事例紹介

Category  不動産

2018年11月25日

知っておいて損はない遺言執行者による不動産の登記申請について

誰もが経験する家族の死。その際、残された人に与えられたもの、遺産の中に不動産が含まれる場合があります。その不動産をその相続する、遺贈される場合は手続きが必要となります。

遺言書に基づいて、遺言の内容を実現する権利がある人を「遺言執行者」と言います。また遺産の中に不動産が含まれていれば「登記(名義変更のようなもの)」といったことを行う必要があります。しかし遺言執行者は「相続」登記は出来ませんが、「遺贈」登記出来ます。

このように遺言執行者が行うことの出来る登記には細かな違いがあり、いずれ遺産を受け取る皆さんはこのことを知っておく必要があります。これを読んでいる皆さんが遺言執行者として選任される可能性もあります。ただでさえ慌ただしくなる、親族の死。いざ遺言執行者として選ばれた時や相続となったときに調べるのも良いですが、前々から知っておくとスムーズに不動産の相続や遺贈登記を申請することが出来ますね。

そのため今まさに遺言執行者として登記手続きや相続を行おうとしている人もそうでない人も、一緒に不動産の登記手続きについて学んでいきましょう。

1.遺言執行者とは

遺言執行者とはどのような存在なのでしょうか?日常でこの言葉を耳にすることはあまりないですよね。しかし遺産の相続や遺贈に関して、非常に重要な言葉なのでここでどういったものなのか知っておきましょう。

以下は東京足立相続遺言相談センターの公式サイトの引用です。

この「遺言執行者」とは、読んで字のごとく「遺言の内容を実現することを任された人」であり、亡くなった人の最終意思である遺言の内容に従って各種の相続手続きを行う役割を負い、権限を持っています。つまり亡くなった方の遺志を実現することを職務とし、その職務に必要な範囲内で相続人や受遺者の代理人としても行動することができる立場にあるのです。

遺言執行者には故人の遺志を実現するための権限が法律によって与えられています。もし遺言に遺言執行者についての記載があった場合は、相続人など関係者の方は遺産に一切手をつけずに遺言執行者にその扱いを任せてしまってください。仮に遺言の内容と違う処分を相続人などがしたとしても、遺言執行者がいる場合その処分が法的に無効になってしまうことがあります。例えば土地や車を売ったとしても売ってないことにされてしまい相手に迷惑をかける危険があるので注意して下さい。

https://www.adachi-souzoku.com/category/1991075.html

また民法第千十三条(遺言の執行の妨害行為の禁止)により、遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることが出来ません。遺言執行者は相続手続きに対し、他の親族よりも権限を持っていることが分かりますね。

◆遺言執行者が行うこと

具体的には遺言執行者が行うことは以下のことです。

  • 相続人に対して遺言執行者になることの承諾、拒否の通知
  • 遺言に記された事柄の実行、手続き
  • 相続人に対して遺言執行の完了の通知

遺言執行者が行わなければいけない手続きは複雑で中々、骨の折れる作業が多々あります。通知がうまく届かなかったり、親族の返事が遅かったりなどトラブルもあるでしょう。ましてや不動産のこととなると手続きが長期に及ぶ可能性もありますし、専門知識が必要になります。これらのことを0から調べて実行するということはかなり時間がかかります。

◆遺言執行人者は誰がなるのか

遺言書に遺言執行者が指定されていれば、その人が遺言執行者の候補者として選ばれます。しかし遺言執行者の候補者として選ばれた人はそれを拒否することも可能です。もし仕事で忙しい時期などに遺言執行者として選ばれ、業務を執行できないようであれば、やむを得ず他の人に頼むべきでしょう。ですが亡くなった方も考えがあって遺言執行者を選んだはずなので、周りとの人間関係の維持のためにも出来るだけ引き受けるべきでしょう。

