事例紹介

Category  不動産

2018年11月24日

不動産における消費税簡易課税制度とは?見直しや消費税増税の影響を解説!

法人や個人事業主になると様々な形で納税を行わなくてはなりません。手続きは煩雑で分かりにくいものも多く、頭を悩ませている人も多いのではないでしょうか。なかでも消費税は仕入れや売上高など様々なものに関わるため、より複雑なうえ金額も高額になりやすく、会計処理の負担も大きくなってしまいがちです。

そんな法人や個人事業主の事務的負担を軽減するための対策として、1989年より「簡易課税制度」と呼ばれる制度が導入されているのを知っていますか?この簡易課税制度とは煩雑となる消費税の納税額の計算を簡易的に行うことを認め、みなし仕入れ率を用いて仕入れ控除税額を算出し、納税額を決定する制度となっています。

専門用語が多く難解に感じる人も多いかもしれませんが、制度を利用することで得られるメリットもあるため、どのような制度なのかをしっかり把握しておくことが重要です。

今回は消費税簡易課税制度について、適用方法や見直しによる改正、増税がもたらす影響についてまでを詳しくご紹介していきます。

1.消費税簡易課税制度とは

一般的に事業主が消費税を納める場合、売り上げとともに受け取った消費税の合計から、仕入れをはじめとする必要経費の支払い時にかかった消費税の合計を引いた額を税務署へ納税する一般課税という方法で納税をします。簡単にいうと売り上げにかかる消費税は預かっている消費税と考えられ、預かっている消費税から仕入れの際に事業主が支払った消費税額を引いた金額が納税額となります。

法人や個人事業主が納付する消費税額は預かった消費税から支払った消費税額を控除したものとされ、この控除する金額のことを仕入れ控除税額と呼びます。控除に適用できる消費税は、仕入れだけでなく設備投資などで支払った消費税や維持費などにかかった消費税など、事業に必要な経費で支払った消費税がすべて対象となります。

この一般課税の方式では消費税を支払う取引がある度にその金額を記録しなければならず、仕入れ控除税額を算出する際の手間がかかってしまうことが問題でした。特に中小企業においては会計に関する負担が大きいと以前から指摘されていたため、中小企業への負担軽減をはかることを目的として「簡易課税制度」が導入されることになりました。

簡易課税制度では「みなし仕入れ率」を用いて仕入れ控除税額の計算を行い、簡易的に消費税の納税額を算出することができる制度です。実際に支払った消費税を考慮しない計算式となるため事務的負担を大幅に軽減することも可能になっています。

簡易課税制度では、売り上げで預かった消費税を基準に、みなし仕入れ率をかけて仕入れ控除税額を算出します。つまり次のような計算式により算出されることになります。

納付する消費税 = 預かった消費税 - (預かった消費税×みなし仕入れ率)

※預かった消費税×みなし仕入れ率により算出される金額が仕入れ控除税額になります。

実際に仕入れなどの必要経費とともに支払った消費税の金額を計算する代わりに、簡易課税制度を活用して簡単に算出できるようにしているのです。

このみなし仕入れ率ですが、一律ではなく業種ごとに6段階に区分され割合が定められています。具体的には第一種事業(卸売業)では90%、第二種事業(小売業)では80%、第三種事業(製造業等)で70%、第四種事業(その他の事業)で60%、第五種事業(サービス業)で50%、第六種事業(不動産業)では40%のみなし仕入れ率が設定されています。不動産業に関しては平成26年度までは第五種事業の中に含まれていましたが平成27年度より第六種事業として40%のみなし仕入れ率に改正されています。

簡易課税制度を適用するためには届け出が必要になることから、一般課税か簡易課税制度を利用するかを選択することができます。簡易課税制度を選択する場合は消費税簡易課税制度選択届出書を課税期間の開始前日までに提出しなければなりません。個人事業主では1月1日から12月31日の1年間、法人の場合は事業年度つまり法人が設立した日から各法人が定める1年間以内の期間を課税期間としています。簡易課税制度を利用する場合は課税期間を確認し、期日までに提出できるよう準備を進めるようにしましょう。

しかし簡易課税制度は全ての個人事業主や法人に適用が許されているわけではないので注意が必要です。簡易課税制度の適用には一定の条件が課せられているのです。

その条件とは、届け出を事前に提出することに加え、前々年税売上高が5,000万円以下であることが定められています。つまり前々年の売上高が5,000万円超になると簡易課税制度の適用を受けて算出することができません。

簡易課税制度は主に中小企業の事務的負担を軽減することが目的となる制度のため、売上高の基準が設けられているとされています。

もしも簡易課税制度の申請をしたのちに、売上高が5,000万円を超えた場合は、一般課税にて納税額を算出するようになります。この簡易課税制度は「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出しない限り適用され続けますので、課税売上高が5,000万円を超えた場合には自動的に一般課税に変更になり、再び課税売上高が5,000万円以下になった場合も手続きすることなく再度簡易課税制度を適用することが可能になっています。

