事例紹介

Category  不動産

2018年12月16日

借地借家法が定める解約予告申し入れ期間の相場とは?

建物賃貸借契約には、期間に定めのない「普通借家契約」と、定めのある「定期借家契約」があります。

今回のテーマである「解約申し入れ」は期間の定めのない普通借家契約において用いられる言葉です。

普通借家契約の場合、借主からの退去意思がないとそのまま賃貸借契約が続きます。ここで取り交わされた賃貸借契約について、貸主または借主から契約終了の意思が示された場合、この「解約申し入れ」がなされます。

1.借地借家法が定める解約予告申し入れ期間の相場とは?

解約予告申し入れ期間とは「解約を申し入れてから契約終了に至るまでの期間」のことをいいます。借地借家法が定める解約申し入れ期間は、貸主・借主双方からいつでも解約の申し入れができ、申し入れ後、一定期間経過後に契約を終了できることになっています。

ただしこの「一定期間経過後」は借地借家法で規定されており、「貸主から」の解約予告申し入れ期間は「6カ月」が原則で、この6カ月より短い期間は合意できません。「借主から」の解約予告申し入れ期間は「3カ月」となっています。

2.貸主からの解約予告申し入れ期間は6ヶ月前から

貸主からの解約予告申し入れ期間については、借地借家法27条が適用されます。もともと借地借家法は「借主の権利の保護」を目的としており、借主からの解約申し入れに関しては特に法律上の制限はありません。

しかし、貸主からの解約申し入れとなると原則「6カ月」前からという制限が発生します。

2-1.建物賃貸契約の終了について

借地借家法27条は「解約による建物賃貸借の終了」を定めた条項です。

(第27条)

1.建物の賃貸人は賃貸借の解約の申入れをした場合において、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から六月を経過することによって終了する。

2.前条第2項及び第3項の規定は、建物の賃貸借が解約の申入れによって終了した場合に準用する。

この1項の部分が、貸主が解約を希望する場合の原則を意味しています。

この「6カ月」という設定は、借主が次の住居を探すために必要な期間と解釈されていますが、6カ月経過すれば必ず退去してもらえるものでもありません。借地借家法において、貸主からの解約申し入れには「正当な事由」が求められます。解約・退去には「解約することの正当な事由をもって、6カ月前に申し入れ」をする必要があることを覚えておきましょう。

ただし、貸主からの解約申し入れに際し、貸主・借主双方が話し合いによる合意で契約を終了のであれば、この限りではありません。

3.借主からの解約予告申し入れ期間は設定なし

借主からの解約申し入れ期間には制限がありません。

建物賃貸借契約の中に「中途解約に関する特約」など中途解約を認める条項があればその定めに従う解約は可能です。また中途解約を定めるルールが建物賃貸借契約書にない場合でも、民法617条1項2号により、3カ月前の解約予告により契約を終了することができます。

3-1.民法617条1項2号

民法617条は「期間の定めのない賃貸借契約の解約の申入れ」を定めた条項です。

(第617条)

1.当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。

一  土地の賃貸借 一年
二  建物の賃貸借 三箇月
三  動産及び貸席の賃貸借 一日

これにより中途解約のルールが建物賃貸借契約書になかったとしても、借主は解約申し入れから3カ月で契約が解除できるということになります。

このように借主からの解約予告申し入れは、建物賃貸借契約書に中途解約のルールがあれば当然認められます。また中途解約を認める条項がなくとも、3カ月の期間を持って中途解約が法律的に認められることになり、貸主のように「6カ月」「正当な事由」という制限はないことになります。

3-2.解約予告期間の相場

このように借地借家法及び民法により、貸主・借主それぞれの解約予告期間が決まっていますが、一般的には借主の解約予告期間を「3カ月」とすることはあまりないようです。(民法617条1項2号は任意規定であるため)

中途解約に関する特約条項がなければ3カ月となりますが、中途解約に関する特約条項があれば、借主からの解約予告期間は変更が可能です。解約予告期間の相場は居住用賃貸の場合1カ月~2ヶ月、事業用賃貸の場合3~6カ月の設定が相場でしょう。

4.期間内解約条項が契約書にある場合

中途解約に関する特約条項、つまり契約書に「期間内解約条項」がある場合は、建物賃貸借契約締結と同時にその記載内容が「合意」されたことになります。

例えば、以下のような記載がされていることがあります。

(解約予告)

本契約を解約する場合は貸主は6カ月前迄に、借主は○カ月前迄に相手方に対して書面による通知をしなくてはならない。但し、乙は賃料の○カ月分相当額の金員の支払いをもって即日解約することができる。

この内容で貸主・借主の解約予告申し入れの「合意」がされているということです。

よく見る契約書の雛形ですが、単なる雛形の引用ではなく、この期間の設定が法律的に問題ないか、内容自体に問題がないかを慎重に確認しなければいけません。

5.借地借家法が定める解約期間に関する判例

借地借家法は「借主の権利の保護」を目的にしているため、解約期間の有効性は「借主に不利かどうか」で司法判断されています。

貸主からの解約申し入れ期間の判断は、

  • 「解約申し入れ」:6カ月(借地借家法27条1項)
  • 「解約申し入れ期間を短縮する」:無効(借主に不利)
  • 「解約申し入れ期間を延長する」:有効(借主に有利)

借主からの解約申し入れ期間の判断は、

  • 「解約申し入れ」:3ヶ月(民法617条1項2号)
  • 「解約申し入れ期間を短縮する」:有効(借主に有利)
  • 「解約申し入れ期間を延長する」:有効(借主に不利だが、借地借家法の適用外)

という定めが適用されます。

貸主からすると、借主が自由に解約できるということは、次の入居者が決まるまでの空室リスクを考えなければならず、「解約を制限したい」と考えるのは当たり前です。解約申し入れ期間の延長や中途解約違約金の設定は、解約を防止する具体的な方法のひとつでもあります。(実際に借主の解約申し入れ期間を6カ月に設定した契約を「有効」と判断した判例もあります【東京地方裁判所:平成22年3月26日】)。

とはいえ、賃貸借契約の慣例や、解約予告期間の相場を無視した内容は借主に「違和感」を与えかねないことも理解しておきましょう。

6.解約予告通知書の書き方・出し方

貸主からの解約予告は「6カ月」前に通知し、「正当な事由」があることが必要です。そのため、貸主からの解除予告通知書は「6カ月前の明確な通知日と解約に至る正当な事由」を盛り込む必要があります。

また、借地借家法で定められた期間内でこの手続きを行わなければなりません。

借主に通知書を送る際は「配達証明付きの内容証明郵送」で行い、借主がその通知書を受領したことを証明する署名・押印をとっておくことが大切です。その間のやり取りや合意内容に関する書類が発生する場合は、貸主・借主双方の署名・押印を取り付けることも心がけましょう。必ず記録をとる・残すことが重要です。

7.借地借家法における解約予告期間まとめ

今回は借地借家法における解約予告期間やそのルールを説明してきました。期間の定めのあるなしにかかわらず、借主からの解約申し入れは3カ月経てば契約が終了します。

一方で貸主は6カ月の猶予期間を設け、かつ解約の正当な事由が揃わなければ契約を終了できず、それも必ず終了できるわけではありません。中途解約には貸主・借主双方の合意によるものがベストですが、その手続き方法や内容によっては新たなトラブルも生じかねません。

建物賃貸借契約書の内容とともに各種法律にも注意を払いながら、賃貸借契約を結ぶことを心がけましょう。