事例紹介
Category 不動産
2018年10月01日 更新
売れない土地や建物の処分方法を解説|寄付・放棄などでうまく手放すために
使わなくなった土地や建物を売りに出しているけれど、なかなか売れないというケースはよくあります。特に、田舎にある土地や空き家はなかなか売れず、使っていないにも関わらず固定資産税を負担しなければならないことに、不満を感じている人も多いです。
売却できれば一番良いのですが、それが難しそうであれば、他の処分方法を検討していかなければなりません。そこで今回は、売れない土地や建物の処分方法について見ていきます。
この記事でわかること
1. 土地や建物の所有権は放棄できない
不動産の処分方法としては、まず、所有権を放棄という選択肢が思い浮かびます。所有者のいない不動産は国が所有することになるので、所有権を放棄し国のものにできれば良いのですが、原則として不動産の所有権放棄はできません。
建物の場合は、建物を解体し建物滅失登記を行うことで建物自体をなくすことができます。建物の解体が難しい場合や、土地の場合、所有権を放棄し国のものにできればいいのですが、これが難しいのには理由があります。
仮に所有権の放棄が認められ、国がどんな不動産でも受け入れるようになると、国は管理する負担が増えてしまいます。使う予定もない不動産や、何らかの危険がある不動産を所有しなければならない可能性もあります。
そもそも使われない不動産や、使われる可能性がないのに安全のために危険を取り除かなければならない不動産のために、管理や工事などで税金が使われることは、国にとっても国民にとっても良くないことです。
実際、所有権の放棄については明確な規定がないので、様々な考え方がありますが、現状は所有権の放棄できないとされています。
1-1. 土地や建物は共有持分の場合のみ放棄が可能
不動産を共同で所有している場合には、自分の所有権のみであれば放棄することは可能です。他にも所有権を持たないようにする方法はありますが、他の所有者との話し合いや金銭のやりとりが必要になるので時間がかかることもあります。
共有持分の放棄であれば、他の所有者の承諾も不要で自由に手続きが行えます。しかし、注意が必要です。所有権の放棄自体は自分だけ行えますが、放棄後の登記に関しては、他の所有者の協力が必要です。
自分が放棄したと言っても、それだけでは不十分です。第三者への認知のためには登記が必要ですが、登記には費用がかかります。また、状況によっては、贈与の疑いがかけられるかもしれません。
登記や贈与などの問題をクリアしないと放棄ができないと考えた方が良いでしょう。
2. 土地や建物は相続時に放棄する
これから相続するという不動産であれば、相続を放棄することで処分することができます。相続時が所有権を放棄する唯一のタイミングですが、以下のような問題があるので簡単にはいかないことが多いです。順番に見ていきましょう。
2-1. 相続は選択して行うことはできない
相続には、相続するものを選択できないというルールがあります。一部を選択して相続できることが許されてしまうと、借金や不要な不動産など都合の悪いものは相続されなくなる可能性があるからです。
相続放棄によりいらない不動産だけ処分したければ、他の財産や必要な不動産は生前贈与しておく必要があります。他の財産が残っている場合の相続放棄は、現実的な方法ではありません。一般的には、相続する財産が全体でマイナスの場合にのみ、相続放棄が行われます。
2-2. 全員が相続放棄をする必要がある
財産を相続する権利には優先順位がつけられており、相続放棄で不動産を処分する場合は、相続する権利を持っている全員が相続放棄をする必要があります。
2-3. 相続放棄をしても管理義務は残る
相続放棄で注意しなければならないのは、建物や土地の管理です。利用する人がいない建物をそのままにしておくことは非常に危険なので、きちんと管理する人が必要です。そこで、相続が放棄された建物の管理は、最後に相続放棄を行った人が責任をもつよう義務付けられています。
仮に責任を負わないでいると、行政代執行により、解体費用を請求される可能性もあります。管理を怠り近隣の人に損害を与えると、損害賠償を請求される可能性もあります。
相続を放棄して不動産を処分する場合は、その管理についてもあらかじめ考えておく必要があります。
2-4. 相続財産管理人の選任
相続財産管理人とは、名前の通り相続に関わる財産の調査や管理を行う人のことです。相続する人が誰もいない場合や、相続放棄が行われた場合に、相続財産管理人が選任されます。相続放棄した場合には、相続財産管理人を選任する手続きを行うことが必要です。
相続財産管理人を選任するためには、まず、家庭裁判所に相続財産管理人の選任申し立てを行います。家庭裁判所では、相続財産管理人が必要かどうかの審理が行われ、必要だと判断されれば、家庭裁判所から相続財産管理人が選任されるという流れになっています。
