事例紹介
Category 不動産
2018年09月12日
不動産における所得税法上の貸倒損失とは?処理方法や対象要件について
不動産の管理を行っている方やオーナーとなっている方は所有している土地や建物による収入(地代や賃料など)を得ていると思います。
通常であれば決まった期日までに規定された金額が支払われるはずですが、必ずしもそうなるというわけではありませんよね。
長期間の家賃料滞納を催促しても支払ってくれない場合や未納分を滞納したままいなくなってしまう可能性もあるのです。しかしこのような場合であっても決して泣き寝入りする必要はありません。
この記事でわかること
1. 所得税法における不動産の貸倒損失の処理方法
はじめて貸し倒れが生じてしまった場合はこのまま損してしまうのではないかと心配になったり、慌ててしまうと思います。
しかし、しっかりと不動産における貸倒損失の処理方法を知っておくことや信頼できる税理士に相談するなどの正しい問題解決方法を知っておくと、上記のような問題が生じてしまった場合にもスムーズに処理することができます。
まず不動産にかかる貸倒損失の問題が発生してしまった場合には所得税法51条2項をチェックしましょう。
所得税法51条2項には地代や家賃の貸し倒れ分に関しての処理方法が書かれています。
具体的には「居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業について、その事業の遂行上生じた売掛金、貸付金、前渡金その他これらに準ずる債権の貸倒れその他政令で定める事由により生じた損失の金額は、その者のその損失の生じた日の属する年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。」
と記載されています。
つまり、土地収入や家賃収入における貸し倒れ分については、その金額が確定した場合には、その貸し倒れが確定した年の経費として計上することが出来るということです。
しかしこのように経費計上するためには不動産所得が事業的規模の場合にのみ適用されることになっています。つまり、小規模不動産を管理している方はこの通りではないということです。なぜ、このような違いがあるのでしょうか。
1-1. 事業的規模の場合
これまで説明したように不動産にかかる貸し倒れについては所有している不動産が事業的規模であるか、そうではないのが非常に重要な意味を持っています。
この「事業的規模」とはどのような判断基準によって決められるのでしょうか。
賃家を所有している場合 | 概ね5棟以上を所有していること |
賃室を所有している場合 | 概ね10室以上を所有していること |
土地を貸し付けている場合 | 所有している土地の規模や金額によって総合的に判断される |
駐車場を所有している場合 | 所有している駐車場の規模や金額によって総合的に判断される(判断が難しい場合には50台以上の貸し付けスペースがあれば事業的規模に認定されると考えて良い) |
上記の表によって事業的規模だと判断された場合には、貸し倒れた年に経費として計上することが可能です。
この計上方法は貸し倒れた年の確定申告書の決算書に貸倒損失として記入し、必要経費として算入します。この際に金額を正確に記入するようにしましょう。
滞納金額が大きすぎる場合や、全く回収することができなかった場合等に貸倒金額が通常よりも大きくなってしまうことも想定されます。
その際に税務署から指摘が入ってしまう可能性もあるため、決算書にある特殊事項に貸し倒れに関する状況やその経緯について事前に記載しておくと税務署も目を通してくれスムーズに申告できます。
1-2. 事業的規模でない場合
事業的規模ではない場合は、事業的規模の場合と処理方法が変わってきます。
事業的規模でない場合には「更正の請求」という手続きを行います。
この更正の請求とは過去に申告した収入の金額を訂正して、多く申告した分に関しては取り消すという方法です。
この更正の請求書の提出期限は当初の金額を計算した確定申告書を提出した時から5年以内となっています。しかし5年が経過してしまった場合であっても、貸し倒れが発生・発覚したときから2ヶ月以内であれば更正の請求が認められます。
Q.所有する不動産を貸し付けていますが、家賃を滞納されています。この場合、貸し倒れとして処理することはできますか?また、この場合はいつが貸し倒れの時期になるのでしょうか。
A.このような場合には貸し倒れとして処理することができません。
家賃滞納の場合には保証人に催促する方法や、内容証明で家賃の支払いを強制力をもって請求する方法をとる等の対処方法をとる必要があります。内容証明を送付したとしても支払いをしてもらえない場合には契約解除を要求できます。
しかし、過去の未納家賃分に関して減額した場合や一部を免除した場合にはその減額・免除金額を貸し倒れとして経費計上もしくは更正の請求をすることが可能です。
(所得税法施行令141条1を確認)
このような場合と異なり、家賃滞納後回収できずに滞納者及び保証人がいなくなった場合や退去後に支払い予定だった金額が支払われなかった場合には貸し倒れとして計上することが可能です。
家賃滞納後回収ができない場合には、通常裁判によって争います。この際に裁判によって不動産明け渡しの判決がされた場合などは部屋にあるものをすべて撤去した段階から、
また退去後に支払われなかった場合には退去後1年間経過したときから貸し倒れとして計上もしくは更正の請求を行うことができます。
2. 貸倒損失とは
貸倒損失は倒産などによって売掛金や貸付金といった金銭債権が回収出来なくなった債権者にかかる損失のことを指します。
この貸倒損失は生じる理由は、取引先の多い企業などが商品やサービスの売上債権の回収がスムーズ且つ正確に行えておらず売掛金や受け取り手形として残ったままになってしまうというケースが多いです。
貸倒損失を計上することは正確な賃借対照表を作成すること、又会社の経営状態や財務諸表を正確に表すために必要なことなのです。
2-1. 対象となる債権
