事例紹介

Category  相続税

2018年12月06日 更新

空き家を相続する人がいない!?その実態とは

近年、相続する人物のいない空き家が増え続けています。

2013年時点では13.5%だった全国の空き家の数が、2040年には最大40%超になるとの試算も総務省から発表されています。

本来資産価値のある住宅が空き家状態になると、地域の景観を損ねるだけでなく、倒壊や火災のリスクが高まったり、害獣や害虫が繁殖して衛生環境が悪くなったり、犯罪者のたまり場になったりと、周辺地域住民に与える害も大きく、まさに「百害あって一利なし」と言えます。

空き家が発生してしまう背景に関しては様々考えられますが「自宅の行く末」を考えることをついつい後回しにしてしまっていることが大きな原因となっているケースが多いように思います。

相続の現場に数多く立ち会う中で常々感じるのは、不動産はあくまで人が幸せになるために活用されて初めて価値を発揮するものですので、有効活用の可能性を積極的に模索して頂きたいと思います。

今回は、相続人がいないと判定されるプロセスについて詳しく解説していきますので、ぜひ自宅の未来について少し止まって考える機会にしてもらえると幸いです。

 1.空き家の相続人がいないという問題が全国で多発している

空き家の相続人がいない、という問題が見出しの通り全国で多発しています。

本当にそんな事あるの!?と思われる方もいらっしゃる事かと思われますが、引き取り手のいない家は現実に存在します。そして、空き家に関するあれこれを管理してくれる家庭裁判所で相続人を探す作業量が近年爆発的に増加しているのです。

今や年間の手続き件数は約1万5千件に達しており、この20年で約3倍に膨れ上がっている計算になります。

日本は相続の際に不動産が付いてくる事の多い国ですが、それに伴い空き家の発生率が高い事でも有名です。総務省の調査によると、国内の空き家戸数は約750万戸。この数字はこれからも増え続ける事が各方面で予想されています。

では、どうしてこういった事態が起きるのでしょうか?また、なぜこれから増え続けるとの予想が大半なのでしょうか?その理由を大まかに見て行きましょう。

 

2. 「相続人がいない」と判断される基準

まず、空き家の相続人がいないというのは、どういった状態を指すのでしょうか?

大きく2つに分けると、

1.本来の相続人が相続放棄した

2.相続人がそもそもいない、不明

これらのケースが見られます。

 

2-1.本来の相続人が相続放棄したケース

本来の相続人による相続放棄ですが、なぜせっかく受け取ることのできる相続不動産を手放すのかよく分からないという方もいらっしゃる事でしょう。

これには、相続のメリットではなく、デメリットに目を向けるとよく理解することができます。

遺産相続と言うと何となく「得する」「羨ましい」というイメージが湧きがちです。

しかし相続というのはそもそも、正の遺産も負の遺産も両方一緒くたに受け取るというのが原則です。つまり、もし相続した家に住宅ローンやリフォーム代が残っていれば一緒に相続しないといけない事になります。

その他にも、家を持つ維持費や固定資産税の引き継ぎ納税、持っていても住むことがない、劣化や損傷の補修などやらなければならない事など、リスクは山積みです。

もしコストが高いので売却してリスクを減らそうとしても、土地ならばまだしも家は放っておいても価値が下がって減価償却されます。その上劣化や損傷があれば直さなければ売り物になりませんし、解体するにももちろん費用がかかります。

これらのリスクを見て、売っても利益にならずむしろ損失の方が大きい家は相続放棄で突き放される事が多いのです。「私は関係ありません」と相続権自体を捨ててしまえば、直接的なコストを避けられます。

そして相続できるはずの人がわざわざ放棄するくらいですから、次の受け取り手を探すのは至難の技。あらゆる関係者の間でタライ回しにされます。

基本的に相続放棄が為されれば、家庭裁判所は次の法的相続人を探し出し定めようとしますが、相続放棄が連続してついに相続人候補者が尽きる事があります。ここまでくると、「相続人無し」という結果になります。

 

2-2.相続人がそもそもいない、不明というケース

「相続人がいない」という事態は、核家族や孤独化でこれからも増え続けるとの予想がされています。

親がおらず子もいない、つまり天涯孤独の身で生涯を終え、家だけが残るという事態です。また遺言書も書かれておらず受け取り手の指定が無い事も多数あります。

役所はこういった事態を何とか突破しようと戦うのですが、お手上げ状態です。何とか処理をしてもらうため所有者を探しても見つからず、故人の情報も周辺筋ですら皆無。こうなってしまえば、空き家は行き場を失い路頭に佇むこととなるのです。

この事態を避け、何とか引き取り手を決めるため、生前に故人と関係の深かった「特別縁故人」という制度もありますが、特別縁故人も見つからない場合手続きはストップ。「相続人無し」との判断が下されるのです。

