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Category  土地活用

2018年08月15日 更新

土壌汚染の土地評価とは?調査方法や対策方法まとめ

土壌汚染された土地と聞いて考えるのは、土壌の中に有害物質が含まれていて、それが健康に影響を及ぼすのではないかということです。

もし、その汚染された土地が農地であったとしたら、その畑などで作られた農作物にも影響が及び、最終的には、その農作物等から私たちの口に入ってきて健康に影響が出てくるかもしれません。

しかし、土壌汚染された土地であっても活用したいと考えられる方もおられると思います。所有している土地が土壌汚染されていた場合に、どう対処するべきか、全く知識のないまま活用を進めていくと、思わぬリスクが発生する可能性があります。

土壌汚染された土地であっても、ちゃんとした調査や処理などの対策を行うことで活用することができます。

そこで、今回は土壌汚染された土地を活用する際に必要な評価や調査方法から土壌汚染対策の方法、また、その土地の活用方法や売却まで詳しく考えていきます。

 

1. 土壌汚染地の土地評価

土壌汚染対策法が環境省から平成15年2月15日に施行されました。この対策法では、土壌汚染地の状況を把握し、その土地を状況に応じて処置し、また、その汚染から国民の健康を守ることを目的としています。

土地を売買する場合は、誰しも自分の所有する土地を高く売りたい、新たに購入する場合には、より良い土地を安く手に入れたいと考えると思います。

通常、不動産の鑑定評価を行う際には、準拠すべきものとして「不動産鑑定評価基準」というものが存在します。これに基づく不動産の鑑定方式があり、その中に原価方式、比較方式、収益方式の3つの方式が存在します。

しかし、土壌汚染地の土地評価の場合は、別の評価方法が存在します。主に土壌汚染が土地の価値に与える影響は2つあります。

1つ目は、「対策費用」=汚染土壌の処理にかかる費用。2つ目は、「スティグマ(Stigma)」というもので不動産鑑定評価基準では「心理的嫌悪感等」とも言われるものです。

土壌汚染した土地の価値を計算式で表してみると、次のようになります。

土壌汚染した土地の価値 = A-B-C

A=土壌汚染がない土地の価値、B=土壌汚染の対策費用、C=スティグマによる減価で表すことができます。

より簡単に言うと、土壌汚染地の土地の価格は、通常の土地の価値から対策費用とスティグマを引いたものになります。

スティグマは、健康被害が及ぶかもしれないという精神的不安感等により市場が減退するものと考えられます。スティグマは、アメリカでの土壌汚染評価に使われている言葉なので、あまり聞きなれない言葉かもしれません。

不動産鑑定評価基準では、運用上の留意事項に「汚染の除去等の措置が行われた後でも、心理的嫌悪感等による価格への影響を考慮しなければならない場合があることに留意する」とあります。(国土交通省 不動産鑑定評価基準より抜粋)

2. 土壌汚染地の調査方法

土壌汚染対策法によると、土壌汚染された土地かどうかの調査を義務づけられている土地があります。

  1. 使用が廃止された、有機物質特定施設にかかわる、工場または事業場(法第3条)
  2. 土壌汚染の恐れがある土地の形質の変化が行われる場所(法第4条)
  3. 土壌汚染による健康被害が生ずるおそれがあると都道府県などが認める土地(法第5条)

また、調査対象には、対策法が定める特定有害物質の特定が存在します。それは、土壌汚染地に含まれる有害物質により、人の健康被害を生ずるおそれがあるものです。

以下の2種類の健康被害などのリスクに対する観点から決められており、これら決められた物質のみが対象になります。

  1. 土壌汚染地からの有害物質が流れ込み、それが含まれる地下水等を摂取するリスク
  2. 土壌汚染地の有害物質を含む土壌を直接摂取するリスク

上記2つのポイントから土壌汚染地に対象となる有害物質による土壌汚染地がないかを、次のような流れで調査を進めていきます。

土壌汚染地の調査の流れは、書類で履歴を調べ(地歴調査)、表土の汚染の有無を調べます(特定有害物質の種類の特定)。

次に汚染の深さや特定有害物質の種類を調べ、分類・試料採取などを行う区画を選定し(土壌詳細調査)、土壌などの資料測定を行います。

その後、調査結果を「土壌汚染状況調査結果報告書」に記入し、都道府県知事などに提出します(法第14条)。

 

