない場合は、資産の名義者が「真実の権利者」と推定されます。
つまり、資産から発生した収益が誰のものかを考える上で、資産の名義者が誰かという観点は外せないということです。
A:土地も建物も親名義の場合
Aの「土地も建物も親名義の場合」は、資産の名義は親となります。
そのため、土地や建物などの資産から発生する家賃や駐車場料金などの収益は、親のものであるとみなされます。
駐車場については、子どもが立体駐車場などの設備を所有していたり、管理人などが常駐するような事業実態があったりなど、親から使用貸借した土地の上に、子どもが何らかの資産設備を持っていない限り、収益は親のものであるとみなされます。
そのため、所得税は親が支払うことになります。
また、子どもが親から無料で借りている親名義の土地建物から、家賃収入などを受け取っているとしたら、それは贈与とみなされ、贈与税の対象となります。
B:土地は親名義で、建物は子ども名義の場合
Bの「土地は親名義で、建物は子ども名義の場合」、つまり、親が子どもに無料で貸している土地の上に、子どもが自分名義の貸しマンションなどを建てている場合は、家賃収入の起因となる建物が子ども名義であるため、収益は子どものものであるとみなされます。
そのため、所得税は子どもが支払うことになります。
おさらいすると、親から使用貸借した土地で子どもが収益を得たいと思う場合には、土地の上の建物が子ども名義であるかどうかがポイントとなります。
例えば、土地も建物も親名義である貸しマンションの収益を子どものものにしたい場合は、単なる使用貸借では、収益が子どものものとはみなされません。
その場合は、贈与または譲渡によって、貸しマンションの建物を子ども名義にする必要があります。
1-2.どこまでが経費になるか
不動産において経費とみなされるのは、収益が出ている不動産を活用するために支払った支出となります。
親から子への使用貸借の場合、子どもに無償で貸しているため収益は出ていません。収益が出ていないので、その不動産に対する支出を経費として計上できません。
例えば、親が子どもに無料で貸している土地・建物に子どもが住んでいる場合、親が支払う固定資産税、都市計画税、減価償却費、維持管理費等は、親の経費として計上できません。
A:土地も建物も親名義の場合
例えば、親が子どもに無料で貸している親名義の土地建物を、子どもが又貸しして家賃収入が出た場合、収益は親のものとみなされ、所得税も親が支払います。
そのため、親が土地建物に対して払う固定資産税などは、親の経費として計上できます。
B:土地は親名義で、建物は子ども名義の場合
Bの「土地は親名義で、建物は子ども名義の場合」においては、少し話が複雑です。
例えば、親が子どもに無料で貸している土地の上に、子どもが自分名義の貸しマンションを建てて家賃収入を得ている場合です。この場合、土地の固定資産税は親が払い、建物の固定資産税は子どもが払います。
建物から家賃収入が発生しているので、家賃収入は子どものものとなり、子どもが払う建物の固定資産税は子どもの経費とみなされます。ですが、親には家賃収入はないので、親が払う土地の固定資産税は親の経費とはみなされません。
こうした場合、親と子どもが同一生計の場合のみ、親が払った土地の固定資産税を子どもの経費とみなすことができます。そして、子どもが親に土地の固定資産税と同額を支払えば、親はプラスマイナスとなります。
同一生計でない場合は、土地の固定資産税分を払っても、子どもの経費とはみなされません。
2.不動産の使用賃借とは
そもそも、不動産の「使用貸借」とはどういった状態を指すのかをおさらいしておきましょう。
他人からモノを借りる場合、お金を払うかタダで借りるかで、「賃貸借」「使用貸借」と区別されます。
「賃貸借」とはお金を払って(有償)モノを借りることで、DVDのレンタルやレンタカー、貸衣装などが該当します。「使用貸借」とはタダ(無償)でモノを借りることで、友達から本やDVDなどをタダで借りたりすることが該当します。
不動産の「使用貸借」とは、土地や建物などの不動産をタダで貸し借りすることです。親のマンションに子どもが家賃を払わずに住んだり、親の土地を子どもがタダで借りてその上に家を建てたりするケースなどがあります。親子間・兄弟姉妹間・夫婦間・親族間など親しい間柄で行われるため、契約書もなく口約束で済ますことが多いです。
対して、不動産を有償で貸すことは「賃貸借」と呼ばれ、こちらの方が一般的です。使用貸借はタダで借りているため、権利としては非常に弱いです。
借地借家法の保護を受けられないのに加えて、民法第597条により、貸す期間を定めていない場合、貸主は借主にいつでも出ていってくれと言うことができます。
