事例紹介

Category  空き家活用

2018年10月02日 更新

行政代執行になった2つの事例と対象となる空き家の条件とは?

行政代執行とは、行政からの命令や請求に応じない場合、行政が強制的に応じさせることができるという法的な権限のことです。

以前は、行政代執行といえば公共事業のための土地の立ち退きが主でした。しかし、2015年の空き家特別措置法の完全施行により、放置された空き家も行政代執行の対象となったのです。

こちらでは、空き家特別措置法の完全施行により空き家所有者の方が知っておくべき行政代執行について詳しく説明致します。

空き家所有者の方であれば、行政代執行は決して無関係ではありません。ぜひこの機会に知っておきましょう。

 1. 行政代執行の事例

行政代執行とは、法律などによる義務を果たさない人がいるとき、行政が義務を果たさない人に代わって強制的に義務を果たすことです。

行政代執行法では、以下のように定められています。

第2条 法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)により直接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為(他人が代つてなすことのできる行為に限る。)について義務者がこれを履行しない場合、他の手段によつてその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる。
行政代執行法より一部抜粋)

例えると、滞納している税金の徴収と同じです。税金を滞納し続けると、国税庁は預金や土地のような個人の財産から、強制的に税金を徴収します。

具体的には、預金であれば本人の許可なく銀行から引き出したり、土地であれば売却して現金化したりして、滞納している税金の支払いに充てるのです。

行政代執行は、店舗の立ち退きや土地の明け渡しを、税金の徴収と同じように強制的に行わせます。以下では、ニュースなどでも取り上げられて話題になった行政代執行の2つの事例を紹介します。

1-1. 事例①大阪市の串カツ店

話題になった行政代執行の1つ目の事例は、大阪市の串カツ店です。JR大阪駅の地下道での道路占用許可を2015年に打ち切られ、大阪市からの立ち退き請求を無視して営業していた串カツ店がありました。

その串カツ店は昭和24年から同じ場所で営業を続けており、地元ではとても有名でした。毎年大阪市から許可を得て営業していたのです。

地下道は道路と同じように公共の場所なので、基本的には店舗の営業のような個人的な使い方はできません。しかし、道路占用許可を受けることにより、合法的に営業を続けていたのです。

ところが、この地下道の拡張工事を行うため、大阪市は占用許可を打ち切りました。そのため、串カツ店は合法的に地下道での営業を続けることができなくなったのです。それでも串カツ店は引き続いて営業を続けたため、大阪市は行政代執行も検討していました。

ここでの行政代執行とは、大阪市が串カツ店の営業を強制的にやめさせるため、店舗を解体するなどの措置を指します。

最終的にその串カツ店は自主退去し、行政代執行には至りませんでした。しかし、行政代執行という法的権限について議論される機会となる出来事でした。

1-2. 事例②福岡県のみかん農家

話題になった行政代執行の2つ目の事例は、福岡県のみかん農家です。福岡県で建設中だった東九州自動車道の予定地を、みかん農園が寸断していました。福岡県はこの高速道路を開通させるため、用地収用を行いました。

用地収用は一般的に強制収用と呼ばれることもあります。国や地方自治体が法的な手続きを行うことにより、公共事業に必要な土地を所有者から強制的に取得する行政処分のことです。

このみかん農家は、用地収用の後も福岡県からの土地の明け渡し請求に応じず、それまでと同じようにみかん農園の経営を続けていました。その結果、福岡県が行政代執行を行ったのです。

ここでの行政代執行とは、みかん農園の敷地内にとどまっている園主たちの強制退去を指します。

上記2つの事例から、行政代執行とは法的な立ち退きや明け渡しのような請求に応じない場合、行政が強制的に対処する行為だということがわかります。

1-3. 行政代執行の目的は公益性を保つこと

ここまで、行政代執行が具体的に検討されたり、実際に執行された事例を紹介しました。しかし、行政からの請求に応じないだけで行政代執行が行われるわけではありません。行政代執行が行われるのは、公益性を保つために限定されます。

冒頭で紹介したように、行政代執行法では「不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるとき」に強制撤去や強制退去のような行政代執行が行われると定められています。

上記の例で説明すると、串カツ店が地下道という公共の場を不法占拠している状態が続いているわけです。この串カツ店に限っていうと、昭和24年から継続して営業していますが、一般的には地下道を個人的に使う人がいると、ほかの多くの人にとって迷惑になります。

また、福岡県のみかん農園も、個人の財産が強制的に行政のものになっています。このように書くと酷いと感じられるかもしれませんが、一個人の反対によって高速道路が開通しないと、多くの人が被害を受けることになります。

このように行政代執行とは、このまま放置すれば多くの人が迷惑や損害を受けると判断できるときに行われる行政措置なのです。

2. 行政代執行の対象になる空き家とは?