2-5. 相続放棄時にかかる費用
相続を放棄する際には、家庭裁判所で必要な手続きを行わなければなりません。手続きに必要な書類の準備には以下の費用がかかります。
- 戸籍謄本・・・450円
- 除籍・原戸籍謄本・・・750円
- 相続放棄申述書に貼る収入印紙・・・800円
- 予納郵便切手・・・数百円程度(家庭裁判所で確認が必要)
放棄する人数が増えると、必要な枚数が増えるので費用もかさみます。また、相続放棄の手続きを弁護士など専門家に依頼する場合は、専門家への報酬も必要になります。
3. 売れない土地や建物は寄付を考える
どうしても売れない、相続による処分も難しいという場合は、寄付という選択肢があります。もちろん、寄付でさえ受け取ってもらえない可能性もありますし、寄付でも費用がかかることがありますが、処分方法のひとつとして検討してみることは大切です。
主な寄付先としては、自治体、自治会、個人、法人の4つがあります。
4. 土地や建物の自治体への寄付
寄付先として第一に考えられるのが自治体です。社会全体のために役に立てたいと考えるのであれば、自治体への寄付が一番です。寄付先をどこにしようかと深く考える必要もないので、自治体への寄付を考える人も多いです。
4-1. 土地や建物の自治体への寄付の流れ
寄付までの手続きや流れは自治体によって異なるので、直接確認が必要です。
4-1-1. 担当窓口で相談
自治体の担当窓口に行き、寄付の相談をします。自治体によって様々ですが、規定を満たしていれば道路や公園など用途を指定して寄付することもできます。
4-1-2. 自治体による土地や空き家の調査
窓口に相談後、自治体による土地や空き家の調査が行われます。立地や広さ、建物の状態などが確認され、資産価値・利用価値をふまえて、寄付の受け入れが可能かどうか判断されます。
調査にかかる時間や、結果報告までの期間については、自治体への確認が必要です。
4-1-3. 受け入れ可能なら必要書類の提出
調査により、寄付の受け入れが可能と判断された場合、自治体の窓口に必要書類を提出し、手続きを済ませます。
4-1-4. 寄付の際に必要となる書類の例
必要となる書類は自治体によって異なるので、直接確認をしてください。一般的に必要とされている書類は以下の通りです。
- 寄付申請書・・・自治体によって形式が異なります。窓口やインターネットで取得可能です。
- 公図・・・法務局、一部はインターネットでも取得可能です。
- 登記簿謄本・・・法務局やインターネットで取得可能です。
- 所有権移転登記の承諾書・・・自治体によって形式が異なります。窓口やインターネットで取得可能です。
- 現況写真・・・どのような写真が必要か、必要な枚数など、担当者に確認して用意しましょう。
- 所有権以外の権利設定があれば権利者の承諾書・・・権利者と話し合いの上、自分で作成する必要があります。
4-2. 市町村が土地や建物の寄付を受け入れるケースは限定的
実際に自治体が不動産の寄付を受け入れるケースは非常に限られています。特に規模の小さい市町村であれば、寄付の受け入れはより厳しくなります。歴史的な価値があるものや広大な土地などは、自治体としての利用価値が見込めるので受け入れてもらえる可能性が高くなります。
自治体にとって、土地や建物など不動産を所有している人が支払う固定資産税は、貴重な財源になっています。住民税による財源確保が難しくなる中で、比較的安定して得られる固定資産税による税収は、貴重な財源という訳です。
自治体からすると、寄付を受け入れるということは、その土地や建物の分の固定資産税による税収がなくなることを指しています。
そのため、多くの自治体が寄付を受け付ける体制を整えていながら、実際には、ほとんどの寄付が受け入れを断られてしまっています。
4-3. 土地や建物の国への寄付は絶望的
自治体ですら、寄付を受け入れていないことが多い中、国への寄付は更に難しくなっています。国への寄付が極めて難しいことには、所有権の放棄が難しいことと同じような理由が考えられます。
実際、財務省のホームページでは、国が土地など不動産の寄付を受け入れることは原則抑制している、行政で使用予定がない土地などの寄付の受け入れは、合理性がなく、受け入れることはできないと記されています。
5. 土地や建物を町内会などの自治会への寄付
国や自治体ほど大きな規模ではありませんが、町内会などの自治会も社会に役立てる寄付先のひとつです。
5-1. 地縁団体として認可を受けていることが必要
自治会に不動産を寄付する場合は、その自治会が地縁団体として認可を受けているかどうかを確認しておく必要があります。
団体組織が不動産を所有するためには、法人格というものが必要になります。不動産の寄付を受け入れるためには、法人格を持っている必要があるのです。
