事例紹介
Category アパート・マンション経営
2018年01月31日 更新
オーナーだけが損をする家賃保証とは?
これまでに賃貸住宅経営をしたことがない人(いわゆる素人)に、不動産業者がアパートやマンションなどの賃貸住宅経営を奨める際に、ほぼ間違いなく口にする言葉があります。それが家賃保証です。
多くの人が家賃保証と聞いて考えることは、アパートやマンションなどに空室が出た場合に家賃を払ってもらえるなら安心だということです。言葉通りに受け取るとそうなりますが、実際にはそんなに甘いものではありません。
一見、安心できるような制度に見えますが、実際にはオーナー様がかなりの損をして、その分ハウスメーカーなどが儲けているのです。家賃保証に潜むリスクについてお話をしていきます。
この記事でわかること
1. 家賃保証とは
家賃保証とは、アパートやマンションなどの管理を委託する契約をする際に付加するサービスのことです。その名の通り、アパートやマンションに空室ができたとしても、毎月の家賃がオーナー様に支払われるというものです。
すべての管理を管理会社にお任せすることができるので、オーナー様に知識がなくても問題ありません。実際のところ、オーナー様がやらなければならないことはほとんどないと言っても良いくらいです。何もしなくても毎月お金が入ってくる夢のような仕組みと紹介される方も多いようです。
このように書くと素晴らしいもののように見えますが、実際にはデメリットの方が大きい場合もあるので注意が必要です。では、どのような点が問題なのか順に見ていきます。
2. 家賃保証でメリットがあるのは不動産業者
家賃保証はオーナー様のメリットとして語られることが多いのですが、実際にはオーナー様にはデメリットがたくさんあります。例えば、入居率96.4%とテレビコマーシャルをしている会社がありますが、なぜ、こんな高い数字が出せるのだろう?と思われた方もおられると思います。
テレビコマーシャルで放送しているくらいなので、数字自体にはおそらく間違いはないと思います。検証してみたわけではないので、確かなことはわかりませんが、昨今のコンプライアンス意識の高まりから、嘘の数字を出すことのリスクを考えると、おそらくそのような数字があるのだと思います。
一般的に高い数字を出す方法としてよく使われるのが、都合の良い部分だけを取り上げて数字を作る方法です。確かに嘘ではないけど、再現性もない、というような数字です。このようなやり方は騙すのとほぼ同じことなので、絶対にやってはいけないことだと考えています。
しかし、もっとひどいことをしている場合があるのです。オーナー様からしたら噴飯ものですが、このようなやり方をすれば高い入居率になって当然だと思われるでしょう。
先にお断りしておきますが、このテレビコマーシャルをしている会社がこのようなやり方をしているかどうかはわかりません。一般的に行われているやり方をお話しているだけですので、この会社を特に指定してのことではございません。誤解なきようご注意ください。
では、どのようなやり方があるのか順にご説明いたします。
2-1. 家賃保証で家賃を決めるのは不動産業者
多くの人が勘違いをされているのが、家賃の価格です。契約の内容によって異なりますので、どのような契約をされるかで変わってきますが、多くの場合、不動産業者が家賃の額を決めます。
このような事業委託を求めるオーナー様は、多くの場合、賃貸住宅経営については素人であるため、よくわかっていない点に付け込まれてしまいます。
例えば、近隣に賃貸住宅が増えているなどの理由を付けて相場よりも低い家賃設定をしたり、〇千円下げたとしても、空室率が下がるからこちらの方が利益が大きくなるなどと言ってきます。もっともらしいことを言ってくるので、良く分からないオーナー様は、不動産業者に言われるままに家賃の額を決めてしまいます。
近隣の賃貸住宅よりも安い家賃設定をすれば、入居率が上がっても当たり前です。入居率が高いのは、仲介力や管理力が高いからとは限りません。もっとも、市場把握力は高いといえますが…オーナー様には何のメリットにもなっていないのが残念なことです。
2-2. 家賃保証の額は見直しされる
家賃保証の額が見直しされるということにも気が付いていない方が多いです。多くの場合、賃貸住宅の契約は2年間ですので、そのタイミングで家賃の見直しがされることがあります。