ここまで、行政代執行について、話題になった2つの事例とともに詳しく説明しました。

取り上げた2つの事例からわかるように、行政代執行は実際のところ、私たちの日常生活とはあまり関係のない制度でした。

しかし、2017年に空き家特別対策措置法(通称:空き家法)が施行されたことにより、行政代執行は一気に身近なものとなりました。空き家特別対策措置法では、特定の空き家が行政代執行の対象となっているからです。

ですから、空き家の所有者であれば、行政代執行が行われる可能性があるということなのです。以下では、空き家の行政代執行について、詳しく説明します。

2-1. 空き家の所有者が負う義務

空き家特別対策措置法では、放置すれば安全や衛生、景観の観点からみて問題がある空き家は「特定空家等」と呼ばれます。この特定空家等の所有者に対し、行政は改善のために必要な措置を命じることができます。つまり、空き家の所有者は行政からの改善命令に従う義務を負っているのです。

行政からの改善命令とは、たとえば空き家を放置して雑草などが生い茂り、周囲の景観を見出しているなら、草刈りを行うよう改善命令が出されます。また、空き家が老朽化して隣地や道路に向かって倒壊しそうになっている場合、撤去や修繕などによる改善が求められます。

なお、改善「命令」とは法的な義務なので、従わないと違法な行為になってしまいます。ただ、突然改善命令を受けるわけではありません。

空き家特別対策措置法では、助言・指導と勧告を経ないと命令が出せないことになっているからです。このように、空き家所有者は、行政からの改善命令に従う義務を負います。

2-2. 行政代執行で撤去される

上記で、行政から空き家の改善命令が出されたにも関わらず、従わずにいると違法な行為になると説明しました。さらには、上記の串カツ店やみかん農園のように行政代執行が行われる恐れがあります。

ここでの行政代執行とは、空き家の撤去や修繕、草刈りのような周囲に悪影響を与えている原因の強制的な改善です。

空き家特別対策措置法では、市町村が空き家所有者に改善命令に出したものの応じない場合、行政代執行ができると以下のとおり定められています。

第14条第9項 市町村長は、第三項の規定により必要な措置を命じた場合において、その措置を命ぜられた者がその措置を履行しないとき、履行しても十分でないとき又は履行しても同項の期限までに完了する見込みがないときは、行政代執行法(昭和23年法律第43号)の定めるところに従い、自ら義務者のなすべき行為をし、又は第三者をしてこれをさせることができる。
(空家等対策の推進に関する特別措置法(平成26年法律第127号)より一部抜粋)

そのため、空き家を放置して行政からの指示や命令を無視し続けると、強制的に撤去や修繕が行われてしまうのです。

2-3. 行政代執行の費用は所有者負担

上記で、空き家を放置し、行政からの改善命令に応じずにいると行政代執行が行われると説明しました。ここで注意が必要なのは、行政代執行にかかった費用は空き家の所有者が負担しなければならないということです。

具体的には、行政代執行による撤去や修繕は、行政が業者に依頼して行います。撤去や修繕にかかった費用は一旦行政が業者に支払い、その後に行政から空き家所有者に請求されるのです。

そして、行政代執行の費用請求は強い権限で回収されるしくみになっています。具体的には、行政代執行にかかった費用は、国税の滞納と同じように徴収することができることが以下のとおり行政代執行法で定められています。

第6条 代執行に要した費用は、国税滞納処分の例により、これを徴収することができる。
(行政代執行法より一部抜粋)

国税の滞納は、国税庁や税務署が本人の許可を得ることなく金融機関の預金から引き出したり、土地や自動車、動産などを差し押さえて売却することにより現金化したりして充当されます。

そのため、空き家の改善が行政代執行により行われると、所有者は行政代執行にかかった費用を絶対に負担しなければなりません。「空き家を放置しておけば、行政が勝手に撤去してくれる」と安易に考えるのは危険だといえます。