この簡易課税制度で注意したいことは、事業別のみなし仕入れ率を用いて納税額を算出していることから、場合によっては一般課税よりも多く消費税を納税しなければならなくなる可能性を秘めている点です。実際の仕入れにかかった消費税額が高額になる場合は簡易課税制度を適用させない方が、控除額が大きくなる場合もあるのです。開業した初年度などは設備投資により経費が高額になることが予想されるため、簡易課税制度を適用せず一般課税で納税額を算出することを薦めている専門家も多いです。

簡易課税制度選択届出書は一度提出すると原則として2年間は変更することができないように定められているため、1年だけでなく2年先の事業計画も考慮して簡易課税制度を選択するかどうか慎重に決断することをおすすめします。

2.消費税簡易課税制度の見直しによる不動産業への影響

消費税簡易課税制度は定期的に見直しが行われ改正されることがあります。中小企業の事務的負担に配慮し設けられた制度であるものの、実際には事務的負担の大小よりも一般課税と簡易課税制度適用時との納税額を比較して節税できる額が多い方を選択しているケースが目立っています。この背景にはみなし仕入れ率の設定が実際の現場の状況とかけ離れているため制度を適用するメリットが少ない企業や個人事業主が多くいると考えらえています。そのためみなし仕入れ率や事業区分の定義などを見直し、制度を改正することで本来の意図を発揮できるように検討されています。

2-1.みなし仕入れ率の改正

今まで簡易課税制度の改正は平成3年、平成6年、平成15年、平成26年、平成30年と5回実施されています。一番新しい平成30年の改正では農林水産物を生産する第二種事業が70%→80%に上方修正されています。この背景には今後の消費税増税に伴い導入される軽減税率が関与しています。軽減税率が適用される食品に関わる農林水産物を生産する事業者は、支払う消費税は10%に増税しても預かる消費税が8%になるため、改正前のみなし仕入れ率では仕入税額控除額が少なくなるため、業者への負担を懸念して改正されたとされています。このように消費税の変化に合わせて改正し、簡易課税制度の本来の目的を果たせるように調整されているのです。

不動産業に関しては前回平成26年度の税制改正により大きな影響を受ける変化がありました。それまで不動産業は第五種事業に分類されていたのですが、平成26年度の改正では不動産業を新たに設けた第六種事業とし、みなし仕入れ率が40%に引き下げられたのです。その年の税制改正では金融業及び保険業もそれまでの第四種事業から第五種事業へと変わり、みなし仕入れ率が60%から50%へ変更されています。

このみなし仕入れ率の引き下げにより不動産業においての仕入れ控除税額は以前より10%も低く算出されるようになり、結果として消費税の納税額が増加するようになってしまいました。実は不動産業は消費税が課税される売り上げが少ないため、他業種に比べて簡易課税制度による節税効果が高くなっていました。そういった事業間の格差を軽減させる目的もあり平成27年度の改正が行われたと考えられます。そのため不動産所得に対して以前のように安易に簡易課税制度を選択していると納税額が多くなってしまう可能性も出てくるようになったので注意する必要があります。

不動産業にとって、どちらの計算方法が有利かを選択する際には2年後の計画も含めてしっかりと検討するようにしましょう。

2-2.改正後の消費税簡易課税の計算

改正前までは預かった消費税に50%をかけた金額を預かった消費税額から引いていたので、預かった消費税の半額を控除できていたことになります。しかし改正によりみなし仕入れ率が40%に引き下げられたことで、納付する金額が10%増えてしまい、預かった消費税額の60%を納税することになっています。

改正後の計算式は次のようになります。

消費税の納税額 = 預かった消費税 - (預かった消費税×40%)

2-3.経過措置

消費税簡易課税制度選択届出書を提出することで課税開始期間であっても2年間は改正前のみなし仕入れ率が適用されることになります。この措置は選択制になっているため、届け出を出し忘れてしまった場合の救済措置はないので注意が必要です。簡易課税制度を選択する場合は少しでも長く改正前の税率で納税できる期間を延ばすためにも必ず届出を提出しましょう。

3.不動産業の消費税簡易課税制度の注意点まとめ

不動産業の消費税簡易課税制度を取り巻く状況は、ここ数年だけでも大きく変化しています。不動産業では消費税が課税されない収入も多くあることから、今までは簡易課税制度による節税効果を期待できましたが、これからは事業計画をもとに慎重に納税方法を検討していく必要があります。事務的負担の軽減もさることながら、控除額をいかに確保できるか、納税額を低く抑えることができるかが重要です。

納税額の増減によって運用率も変化していくので、簡易課税制度の適用が有利に働くかどうか適格な判断が求められるようになっています。しっかり比較検討し、無駄なく運用できるような計画を立てるようにしましょう。