建物が古くなれば家賃を下げなければ入居者の確保は難しくなります。誰でもわかるようなことですが、敢えて説明をしない不動産業者が多いので、新築時の家賃のまま30年、35年と家賃保証されるように思ってしまうオーナー様がおられるのです。これは、家賃保証関係の訴訟の多さを見れば良くわかります。
ひどい業者になると、事業計画書に家賃の下落率を入れないところもあるようです。また、家賃の下落が考慮されている場合でも、下落率が実際の相場とはかけ離れていることもあるので注意が必要です。
あまりにも家賃が下がってしまうと経営は立ち行かなくなりますが、そんなことは不動産業者には関係がありません。不動産業者は、家賃保証して欲しいならこの金額でないと無理と一方的に言うだけです。そして、その金額を承諾しないと家賃保証は打ち切りとなります。
言われた通りの金額で契約をするか、自分で頑張って経営をするかどちらかしか方法がない場合が多いです。
ちなみに、赤字が見込まれる賃貸住宅を売る場合は、土地と建物の価値での販売は難しいことが多いので注意が必要です。戸建住宅の場合は、土地の価値+建物の価値が、基本的な売買価格となりますが、アパートやマンションなどの賃貸住宅は、収益物件とみなされるため、どのくらいの収入が見込めるかで金額が決まるからです。
例えば、土地の価値が1億円で建物の価値(減価償却後)が8,000万円であれば、1億8,000万円が本来の価値ですが、建物の耐用年数中にどのくらいの収入が見込めるかによって売買金額が影響されます。
最悪の場合、土地代から建物の解体費用を引いたくらいの金額となってしまう恐れもあり、売却してもローンの残額にも満たないことがあります。このように土地活用で土地を無くしてしまうことがあるので本当に注意が必要です。
2-3. 家賃保証の免責期間に注意
契約の方法によって異なりますが、一般的に家賃保証の額は家賃の85%とすることが多いです。つまり、この15%分が不動産会社の儲けとしてオーナー様が負担している金額です。このパーセントが妥当かどうかはわかりませんが、契約から清掃、苦情処理まで、すべてをやってもらえるなら悪い内容ではないかもしれません。
しかし、オーナー様が不動産業者に支払う金額はこれだけではありません。新築時の募集には通常60日間の免責期間が設けられています。つまり、募集開始後すぐに入居者が決まったとしても、2か月分の家賃はオーナー様のところには入りません。更に入居者が最初の契約の時に払う、礼金についても不動産業者のものとする契約が多いので、ここでも収入が下がります。
例えば、1部屋10万円で住戸数が20戸のアパートだった場合を考えると、
10万円×2か月×20戸=400万円
を失う可能性があります。もっとも、この金額はすぐに入居者が付いた場合ですので、実際にはこれだけの差額は出ない可能性があります。しかし、礼金については1円も入ってきません。
通常、礼金は2か月とすることが多いので、
10万円×2か月×20戸=400万円
は手元に入らないことになります。
更にオーナー様の収入は85%ですので、15%分の収入が減ります。最初の1年目を考えてみると、
10万円×15%×10か月(2か月は免責期間なので減らします)×2戸=300万円
の差額が生じます。
これらをすべて足すと1,100万円となります。自分で経営をするのと事業委託をするのでは、最初の一年だけで最大これだけ差が付く可能性があります。もちろん、何から何まですべてオーナー様が行うのは現実的ではないかもしれませんが、これだけの差があることは知っておいて頂きたいです。
他にも、通常は更新料も受け取れませんし、入居者が入れ替わる際にも免責期間が設けられていますので、この期間の家賃は入ってきません。
2-4. 修繕の際は指定業者となる
入居者が変わる際の清掃・補修や壁紙の張り替え、日々の清掃などの維持管理など、すべての業者が不動産業者の指定となります。業者によってマチマチではありますが、利益のない伝票処理は通常あり得ないので、どんなに良心的な会社でも幾ばくかの利益の上乗せが必ずあります。
工事費が高いとクレームを言っても、業者に対して価格交渉をしてくれる不動産業者は少ないです。当然のことながら、その依頼を断れば家賃保証は打ち切りとなります。非常に弱い立場になってしまう可能性があることを理解しておく必要があります。
例えば、廊下などの共用部分の電球が切れた場合、自分で行えば電球代だけで済みますが、業者に依頼することになると、定価の電球代(場合によって市販価格よりも高いことも!)