続いて、具体的にどのような流れをとって相続人無しという結末になるのかを簡単に以下にご紹介しましょう。

相続人無しとの判決が下されるのは、計3回の官報などによる公告を経てからです。

 

2-3.1度目の公告

相続財産管理人を選任する公告です。

相続人が不明の時は、まず被相続人の利害関係者や検察官からの申し立てがあった後、被相続人が最後に住んでいた住所地を管轄する家庭裁判所により相続財産管理人の選任が行われます。

相続財産管理人は相続財産の管理や清算を行うために選ばれる人物で、多くの場合、不動産住所地の地方の弁護士などが選ばれます。

家庭裁判所は官報にて2ヶ月間、相続人がいたら申し出るよう公告します。

 

2-4.2度目の公告

2度目の公告は相続財産管理人により行われます。

1度目の公告から申し出が無く2ヶ月経過した場合、相続財産管理人により、故人に貸し付けを行っていた債権者や、受遺者(遺産を受け取る予定のあった者)がいたら申し出るよう公告します。もしこの時点で債権者が明らかになっている場合は、個別に催告が行われます。

公告の期間は2ヶ月以上行われ、債権者や受遺者から申し出があった場合は公告期間の終了後に清算手続きが行われます。

2-5.3度目の公告

2度目の公告期間が終わっても相続人が現れなかった場合は、検察官からの申し立てや相続財産管理人からの引き継ぎがあり、今度は6ヶ月以上に渡る期間が定められ最後の公告が行われます。

ここで相続人の捜索を公告し、もし期間内に現れなかった場合、いよいよ相続人の不在が確定するのです。

 

3. 受け継がれない不動産は国庫に帰属する

相続する人がいなくなった空き家が最終的に行き着く場所は「国庫」。つまり国のものとなります。

しかし、国のものになればもう安心、という事ではありません。実際、国有地になったものの荒れ果てた姿で残された不動産は多数見られます。

誰にも受け取られず煙たがられた相続不動産は、残念ながら国からしても迷惑な話になります。

国有地という事で管理をしたくても、その管理費はもちろん税金から出されることになります。限られた財源の中で、こういった持ち主のいない空き家一件ずつ全て取得・管理するのは現実的に考えて不可能です。

最終的に空き家は国に引き取ってもらえるというのはもはや理論上の話となり、実際は相続財産管理人に清算を任せ、本来の相続人に管理の義務が課されるという事になり得ます。

そして「本来の相続人」もいない場合は、事実上の放置という結末になるのです。

 

4. 受け継ぐ可能性がある「特別縁故者」とは

前半でもご紹介した通り、故人と生前深い関係があった人物を「特別縁故者」と呼びます。相続人が見つからなかった場合、遺産はこの特別縁故者の中から選ばれる可能性があります。

特別縁故者に該当するかもしれない人物の例としては、内縁の妻や夫、被相続人の介護に尽力した人物、相続権のない親族などです。

しかし一つ注意したいのが、特別縁故者として申し出ても必ず受理されるわけではないという点です。

特別縁故者として認められ財産の受け渡しが行われるかは全て裁判所の判断となります。

 

5. まとめ

いかがでしたでしょうか?

相続人のいない空き家の取り扱いがどのように行われるか、大まかな内容をご紹介致しました。

既婚者の減少や少子化、高齢者の孤独化などの問題が取りざたされるこの現代において、誰も引き取り手のいない空き家の増加は社会問題としてこれからもより深刻性を増していく事でしょう。

こういった事態を避けるためには、本来相続人がいる場合は、少しのリスクがあっても相続放棄を行わず売却などで明け渡してしまう事です。

放棄をしてしまえば固定資産税もかからず、自分は一切関係無いと形式的には主張でき有利な選択であるように思えます。

しかし、実際はそう簡単に事は運びません。たとえ相続放棄をしても次の引き取り手が見つかるまでは本来の相続人が不動産の管理をしなければならず、また相続財産管理人の報酬も相続財産で賄いきれない場合支払わなければなりません。

相続放棄をした事により手数料や手間がかさんでしまい、結局は相続して売却した方が良かったなどという事は起こり得ます。この点をよく考え、相続人は慎重な選択をとらなければなりません。

また被相続人側としては、遺言をしっかりと残しておく事も大切です。死後の財産の行き場をしっかりと計画しておく事の重要性はこれからますます増えていきます。

本人の直筆により和暦の正確な記入日と実印(認め印も可)を施した自筆証書遺言、本人が役所に出向き公証人と通して文書を遺す公正証書遺言、どちらかの方法をとり正式な文書を作成します。

遺言であれば、相続先は必ずしも法定相続人である必要はなく、お世話になった身内やNPO法人、地方自治体に寄付することも可能なのです。

空き家で余計なトラブルを発生させないようできるだけ早い段階で、できる限りの対策を行っておくことが重要ですね。