事例紹介
土地の固定資産税には負担を減らすための優遇制度があります。税金と聞くと難しいイメージを持たれる方が多いのですが、目的自体はとてもシンプルです。土地が有効に活用されていれば税金を安くして、土地が使われていない場合には、通常の税金を払ってくださいとなります。
社会の為に土地を有効に使ってくださいという考えからきています。例えば、駅前に大きな土地を持っている人が、何も活用しようとしないで、更地のまま放置していたらどうでしょうか。その地域の発展のためには良くないと思います。そこで、そのようなことが起こらないように、活用している土地の税金を下げることになっているのです。
このように、元々の考えはシンプルなのですが、使われていれば何でも良いというわけではありません。使い方によって社会に与える利益は変わってきます。そこで、税金の軽減についても条件が付加されています。
そのため税制度は複雑となってしまい、簡単に理解することが難しい面があります。ひと口に税金と言っても、範囲が広いため余計にわかりにくくなっています。そこで、ここでは住宅にしぼって分かりやすく具体例を用いて、固定資産税や都市計画税についての特例措置について計算方法を含めて紹介をしていきます。
空き家を残した方が節税になると思い込んでおられる方がおられるのですが、それは固定資産税の特別措置を過大評価していることからくる誤解かもしれません。実際に空き家を残しておいた方が良いのか空き家を壊してしまった方が税金が安くなるのか、実際に計算をして確認してください。
この記事でわかること
1. 更地の維持にかかる税金
更地で何も活用をされていない土地であっても税金は課せられます。具体的にどの程度の課税がされるのか、計算方法と具体例を見ていきたいと思います。
1-1. 固定資産税の計算方法
固定資産税評価額×1.4%となっています。土地の評価額が1000万円であれば、1000万×0.014=14万円となります。この固定資産税評価額というのは、3年に1度、国土交通省が決めます。詳しい内容は公示価格と言われる基準価格を国土交通省が決めて、その価格の70%を基準とするような数字になるようにしています。
もし固定資産税評価額に納得がいかない場合は、納税通知書の公布日から60日以内に書面を通じて不服を申し立てることができます。また土地の負担調整措置というものがあります。前年度より急に税金の負担が上がらないように、負担水準から調整する制度が設けられています。
負担水準=前年度評価額÷今年度評価額(特例措置込み)×100
・100%以上:据え置かれる場合と下がる場合があります。
・90%以上100%未満:前年度と同額
・90%未満:前年度の評価額+(今年度の評価額×5%)
平成24年度から負担調整措置の内容が変わり、固定資産税の計算方法が新しくなっています。詳しくは、各市町村のホームページなどでご確認ください。
1-2. 都市計画税の計算方法
所有されている土地が市街化区域の場合は都市計画税も課税されることになります。
市街化区域とはすでに市街地を形成している区域及びおおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域とされています。
所有されている土地が市街化区域かどうかは市役所や区役所で問い合わせて頂ければ確認できます。
都市計画税の計算方法:固定資産税評価額×0.3%(上限)
都市計画税の税率である0.3%は上限であり、市町村ごとに異なっています。確認方法はそれぞれの市町村のホームページでもすることができます。
1-3. 市街化区域で更地を所有している例
固定資産税評価額が1000万円の土地の場合
固定資産税:1000万円×0.014=14万円
都市計画税:1000万円×0.003=3万円
合計して17万円の固定資産税の課税がなされます。
2. 固定資産税の特例措置
固定資産税には政府が空き家問題を防ぐためなどの目的を持って、条件を満たすと納税額が減る特例措置を施行しています。土地と建物に対する特例措置はそれぞれ違いますので、それぞれ説明させて頂きます。
2-1. 土地に対する特例措置
土地に対する固定資産税が課税される年の1月1日において、住宅として利用されている住宅用地に特例措置が適用されます。1月1日に住宅として利用されていることが原則となっていますので、1月1日に建設予定や、建設中では特例措置を受けることができません。
