事例紹介
Category アパート・マンション経営
2018年08月15日 更新
賃貸住宅経営の確定申告書の作り方
賃貸住宅を経営し所得を得ている人は、所得税を納めるための確定申告を行わなければなりません。サラリーマンなど会社勤めをしている方であれば、会社が納税額を計算し納めてくれていますが、賃貸住宅経営のような個人の事業の場合、自ら確定申告をして税金を納める必要があります。
今回は、賃貸住宅経営の確定申告に必要になる手続きや書類、知っておくべきポイントなどをまとめました。すでに賃貸住宅経営を始めている方はもちろん、これから始めようと思っている方にも必要になることですので、しっかり確認していきましょう。
この記事でわかること
1. 個人事業主の登録などが必要
賃貸住宅経営を始めたらまず、個人事業主の登録など、いくつか手続きを行う必要があります。手続きの中には、確定申告を進める前に済ませておかなければならないものもあります。
ここでは、確定申告の前に必要になる手続きとして、5つ取り上げました。全ての手続きが必要という訳ではありませんが、手続きしておいた方が良いもの、場合によっては手続きしなければならないものもあります。5つの手続きの概要と、必要になる書類や入手方法について確認していきましょう。
1-1. 個人事業の開業・廃業等届出書
1つ目は「個人事業の開業・廃業等届出書」です。一般的には開業届とも呼ばれています。こちらは、賃貸住宅経営など事業を始めてから1ヵ月以内に、税務署へ届出なければなりません。しかし、必ず届出しなければならないというものではなく、届出をしていないからといって法的に罰せられることもありません。
ただし、届出をすることによるメリットも多く、特に青色申告をする場合には、確実に提出しておいた方が良い書類です。届出ておくことで、確定申告ために必要になる記帳の指導などを受講できるというメリットもあります。
届出書は税務署に用意してある他、国税庁のホームページからダウンロードすることもできます。提出方法は、税務署へ直接持参する方法に加え、郵送での提出も可能です。国税庁のホームページでは書き方についての説明も確認できるので、参考にしてみてください。
1-2. 所得税の減価償却資産の償却方法の届出書
2つ目は「所得税の減価償却資産の償却方法の届出書」です。
減価償却資産とは、長期間使用できる資産で取得価格が1単位当たり10万円以上する資産を指します。この減価償却資産は、確定申告で経費として計上する際に、法律で定められている耐用年数に応じて費用を分割して計上することになっています。賃貸住宅経営では、建物や設備などが減価償却資産に該当します。
減価償却資産の分割方法には、定額法と定率法というものがあります。分割方法は自分で選択することも可能で、自分で選択する場合には税務署へ届出なければなりません。その際に提出するのが、所得税の減価償却資産の償却方法の届出書になります。届出をしない場合は、減価償却資産の種類に応じて定められている減価償却方法が適用されるので、必ず届け出なければならないものではありません。
届出書は、税務署の窓口または国税庁のホームページから取得できます。新たに事業を始めた年の確定申告期限までに、税務署へ持参または郵送で提出してください。こちらも 国税庁のホームページに説明があるので参考にしてみてください。
注意点として、すでに事業を始めており、減価償却資産の償却方法を変更したいという場合には、「所得税の減価償却資産の償却方法の変更承認申請書」という別の書類での申請になります。締め切りは、変更しようとする年の3月15日となっています。
1-3. 所得税の青色申告承認申請書
3つ目は「所得税の青色申告承認申請書」です。所得税の確定申告の方法には、誰でも行える白色申告と、申請し承認された人だけが行える青色申告とがあり、所得税の青色申告承認申請書は青色申告を希望する人が提出しなければならない書類になります。
税務署の窓口または国税庁のホームページでダウンロードして使用してください。提出期限は青色申告しようとする年の3月15日となっています。確定申告の時期に申請書を提出しても、青色申告が利用できるのは来年からになるので注意が必要です。
ただし、新たに事業を始めた場合は、事業を始めた日から2ヶ月以内であれば、申請を行った年から青色申告での手続きができます。「個人事業の開業・廃業等届出書」と一緒に提出しておくと提出忘れを防ぐことができ、事業を開始した年から確実に青色申告ができるようになります。
1-4. 青色事業専従者給与に関する届出書
