事例紹介
Category 不動産
2018年10月22日
気になる不動産の贈与税…使える特例は無いの??
不動産には相続のほかに贈与という手段があり、これには贈与税が課税されます。ご自身の財産をどうするか迷われている方も多いかと思われますが、実はこの贈与税には使いようで大変お得な特例というものが存在します!
この記事でわかること
1.不動産の贈与税とは?
親が自分の持つ財産を子に譲ろうという時の方法は大きく2つ、つまり「相続」と「贈与」に分けることができます。
相続は被相続人の死後、法律そして故人が手記や正式な手順を踏んで作成した遺言書や親族間での話し合いを加味しつつ、相続人全員が納得する形で故人の財産を分配するものです。
一方贈与では、財産の持ち主が自身で財産を分け与える相手を決定し、しかるべき手続きを通して譲渡を行います。親が健在の状態で行うため「生前贈与」とも呼ばれるこの手続きは、財産の持ち主が生きている上、自身で手続きを行えるため意思が伝わりやすく、また相手が親族でなくとも財産を譲ることができます。
以上のような観点から、相続人全員が納得しなければならない相続に比べ、財産の持ち主の死後起こりがちな親族どうしの揉め事が贈与だと発生しづらく、また持ち主の考えをより的確に示し相手にお世話になったお礼の気持ちを伝えるためにも大変有効な手段であると言えるでしょう。
そして、これら2種の財産分与ともに、それぞれ「相続税」「贈与税」が課せられます。たとえ親から子、財産の持ち主から配偶者であれ、財産あるところに税は発生するのです。財産を持っていても、持ち主が変わって財産が移動しても課税はなされます。
興味深いのは、相続と贈与、2つはやり方が違うだけで財産が特定の人物に分け与えられるという事実に変わりないのにも関わらず、その税額に差が生じることです。
そして一般に、相続税よりも贈与税の方が高くつきます。
それではなぜ、相続ではなくわざわざ贈与という手段を選ぶ人がいるのでしょうか??
2.不動産贈与税の特例とは?
前述した「なぜ相続ではなくわざわざ贈与を行うのか」という質問にお答えすると、贈与には上記のようなメリットがある上、そのシステムを上手く利用すればかなり税額や損失が抑えられるためです。
不動産を贈与する場合の贈与税には、基礎控除(暦年控除)をはじめ、いくつかの特例措置が存在します。
贈与する不動産の条件、贈与の状況、贈与人と被贈与人の関係などいくつかの基準があり、これらに適合すれば場合によって大幅な税額控除がなされ、贈与税が0円になる場合も珍しくありません。
それではいったい、不動産の生前贈与に際して、どんな条件でどのような控除が適用されるのか見ていきましょう。
2-1.贈与税の基礎控除
贈与税には、後述の相続時精算課税制度を利用しない限り、1年につき110万円以下の基礎控除というものがあります。1年単位で見るため、「暦年控除」とも呼ばれます。
◆特例の内容とメリット
贈与税の計算は、贈与される財産の価額に税率をかけて行われますが、所得税の控除と同じく、特に何もしなくてもこの基礎控除が適用され、一年で110万円以下の贈与なら課税されません。課税対象ではないということは同時に、税務署への申告も必要がなくなるということです。
もし1年を通して贈与した財産がこの額を超えた分は、その超過分からが課税対象となります。
(1年という期間は、ここでは具体的には1月1日から12月31日までを指し、この期間内の贈与額を対象とします。)
この基礎控除の活用方法としては、財産を小出しにして贈与するという手段が挙げられます。
110万円以下なら課税対象とならないわけですから、少額の財産を贈与する場合や、財産を数年に渡り少しずつ贈与することで税がかかることなく財産分与が行えます。
また相続時精算課税適用時を除いて、以降紹介する他の特例との併用も可能です。
◆適用要件
- 相続時精算課税制度(後述)を利用していないこと
◆デメリット
- 相続時精算課税制度との併用ができない
また、先ほど小出しでの財産贈与をメリットとしてご紹介してはいましたが、この方法にはいくつか穴があります。
それは、もともと110万円を超える財産をその相手に贈与つもりだったと税務署に判断されてしまえば、それまでの申告を修正し、まとまった額の財産を贈与したものとして見なされ計算が行われるということです。