原則として建物が建っていることが条件となりますが、建て替えの場合に、建て替え前と建て替え後の所有者が同じ場合には、建築前や建築中でも特別措置の適用が受けられることがあります。詳しくは各市区町村の税務課または、資産税課へお問い合わせ頂くと教えてもらえます。
具体的な特別措置の内容は下記の通りとなります。
・小規模住宅用地(住宅やアパート等の敷地で200平方メートル以下の部分)
固定資産税:評価額×1/6
都市計画税:評価額×1/3
・一般住宅用地(住宅やアパート等の敷地で200平方メートルを超える部分)
固定資産税:評価額×1/3
都市計画税:評価額×2/3
標準の税額が上記の割合に減額されます。
2-2. 家屋の特例措置
家屋の場合の固定資産税も土地と同様に固定資産税評価額×1.4%となっております。しかし、土地の場合と違って細かい評価基準があります。市区町村の担当者が建物を調査して固定資産税評価額を決めていきます。一般的に鉄筋コンクリート造の建物と木造の建物では、鉄筋コンクリート造の方が高い評価になる傾向があります。
また、新築の場合には特例措置があります。2016年3月までに建てられた3階建て以上の耐火構造又は準耐火構造の建物で、床面積が50㎡以上280㎡未満の場合、120㎡以内の部分についての税が一定期間半分に減税されます。
期間は5年分でそれとは別に「長期優良住宅」に指定されている場合は7年分です。
また、1981年1月1日以前に建てられた住宅を取り壊して、耐震化を行った新築住宅に関しては3年間固定資産税が完全に免除されます。その場合は3カ月以内に申告の必要があります。
建て替えではなく改修の場合は基本的に1年間の間住宅1戸あたり120㎡の床面積相当分まで全額免除されます。
条件としましては、改修費用が1戸あたり50万円を超えていることが必要です。各自治体によって特例の優遇度合が変わりますので確認が必要です。
上記以外にも2008年1月1日以前から存在する住宅に、省エネのための改修を1戸あたり50万円以上掛けて行った場合も、改修工事完了年の翌年に限り、床面積120㎡相当に対して、固定資産税を1/3に減税することができます。
またバリアフリー改修工事を1戸あたり50万円掛けて行った場合も、改修工事完了の翌年のみ床面積の100㎡相当に対して固定資産税を1/3に減額することができます。
3. 固定資産税の特例措置の減額分と建物分の固定資産税を比較
建物が建っている場合には、土地の固定資産税特例措置を受けることができます。このため、古い家を残して土地の固定資産税を下げた方が、建物の固定資産税を払ったとしても、トータルとして考えた場合に税金が安くなるケースがあります。
なるべく税金が安くなる方法を選ぶためには、両方の税額を比較する必要があります。参考例をお知らせしますので、検討の際の材料としてください。
3-1. 固定資産税の特例措置が適用される場合
市街化区域の200㎡以内の評価額が1000万円の宅地に評価額600万円の家を所有している場合を例に説明をします。
・土地の固定資産税:1000万円×1/6(特例)×0.014(固定資産税率)
=2万3333円
・家屋の固定資産税:600万×0.014=8万4,000円
この2つを合計すると、10万7,333円となります。なお家屋についての特例措置については、特例の対象となるような新しい家の場合は、このような検討の対象とならないと思われますので省略させて頂きます。
3-2. 更地で固定資産税の特例措置が受けられない場合
更地の場合は通常の固定資産税が評価額通りにかかりますので、
1000万円×0.014(固定資産税額)=14万円
古家を残しておいた方が、固定資産税が3万2,667円少なくなります。このようなことから、空き家を解体しないで放置されるケースが増えています。しかし、土地の評価額と建物の評価額が逆転している場合には、建物の固定資産税が無くなった方が税金が少なるケースもあります。
建物の固定資産税評価額は、建物の構造によって償却期間が異なります。例えば、木造住宅の場合は、だいたい25年で最低の評価額となります。通常はこれ以上は下がらないと考えてください。
最低の評価額とは、概ね建築費の20%です。ただし、物価の上昇による調整が入りますので、必ずしも建築費の20%となるわけではありません。ただし、現在のようなデフレ傾向の時代には、大きく評価が増える可能性は低いと思われます。
