事例紹介
Category 不動産
2018年11月04日
遺言書の指定により相続・遺贈を受けた不動産の登記法
不動産の相続が発生した時に遺言書がある場合と、遺言書がない場合で登記(不動産の名義変更)に必要な書類の種類が変わることがあります。また、遺言書の内容によっても不動産登記の方法に違いが出てきます。
ここでは遺言書がある場合、その内容によって変わる不動産登記の方法や注意点について解説していきます。
この記事でわかること
1.不動産の相続登記に認められる遺言書とは?
遺言書には種類があります。それは公正証書遺言と自筆証書遺言です。ここではこの2つの遺言書の違いについて解説していきます。
1-1.公正証書遺言
公正証書遺言とは公正役場で作成し、保管しておく遺言書のことです。この遺言書のメリットは偽造される心配がなく、安全に保管されること以外に無効になりにくいといったことが挙げられます。
この公正証書遺言を作成するためには、遺言を作成したいと思う人が公証役場に赴き、公証人とともに遺言書の作成を行います。公正証書遺言の作成には遺言作成者と公証人のほかに2名以上の証人が必要です。公正証書遺言の作成方法は、遺言者がその内容を公証人に伝え、公証人がその内容にアドバイスをしつつ公正証書遺言という文書に落とし込んでいくというものになります。
この公正証書遺言の作成には手数料が必要で、手数料は公正証書遺言に記載する遺産の総額により異なります。また、公正証書遺言を作成するにあたって遺言者と相続人の戸籍謄本と遺言者の印鑑証明書、本人確認ができる書類のコピーが必要です。
それ以外に、遺言書に不動産の相続に関して記載する場合には不動産の登記簿謄本及び固定資産税評価証明書などが必要になります。
1-2.自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、自分で作ることができる遺言書です。しかし、この遺言書にもルールがあり、全文を自筆で記述する必要があります。近年では手書きで文書を作成する機会が少なく、パソコンを用いることがほとんどですが、自筆証書種遺言は必ず全文を遺言者本人が手書きで作成する必要があるので、注意しましょう。
自筆証書遺言は決まったフォームや用紙、筆記用具はありません。極論すればチラシの裏に鉛筆書きでも構わないということになります。しかし、このような方法では遺言書の破損や改ざん・偽造を行うことが簡単にできてしまいます。なので、自筆証書遺言を作成するときには、丈夫な紙に、ボールペンなど消えにくい筆記用具を用いることをお勧めします。
自筆証書遺言には内容に効力を持たせるために必要なポイントがあります。それは自筆証書遺言を作成した日時を記載すること、署名と捺印を行うこと、書き間違えたら訂正印などで訂正せずに新たに書き直すことです。さらに封筒に入れて封をし、その部分に自筆証書遺言に捺印したものと同じ印鑑で封印をしておくとよいでしょう。
自筆証書遺言は、遺言者が無くなった後の遺産の相続方法を記載してあるケースがほとんどですが、家庭裁判所の「検認」を受けないと内容が有効になりません。
さらに自筆証書遺言に封がされている場合には、家庭裁判所で相続人本人かその代理人の立会いのもとで開封することになります。ですので自筆証書遺言を発見しても勝手に開封しないようにしましょう。
2.遺言書の内容によって不動産の相続登記方法が異なる
遺言書によって不動産を受け取る場合、公正証書遺言と自筆証書遺言どちらの遺言書よるものか、またその内容が相続か遺贈かによって登記の方法に違いが出てきます。ここでは3つのケースの登記法について解説していきます
2-1.遺言書の内容が遺産分割の場合
遺言書により遺産分割で不動産を相続する場合、登記方法は必要書類をそろえて法務局に申請し、審査に通過することで登記が終了します。遺言書の内容に則った不動産登記を行う場合には、登記甲請書を作成し、申請書とともに法務局へ提出します。それ以外の書類も添付する必要があります。