例えば財産の持ち主である親が、子に1年につき110万円を20年に渡って贈与し続けた場合は、単純計算でその総額は2,200万円にまで至ります。しかしこのようなあからさまな方法を取ってしまえば税務署から「待った」がかかるのは当然です。極端な話、もし元々2,200万円の贈与を行うつもりであったと認められれば、2,200万円の贈与として贈与税が課税されることもあります。
こうならないためには別の手段を使うか、もしくはあえて110万円を超える贈与を行い、きちんと税務署に申告して最小限の贈与税を支払っていくといった対策が考えられます。
更にもう1つのデメリットは、財産の贈与をしていく最中に親が亡くなってしまった場合に起こります。
このケースでは、贈与される予定だった財産は相続行きとなって相続税が課税、しかも法律に則って財産が分与されるため故人の意思とは違った形になってしまう恐れがあります。
また、財産の元の持ち主が死亡するまでの3年以内の贈与は場合により相続の1部と見なされることがあり、当初の計画が0に戻ってしまう可能性も考えられます。
こういったデメリットも加味しながら、以下の別の方法も合わせて効果的な財産分与を考えていきましょう。
2-2.配偶者への居住用不動産贈与の特例(配偶者控除)
別名「おしどり控除」とも呼ばれるこの特例は、適用条件のハードルがそこまで高くない上、受けられる控除が大きいため利用者の多い制度です。
◆特例の内容とメリット
財産の持ち主がその配偶者に対し生前贈与を行う時に条件に合えば2,000万円の控除が働き、ほとんどの場合贈与税が0円になる特例です。
- 2,000万円の巨額の贈与でも可能なので、生前に配偶者に自分の財産を渡しておくだけで大変な相続税対策となります。これから不動産を購入するという場合でも、この配偶者特例を使って配偶者に予め財産を贈与しておくことで、購入前から財産分与が済んでいる状態で余生を過ごすことができます。
- もし贈与を受けてすぐに元の財産の持ち主が死亡してしまっても、この配偶者特例を使って贈与した財産は、前項でご紹介したような3年以内の贈与を相続とするルールは働きません。
- もし贈与された不動産を後になって売却などする場合、その譲渡で得た収入から夫婦それぞれ最大3,000万円、2人合わせて最大6,000万円の控除を受けることができるため、所得税対策にもなります。
◆適用要件
- 婚姻してから20年以上経つ夫婦
- 内縁の配偶者は認められない
- 同じ配偶者からは1度しか適用されない
- 配偶者の居住用不動産、もしくは居住用不動産取得のための資金の贈与であること
- 贈与を受けてから、翌年の3月15日までに贈与された不動産(もしくは贈与された資金で購入した不動産)に配偶者が居住していること。またその後も居住する見込みがあること
- 課税額が0円と見込まれる場合でも税務署への申告が必要
◆デメリット
- もし贈与を受けた配偶者が贈与した者より先に死亡した場合、贈与した者がその不動産を相続する扱いになりそのまま相続税が発生する場合がある
- 贈与を受けた財産はあくまで居住用不動産の取得が目的であり、住宅ローン返済の資金などに回すことは認められない
- 登録免許税(不動産登記の際の課税)と不動産取得税は発生する上、ともに相続時より税額が高くなる。
登録免許税…贈与:2% 相続0.4%
不動産取得税…贈与:3% 相続:非課税
もし固定資産税評価額が2,000万円の不動産を譲渡する場合、登録免許税は
贈与: 2,000万円×2.0%=40万円
相続: 2,000万円×0.4%=8万円
となり、その差額は32万円にもなります。
贈与をする方に相続があり、かつ相続税が発生しない場合は、不動産を贈与しても相続してもどのみち非課税ですので、贈与するとただ登録免許税と不動産取得税が課税されるだけです。
このような場合は、生前贈与しない方が賢明です。
2-3.相続時精算課税制度
制度の名前を聞いたことはあるけど、その実はあまり知らない方という方も多いのではないでしょうか?
この相続時精算課税制度とは、ざっくり言うと税額の決定を不動産の贈与時点で先にやっておいて、支払いは後回しにできるというものです。
では実際に、この制度を利用するとどのようなメリットがあるのでしょうか?
