事例紹介
不動産の相続税は、土地や建物が高価なために、その相続税が高額になる場合が多くあります。
基礎控除をはじめとして、配偶者控除など高額に及ぶ控除もありますので、じっくり見ていきましょう。
この記事でわかること
- 1. 不動産を相続した時の相続税申告の流れ
- 2. 不動産の相続税申告が必要な方
- 3. 相続税申告が不要な方
- 4. 相続税申告の期限
- 5. 不動産を相続した時の相続税申告の方法
- 6. 相続税申告の注意点
- 7. まとめ
1. 不動産を相続した時の相続税申告の流れ
1-1. 不動産を相続した時にするべきこと
不動産を相続した時に行わなければならない手続きは次の3つです。
不動産の名義変更
名前の通り、相続した土地の名義を変更することです。名義変更は、必ずしなければならないことではありませんし、期限もありません。しかし、トラブルを避けるためにも、確実に自分のものとするために名義変更はしておいた方が安全です。
相続税の申告
相続税の申告は、土地や建物など不動産以外に現金や株式や債権など全ての財産を含めて、3,600万円以上相続した場合に必要となります。
準確定申告
準確定申告は、駐車場、貸アパートなど、被相続人(死亡された方)が収入をあげていた土地を相続した時などに必要な手続きです。
1-2. 不動産の相続登記
不動産の名義変更はどうしてもしなくてはいけないものではありませんが、適当な時期を見て相続登記しておいた方が安全で賢明です。時期については特に制限はありませんが、相続税の申告が終わった後に行うのが最も良いとされています。
また、相続登記は個人でも比較的簡単ですが、司法書士に頼んでもその手数料は6万円前後で、手間を考えれば頼む方が得策です。特に相続人が複数の場合は、多くの関係書類が必要となりますので、司法書士に依頼した方が良いでしょう。ただし、登録免許税は、誰がやっても同じで、相続した土地が高価な場合はかなりの高額(土地の評価額 × 0.4%)になるので注意が必要です。
ここで、土地の評価額とは、「固定資産評価証明書」に記されている金額のことです。東京23区内にある不動産であれば、都税事務所で、その他の地域では、市区町村にて取得できます。
2. 不動産の相続税申告が必要な方
2-1. 相続税の発生
相続税は、遺産総額から基礎控除額を差し引いた金額が、プラスになる時に発生します。相続税が発生する時には、相続税申告が必要です。
ここで、基礎控除額とは、「3,000万円プラス600万円x法定相続人数」で計算します。例えば、相続人が2人の場合、3000万円プラス1,200万円で4,200万円となります。
2-2. 基礎控除以外の控除
2-2-1. 相続税の配偶者控除
亡くなった方の配偶者の場合には、実際に配偶者が受け取った遺産の金額が、法定相続分の範囲内の時には、税金がかからないという規則があります。また、法定相続分を超えて相続しても、配偶者の相続分が1億6,000万円までは税金がかかりません(相続税法第19条2項)。夫婦同士は、同世代の場合が多く、残された配偶者が比較的近い時期に故人になり、再び遺産相続が起こる場合が多いためです。この控除の趣旨は、短期に同じ資産に2度の相続税が課されることを配慮したものと言われています。
配偶者控除額について具体的に説明すると、次のようになります。
配偶者控除額=相続税の税額×(次のABのいずれか少ない金額÷課税価格の合計)
ここで、
A:配偶者の法定相続分(相続分が1億6,000万円未満なら1億6,000万円まで)
B:配偶者の課税価格(配偶者が相続する財産分)
この配偶者控除を使う場合には、申告期限までに、配偶者の相続分を計算して、申告書を提出しておく必要があります。
2-2-2. 小規模住宅等の特例
亡くなった方が住んでいた住宅等を相続した時には、その住宅の評価額を大幅に小さくする(80%〜50%)という規則があります。この特例に該当する人は少なく、主として配偶者か同居親族が相続すれば適用されます。住居であれば80%が控除されますので、かなりの高額になります。厳しい規定がありますので、税理士に相談してください。
3. 相続税申告が不要な方
遺産の総額が基礎控除額より少なくて相続税が生じない。このような時には、相続税の申告は行う必要がありません。ただし、後に出てきますが、相続税がゼロでも申告が必要な場合がありますので注意が必要です。
4. 相続税申告の期限