遺言執行者には未成年と破産者を除いて、誰でもなることが出来ます。複数人が遺言執行者となることも可能です。しかし複数人の場合は特別、遺言書に書いてないことに関しては多数決での遺言の執行となります。

未成年と破産者を除いて誰でもなれるとはいえ、相続には「お金」といった非常にややこしいものが絡んできます。そのため相続手続きを行う遺言執行人は出来るだけ、公平な立場、第三者的な立場から物事を見ることの出来る人が好ましいですね。複数人となった場合には余計に多数の私情が入る可能性があるので、なんとなく遺言執行者を選んでしまった場合、少々わずらわしいことになりそうですね。

先ほども記述した通り、不動産の相続となると複雑で専門知識が必要になってくるため、司法書士や弁護士の方に依頼することも(遺言書にその禁止が無ければ)出来ます。

また仮に遺言執行者が指定されておらず、誰もなる人がいないときは家庭裁判所に公平な立場から物事を考えることが出来ると判断された人を選んでもらうことも出来ます。

2.遺言執行者による不動産の「相続」登記はできない

上記にもある通り、遺言執行者は「遺言の内容を実現することを任された人」であり、各種の相続手続きを行う役割と権限を持っています。そのため皆さんは不動産の登記手続き(名義変更のようなもの)となったとき、「遺言執行者が行うのではないか?」とお考えになるでしょう。

しかしここで注意していただきたい点があります。それは「遺言執行者は不動産の『相続』登記(名義変更)の申請は出来ない」という点です。その申請権利を遺言執行者は持っておらず、「相続」登記の申請をする人は相続人が単独で行う必要があります。遺言書で指定された不動産の相続人は遺言者が亡くなったと同時にその不動産を相続します。そのため遺言執行者の存在は必要ないと考えられています。

ちなみに遺言執行者と相続人が同一である場合は、遺言執行者であっても相続人であるため登記の申請をすることが出来ます。そのため遺言書に不動産の相続についての内容があったときは、相続人と遺言執行者を同一人物にすれば不動産の登記が容易になることが考えられます。

3.相続人からの委任状がある場合

不動産の相続登記を誰かに代理で行ってもらう場合には委任状が必要となります。遺言書に含まれる不動産を取得する相続人は全員、委任状が必要となります。それ以外の取得しない人たちは委任状を提出する必要はありません。親族の中で誰が不動産を取得するのか、誰が委任状を書く必要があるのかをお互いに話し合って確認した方が良いですね。

相続人たちが共有の名義とし、代表の相続人を立て登記する場合でも不動産に関わる相続人、全員の委任状が必要となります。人数が多ければ多いほど委任状を集めるのに時間がかかるため、早め早めに連絡、準備をしましょう。

不動産の登記は専門知識を必要とする場面もあるため、司法書士や弁護士の方に代理で行ってもらうケースもあります。そのため委任状に関することを学ぶことは非常に重要なことです。

不動産の登記における書き方についてですが、法務省による記載例を以下に載せておきます。とても重要な書類のため必ず署名欄などは直筆で書き、いつも自分が使っている大事な印鑑を使いましょう。

委 任 状

 代理人 (住所)

(氏名)

私は,上記の者に,次の事項に関する権限を委任する。

1 下記の登記に関し,登記申請書を作成すること及び当該登記の申請に必要な書面と共に登記申請書を管轄登記所に提出すること。
2 登記が完了した後に通知される登記識別情報通知書及び登記完了証を受領すること。
3 登記の申請に不備がある場合に,当該登記の申請を取下げ,又は補正すること。
4 本登記申請の複代理人の選任すること。
5 上記1から3までのほか,下記の登記の申請に関し必要な一切の権限

平成  年  月  日

登記の目的  所有権移転

原   因  平成  年  月  日相続

相 続 人    (被相続人      )