そこで、自治会のような一定地域の住民が集まって活動する団体組織のために、地縁団体としての認可制度が設けられています。地縁団体になるためには、自治会のある市町村長からの認可が必要で、認可がおりれば不動産の所有も可能になります。
また、地縁団体として認められている自治会への寄付は、寄付の際に税制優遇が受けられます。
6. 土地や建物の個人への寄付
最も受け入れの可能性が高いと言われているのが、個人への寄付です。面倒な申請などの手続きなどの決まりがないので、相手の気持ちしだいですぐにまとまる可能性もあります。
しかし、登記費用や贈与税などの問題がありますので、ただならすぐにもらってもらえるという訳にはいかないことが多いです。そういうことも踏まえて考える必要があります。
6-1. 隣地や近隣の方に相談する
個人への寄付でも、相手次第では受け入れてもらえない可能性があります。貰い手の候補が見つからないときは、隣地や近くの不動産を所有している人に相談してみると良いでしょう。
なかなか使えないと思っていた土地でも、近くの人なら、セカンドハウスやゲストハウス、倉庫、駐車場など、良い使い方がある可能性もあります。空き家をそのまま使ってもらえたケースもありますし、解体費用を一部負担することで寄付を受け入れてもらえたケースもあります。
6-2. 個人への寄付は相手にお金がかかる
個人への寄付で気を付けておかなければならないことは、相手にお金がかかるということです。
寄付を受けると、資産が増えるので、贈与税が課税されます。贈与税は110万円の基礎控除があるので、不動産の評価額が110万円以下なら問題ありません。寄付の検討が必要な不動産なので、贈与税が高くなることはあまり考えにくいですが、もし課税が必要になりそうであれば、トラブルを避けるためにも事前に伝えておかなければなりません。
また、実際に寄付をするとなると、所有権移転登記も必要になってきます。どちらが負担するかでもめないよう、登記費用についてもあらかじめ話をまとめておく必要があります。
6-3. 土地や建物の贈与契約書を作成する
個人への寄付では、贈与契約書を作成するのが基本です。寄付する側にとっては、寄付した後にトラブルになるのは避けたいですし、寄付を受ける側にとっても急に返還を求められると困るので、きちんと贈与契約書を作成するようにしましょう。
贈与契約書は、寄付する側と寄付を受ける側両方が保管できるよう、2部作成します。サインや印鑑はどちらにも必要です。
6-3-1. 土地や建物の贈与契約書の内容
インターネットで調べると、贈与契約書の雛形もいくつか用意されていますが、簡単に必要な内容をまとめていきます。
まず、贈与者と受贈者の名前、契約の日付、贈与に関する契約であることの記載が必要です。贈与するものについて、登記簿謄本の情報を参考にしながら、土地であれば所在地、地番、地目、地積など、建物であれば所在地、家屋番号、種類、構造、床面積などを記載します。
贈与に伴う税金や、所有権移転登記に関わる費用の支払いに関して、どちらが負担するのかは、契約書で明記しておくべき項目です。その他金銭の支払いに関わる取り決めがあれば記載しておきましょう。
契約書には、収入印紙を貼る必要があります。基本的に不動産の贈与契約書には、200円の収入印紙が必要ですが、金額が記載されていると印紙税が高くなることもあるので注意しましょう。
7. 土地や建物の法人への寄付
法人に寄付をする場合は、営利法人よりも公益法人のほうが受け入れてもらえる可能性は高いです。
7-1. 土地や建物の営利法人への寄付
買い手が見つからず、最終的に営利法人へ寄付をするというケースは非常に珍しいです。
資産価値のある土地や、その法人にとって利用価値のある土地であれば受け入れてもらえる可能性もありますが、営利法人が不動産の寄付を受けると、税金を納めなければならず、その後の管理費も考慮すると、受け入れてもらえないことが多いです。
営利法人への寄付は、その多くが法人の関係者によるものなので、特に関係がなければ、より難しくなるでしょう。
7-1-1. 寄付した側に譲渡所得税がかかる場合がある
譲渡所得税とは、不動産を購入したときの価格より売却したときの価格が高かった場合に課せられる税金です。しかし、売却ではなく寄付をした場合にも、寄付をした側に譲渡所得税が課税される場合があります。
7-1-2. 営利法人への寄付に課税される理由
個人から法人への寄付の中で、不動産のように価格が変動するものの寄付は「一度時価で売却し、売却した代金を全額寄付した」という考え方をされます。
売却したと考えられることで、譲渡所得税と同様に、購入したときよりも価格が上がっていれば、譲渡所得税の対象になります。このように一度売却したとみなされるので、「みなし譲渡所得」と呼ばれ、寄付をした個人に対して所得税が課税されるのです。こうすることにより、上昇した分の価値に対しても、確実に税金を徴収する仕組みになっています。