相続税の申告は、故人が死んだことを知った日の翌日から計算して10ヵ月以内に、管轄の税務署に行わなくてはなりません。期限日が土曜日・日曜日・祝日だった場合は、次の平日が期限日です。なお、税金の納付期限は、申告期限と同じ日です。
通常、相続税申告の期限を過ぎれば、数々の特例は適用できなくなります。相続税申告の期限を過ぎてしまいますが、特例を適用したい時にはどうしたら良いのでしょうか。
よくある例が、遺産分割協議が申告期限までにまとまらなかった場合です。この時には、いったん特例を利用しない場合の相続税を納付します。その後、5年以内に遺産分割協議書ができた時には、「更生の請求」をします。特例を利用した場合の相続税との差額を還付してもらえます。
申告期限までに申告と納付を行わない場合には、延滞税を払わなくてはなりません。これは、日割り計算で行われます。延滞税の利率は申告期限から2ヶ月以内なら7.3%、それ以後は14.6%となります。
5. 不動産を相続した時の相続税申告の方法
大きな流れとしては、次のようになります。
1) 法定相続人を確定する
2) 相続財産を確定する
3) 必要な書類の手配
4) 「相続税の申告書」の作成
もちろん、個人でやればたいへんですができないことはありません。ただし、相続税の申告は、想像以上に複雑でたいへんです。特に、「相続財産を確定する」の過程での現金、預金、株式や債券、海外資産などの見落としや誤りが多く発生します。「 必要な書類の手配」では、相続人が複数の場合はたいへん複雑になります。また、経験の少ない個人では、わからないことも多く、相続税額は高額の場合が多いので、特例の使い方の稚拙が相続税の高低に大きく効いてきます。そのため、手数料を払っても税理士に任せたほうが安全で有利です。
6. 相続税申告の注意点
6-1. 相続税の申告には期限あり
期限内に申告すれば、多くの特例がありますが、期限を越えれば特例はなくなります。特例が高額になる場合などは、期限までに申告しないことの損失は、たいへん大きいものになります。
6-2. 相続税がゼロでも申告が必要な場合
- 配偶者の税額軽減制度を利用したため、相続税がかからない場合
- 小規模宅地等の特例を利用したため、相続税がかからない場合
などです。
6-3. 相続税の不動産評価は、「路線価」に広さをかけたもの
この評価を誤ると、追加の課税となる可能性が高く、それは高額になる場合があります。個人でもできないことはありませんが、税理士に任せたほうが、結局は安全で得になる場合が多いです。
6-4. 追徴課税になる原因の多くは、預貯金の調査の不備
例えば、故人が亡くなった相続開始の日から、過去3年以内の贈与は、相続税の課税対象の財産に戻して計算されなければなりません。そのほか、故人が配偶者、子供、孫の名義を使って預けていた株や預金、老人ホームから戻ってきた入居1時金、故人が所有していた借地権などが見過ごされやすい例です。
6-5. 海外資産の申告漏れが多い
資産運用の国際化により、海外資産の相続漏れが目立ってきています。特に100万円を超える金額を海外に送金した時や海外から送金された時は、銀行から税務署に海外送金等調書が提出されています。そのため、海外とのやり取りは税務署に正確に把握されています。
6-6. 誤って多く支払った税金は、請求しなければ返金されない
相続税などの国税は、自分が計算して、自分で申告、納税します。多く支払っても、国からは何の連絡もなく、過少申告をした時だけは不足分や課徴金の支払いを要求されます。地方税の場合は、「これだけの税金を支払ってください」と請求がくるのとはずいぶん違います。
6-7. 債務や葬式などの費用
故人の債務や葬式などの費用は相続財産から差し引くことができます。これによって、相続財産が少なくなり、基礎控除額内に収まる可能性もあります。債務や葬式などの費用の計算を忘れないように注意しましょう。
6-8. 相続税の申告を自分の力でも行うことができる場合
①遺産総額が5,000万円以下の時
この場合は、相続税も少額ですし、仮に誤った申告をして、追徴課税をされても金額は大きくはありません。税理士に支払う費用の方が多くなります。
②遺産の内容がシンプルで、遺産の中に「土地」がない場合
土地の評価が、相続税申告の中で最も難しい仕事です。
③相続税がゼロということを申告する必要がある場合