2-4. 所有者不在の場合の流れ

ここまで、空き家の所有者は行政からの改善命令に応じる義務があり、もしも行政代執行が行われると、その費用も国税と同等の強い権限で徴収されると説明しました。

しかし、空き家の中には長年放置されて所有者がわからないものもあります。そのような場合でも行政代執行は行われますが、費用は最終的に行政の負担となります。

以下では、行政が空き家の所有者を特定する流れについて説明します。

・所有者の住所は調べられる

空き家の所有者は、行政は簡単に調べることができます。不動産は必ず登記されているからです。そのため、法務局の登記情報や市町村の固定資産課税台帳で所有者を確認することができます。

また、登記情報には所有者の氏名とともに登記された当時の住所も含まれているため、住民票の異動を追うことにより現在の住所を把握することができます。市町村であれば、法務局の登記情報やほかの市町村の住民票を照会し、内容を把握することができるのです。

さらに、固定資産課税台帳であれば、固定資産税を徴収するために現住所を把握していることが多くあります。このように行政は、空き家の登記情報や固定資産課税台帳から、所有者の現住所を把握することができます。

ただし、空き家の所有者の住所が空き家に置かれたままだったり、登記情報や固定資産課税台帳を基に調査した住所以外で生活していたりすると、所有者の実際の住所を把握できない場合があります。

・亡くなっている場合は相続人

行政が上記の方法で調査をする中で、空き家の所有者が亡くなっていることを知ったとします。その場合、所有者の戸籍から相続人を調査します。不動産をはじめとする財産は、本人が亡くなると配偶者と子供に自動的に相続されることが民法で定められているからです。

行政は相続人すべての住所を調べ、空き家を相続して所有者となっている人に改善命令や行政代執行の通知、それにかかった費用徴収を行います。

ここで問題となるのは、多くの場合相続人が複数いることです。また、登記されている空き家所有者が亡くなっているのが過去になればなるほど相続人は増えていきます。その結果、空き家は実質的に誰のものでもないという現象が起こってしまうのです。

空き家の実際の所有者が明確にならない状態では、行政は改善命令を出すことができません。このような空き家を行政代執行で改善する場合、費用は行政が負担しなければならない可能性が高くなります。

空き家として放置されている物件であれば、相続時に登記をする人はほとんどいません。そのため、全国の空き家では、上記のように相続人が明確でなく、実質的に誰のものでもない物件が増え、最終的に行政負担により行政代執行を行う機会が増えることが予想されます。

・相続人がいない場合は行政負担

上記で、空き家の相続権がある人が多いため、実質的に誰のものでもない物件があると説明しました。空き家の中には所有者が亡くなっている上、相続人全員が相続権放棄をしている場面もあり得ます。

この場合は、正真正銘所有者がいません。そのため、行政が代執行せざるを得ないといえます。

なお、2015年に神奈川県横須賀市で、実際にそのような行政代執行が行われています。当時は空き家特別措置法が完全施行される前で、建築基準法に基づいて空き家が強制撤去されました。その空き家の所有者は亡くなっており、相続人全員が相続権放棄したため代執行に至っています。

以上のとおり、行政は改善命令や代執行、そしてその費用徴収を行うために空き家の所有者の住所などを調査します。もし登記されている所有者が亡くなっていれば相続人に対して命令や費用徴収を行います。

しかし、所有者本人や相続人を特定することができなかったり、相続権放棄などで所有者がいない空き家となると、代執行した費用は行政が負担せざるを得ません。

3. 行政代執行の事例と対象となる空き家情報まとめ

こちらでは、空き家特別措置法の完全施行により空き家所有者の方が知っておくべき行政代執行について詳しく説明致しました。行政代執行とは、行政からの立ち退きや明け渡しの命令、請求に応じない場合、行政が強制的に義務を果たすことです。

過去には立ち退き請求に応じない店舗で行政代執行が検討されたり、高速道路の予定地で立ち退きに応じない農園所有者が実際に行政代執行で強制退去させられました。2015年には空き家特別措置法が完全施行され、放置して近隣住民に悪影響を及ぼす空き家も、行政代執行の対象となっています。

空き家の行政代執行で注意が必要な点は、行政が代執行した費用は、空き家所有者が負担しなければならないことです。もし所有者が負担を拒んだとしても、国税徴収と同様に、強制的に徴収されるという拘束力の強い法律です。

しかし、空き家だからといって突然行政が代執行するわけではありません。指導・助言や勧告という法的な手続きの後で改善命令が出されます。そしてその命令に応じない場合、行政代執行が行われるのです。

また、対象となる空き家も、周囲に悪影響を及ぼすものに限定されています。つまり、空き家であっても周囲に悪影響を及ぼさなければ、改善命令を受けることも行政代執行されることもないのです。