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Category  アパート・マンション経営

2018年07月03日 更新

賃貸住宅経営初心者のための確定申告の基礎知識

不動産所得を得ている人は、確定申告を行わなければなりません。給与所得以外の所得が20万円以上となる人が対象となります。1月1日から12月31日までの所得が対象で、通常翌年の2月16日から3月15日の間に手続きを行わなければなりません。

今回は、賃貸住宅経営の確定申告について、基本的な知識をまとめました。賃貸住宅経営を始めたばかりの人や始めようと思っている人は、ここで確認していきましょう。

 

 

1. 収入と所得の違い

確定申告の基本としておさえておかなければならないポイントのひとつに、収入と所得の違いがあります。普段生活していく中では、収入と所得の意味の違いを意識することはあまりありませんが、確定申告など税金に関わることであれば、収入と所得をきちんと分けて考える必要があります。

まず、収入とは、1年間に入ってきた金額を表します。賃貸住宅経営においては、家賃や共益費、敷金・礼金(返還しないもの)、保証金、更新料などから得たお金が収入に該当します。借主などに返金しなければならないものは、収入にはなりません。会社員であれば、給与や賞与が収入に当たります。この収入から、必要経費を引いたものが所得になります。必要経費については、後の項目で詳しく説明していきます。

確定申告は所得税を納めるための手続きですから、納税の対象となるのは収入ではなく、所得です。つまり、税額を正確に把握するためには所得を正確に把握する必要があり、そのためには収入と必要経費を正確に把握しておかなければならないということです。

 

 

2. 所得税の計算方法

所得税額は、4つのステップに分けて計算していきます。慣れていなければ難しいと感じる人が多いかもしれませんが、安定した経営や節税方法を考えていくためには、確実に理解しておかなければならない項目です。

まずは、税額を把握するための基になる所得を計算します。所得は前の項目で確認した通り、「所得=収入-必要経費」で求めることができます。確認できていない分の収入があれば、脱税や申告漏れとみなされてしまう可能性がありますし、必要経費となるにもかかわらず収入から引いていなければ、余計な税金を納めることになる可能性もあります。

次に、所得税の課税対象になる課税所得金額を計算します。課税所得金額は「課税所得金額=所得-所得控除」で求めることができます。所得控除とは、個人の生活を守ったり、課税による不平等を改善したりするために設けられている控除で、基礎控除や扶養控除、医療費控除、社会保険控除など全部で14種類あります。

所得控除は、その種類によって対象となる人や控除される金額が異なります。税額を確認する際には、自分がどの控除を受けられるのか、どれだけの金額が控除されるのかを確認してから計算するとよいでしょう。

ここまで計算できたら、次に所得税額を計算します。「課税所得金額×税率-控除額=所得税額」で求めることができます。所得税は、課税対象となる金額が高ければ高いほど税率も高くなる累進課税の対象となっており、課税所得金額に応じて税率が異なります。

税率は、最も低いもので5%、最も高いもので45%となっており、課税所得金額に応じて7段階に分けられています。また、それぞれの税率に応じて一定額の控除も設けられており、こちらも課税所得額が高くなるほど、控除額も大きくなります。

最後に、税額控除がある場合には所得税額から差し引き、「所得税額-税額控除=納税額」で納税額を計算します。所得から控除金額を差し引く所得控除に対し、税額控除は課税所得金額に税率をかけて求めた所得税額から、直接控除金額を差し引くようになっています。代表的なものとしては、住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)などが挙げられます。

基本的には、この4つのステップに沿って計算していけば、納税すべき所得税の金額を把握することができます。正確な金額を把握するためには、収入や必要経費の把握はもちろん、各種控除の対象や金額についても確認しておかなければなりません。

また、賃貸住宅経営による所得以外に、会社勤めなどで別の所得がある場合には、賃貸住宅経営によって得た所得とそれ以外の所得とを合算して確定申告することになります。給与所得がある人は、税金は会社がすでに納めていることがほとんどなので、源泉徴収票などを見ながら納税額を確認していきましょう。

 

 

3. 賃貸経営の確定申告で必要経費となるもの

ここからは、確定申告で必要経費として扱うことができるものについて確認していきます。賃貸住宅経営を始めてからの支出には、必要経費として扱うものの中でも、減価償却しなければならないものが出てきます。

必要経費になるものを把握しておくことは、節税にも繋がります。まずはどんなものが必要経費として計上できるのか、しっかり確認していきましょう。

 

3-1. 借入金利子

この場合の借入金利子は、建物の建設や設備の購入に使ったローンの利息額を指しています。賃貸住宅経営を始めるにあたり、金融機関から資金を借りたという人は多いでしょう。それを返済するときに必要な利子は、必要経費として計上することができます。