4つ目は「青色事業専従者給与に関する届出書」です。賃貸住宅を経営していく中で自分の家族や親族をスタッフとして雇っている場合、その家族や親族への給与は原則必要経費にすることはできません。しかし、青色申告の承認を得ている場合、この届出書を提出していれば、家族や親族への給与の支払いを必要経費として計上することができるようになります。
提出期限は、給与を経費として計上し始める年の3月15日です。新しく事業を始めたり、新しく雇い始めたりした場合には、その日から2ヶ月以内であれば問題ありません。届出書は税務署または国税庁のホームページからダウンロードしてください。届出書に記載する内容とは別に給与規程を設けている場合、手続き時にその写しも必要になります。
また、全ての家族や親族が青色事業専従者として扱われる訳ではありません。いくつか条件もあるので、条件を満たしているか確認した上で、手続きを行ってください。
1-5. 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
5つ目は「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」です。これは、給与を支払わなければならないスタッフが常に10人未満の場合に適用される特例に関する手続きになります。
賃貸住宅の経営にあたりスタッフを雇っている場合、経営者は、そのスタッフの分の所得税を給与から差し引き、翌月10日までに納めなければなりません。これが源泉徴収であり、経営者は源泉徴収の責任がある源泉徴収義務者となります。この源泉徴収は、通常毎月納めなければなりませんが、スタッフの人数が10人未満の場合は、特例として年に2回にまとめて納めることができるようになっています。
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請は、この特例を利用したい源泉徴収義務者が行う手続きになります。提出期限は定められておらず、提出した翌月の源泉徴収から対象となります。申請書は税務署か国税庁のホームページから取得できます。持参または郵送での提出が可能です。
管理会社などを利用せず、自分たちだけで賃貸住宅を経営しているという場合には、毎月の手間を減らすことができるので、ぜひ一度詳細を確認してみてください。
2. 青色申告に必要な帳票
確定申告をするためには、まず、帳簿をつけておく必要があります。帳簿のつけ方には、家計簿と同じような形式で記録する簡易的な簿記と、1つの取引を2つに分けて記録する正規の簿記との2種類があり、青色申告の特別控除を利用するためには、このどちらかの方法で記帳しておかなければなりません。この帳簿のつけ方の違いは青色申告特別控除の控除額の違いにも反映されており、簡易的な簿記は10万円、正規の簿記は65万円の控除となっています。
賃貸住宅経営でも、控除額の多い正規の簿記で帳簿をつけている方は多いです。65万円の青色申告控除の対象となる正規の簿記では、複式簿記という記帳方法を用います。複式簿記とは、費用と資産2つの側面から現金の動きを記録するやり方です。総勘定元帳や仕訳帳、現金出納帳、預金出納帳などいくつかの帳簿をつけておく必要があり、これらをもとに作成した損益計算書と貸借対照表を確定申告の際に提出します。
また、帳簿をつけるためには伝票や領収書なども必要になります。これらは、確定申告の内容を証明するものとなるため、7年間は保存しておかなければなりません。確定申告が済んだ後もしっかり保管しておくようにしましょう。
こうした作業を自力で行うことが難しければ、税理士に依頼したり、専用の会計ソフトなどを使ったりすることができます。税務署でも相談に乗ってもらえるので、分からないことがあれば確認しに行きましょう。
3. 敷金の計上の方法
確定申告で重要になる要素のひとつが「収入」です。賃貸住宅経営の収入には、家賃の他にも、共益費や更新料などいくつかあります。その中のひとつに敷金があります。基本的に敷金は、収入として計上されません。そもそも敷金とは、家賃が支払われなかったり、借りている部屋や備品を壊してしまったりした場合に備え、借主が貸主に渡すお金であり、何事もなければ退去時に借主に返還されることになっています。
つまり、一時的には貸主に入ってくるお金でも、後に返還することが決まっているため、収入には該当しないのです。しかし、敷金の中でも返還しないものについては、収入として扱わなければなりません。