同じ法人でも、公益法人への寄付であれば、必要な手続きを行えば、みなし譲渡所得税は非課税となります。これは、公益法人が、社会に利益を還元していると考えられ、税法上の優遇を受けられるからです。
7-1-3. 土地や建物のみなし譲渡所得の計算方法
みなし譲渡所得は、以下の方法で計算することができます。不動産の取得費用が分からない場合は、寄付をした際の不動産の時価の5%として計算されます。
みなし譲渡所得=寄付をした際の時価-(寄付にかかった費用+取得費用)
7-2. 土地や建物の公益法人等への寄付
公益法人には、社団法人や財団法人などがあり、学校や医療機関、社会福祉施設なども公益法人に該当します。自治体や町内会などの自治会への寄付と同様に、社会に貢献できる寄付のやり方です。
寄付の際には、課税される税金が非課税になることも多く、営利法人に比べると寄付を申し出やすいところも特徴です。
7-2-1. 公益性が求められる
公益法人への寄付には、高い公益性が求められます。特に税制優遇を受けるのであれば、税務署に必要な書類を提出し、公益性の高い寄付として承認をしてもらう必要があります。
この手続きがかなり大変なので、公益法人への寄付を断念する人もいます。
7-2-2. 譲渡所得税はなし
高い公益性が認められれば、営利法人への寄付に必要であった譲渡所得税は非課税となります。みなし譲渡所得として所得税の対象になることには変わりないですが、必要な手続きを行うことで納税する必要がなくなります。
7-2-3. 寄付証書の作成
公益法人へ寄付をした際には、寄付証書の作成を求められることがあります。これは、公益法人が、寄付を受け取ったことで発生する税金を減税したり非課税にしたりするために必要な書類です。
法人によっては、寄付証書の見本を用意しているところもあるので、作成の際には相談してみると良いでしょう。
8. 土地や建物を寄付する際の税金一覧
不動産を寄付する際に必要になる税金は、寄付先よって異なります。
個人への寄付の場合、寄付する側が負担する税金は基本的にはありません。少額の印紙税や、話し合い次第では登録免許税を負担することになる可能性はあります。
法人への寄付の場合、みなし譲渡所得に対する所得税がかかります。公益法人や自治体、認可された自治会への寄付であれば、手続きを行うことで非課税になります。
8-1. 土地や建物の所得税に対する寄付金控除
自治体や公益法人へ不動産の寄付を行うと、所得税に対する寄付金控除が受けられます。これは、寄付額に相当する金額が、所得税から差し引かれるというものです。
寄付額に相当する金額とは、寄付した際の不動産の時価です。そして、この時価から、控除された譲渡所得分が差し引かれ、残った額がこの場合の寄付額として考えられます。この寄付額と、年間総所得の4割とを比較し、少ない方から2000円を引いた額が、控除される金額となります。
9. 借地上の空き家を寄付する際の注意点
借地上の空き家を寄付する場合には、まず、地主に許可を得ることが大前提です。そして、地主と寄付を受ける人とで、その土地の地代の支払いについて、あらかじめ決めておく必要があります。一般的な方法としては、以下の3つが考えられます。
9-1. 借地権のままで地代は寄付を受けた人に支払ってもらう
借地上の空き家を利用するためには、借地権に対する対価が必要です。この借地権は、料金を支払ってその土地を利用している権利を表しており、借地上の空き家を寄付する際には、この借地権利も同時に移転しなければなりません。つまり、その土地の地代は、寄付を受けた人が支払うことになります。
この方法は、寄付を受ける側が地代を支払っていかなければならなりません。寄付を申し出ても、借地権があれば断られる可能性もあります。
9-2. 地主と寄付を受けた人の協議で使用貸借に変えてもらう
使用貸借とは、無償で利用できる契約方法です。寄付を受け入れてもらえる可能性は高いですが、地代を得ることができる土地を無償で貸してくれる地主は少ないです。
9-3. 地主も寄付を了承して土地ごと寄付をする
地主にも協力をしてもらい、土地と空き家をまとめて寄付するという方法です。自治体などは、このケースでないと寄付を受け入れないことも多いです。しかし、使用貸借のケースと同様に、寄付を了承してくれる地主は少ないでしょう。
10. 売れない土地や建物を処分する方法まとめ
このように、売れない不動産の処分方法としては、相続放棄による処分と寄付による処分の2つの選択肢があり、寄付による処分では、寄付先も選ぶことができます。売却以外にも色々な選択ができそうですが、どの方法が処分のコストを抑えることができるのかを見極めることが大切です。
相続を放棄することにも費用はかかりますし、費用をかけずに寄付することも難しいです。処分する不動産ですから、できるだけコストを抑えて処分できるよう、最適な方法を考えてみましょう。