しかし、1点注意しなければならないことがあります。それは、賃貸住宅経営を始める前に支払った分の借入金利子は、必要経費にならないということです。必要経費として扱うことができるのは建物が完成し部屋の貸し出しを開始した後に支払った分であり、それ以前に支払った借入金利子は建物の取得にかかった費用として扱われます。

ただし、すでに別の場所で賃貸住宅を経営しているという場合、2棟目の建設にかかった借入金の利子は必要経費として計上することができます。これは、賃貸住宅経営の事業規模を拡大するために必要な経費として考えられるからです。

 

3-2. 減価償却費

減価償却費とは、大雑把に言うと建物や設備の購入にかかった費用のことです。

建物の建築費や設備の購入費はとても高額になります。そのため、これらにかかった費用全額を、購入した年の費用としてしまうと、その年だけ大幅な赤字になってしまいます。また、建物や設備はその後も長い間使っていくにも関わらず、翌年からは費用が0円ということになってしまいます。

そこで、長期間使用するものにかかった費用は、出費した年だけの費用とするのではなく、使用する期間内で分割して費用として計上することになりました。これが減価償却の考え方です。

実際に減価償却費を計算するときには、耐用年数が重要になります。耐用年数とは、建物や設備を使用する期間を表していて、この年数に応じて費用を分割していくことになります。

例えば、木造の住宅用建物は22年、鉄筋コンクリート造の住宅用建物は47年となっています。建物以外にも、冷蔵庫は6年、テレビは5年、洗濯機は6年など、細かく定められています。このように、建物や設備の種類に応じて耐用年数が決まっているので、何年に分割して費用を計上するかを自分で決めることはできません。

国税庁が公表している耐用年数表は以下から確認できるので、参考にしてみてください。

 

国税庁 耐用年数表

https://www.keisan.nta.go.jp/survey/publish/34255/faq/34311/faq_34353.php

 

3-2-1. 減価償却費の定額法と定率法

耐用年数内でどのように費用を分割していくか、その方法には定額法と定率法の2種類があります。

定額法とは、毎年決められた額を計上していく方法です。耐用年数ごとに決められている償却率を使って「取得価額×償却率」で毎年の費用を計算します。シンプルで分かりやすいので、経理処理が面倒だという人におすすめです。また、定率法と比べると初期の費用が少なくなる分、早い段階で利益の回収を始めることができます。

一方、定率法とは、毎年決められた割合分を計上していく方法です。定額法と同じように耐用年数ごとに償却率が決められており、「未償却残高(前年までに計上しきれていない費用)×償却率」で毎年の費用を計上します。

また、未償却残高が「取得価格×保証率」で計算した償却保証額を下回ると定額での計上に変更され、耐用年数内で費用の計上が完了するようになっています。初期に計上する費用が高額にはなりますが、徐々に費用の負担を減らしていけるのが定率法の特徴です。

基本的に、個人は定額法、法人は定率法が選ばれています。変更したい場合には、税務局への届出が必要です。また、平成10年4月1日以降に取得した建物については、定額法を選択しなければなりません。同様に、平成28年4月1日以後に取得した建物附属設備や構築物についても定額法の選択が義務付けられています。

 

3-3. 租税公課

国や公共団体によって賦課・徴収される公的な負担金のことを、租税公課と言います。国税や地方税として納める税金のことを租税、国や地方の公共団体から課せられる負担金や組合費、賦課金、罰金を公課といいます。このような租税公課の一部は、必要経費として扱うことができるようになっています。

賃貸住宅経営の必要経費として扱うことができる租税公課には、以下のようなものがあります。

・固定資産税、都市計画税
・不動産取得税
・登録免許税
・事業所税
・印紙税

一方、必要経費として扱うことができないものには、以下のようなものがあります。

・都道府県民税、市町村民税
・相続税(控除の対象にはなる)
・法人税、地方法人税
・所得税 、復興特別所得税、外国法人税
・加算税、加算金、延滞税、延滞金、過怠税、罰金、科料、過料

 

3-4. 修繕費

賃貸住宅経営では、修繕費も重要な経費となります。例えば、入居者の退出後のメンテナンス費用や、壊れた備品の修理費用などがあります。このような修繕費ですが、一部にはそのまま経費として計上することができないものがあります。

修繕費として扱うことができるものは、

①約3年以内の周期で行われている修理・改良、または、金額が20万円未満のもの
②①以外のもので、金額が60万円未満のもの、または、その資産の前年末の取得価額の約10%相当額以下のもの