親から使用貸借した土地に子どもが家を建てた場合、子どもは建物部分の権利は当然主張できますが、敷地については法的な保護がありません。
3.気を遣って地代を渡すとかえって税金が高額になる
土地を持っている人は、固定資産税や都市計画税を払っています。固定資産税とは、土地などの固定資産を持っている人に課される地方税です。都市計画税とは、土地などが「市街化区域」にある場合にかかる地方税です。
土地を借りる人は、固定資産税や都市計画税を払わないでよい代わりに、借主に権利金や地代を払います。
第三者から土地を借りる場合は、最初に権利金を払うことで借地権(建物を建てるために土地を借りる権利)を得て、毎月または毎年、底地(借地権が設定された土地)に対して地代を払うのが一般的です。
ですが、例えば親が子どもに土地を貸す場合、子どもが親に権利金を払うことはまずありません。となると、子は権利金を払わずに親から借地権という財産を贈与された、という見方もできます。ですが、この場合は贈与とはみなされず、贈与税を払う必要もありません。
その理由は、使用貸借は借地借家法の保護もなく、民法第593条から第600条が適用されるだけで、借地権を設定するほどの強い権利をもたないからです。子どもが親に気を遣ったとしても、権利金を払うことはまずないでしょう。
権利金を払う場合は、親子間だとしても借地契約を交わすことで、子どもが正式な借地権を得た方がよいでしょう。対して、権利金は払わなくても「地代くらいは払おうかな」と思う子どももいるかもしれません。しかし、地代を払った時点で「賃貸借」とみなされ、贈与税が課されます。
使用貸借に贈与税がかからないのは、あくまで無償の貸し借りだからであり、地代を払ってしまうと無償でなくなるからです。そのため、使用貸借の場合は、地代は払わないように気をつけましょう。親から子どもへの使用貸借では、親は固定資産税などを経費として計上できません。
また、子どもが親に固定資産税などに相当する金額を支払うことは、使用貸借の範囲として許容されます。
この2つを踏まえて、親からタダで借りるのは気がひけると思う人は、固定資産税などの維持管理費を親に支払うのがよいでしょう。
3-1.使用貸借は、相続時に土地の評価が上がるため要注意
また、使用貸借の権利は非常に弱いため、相続の際に土地の評価について注意が必要です。親の土地を第三者が有償で借りて、第三者名義の家を建てた場合には、賃貸借として税務上の優遇措置が受けられて、土地の評価が安くなります。
ですが、親の土地を子どもが使用貸借して、子ども名義の家を建てた場合には、親の土地が更地として評価されるので、賃貸借の場合よりも土地の評価が高くなってしまいます。そのため、予想していなかった額の相続税がかかることもあります。
現時点で贈与税がかからないのは使用貸借のメリットですが、相続前には使用貸借についての見直しが必要です。
3-2.「使用貸借契約書」を作っておこう
また、使用貸借をする場合には、上記のような事情や権利関係を確認するとともに、口約束ではなく「使用貸借契約書」を作っておいた方がよいでしょう。なぜなら、当人同士は使用貸借と思っていても、配偶者や兄弟姉妹などといった周りの親族はそうではないと誤解していてトラブルの原因となることもあるからです。
さらに、親子間といえども何かの事情で仲が悪くなることも考えられるので、契約期間や使用目的をきちんと話し合って設定しておいた方が、不要なトラブルは避けられるでしょう。
使用貸借契約書では、契約期間や使用目的の他にも、禁止事項や費用負担などを明示しておきましょう。
4.まとめ
ここまで解説してきたことをまとめます。
- 不動産の「使用貸借」とは、土地や建物などの不動産をタダ(無償)で貸し借りすることであり、親子間などで口約束で済まされる場合が多い
- 不動産を使用貸借して収益を得た場合の所得税については、その収益が誰のものか、つまり、資産の名義者が誰かということを考える必要がある
- 土地も建物も親名義の場合、資産の名義は親であるため、収益も親のものとみなされることから、所得税は親が払い、親が払う固定資産税なども親の経費として計上できる
- 土地は親名義で建物は子ども名義の場合、家賃収入が起因する建物は子ども名義であるため、家賃収入は子どものものとみなされ、所得税は子どもが払う。親が払う固定資産税などは親の経費として計上できない
- 不動産における経費とは、収益が出ている不動産のための支出なので、使用貸借の場合は経費を計上できない
- 土地を使用貸借している場合は、地代を払ってしまうと「賃貸借」とみなされ、贈与税を課税されるので、地代は払わないように
使用貸借をめぐる所得税や経費の考え方は一見難しく思えますが、大切な考え方ですので必ず押さえておきたいものです。今回押さえたことを基本として、税金面の対策などを進めていくとよいでしょう。