では、この貸倒損失として税務上適用することが出来る債権にはどのようなものが含まれるのでしょうか。対象となるためにはその債権に貸倒れの事実が生じているというのが大前提となります。この貸倒れの事実として挙げられるものには以下のものがあります。
2-1-1.法的に貸し倒れた債権(具体例は以下の通り)
更正計画認可の決定が生じた債権
再生計画認可の生じた債権
特別清算にかかる協会の認可の決定が生じた債権
債権者集会の協議決定が生じた債権
行政機関、金融機関もしくはその他第三者の斡旋による当事者間の決定が生じた債権
この法的に貸し倒れた債権に関しては切り捨てられた債権の金額を貸倒損失として処理することが可能となります。
2-1-2.債務免除した債権
債務者について、債務超過期間が相当期間継続状態にあること、当該債権の弁済を受けることが不可能であると認められること、債務者に対して債務免除額を書面によって通知していることという三点をすべて満たす場合に限り適用となります。
なお、この債務免除した債権に関しては債務免除した金額を貸倒損失として計上することが可能となります。
2-1-3.事実上貸し倒れた債権
債務者の資産保有状況や支払い能力によって、当該債権の回収が見込めないと判断され、その判断が客観的に明らかである場合にはその債権の全額を貸倒損失として計上することが可能となります。
しかし、その債権に担保が設定されている場合には、その対象である担保を処分してからでないと貸倒損失として処理することができないので、注意が必要となります。
3. 貸倒損失の計上が認められる2つのケース
貸し倒れの事実が発生した際に計上を行うためには以下の2つのケースが想定されます。
この2つのケースはその場合ごとに計上方法が異なるので注意しましょう。
3-1. 法律上債権が消滅している
この場合には切り捨て金額や免除額を貸倒損失として計上することが可能です。
3-2. 法的には債権が残っていても事実上回収できない
客観的な判断に委ねられますが、貸倒損失として計上することが可能です。
4. 売掛債権には特例がある
貸倒損失は相手先(債務者)に対する金銭債権の全額が回収不能の状態になった場合に認められますがその他に例外的な特別に取り扱われる場合があります。
売掛債権に限定されますが、その売掛債権が取引停止後1年以上経過しその債務者から弁済が得られない際に売掛債権の金額から備忘金額を控除した金額(残額)を貸し倒れとして損金経理することができます。つまり、損金として算入することができるのです。
5. 貸倒損失における特殊なケース
貸し倒れが生じてしまった場合、通常考えられる状況ではなくイレギュラーな状況もあります。以下のような特殊ケースを知っておくことで仮に自分の所有する土地や不動産に関して同じような特殊な問題が発生した場合にも対応することができるのです。
貸倒損失における特殊なケースを詳しく見ていきましょう。
5-1. 事業廃止後に貸倒れが発生した
この場合、貸倒損失の金額は事業を廃止した年またはその前年度分の事業所得の計算上、必要経費に算入することが可能なので貸し倒れまたは更正の請求を行うことができます。
この結果、所得税の還付を受けることができるのです。
5-2. 工事着工金が貸倒れ
工事着工金が貸し倒れた場合はその工事の進捗状況によってその判断が分かれます。
例えば工事が中断するまでに工事が多少なりとも進められていた場合にはその債務が一部履行されていると見なされます。よってこの部分に関しては貸倒損失として必要経費に算入することは出来ません。
しかし、全く履行されることなく着工金が返済されなかった場合には債権の貸倒と見なされ貸倒損失として計上することは可能となります。
5-3. 不良債権を譲渡したときの損失
不良債権を譲渡した場合に生じた損失は必要経費として計上することが可能です。
不良債権のため譲渡金額が債権の額面金額よりも少なくなってしまうことが当然予想されますが資金の一部回収をした方が回収できる可能性もあるため効果的だと言えます。
5-4. 税理士が関与先へ貸し付けた金額が回収不可能
税理士が関与先に貸し付けた貸付金が貸し倒れた場合には所得税法第51条第2項をチェックしましょう。
規定されているように「事業の遂行上生じた貸付金」は、当該事業所得の基因となる事業の範囲に属する事由によって生じたもの、当該事業所得を得るために通常必要とされる貸付金がこれに該当すると解釈され税理士である請求人は貸金を業としていないこと及び税理士業務の範囲に関与先に対する貸付金の貸付けは含まれていないことから、当該貸付金の貸付けが請求人の事業所得の基因となる事業の範囲に属する事由によって生じたものと認めることはできません。
また、事業所得を得るために必要な貸付であったと認めることはできないために、この貸付金は事業所得を生ずべき事業の遂行上生じた貸付金にも該当しません。よって、当該貸付金の貸倒れによる損失の金額は、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することはできません。
5-5. 友人に対する貸倒れ
このような場合は必要経費に算入することは出来ません。
貸し倒れとなった貸付金の損失に関しては、受け取った利息収入分を限度として必要経費に算入することは可能ですが、残りの貸付金から利息収入分を引いた金額に関しては必要経費に算入することは出来ません。
6. まとめ
これまで不動産にかかる貸し倒れについて要件や各種処理方法についても詳しくチェックした当記事はいかがだったでしょうか。
事業規模やその状況によって適用や判断が異なるため個人で貸し倒れの処理を行うのは大変な部分が多々あります。判断を誤ってしまったり、間違った方法で処理を行ってしまうと無駄な税金を支払うことにもなりかねません。
また税務署からの指導される可能性もあるので注意が必要です。不安な場合や自身での判断が難しいと感じた場合には、不動産関連に精通した知識の豊富な税理士に相談するなど判断は慎重に行うようにしましょう。