となっています。これらに該当せず、資産の使用期間を延長させたり、価額を高めたりするための費用は、資本的支出として修繕費とは区別され、減価償却をして計上していかなければなりません。

 

3-5. 損害保険料

損害保険料も費用として扱うことができます。賃貸住宅経営であれば、火災保険や地震保険、賃貸住宅費用補償保険などを利用している人が多いでしょう。

このような損害保険料は、その年の分を費用として計上していきます。たとえ保険料の支払いが一括であったとしても、その年の確定申告ではその年の分のみが費用となり、残りの分は翌年以降の費用として扱われます。

 

3-6. 委託管理費

賃貸住宅経営の管理業務には、入居者の募集や家賃の回収、クレーム対応、定期点検や清掃などがあります。このような業務を不動産会社や清掃会社に委託している場合は、その委託費も必要経費になります。

もちろん、不動産会社などに委託せず自分で行っている場合も、このような管理業務にかかった費用は、必要経費として計上することができます。

 

3-7. 手数料

各種手数料も必要経費になります。中でも代表的なものが仲介手数料でしょう。入居者が決まったときや契約更新時など、不動産会社へ仲介手数料を支払う機会は多いです。

入居者の募集に必要となる広告費は、基本的に仲介手数料に含まれていることが多いですが、別途請求されることがあります。この費用も必要経費として計上することができます。

 

3-8. 水道光熱費

賃貸住宅を経営する立場の人も、水道代や電気代などを支払わなければなりません。例えば、エントランスや通路、エレベーターの電気代、共有部分の清掃に必要な水道代などが考えられます。こうした水道光熱費も必要経費になります。

もちろん、入居者が使用する分は必要経費にはなりません。シェアハウスとして貸し出していて、水道光熱費を一部負担する場合には、その料金も必要経費として計上することができます。

 

3-9. 立ち退き料

貸主の都合により入居者に立ち退きを求める場合には、一般的に貸主が借主に立ち退き料を支払うことになります。この立ち退き料も必要経費に計上することができます。

立ち退き料は、借主が新居を探すための費用や引っ越しの費用にあてられます。家賃5~6ヶ月分が相場ともいわれていますが、実際にどれくらい支払うかは貸主と借主で話し合って決めることが多いです。中には、立ち退き料を支払わないで良いというケースもあります。

 

3-10. その他

ここまで取り上げてきた9つ以外にも、必要経費として計上できるものはあります。

・管理業務などで必要になったパソコン代や印刷代(消耗品費)
・入居者や不動産会社との電話代、インターネットの通信費
・内見や退去時の立ち会い、打ち合わせなどで必要になったガソリン代(交通費)
・弁護士や税理士へ依頼や相談をした場合の報酬
・ローンの借り入れにかかった費用

こうした費用は、賃貸住宅経営に関わるものであることが大前提です。賃貸住宅経営と関係のない私的な目的で利用したものは必要経費として認められません。ミスなく確定申告をしていくためには、経費とそうでないものを、その都度丁寧に分けておくようにしましょう。

 

 

4. 青色申告と白色申告の節税効果の違い

確定申告には、青色申告と白色申告の2種類あります。最後に、この2つの違いを確認していきましょう。

青色申告とは事業所得、不動産所得、山林所得のある人が所得税を納めるときに用いる方法です。毎日、帳簿をつけて取引を管理し、その帳簿をもとに確定申告を行います。青色申告を行う際には事前に「青色申告承認申請書」を提出しておかなければなりません。

一方、白色申告とは青色申告を行わない人が用いる方法です。平成26年から白色申告にも帳簿をつけることが義務付けられましたが、単式簿記という比較的簡単な方法での記帳でよいとされています。

青色申告には、青色申告特別控除という控除が設けられており、10万円もしくは65万円の控除を受けることができます。また、純損失の繰越し控除というものもあり、赤字を3年間繰り越せたり、前年の所得に繰り戻して税額を還付できたりします。この他にも、家族への給与の支払い分を経費として計上することができるなど、税制上の優遇措置が設けられています。

このような特徴から、白色申告は簡単だが節税効果が低く、青色申告は手続きが複雑だが節税効果が高くなっています。

 

 

5. 賃貸住宅経営初心者のための確定申告の基礎知識まとめ

賃貸住宅経営を始めると、確定申告は避けては通れません。確定申告を怠れば、もちろん脱税として厳しく処罰されてしまいます。

確定申告の知識を身につけておけば、節税はもちろん、経営の安定にも役に立ちます。賃貸住宅経営を始めたばかりの人、始めようと思っている人は、ぜひ早めに確定申告についての知識を深めてください。