2-1. 表層土壌調査

表層土壌調査とは、汚染土壌の土地の表面部分の汚染を調べる調査です。土壌分析をする上で、一番初めに行う調査がこれに当たります。調査方法は以下の通りです。

a) 分析項目と調査方法の決定

調査目的や地歴調査の結果に基づき、分析項目や調査方法を決定します。

b) 調査単位区画に分ける

最北端を起点とし、10m×10mの単位区画に分けます。
この10m格子を基準単位として採取・分析します。

c) 採取地点の決定

採取地点を決めます。(調査目的や汚染のおそれにより、採取地点の配点は異なります)

d) 現地での調査

表層土壌調査の対象は、第2種/第3種特定有害物質(重金属類/農薬類・PCB)の調査時に行います。採取方法は、埋没管等の確認後、表層(地表から5cm)の土壌と5~50cmまでの深さの土壌を採取し、これら2つの深度の土壌をそれぞれ等量混合して試料とします。

採取地点は、

汚染の恐れが多い場合:10m×10mの格子に1カ所

汚染の恐れが少ない場合:30m×30mの格子に対して5カ所採取し、30m×30mの格子内の試料を混合して1検体として分析

土壌分析をした後、報告書を作成する流れになっています。

 

3. 土壌汚染対策の方法

土壌汚染対策としては、汚染している有害物質の除去やリスクを管理することが大前提になります。

その方法は大きく分けると「汚染を除去する」方法とその土地の「リスクを管理する」方法に分かれます。「汚染を除去する」には、3-1.土壌を除去する、3-2.土壌中の汚染物質を分離、抽出する、3-3.土壌中の汚染物質を分解する方法があります。これらの方法について詳しく見ていきます。

 

3-1. 土壌を除去する

土壌を除去する方法に『掘削除去』という方法があります。最も一般的な浄化方法で、重金属や農薬などによる土壌汚染に対する方法になります。

汚染土壌は、土壌洗浄などにより汚染物質を除去して埋め戻される場合と、管理型最終処分場などに場外処分される場合がありますが、後者の方が多いのが現状です。

しかし、最終処分場の確保が難しくなってきており、低コストで汚染現場の土壌処理が可能な技術が求められているのも現実です。そして、掘削後は、洗浄処理やセメント化などで処理されたりもします。

土地所有者等がとるべき土壌汚染の除去等の処置は、土壌汚染対策法施行規則第24~27条に以下のように定められています。

第24条 地下水汚染を経由した第一種特定有害物質による健康被害の恐れがある場合

除去などの措置方法:「原位置封じ込め」「遮水工封じ込め」「土壌汚染の除去」のいずれか

第25条 地下水汚染を経由した第二種特定有害物質による健康被害の恐れがある場合

除去などの措置方法:「原位置不溶化」「不溶化埋め戻し」「原位置封じ込め」「遮水工封じ込め」「遮断工封じ込め」「土壌汚染の除去」のいずれか

第26条 地下水汚染を経由した第三種特定有害物質による健康被害の恐れがある場合

除去などの措置方法:「原位置封じ込め」「遮水工封じ込め」「遮断工封じ込め」「土壌汚染の除去」のいずれか

第27条 土壌の直接摂取による健康被害の恐れがある場合

土壌汚染の除去等の措置は原則的に「盛土」でよい。ただし50cmの盛土により生活上の著しい支障が出るような場合には「土壌入換え」を行う。

また、乳幼児が屋外で遊戯をする施設が設置されている場合には「土壌汚染の除去」を行なう。さらに土地所有者等が求めたときは、土壌汚染の除去等の措置は「舗装」または「立入禁止」でもよいとされています。

※第一種特定有害物質:発揮性有機化合物:以下VOCと表示
※第二種特定有害物質:重金属類
※第三種特定有害物質:農薬類、PCB(Poly Chlorinated Biphenylの略で、ポリ塩化ビフェニル)

 

3-2. 土壌中の汚染物質を分離・抽出する

土壌を掘削せずに汚染物質を除去する『原位置浄化』の方法には、分解技術と抽出技術があります。分解技術は、有機汚染物質をCO2などの無害な形にまで分解する方法で、抽出技術は、汚染物質を土壌から分離して除去する方法です。この抽出方法には、以下の技術例があります。

