事例紹介

Category  空き家活用

2018年01月31日 更新

空き家等対策の推進に関する特別措置法とは

近年、少子高齢化の進行とともに、人口減少、世帯数の減少がますます顕著になってきています。特にお年寄りが亡くなった後の空き家の急増が社会的な問題になってきています。

空き家を適切な管理をせずに放置すれば、防災、衛生、景観、その他、地域住民の生活環境にも多大な悪影響を及ぼしかねません。そこで空き家の活用を促進することで、地域住民の生命や身体、財産を保護しながら生活環境の保全を図るべく『空き家等対策の推進に関する特別措置法』が生まれました。

この法律は、空き家問題の解消を計画的に進めることで、近隣の方の安全を守り、地価の下落を防いで財産を守ることを目的としています。

1. 空き家等対策特別措置法が生まれた背景

急増する空き家をそのまま放置すれば、地震による倒壊や火災などにより、保安上危険となる恐れがあります。また、老朽化による衛生上の問題や景観を損ねるなど、地域周辺への悪影響も考えられます。そこで空き家の適切な管理と活用の必要性が叫ばれるようになりました。

こうして制定された空き家等対策特別措置法において、国による基本指針の策定、市区町村による空き家等対策計画の作成、その他の空き家に関する施策を推進するために必要な事項を定めています。

1-1. 空き家が引き起こす諸問題

空き家が増加している大きな原因は人口減少ですが、実は世帯数は核家族化により増加しています。それなのに空き家が減らないのは、住宅の着工件数が世帯数の増加を上回っているからです。さらに都市部への人口集中、長寿命化による介護施設の利用増加なども空き家が増える要因となっています。

さらに、世帯数がこのまま増え続けることは考えにくいため、これからもっと空き家問題が深刻になると予想されています。そのため今から早めに対策を講じておく必要があります。

ここでは、空き家を放置することで起こりうる様々な問題について考えていきたいと思います。実際に起こっている具体的な問題を取り上げながら、事例を交えながら紹介していきます。

①犯罪の温床となる

空き家をそのまま放置しておくと、不法侵入といった犯罪の温床になる可能性が高くなります。実際のデータからも、そのことが証明されています。空き家率が高い地域は犯罪率も比例して高くなっています。

もちろん、犯罪の原因がすべて空き家というわけではありませんが、空き家があることで犯罪がおこるリスクが高まるといわれています。実際に、外国人が集団で大麻工場として利用していたという事件がありました。また、遺体が遺棄されていたというケースもあります。

このような犯罪の温床にならないためにも空き家を放置しないことが大切です。

②放火の対象となる

空き家はもっとも放火の対象になりやすいといわれていますが、その要因として次のことが考えられます。

  • 人目につきにくく火を放ちやすいこと
  • 燃えやすいものが散乱していること

これは過去の放火事例を確認すれば明らかです。このような放火を防ぐためには、まずは空き家だと分かりにくくする必要があります。

  • 窓ガラスを割れたまま放置しない
  • 門扉を壊れたままにしない
  • 敷地内にゴミなどを散乱させない

などの対策をすると効果があります。

(消防庁:放火火災防止対策戦略プランの概要

③害獣・害虫の発生

空き家に発生する害獣にはネズミやアライグマ、ハクビシンなどがあります。また害虫はゴキブリ、シロアリ、スズメバチが代表的なものです。

これらの害獣、害虫が発生する理由として、人の気配がしないことが挙げられます。多少なりとも人の気配がすることで、害獣などは住みつきにくくなります。そのため、時々は空き家を訪れ、換気や掃除、草取りなどをすることが必要です。

④倒壊による周囲への影響

倒壊の直接の原因は地震によるものが多いですが、倒壊を引き起こす間接的な要因として二つの問題が考えられます。一つ目は建物の耐震基準、そして二つ目が建物の老朽化です。

まず一つ目の耐震基準ですが、1981年(昭和46年)に耐震基準が大きく改正され、大地震に耐えられることを目的に法改正がなされました。しかし、それ以前の旧耐震基準で建てられた建物は中地震に備える設計のため、大地震に対しては考慮されていないのです。

そのため旧耐震基準の建物に対して、国や地方自治体を中心に耐震補強を勧めていますが

空き家に関しては、ほとんど対策が進んでいない状態です。大地震による倒壊が近隣に及ぼす影響が懸念されています。

そして二つ目の建物の老朽化ですが、建物は人が住まなければ傷みの進行が早くなります。さらに害獣や害虫の発生が伴えば、ますます老朽化が進みます。たとえ新耐震基準の建物だったとしても管理状態が悪ければ、倒壊の懸念は拭えません。