これ以外の場合は、税理士に依頼した方が安全で結果的には有利です。特に、相続税は高額で、追徴課税も高額になる場合が多く、税理士の費用を支払っても任せたほうが安全で有利に申告できます。
6-9. 二次相続について
ここでは、相続額が大きくなる場合には、税理士に任せた方が安全で有利になるという例として二次相続についてまとめています。
例えば、父親が亡くなった時の相続を一次相続とすると、母親も父親と同じ世代の場合が多いので、やがて母親が亡くなった時の相続を二次相続と言います。
残された子供が真の意味で遺産相続を完成させるには、この一次相続の後で二次相続を通過しなくてはいけないことです。
この時、二次相続が一次相続よりも難しいと言われる理由としては、主として次の3点があります。
1)配偶者控除が使えないこと
2)小規模住宅等の特例が適用できない
3)相続人の1人が減ることで基礎控除額が減額となる
まず、「配偶者控除が使えないこと」ですが、配偶者控除は、配偶者の相続分が最高で1億6,000万円までは税金がかかりません。したがって、一次相続では普通この特例を最大限に利用しようと考えます。
しかし、二次相続では、その分が全部子供の相続にかかってきてしまい、結果的には一次相続税と二次相続税の合計額が大きくなってしまう場合が多いです。基本的な態度は、一次相続税と二次相続税の合計額が最小になるように一次相続税の時には、基礎控除額を最大限に使い、配偶者の相続分を減らします。
次に、「小規模住宅等の特例が適用できない」ことですが、一次相続の時に同居している子供がいれば、配偶者に相続させずに、この子供に相続させるのが、大きな相続税の節約になる場合が多いです。
しかし、日本の場合は、財産のほとんどが住宅というケースも多く、兄弟間の不満や不公平感のもととなり、兄弟姉妹が不仲になる典型的な例も多いです。現実問題としては、ただ単に、数字だけで相続税の節税に成功するだけではなく、兄弟姉妹が全員納得できる方法を探らなければなりません。
「相続人の1人が減ることで基礎控除額が減額となる」については、二次相続の場合は、配偶者が減るので基礎控除の一人分の600万円の減額となります。
6-10. 二次相続対策
生前贈与を行う
生前贈与は、110万円以内であれば、基礎控除として毎年1回だけ利用できます。ただし、これはきちんと書類を残した方が安全です。111万円を贈与して、1万円のオーバー分に対する贈与税を毎年支払って自動的に税務署類に残すのも良い方法です。
一次相続の財産配分をできる限り子供に多く配分する
まず、基礎控除額をめいっぱい利用することです。
- 一次相続で子供に住宅を相続させる
前述の通りです。 - 相続する財産を現金化しておく
これは、二次相続が生じた時に、実際払うべき現金の用意しておくためです。二次相続税額は大きくなりやすいので現金の用意にも注意が必要です。
- 一次相続で賃貸し用住宅や駐車場を相続したときは、子供に相続させる。
一次相続で配偶者が賃貸し用住宅や駐車場を相続した時には、その後の収入は全て二次相続税の対象になります。 - 配偶者が生命保険に加入する
一次相続の後で、配偶者が生命保険に加入すると二次相続の時に、保険金が支払われ、納税資金となります。また、生命保険金を受領する人には「500万円×法定相続人」の非課税枠があります。このため、納税資金の確保するということと相続財産を減らすという2つの効果が期待できます。 - 相次相続控除を利用する
10年以内に二次相続が発生した時に利用できる控除があります。
これは少し複雑なので、該当する可能性があるときは、詳しく調べて見てください。
7. まとめ
不動産を含む相続税の申告は、複雑になる場合が多いです。また、不動産は高額の場合が多く、そのため相続税額が高額になる例が多く、特に注意が必要です。
そのため、基礎控除や配偶者控除など、特に配偶者控除は最高で1億6,000万円にも達し、うまく利用すれば、節税に大いに役に立ちます。ただし、そのような数々の控除も申告期間を過ぎると適用できなくなります。申告期間は、相続が生じてから10ヶ月以内と決められています。忘れずに申告しましょう。
また、両親が同じ世代の場合は、はじめの相続が終わった後、比較的短期間の後に2度目の相続が生ずる場合があります。これを二次相続と言いますが、一次と2次の相続額の合計が最小になるように考えることが重要です。遺産総額が5,000万円や1億円以上になる場合は、税理士に依頼した方が安全で有利ですが、その時でも全体をよく把握しておきましょう。