例えば、建築費3,000万円の木造住宅であれば、建ててから25年以降の評価額は、3,000万円の約20%となりますので、固定資産税額は約600万円となります。
土地の税率は住宅と同じですので、家屋の評価額が土地の評価額よりも高い場合には更地にした方が税金が少なくなります。
例えば、600万円の評価額の土地に対する固定資産税は8万4,000円となります。住宅が建っている場合は、1/6となりますが、建物分と合計すると、9万8,000円となります。しかし、評価額500万円の更地の固定資産税額は7万円となります。計算するまでもなく、こちらの方が固定資産税額が少なくなります。
4. 固定資産税を別にして空き家を維持しておくメリット
固定資産税額が高くても空き家を残しておいた方が良い場合もあります。放置された空き家が社会問題となっていますので、最低限の維持はされている前提でお話をします。家屋の状況によっては、維持費が高くつく場合がありますので、いくつかの要素を含めて総合的に判断をして頂ければと思います。
4-1. 解体工事費が不要
解体して更地にする場合の工事費についても考慮する必要があります。いつかは解体する日が来ることは間違いないと思いますが、残しておけば、リフォームやリノベーションなどをして活用できる可能性があります。
特に都会では解体工事の費用が嵩む可能性が高いので、すぐに使わないからといって、すぐに壊す必要はないと思います。解体工事の費用は、木造住宅がもっとも安く、鉄筋コンクリート造りの住宅が1番高くなっています。
解体工事の際に大型の重機を持ち込んで一気に解体して、大型のトラックで瓦礫を持ち出すことができれば、工事費を下げることができます。都市部では、近隣の住宅との距離が近いとか、道路が狭いなどで大型の重機が使えないケースも多いです。
また、工事用の車両や作業者が移動に使う車両の駐車場所が無ければ、別に駐車場を借りる必要があります。これらの費用も含めて、どちらが有利か考える必要があります。
4-2. 一度壊すと二度と建てられなくなる場合
地域や土地の状況によっては、一度、建物を壊してしまうと、もう一度建物を建てることができないこともあります。建築基準法の要件に合わない場合がそれにあたります。
例えば、住宅を建てるためには、その土地が建築基準法上の道路に2m以上接していなければなりません。しかし、この条件に合わない土地も存在しています。そのような土地を死に地と呼ぶこともあります。このような時は、周りの土地を購入するなどして接道の要件を満たすか、隣地の所有者に売るのが良いと思います。
他にも、市街化調整区域の場合も建築不可となるケースが多いです。市街化調整区域の建築要件については、「市街化調整区域の不動産を売買する際に押さえておくべきこと」こちらのページで詳しく説明をしていますので、併せて参考にしていただければと思います。
他にも、用途地域の変更により、現在と同じ建物を建てることができない場合もあります。商業地域から住居地域に変わった場合や、以前は住居地域の区分しか無かった地域で、区分が細分化されて一種低層住居専用地域に変わってしまった場合などです。
このような場合には、建物の建築面積、延べ床面積、屋根の高さなどの制限が変わるため、以前よりも家が小さくなることが多いです。近隣のことを考えると良いかどうかわかりませんが、建物の骨組みを残してリノベーションしたり、リフォームをして活用すれば、同じ大きさの建物として使うことができます。
このように様々な要件が関わるものですので、安易に考えず、十分に検討してから実行されることをお勧めします。
5. まとめ
土地は所有しているだけでも税金などの経費がかかってしまいます。無駄な経費を減らして資産を守ることが重要です。税金には、特例措置などの負担を下げるための税制度が用意されていることもあります。
こちらで紹介しましたように、どちらが得なのか一見しただけではわからないこともあります。しかし、きちんと計算さえすれば、どちらが得かはわかります。
また、税金の問題だけでなく、解体費用や将来の活用などについても含めてトータル的に判断することがとても大事です。あなたにとって最良の選択ができますことを祈念しております。
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