◆特例の内容とメリット
相続時精算課税制度では、不動産贈与を行う時点での不動産価額から2,500万円の控除を行い、その超過分に一律20%の税率をかけて贈与税を支払います。そして相続時にここで支払った贈与税がそのまま控除として相続財産から差し引かれ、そこからさらに相続税の納付を行います。
例えば親の財産が1億円で、そのうちの3,000万円を子が贈与されたと仮定します。3,000万円から2,500万円を控除して、残った500万円に20%の税額をかけて100万円を贈与税とし納付します。そして親の死後、1億円から相続税を算出することになりますが、この際既に支払っている贈与税100万円をそのまま控除額として差し引かれます。
少しややこしく条件も多いのですが、上手く利用することで節税対策として利用することができます。
例えば贈与を受ける財産がアパートなどの収益物件で、なおかつ今後価値の上がるものと見込まれる場合。贈与税はもちろん贈与時に算出されますので、不動産の価値がまだ安い時の分を支払います。
そこから不動産の収益が上がってもその利益は贈与を受けた人のものであり、被相続人の財産が膨らんで相続税が増大することはなく、またアパートの収益などでプール金も使えれば相続税対策となります。
また、相続税が将来かからない方への贈与でもこの制度が活用できます。
例えば親の財産が3,000万円で、そのうちの1,000万円を子に相続時精算課税を使って生前贈与するとします。贈与された額は2,500万円以下ですので非課税で行うことができます。
また親の死後に子へ3,000万円の相続が行っても、相続税の基礎控除3,600万円の範囲内ですので非課税です。
◆適用要件
- 60歳以上の両親または祖父母が、20歳以上の子または孫に財産を譲渡する場合
- 非課税対象枠は2,500万円までで、超過分は一律で20%の贈与税が課税される
- 相続時精算課税制度を利用する場合、「暦年控除」はそれ以降利用できなくなる
◆デメリット
- 1度適用されれば、それ以降変更が効かず暦年控除も利用できなくなる
- コストが上がる
収益不動産の贈与であれば相続税対策になりますが、全体的なコストとしては上がります。例えば贈与時の登録免許税は2.0%と相続時の0.4%に比べ高くなっていますし、もし親の財産が3,600万円以上で2,500万円を超える贈与であれば贈与税も相続税も課税となりますので、選択は慎重に。
- 小規模宅地の特例が適用されない
床面積が200平方メートル以下の住宅用地を小規模宅地と呼び、課税標準が大幅に下がる特例が存在しますが、相続税精算課税との併用はできません
2-4.住宅取得資金の贈与税の非課税措置
両親などから子へ不動産を取得するための資金を渡された場合、一定の条件を満たしていれば控除が適用されるという特例です。
例えば消費税8%で住宅の購入や新築・増築契約を結んだ時、この住宅取得資金の特例が適用されれば最大1,200万円もの控除を受けることができ、前述の基礎控除と一緒に合わせれば合計最大1,310万円が贈与税課税額から控除されるのです。
◆特例の内容とメリット
前述の通り、親・祖父母などから子・孫へ住宅取得のための資金贈与があった場合、大きな控除を受けることのできる制度です。
控除額は不動産の購入・新築・増改築の契約時期と、建物が一定基準を満たしているかどうかで異なってきます。
*一定基準を満たす住宅…以下の①~③いずれかの条件を満たす住宅を指します。
①断熱等性能等級4または一次エネルギー消費量等級4以上
②耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上または免震建築物
③高齢者等配慮対策等級3以上
○消費税8%の物件(個人の売主との中古住宅・土地の売買)
契約:2016年1月1日~2020年3月31日
一般住宅…控除額:700万円
一定基準を満たす住宅…1,200万円
2020年4月1日~2021年3月31日
一般住宅…500万円
一定基準を満たす住宅…1,000万円
2021年4月1日~2021年12月31日
一般住宅…300万円
一定基準を満たす住宅…800万円
○消費税10%の物件(住宅の新築や増改築、新築住宅の購入、不動産会社との中古物件売買)
2019年4月1日~2020年3月31日
一般住宅…2500万円
一定基準を満たす住宅…3,000万円
2020年4月1日~2021年3月31日
一般住宅…1000万円
一定基準を満たす住宅…1,500万円
2021年4月1日~2021年12月31日
一般住宅…700万円
一定基準を満たす住宅…1,200万円
◆適用要件
- 父母や祖父母など直系尊属から子や孫への贈与であること
- 自分が住むための不動産取得・購入・新増築であること
- 贈与を受ける年の子の合計所得金額が2,000万円以下であること
- 住宅の登記簿面積(床面積)が50平方メートル以上240平方メートル以下であること
- 贈与を受ける物件が中古住宅の場合、以下の条件のどれかを満たしている必要があります。
○鉄筋など耐火建築物は築25年以内、木造などは築20年以内であること
○一定の耐震基準を満たし、その旨が建築士などにより証明されている物件であること
○住宅購入後に耐震工事を行い、贈与を受けた翌年3月15日までに建築士などにより耐震基準を満たす物件であることが証明されていること
また、以下の2点の条件が見たされなければ申請は取り消しとなります。
- 贈与を受けた翌年の3月15日までに被贈与人が居住し、その後遅滞なく入居すること。
- 贈与を受けた翌年3月15日までに新築や増改築の残金を決済し、被贈与人に受け渡しが完了していること。
◆デメリット
- 課税額がいくらであれ、必ず税務署に申告を行わなければならない
贈与を受けた翌年の3月15日までに税務署に申告しなければ適用されない制度です。たとえ課税対象が0円となる見込みがあっても必ず早めの申告を行いましょう。
- 相続の方が得する場合がある
この住宅取得資金特例は大変魅力的な制度であるため、多くの方が利用します。しかし冷静に考えると、相続時精算課税制度の項にて前述の「小規模宅地特例」を使った方が安く不動産を受け取ることのできる場合がありますので、慎重に試算しましょう。
3.まとめ
いかがでしたでしょうか?
財産をうまく分与するため、贈与時の特例を中心にご紹介致しました。
注意点としては、例え課税がされない予定でも申告が必要な特例があること、また原則としては相続の方が安く済むことです。
以上の点に留意した上で、制度を上手く使い、現状に合わせて慎重なシミュレーションを行って効果的な贈与を行いましょう!