事例紹介

Category  不動産

2018年12月16日

借地借家法における「適用対象」とは?

借地借家法は平成4年8月1日に施行された法律です。

建物の所有を目的に土地を借りたり、建物を借りたりする際に関わるもので、借主の権利の保護を目的に、借地権や建物の賃貸借契約においての特定の権利の定めを規定しています。ここでは借地借家法の適用対象を中心にお話ししていきます。

1.借地借家法の適用対象

借地借家法の適用対象は「建物の所有を目的とする地上権および土地の賃借権の存続期間、効力等並びに建物の賃貸借の契約の更新、効力等に関し特別の定めをするとともに、借地条件の変更等の裁判手続きに関し必要な事項を定めるものとする」(借地借家法1条【趣旨】)と規定されております。

法律の条文なので難解な表現を用いていますが、要するに「建物の所有を目的」とする土地を貸す契約(借地契約)と文字通り「建物の賃貸借」を目的とする建物を貸す契約(借家契約)が適用対象である、と規定されているということです。

ではこの借地借家法というのはどのような時に適用されるでしょうか。

ここからはこの法律で適用対象とされる基本的な考え方をご説明していきます。

1-1.借地権

まずは借地借家法で適用対象を規定している「借地権」についてです。

借地権とは「建物の所有を目的とする地上権および土地の賃借権」(借地借家法2条【定義】)のことをいいます。土地の賃貸借の理由が「建物の所有を目的」とすることが大前提とされます。その建物の用途が事業用であるか居住用であるかは問われませんが、土地に建物を建てるか、建物を所有する時に借地借家法が適用されます。

この「主たる目的」「建物を所有」かどうかの判断は、土地に対する建物の敷地割合によってなされます。借地人が居住用建物のように貸した土地に建ぺい率いっぱいに建物を建てる場合は建物の所有を主たる目的で土地を利用していることにはなりますが、土地が広いにもかかわらず、土地の一部に建物を建築する場合は、建物所有が「従たる目的」と判断されます。具体的には過去の裁判で、バッティングセンター・中古車販売店・ゴルフ練習場などが「従たる目的」と判断されております。(同じ土地利用状況でも主たる目的と判断されることもあります)

このように「従たる目的」と判断された場合は借地借家法の適用ではなく、民法(賃借権)を適用することになります。

1-2.建物の賃貸借契約

次に建物の賃貸借の適用対象についてです。借地借家法1条にもあるように「建物の賃貸借」は借地借家法が適用されます。ここでいう建物とは「土地に定着し、屋根・柱・壁を有し、住居用・事業用に用いることができ、独立の不動産として登記ができる」建造物のことをいいます。ですので、この条件に該当する一軒家・共同住宅・店舗・倉庫などは借地借家法の適用がなされます。

ただし、貸した建物が全て借地借家法の適用を受けるわけではありません。キャンピングカーやテントのように移動が容易な「土地に定着」していない建物は「建物」と判断されません。この場合も借地借家法の適用ではなく民法(賃借権)が適用されます。

1-3.旧借地法との関係

借地借家法は平成4年8月1日施行の新しい法律です。それ以前は「借地法」「借家法」によって借地契約と借家契約を定めていました。これを統合し、新たに定められたのが借地借家法、というわけです。

実は現在でもこの旧借地法の効力が残っている契約が数多くあり、平成4年8月1日「借地借家法」の施行以前に契約され、一度も解約されていない借地契約はそのまま旧借地法が適用されます。

旧法が適用されている契約と新法である借地借家法の根本的な違いは「借地権の存続期間が変更された」「建物の区別がなくなった」「定期借地契約が新設された」ことにありますが、今回のテーマである「適用対象」の判断の仕方も建物の定義や主たる目的の解釈に旧法と新法との間に若干の差異があります。現行の契約が旧法によるものか新法によるものかを確認し、詳細な違いを確認しておくことが良いでしょう。

2.借地借家法の適用対象とならない場合

借地借家法の適用対象は上記で述べました。

それでは「建物の所有を目的」とする借地契約、「建物の賃貸借」の借家契約の全てに適用されるのでしょうか?

前章で簡単にお話ししましたので、借地人が建物を建てる理由が「主たる目的」ではなく、借家人に貸した建物が「建物の定義」から外れる場合は適用対象ではないと理解されたでしょう。

実はこれ以外にも借地借家法の対象とならない場合があります。貸した土地または建物が「一時使用目的」である場合です。

「臨時設備の設置その他一時使用のための借地権を設定したことが明らかな場合には適用しない」(借地借家法25条【一時使用目的の借地権】)

「一時使用のために建物の賃貸借をしたことが明らかな場合には、適用しない」(借地借家法40条【一時使用目的の建物の賃貸借】)

と土地、建物の賃貸借それぞれ規定されていることから、これに該当するものは借地借家法の適用対象とはなりません。

この「一時使用であることが明らか」の判断は必ずしもその期間の長短だけで標準として決せられるべきものではなく、賃貸借の目的、動機その他諸般の事情から、当該賃貸借契約を短期間に限り存続させる趣旨のものであることが、客観的に判断される」ことが必要とされています(最高裁判所:昭和36年10月10日)。

具体的には「サーカスなどのイベント興行のために土地を借りる場合」「貸主が建物利用に関する将来的な具体的計画(取り壊し・自己利用など)がある場合」など、建物の使用期間を一時的と判断した場合が挙げられます。

そして、もう一つ適用対象でない場合があります。それは「無償で貸している」場合です。

法律用語では「使用貸借」といいます。借地借家法は「有償」であることを基本にしておりますので無償の場合は借地借家法の適用外となります。(無償で貸す場合、土地・建物の利用できる権利は「使用借権」と呼ばれ、民法に定められております。)

3.借地借家法とは?わかりやすく解説

ここまで借地借家法とその適用対象について解説してきました。ここまでを要約すると、以下のようになります。

3-1.借地借家法とは?

土地や建物を貸す際に適用され平成4年8月1日に施行された法律です。それ以前は借地法、借家法で規定していたものを新たに統合したものです。借主の権利の保護を目的としており、この法律のもと借主は強い保護を受けられます。

3-2.借地借家法の適用対象

「建物の所有を目的」とする土地を貸す契約(借地契約)と「建物の賃貸借」を目的とする建物を貸す契約(借家契約)を適用対象としています。ただし、この法律が適用されるには、建物の所有が「主たる目的」であり、その建物および賃貸建物が「土地に定着し、屋根・柱・壁を有し、住居用・事業用に用いることができ、独立の不動産として登記ができる」建造物であることが必要です。

3-3.借地借家法の適用対象とならない契約

全ての建物に適用されるわけではなく、

「建物の所有を目的としないもの」

「土地に定着し、屋根・柱・壁を有し、住居用・事業用に用いることができ、独立の不動産として登記できる建物に当てはまらないもの」

「一時使用目的であるもの」

「無償で貸しているもの(使用賃借)」

は適用対象から外れ、民法の範疇になります。

4.まとめ

土地や建物の貸し借りにおいては借地借家法が適用されます。この法律は借主の権利の保護を目的とした法律ですので、貸主の意思・意向が汲み取られないことが往々にしてあります。今回はこの法律が適用される場合とされない場合を簡単に説明してきました。とはいえ適用対象の判断に明確な基準はなく、実際には状況に応じて判断されるため、貸主・借主間でトラブルが多くなっているのも事実です。

ここで述べた内容はあくまでも「基礎」ですが、借地借家法の趣旨とこの法律の適用対象・対象外の基本的な考え方を理解できたと思います。今後の契約締結の見直し、現行の契約内容の確認に役立てましょう。