と交換作業費、出向費が必要となります。
あまり細かいことを考えだすと参ってしまうので、ある程度は経費として考えて機械的に処理するのが良いと思いますが、このような違いがあることは理解されておいた方が良いと思います。
2-5. 家賃保証の範囲は家賃のみ
家賃保証の範囲は家賃の○○%だけというのが一般的です。つまり、修繕に掛かる費用や電気、ガス、水道などの光熱費や共有部分の清掃、改装工事の費用などはすべてオーナー様の負担となります。
予め事業計画書でそれらの費用を見込んでいると思いますが、中には不当に安い費用しか見込まれていないケースがあります。これらのリスクについては、オーナー様のみの負担をなることを、良く考えておいてください。
2-6. 家賃保証がされるのは不動産会社の経営しだい
最後になりますが、とても重要な点があります。それは、家賃保証がされるのは、依頼した不動産会社の経営が健全な場合に限られることです。不動産会社が倒産した場合はもちろんのことですが、経営が行き詰まった場合にも家賃が支払われない可能性があります。
不動産業界は人の入れ替わりが多いことで有名ですが、会社の入れ替わりも少なからずあります。不動産業界で働く営業マンは、将来、独立起業することを目標にしている人が少なくありません。それ自体は悪いことではないと思いますが、会社を立ち上げたものの、夢半ばで会社をたたんでしまう人も多いです。
ましてや大手の企業も倒産する時代です。どんな会社でも30年、35年まで存続している保証はありません。40代後半以上の人なら、山一證券が破綻した時のことをご存知だと思います。バブルが崩壊した後の1995年当時であっても、再来年には山一證券が無くなると言ったら誰も信じなかったと思います。
事業委託をした会社が潰れてしまえば、30年の家賃保証も絵に描いた餅となります。家賃保証という言葉に踊らされることなく、相手の会社もしっかりと見定めることが重要です。
3. オーナーが損をする家賃保証まとめ
家賃保証という響きにはとても魅力的なものがありますが、良いことばかりではないことをお伝えしてきました。事業委託をするのは、賃貸住宅経営の知識がない土地のオーナー様にとってメリットがあることは間違いありません。
しかし、それは何もしない場合に比べてメリットがあるということで、自分で賃貸住宅経営をする場合と比較すると必ずしもメリットがあるとは言い切れません。
こちらでお伝えしたように不動産会社にとってはリスクの少ない方法になっています。特に住宅メーカーなどの建築会社にとっては、建物を建てることで利益を得ているので賃貸住宅の経営はそれほど重要視していないことも多いです。ひどいケースには、賃貸住宅経営で見込まれる赤字分を建築費に入れ込んでいる場合もあります。
最初に不動産業者にメリットがあるとお伝えしたのは、これらのことがあるからです。丸投げすることの怖さを知って頂きたいと思って書きました。良い上手い経営をするために、専門家の知恵を借りることは賛成ですが、何も勉強しないで丸投げにするのはやめた方が良いでしょう。
最悪の場合には、土地を失うだけでなく、家も失ってしまうかもしれません。甘い言葉に流されず、しっかりと判断するようにしてください。