これらの二つの潜在的な要因が地震による倒壊を招き、隣家のみならず地域住民へ二次災害を引き起こす可能性があります。

⑤景観の悪化による近隣の地価への影響

土地の価格は様々な要素を考慮して決められます。一般的には、土地の価格を判断する材料として、国が実施する地価公示と県が実施する地価調査を目安とします。それに様々な要素や条件が加味されて地価が決定されます。

空き家が多い地域は地価が下がる傾向があります。なぜなら、建物の老朽化と激しい傷みによって景観が悪くなるからです。そうなると、その空き家だけの問題ではありません。街全体の地価に悪影響を及ぼします。

景観の悪い街に人は住みたいとは思いません。ましてや放置された空き家の隣には気持ち悪くて住みたくないでしょう。買い手がつかなければ物件価格は下がっていきます。そうして、空き家による景観の悪化が周辺地価を下げることにつながります。

2. 特定空き家とは

特定空き家とは、そのまま放置すれば様々な問題を引き起こす可能性のある空き家のことです。その問題として特定されている状態は以下の通りです。

  • 倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
  • 著しく衛生上有害となるおそれがある状態
  • 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
  • 周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態

このような状態にある空き家を『特定空き家』と定めています。

ここでは、これらの問題を一つずつ取り上げていきたいと思います。

2-1. 倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態

倒壊の危険がある建物とは、すでに建物が傾斜しているケースが挙げられます。これは、基礎部の地盤が悪くなり部分的に沈んでしまっていたり、柱が傾いている場合などにおこります。また、建物の構造上主要な部分のダメージでは、基礎の亀裂や変形、土台の腐食や破損なども考えられます。

また、建物の倒壊以外で危険な状態は、屋根や外壁が脱落、飛散する恐れがある場合などです。これは、経年変化を含めた腐食、破損や小中規模地震による影響が考えられます。

その他、建物以外でも敷地のり面の擁壁などで鉄筋が入っていない古いものや、老朽化しているものは極めて危険な状態です。

2-2. 著しく衛生上有害となるおそれがある状態

衛生上有害となるものとして、まずは建物や設備等の破損によるものがあります。たとえば、吹き付け石綿(アスベスト)の暴露や飛散の恐れがある状態、浄化槽の放置による汚物の流出や臭気の発生の恐れがある状態などです。

次に考えられるものとしては、ごみ等の放置や不法投棄が原因となるものです。臭気の発生だけでなく、ハエや蚊、ねずみなどの発生により地域住民の日常生活にも支障を及ぼします。

2-3. 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態

  • 屋根や外壁が外見上大きく傷んでいる
  • 落書き等で汚れたまま放置されている
  • 窓ガラスが割れたままになっている
  • 庭木など樹木が荒れ放題になっている

などの状態は景観を大きく損ねるだけでなく、周辺の環境と不調和の状況を作り出しています。

また、地域によっては、景観法に基づいて景観計画を策定している場合や景観保全に係るルールを定めている場合があります。そのような場合には、建築物や工作物のデザインが地域のルールに適合していないケースが考えられます。

2-4. 周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態

生活環境の保全上、放置することが不適切である状態とは、具体的に次の三つのケースが考えられます。

まず一つ目は、庭木によるものです。庭木の枝などが近隣や道路にはみ出し、歩行者の通行を妨げたり怪我の原因になったりするケースです。

二つ目は、害虫や害獣、その他の動物が住みつくことで被害が及ぶケースです。動物の糞尿や汚物が放置されることで臭気が発生し、地域住民の日常生活に影響がでます。またシロアリの大量発生がおこった場合には近隣の建物にも悪影響が懸念されます。

三つ目は、建築物の不適切な管理によるものです。たとえば、門扉が壊れていたり、施錠されていない、窓ガラスが割れているなど外から容易に侵入できる状態にあることです。

これらの三つのケースにならないようにすることが、周辺の生活環境を保全するためには必要不可欠と考えられています。

3. 特定空き家に認定されるとどうなる?

特定空き家に認定されると、市町村長は特定空き家等の所有者に対し、必要な対策を行なうように命令することができます。さらに、その命令が実行されない時や、あるいは実行したとしても不十分であったり、期限内に完了する見込みが無い場合には、行政代執行による権限で強制的に改善を行うことができます。

また所有者にとっては、土地にかかる固定資産税の優遇措置が適用されなくなります。しかし、それ以上に大きなデメリットは、強制執行された場合の罰金や解体費用の請求です。これらの金銭的負担は法律で定められているため逃れることは難しいです。

特定空き家に認定されてしまった場合には、早急に不適切な箇所を改善して特定空き家の認定から解除されるようにすることが必要です。

3-1. 特定空き家等に対する措置(第14条)