相続登記を司法書士などの第三者に依頼している場合には、これ以外に代理権限証明情報、いわゆる委任状が必要になります。
2-2.遺言書の内容が遺贈の場合
遺贈とは遺産(この場合は不動産)を法定相続人以外の人が受け取ることをいいます。相続による所有権移転登記については、相続人が単独で申請することができますが、遺贈の場合の所有権移転登記は、遺贈を受ける相続人全員または遺言執行者と共同で申請を行う必要があります。
ただし、遺贈を受ける人が遺言書により遺言執行人に指名されている場合に限り、単独で申請を行うことが可能です。
遺贈の場合の登記にもさまざまな書類が必要になりますが、遺言執行人がいる場合といない場合で必要な書類が異なって来るので、後の章で詳しく説明していきます。
2-3.自筆証書遺言の場合
自筆証書遺言により不動産を相続する場合、まず最初に行わなければならないのは遺言書の検認を家庭裁判所に申し立てることです。この検認を終えて初めて法務局で登記の手続きを行うことができます。
以降の手続きは遺産分割による相続の場合と同じ流れになります。
3.遺言書による不動産の相続登記の注意点
遺言書により不動産を相続するためには必要書類をそろえて法務局へ提出し、登録免許税を支払うことで完了します。しかし、必要書類を収集するためにはいくつもの役所に問い合わせたり、直接足を運ぶ必要があります。
遺言者一人の戸籍謄本を集めるという一点に関してだけでも、遺言者が生前に転居をしていた場合には、その時その時の居住地から戸籍謄本を取り寄せる必要があります。
遺言者が会社に勤めていた時にいわゆる「転勤族」であったなどの理由で、極端に引っ越しの回数が多かったケースも考えられます。そのような場合に相続人が遺言者のすべての戸籍謄本を収集することは非常に困難です。
また、相続する不動産が遠方のものである場合は、その不動産を管轄する法務局と何度もやり取りをしながら申請を進めていくため、相続人だけで手続きを完了することが難しいケースもあります。
また、前述したように遺贈の場合には、不動産を受け取る本人のみでは手続きができず、必要な書類もさらに増えるため、手続きはさらに煩雑になります。
4.遺言書で不動産の遺産分割が指定されている場合の相続登記
まずは遺言書の内容が遺産分割で指定されていた場合の不動産相続登記について考えていきましょう。
4-1.相続登記の流れ
必要書類を揃え、登録免許税と一緒に相続する不動産を管轄する法務局に申請を行います。登録免許税は相続の場合、不動産評価額の1,000分の4の金額になります。この時100円未満の金額は切り捨てられます。しかし金額が1,000円に満たない場合には一律1,000円となります。
法務局に申請を行ってから大体1から2週間ほど審査が行われ、問題がない場合は登記完了となります。
申請を行うために必ずしも申請者が法務局に赴く必要はありません。申請は郵送で行うことも可能ですし、インターネットを利用して行うこともできます。しかし、インターネットを利用する場合には必要になるソフトのダウンロードや電子署名を行うことができる環境が必要になります。
このような手順で申請を行い、登記が完了した場合に登記識別情報通知が発行されます。これは相続した土地の所有権が相続人に移ったことを証明する重要なものです。これで相続登記の手続きは完了となります。
4-2.申請者
遺言書による不動産の相続登記を行うことができるのは、該当する不動産を相続する本人、または本人の依頼を受けた司法書士などになります。本人以外が申請を行う場合には、委任状が必要になります。
4-3.必要書類
遺言書による不動産の相続登記には以下の書類が必要になります。
- 遺言書
- 登記申請書
- 登録免許税納付用台紙
- 公正証書遺言
- 被相続人が死亡した記載のある戸籍謄本(または除籍謄本)
- 被相続人の除票(または戸籍の附票)
- 相続人の戸籍謄本
- 相続人の住民票(または戸籍の附票)