不動産の表示
所  在
地  番
地  目
地  積            平方メートル

所  在
家屋番号       番
種  類
構  造
床 面 積    1階      平方メートル
2階      平方メートル

不動産を取得する場合であっても、委任状が必要ではない場合もあります。それは法定相続通りに不動産を取得する場合です。そのため戸籍謄本から法定相続人に誰が値するのかを調べる必要があります。

以下が配偶者を除く法定相続人となる範囲と順位です。

第1順位:子
第2順位:直系尊属(両親、祖父母)
第3順位:兄弟姉妹

これらの相続人に対し、以下の割合で相続される場合には委任状は必要ありません。

配偶者と子供のみで相続する場合→配偶者2/1 子供2/1
配偶者と父母・祖父母のみで相続する場合→配偶者2/3 父母・祖父母1/3
配偶者と兄弟姉妹のみで相続する場合配偶者3/4 兄弟姉妹1/4(半血兄弟は全血兄弟の1/2)
子供のみ→全て
父母・祖父母のみ→全て
兄弟姉妹のみ→全て
半血兄弟→全血兄弟の1/4

※なお同じ立場で複数人いる場合、1人当たりの割合は上記の割合をさらに人数で割った割合となります。

遺言書を見て、自分がどの立場で法定規則通りに不動産を相続するのかといったことを確認しておきましょう。そして自分が委任状を提出しなければならないのかどうかを確かめておきましょう。

4.遺言執行者による不動産の「遺贈」登記はできる

遺言執行者による不動産の「相続」登記はできませんが、「遺贈」登記は可能です。登記原因が「相続」の場合、不動産を相続する相続人が単独で登記申請します。

その一方で遺言執行者の選任があり、登記原因が「遺贈」の場合には受遺者(不動産を受け取る人)は単独で登記することは出来ません。遺言執行人を登記義務者、不動産の受遺者を登記権利者として一緒に登記申請する必要があります。そのため遺言執行者は不動産の「遺贈」登記が可能なのです。

なお遺言執行者の選任がない場合には受遺者を登記権利者、遺言者の相続人全員を登記義務者とします。

遺言執行者と受遺者が同一人物の場合はその人が単独で登記をすることが出来ます。遺言執行者と相続人が同一人物の場合と同じですね。遺贈は相続と同じように遺言者が亡くなった直後から効力を発揮します。その場合、注意点があります。遺贈とは呼んで字のごとく、相続人ではない他の第三者に「遺言で贈与する」ということです。そのため遺言書には「贈与」として書いてもらう必要があります。

不動産を遺贈してもらった場合、遺贈の所有権移転登記を遺言執行者は行う必要があります。そのため不動産を遺贈された人が遺言執行者と受遺者を兼ねることが出来れば、登記や手続きを1人で行えるので効率的ですね。

5.まとめ

不動産の登記において遺言執行者は非常に重要な役割です。ですが遺言執行者が不動産を登記する際には注意点があります。

  • 「遺言執行者」とは、「遺言の内容を実現することを任された人」であり、亡くなった人の最終意思である遺言の内容に従って各種の相続手続きを行う役割を負い、権限を持っている。
  • 遺言執行者による不動産の「相続」登記は出来ない。その場合、相続人が単独で登記する必要がある。なお遺言執行者と相続人が同一の場合は遺言執行者であっても登記が可能。
  • 遺言執行者による不動産の「遺贈」登記は出来る。遺言執行者がいる場合の不動産登記は、受遺者と共に登記申請を行う。

遺言執行者は相続手続きに対し、権限を持っていますが場合によっては登記出来ない場合もあります。そのためよく遺言書の内容を確認し、記載の不動産が「相続」なのか「遺贈」なのかを理解しましょう。そのうえで正しい登記を行いましょう。

遺言執行者と相続人や受遺者と同一にした場合は単独で登記が出来るため、手続きが簡単ですね。しかし不動産のこととなると手続きが複雑になってくるため、登記の手続き時間を短縮したいと思う方は、司法書士の方や弁護士の方にお願いすることをおすすめします。