特定空き家等に対する措置としては、次のようなものがあります。

  • 特定空き家の所有者等の事情の把握
  • 事前準備として立入調査や台帳整備と関係部局への情報提供
  • 関係権利者との調整
  • 特定空き家の所有者への助言、指導、勧告、命令
  • 特定空き家に係る代執行等

具体的には、建築物の除去や修繕、立木の伐採等が特定空き家等に対する措置として執行されることになります。特定空き家等の所有者や権利者はすみやかに対応しなければなりません。

3-2. 空き家等に対する財政上の措置(第15条第1項)

市町村が行う空き家対策が行いやすいように、国や地方公共団体による財政上の手順が決められています。空き家等への対策を行なうための実施費用として、補助金を出したり地方交付税を増やしたりしています。

参考までに、現在、実際に行われている事業を以下に紹介します。

■空き家再生等推進事業(社会資本整備総合交付金等の基幹事業)

居住環境の整備改善を図るため、不良住宅、空き家住宅又は空き建築物の解体や活用などの支援を行っています。

■空き家対策総合支援事業

空き家等対策計画に基づいて空き家の活用や解体などをおこなう市町村に対して、国が重点的に支援をおこなう事業です。

この支援事業は社会資本整備総合交付金とは別枠となっています。

■先駆的空き家対策モデル事業

市区町村や民間事業者が連携して行う空き家法に基づく先駆的な取り組みについて国が支援し、その成果を全国に展開しています。

■空き家所有者情報提供による空き家利活用推進事業

空き家の様々な利用や活用を進めていくため、ゼンリンなどの民間事業者と連携して空き家を活用するモデル的な取り組みをおこなう市町村を支援をしています。

3-3. 空き家等に対する税制上の措置(第15条第2項)

国や地方公共団体は、空き家等に対する財政上の対策として決められたもの以外にも、必要に応じて税制上の対応策をおこなうことが出来ます。それによって、市町村が行う空き家問題を適切に解決していけるようになっています。

空き家の所有者にとって関係のある税制として、ここでは二つの税について取り上げていきたいと思います。

■特定空き家等の固定資産税の税制改正

3年に一度見直される固定資産税ですが、住宅や住宅が建てられている土地に関しては固定資産税の優遇措置が設けられています。土地に関していえば、住宅一戸につき200平米までの小規模住宅用地は課税標準の1/6、200平米を超えた部分については1/3となっています。

これまでは、空き家もその対象となっていたのですが、平成27年度からは特定空き家等に該当する建物がある土地の固定資産税については住宅用地特例が適用されなくなりました。それにより、通常の空地と同じ課税、つまり、これまでの3~6倍(土地面積等条件により異なります)の固定資産税が課税されることとなりました。

地域住民や周辺環境への悪影響を及ぼしている空き家に対しては、当然の措置といえるかもしれません。

■空き家を譲渡する際の優遇税制について

空き家を解体したり、修繕しようとすれば費用がかかります。そこで、平成28年4月1日より一定の空き家に関しては、その家屋や土地の譲渡所得から3000万円の特別控除が受けられるようになりました。

その場合、家屋または家屋と土地を売る場合と家屋を解体後に土地だけを売る場合とで特別控除の要件が異なるので注意が必要です。

ここでは共通する特別控除を受けるための条件をお知らせします。

  • 昭和56年5月31日以前の建築家屋
  • 相続開始直前に被相続人以外の居住者がいなかったもの
  • 相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡
  • 譲渡期間は平成28年4月1日から平成31年12月31日まで
  • 譲渡額が1億円以下のもの

上記に当てはまるものが特別控除の対象となります。

4. 自治体の解体費用に対する補助

空き家を解体する際の補助金の有無や金額については、自治体によって異なります。たまに誤解されることがあるのですが、国から個人への解体費用の補助制度はありません。まずは、建物が存在する地方自治体に直接確認するようにしてください。

解体費用は決して安いものではないので、後から知らなかった、ということが無いように前もって自治体に確認しておくと良いでしょう。なお、補助金が受けられる場合でも、解体の着手前に申請することを条件としている自治体が多いので注意が必要です。その他の条件も含めて、該当する自治体で確認するようにしてください。

5. まとめ

空き家は今後も増え続けることが予想されています。そして、空き家が引き起こす様々な問題により、地域住民への被害や環境破壊が懸念されています。その一方で、各地方自治体を中心とした対策も着実に進められています。

各個人が空き家問題を他人事と考えるのではなく、地域住民と自治体が官民一体となって取り組むことが必要になってきています。空き家の存在をマイナスに考えるのではなく、プラスの発想で知恵を出し合うことが、新しい街づくりに繋がり、地域全体の資産価値を高めることになるでしょう。