例えば、敷金は返還しないという条件の下で契約した場合です。この場合は、契約日や契約の効力が発生する日の収入として計上しなければなりません。また、契約から一定期間経ったら敷金を返還しなくて良いとする契約であれば、返還する必要がなくなった日の収入として扱うことになります。預かった敷金のうち貸付期間に応じて一定の割合を返還するという契約であれば、返還する金額および貸主の手元に残る金額が確定する契約終了時の収入として扱います。
このように、返還せず手元に残る敷金は、収入として計上しなければなりません。収入として計上する必要のあるものは、どのような契約内容になっているかを確認し、いつの収入になるのか間違えないように注意してください。
4. 減価償却費の計算
賃貸住宅経営をするために建てたアパートやマンションなどの取得費用は、減価償却によって計上していくことになります。減価償却とは前の項目で説明した通り、長期間使用する設備などの取得費用を、定められた期間内で分割して経費に計上するもので、分割した結果、その年の経費として扱われる分を減価償却費と言います。
減価償却費の計算方法には、毎年一定の額を償却する定額法と、毎年一定の割合で償却する定率法とがあり、どちらにするか選択できるようになっています。ただし、賃貸住宅経営の経費の大部分を占める建物や附属設備に関して、平成28年4月1日以降に取得したものは定額法での償却が義務付けられています。
定額法の場合、減価償却費は「減価償却費=取得価格×償却率」という式で求めることができます。償却率を確認するためには、まず減価償却すべきもの(減価償却資産)の耐用年数を確認しなければなりません。
耐用年数とは、減価償却資産が使用できる期間の見込みのことです。経費として計上する際には、耐用年数の期間内で分割して計上することになります。確定申告の手続き上、個人の持つ減価償却資産ひとつひとつを確認し使用期間を出すことは難しいので、法律により資産の種類や特徴に応じた耐用年数が定められているのです。
そして、この耐用年数に応じて償却率が定められています。耐用年数表および償却率については、国税庁が公表しているものを参考にしてください。
例えば、耐用年数が6年の減価償却資産で価格が150万円だった場合、償却率表によると償却率は0.167になるので、減価償却費は
減価償却費=150万×0.167=25万500円
となり、購入後6年間、毎年25万500円ずつを経費として計上することになります。
5. 減価償却費と修繕費の違い
減価償却費についての確認に合わせて、修繕費についても確認しておきましょう。一般的には修繕費として考えられているものでも、確定申告の際には修繕費にならず、減価償却をして減価償却費として計上しなければならないものがあります。それが「資本的支出」です。
資本的支出は、資産の使用期間を延長させたり、価値を増加させたりするための支出のことで、修繕費とは分けて考えられます。資本的支出に該当すると、全額をその年の支出として計上することはできず、減価償却し減価償却費として分割して計上しなければなりません。
修繕費か資本的支出かの違いは、個人の目的や考え方ではなく、実際にどのような修理や改良が行われたかによって判断されます。例えば、階段を取り付けたり、模様替えをしたり、設備を高品質なものと交換したりした場合は、資産の価値を高めるための支出なので、資本的支出となります。
一方、壊れた部分の修理や原状回復のための費用は、修繕費として扱われます。法律上は、「約3年以内を周期として行われた修理や改良、または1つの費用が20万円未満のもの」または「修繕費か資本的支出か判断できないもので、費用が60万円未満のもの、またはその資産の前年末の取得価額の約10%以下のもの」が修繕費になると定められています。
修繕費か資本的支出かは分かりにくい部分もあります。誤って申告してしまうと、延滞税や過少申告加算税を納めなければならないので、確定申告の前に確認することはもちろん、工事などが始まる前にも確認するようにしましょう。
6. まとめ
賃貸住宅経営を始めたら、確定申告は避けては通れません。特に確定申告が初めてという方は、分からないことも多く難しく考えてしまいますが、ひとつひとつ丁寧に確認していけば確実に進められます。確定申告の期間や期限が近づいてくると、焦ってしまい不備なども出てきてしまいます。できるだけ早く取り組み始め、余裕を持って確定申告ができるよう準備を進めていきましょう。
また、これから賃貸住宅経営を始めようと考えている方にとっても、確定申告に関する知識は非常に重要です。効果的な節税方法などを考えるためにも、知っておいた方が良いことはたくさんあるので、これを機にぜひ調べてみてください。