- 固定資産評価証明書(相続登記を出す年度のもの)
これ以外に不動産を相続する本人以外の代理人が手続きを行う場合には委任状が必要です。
5.遺言書の内容が遺贈の場合の不動産登記
では次に遺言書により遺贈を受ける場合の手続きについて解説していきます。
5-1.相続登記の流れ
申請に必要な書類と登録免許税を併せて遺贈を受ける不動産を管轄する法務局に申請を行い、審査が終了すれば登記の完了となります。
このとき注意が必要な点は登録免許税が相続の場合と異なり、不動産評価額の1,000分の20の金額になる点です。しかし、遺贈を受ける人が相続人である場合には、相続の場合と同じ不動産評価額の1,000分の4の金額になります。
5-2.申請者
遺贈を受ける人と全ての相続人が共同で申請を行いますが、遺言執行者がいる場合には遺贈を受ける人と遺言執行者で申請を行うことができます。
5-3.必要書類
◆遺言執行者がいる場合
- 遺言書(自筆証書遺言の場合は家庭裁判所で検認が済んでいるもの)
- 遺言者が死亡した記載のある戸籍謄本(除籍謄本)
- 遺言者の住民票の除票もしくは戸籍の附票
- 遺言執行者選任の審判書(家庭裁判所が遺言執行者を選任した場合)
- 当該不動産の登記済証もしくは登記識別情報
- 遺言執行者の印鑑証明書(発行から3ヶ月以内のもの)
- 遺贈を受ける人の住民票
- 固定資産税評価証明書または固定資産税の納税通知書
- 運転免許証、保険証などの身分証明書(遺言執行者と遺贈を受ける人の本人確認のため)
◆遺言執行者がいない場合
- 遺言書(自筆証書遺言の場合は家庭裁判所で検認が済んでいるもの)
- 遺言者が死亡した記載のある戸籍謄本(除籍謄本)
- 遺言者の住民票の除票もしくは戸籍の附票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 当該不動産の登記済証もしくは登記識別情報
- 相続人全員の印鑑証明書(発行から3ヶ月以内のもの)
- 遺贈を受ける人の住民票
- 固定資産税評価証明書または固定資産税の納税通知書
- 運転免許証、保険証などの身分証明書(相続人と遺贈を受ける人の本人確認のため)
6.自筆証書遺言の場合の不動産相続登記
最後に自筆証書遺言の場合の不動産相続登記の方法について解説していきます。
6-1.相続登記の流れ
自筆証書遺言に基づいて不動産の相続を受けるときに一番大切なことはまず最初に自筆証書遺言の検認を家庭裁判所に申請することです。この検認を受けて初めて遺言書が有効なものになります。
それ以降の相続登記手続きの流れは前述した遺言書の内容が遺産分割である場合の手続きと全く同じになります。
6-2.申請者
こちらも遺言書の内容が遺産分割である場合と同様に、該当する不動産を相続する本人のみが行うことができます。
6-3.必要書類
- 遺言書(家庭裁判所の検認を受けたもの)
- 登記申請書
- 登録免許税納付用台紙
- 公正証書遺言
- 被相続人が死亡した記載のある戸籍謄本(または除籍謄本)
- 被相続人の除票(または戸籍の附票)
- 相続人の戸籍謄本
- 相続人の住民票(または戸籍の附票)
- 固定資産評価証明書(相続登記を出す年度のもの)
司法書士などの専門家に手続きを依頼する際には委任状が必要になります。
7.まとめ
ここまで、遺言書による不動産の相続と遺贈に関して説明してきました。遺言者が遺言書を作る際に注意すべき点や、遺言書の種類によって必要となる手続きが異なること、また相続と遺贈の違いとそれぞれの手続きの仕方がお判りいただけたと思います。
不動産をお持ちの方は万が一の場合に備えて、相続人たちが混乱しないよう適切な遺言書を用意しておきましょう。そうすることで相続人同士のトラブルを避けることができます。
また、相続が発生した時に遺言書があり、相続人や遺贈先が指定してある場合にはどのような手続きをすべきか頭に入れておきましょう。不動産を相続又は遺贈されることが決まったら登記手続きを速やかに行うようにしましょう。