・土壌ガス吸引

地表面と地下水面の間(不飽和帯)に存在する汚染物質を真空ポンプなどで吸引し、除去します。

・地下水用水

汚染地下水を揚水し、汚染物質を分離し、活性炭などに吸着させることで浄化します。

・エアースパージング

土壌中や地下水中に空気を注入してVOCの気化をうながし、浄化を促進します。

・電気泳動

地中に装入した電極から電流を流し、重金属類をイオン化して地下水に溶け出させ、電気により移動させて集めます。

・高圧洗浄揚水ばっ気処理

土の粒子に吸着している汚染物質を高圧水と空気で洗浄し、浄化層のブロアー(送風機)から散気管を通じて浄化槽内に空気を送り、酸素を水中に溶かして浄化します。

・ファイトレメディエーション

汚染物質を蓄積・分解する植物の能力を利用して浄化します。

 

3-3. 土壌中の汚染物質を分解する

汚染物質を分解する技術には、有機汚染物質をCO2などの無害な形にまで分解する方法があります。酸化分解、鉄粉法、バイオレメディエーション、反応性バリア法といった技術例もあります。技術例の詳細は、以下の通りです。

・酸化分解

地下水系に酸化剤を直接注入し、VOCを分解する

・鉄粉法

汚染された土壌や地下水に鉄粉を混合し、VOCを分解する

・バイオレメディエーション

微生物がもつ有害物質の分解能力を利用して浄化する

・反応性バリア法

汚染地下水の下流域に鉄粉を含む透過壁(バリア)を設置して分解する

これらのように、汚染物質を分解する方法は、化学実験的な方法でVOCを分解したり、有害物質を浄化したりする方法になります。

 

4. 土壌汚染地の活用方法

土壌汚染地の活用方法の基本的な考え方として、①土地の活用方法を考慮し、土地の利用制約が最小限かつ低コストな方法で、環境リスクの低減化を図り、環境リスクを許容範囲内に抑える、②土地活用を環境リスクが許容範囲内に抑えられた状態を維持されるため、リスク管理を継続することが大前提になってきます。

国土交通省の資料(平成21年度に国土交通省土地・水資源局が調査、収集した事例)を基に以下のように活用事例を上げていきます。いずれも、対策をしたうえで土壌汚染地が活用された事例です。

 

4-1. 賃貸の商業用施設として活用

土壌汚染地の活用例の1つ目は、大都市圏郊外部の小規模敷地3,000㎡未満の土地で、土壌調査をした結果、工場跡地が鉛による土壌汚染(土壌含有量基準不適合)した土地だと判明ました。

汚染範囲は、平面範囲で500㎡未満、深さ3m未満でした。

汚染除去対策として、建物基礎部、土間部の新築根切りの床付け深度GL-0.5mまでを掘削除去しました。床付け深度以深の汚染箇所は、建物による被覆、建物外周部は、良質土および舗装による被覆処置を実施しました。

活用可能と判断された理由は、汚染度が高い箇所の深度が浅い(GL-0.5mまで)ため、これらの部分には掘削除去工法を実施し、それ以外の箇所は、建物基礎部や良質土および舗装による被覆措置により直接摂取リスクに対応したからです。

この結果、商業施設(物販施設)として土地を賃貸して活用することができました。

 

4-2. 従業員の駐車場として活用

土壌汚染地の活用例の2つ目は、地方の中枢都市郊外部の小規模敷地3,000㎡未満の土地で、土壌調査をした結果、工場跡地が六価クロム、鉛、ホウ素による土壌汚染(土壌含有量基準不適合)している土地だと判明しました。

汚染範囲は、平面範囲500㎡~3,000㎡未満、深さ3m~10m未満でした。

汚染除去対策として、アスファルト舗装と地下水のモニタリングを1年間実施しました。

活用可能と判断された理由は、周囲に住宅や井戸もなく、汚染深度も地表面付近で浅いため、人への健康リスクはないと判断されたからです。

また、駐車場利用であることから、直接摂取リスクを防止するための舗装措置を適用したからです。

この結果、従業員の駐車場として活用することができました。

また、土地需要者等の汚染土壌汚染地の扱いに関するヒアリング結果によると、商業ディベロッパー、量販店(商業系施設)は、土地購入の際には「掘削除去」が求められたりもします。土壌汚染地に比較的寛容な業者がいる一方、拒否反応を示す事業者もいるという結果も出ています。

 

5. 土壌汚染地の売却

「健康」と「環境」は、現代、とても重要視されていることだと言っても過言ではありません。土地の売却についても、これらのキーワードは避けて通れない時代になってきています。

また、土壌汚染地を対策法の施行を知らないまま売却を進めようとすると、様々なリスクが出てきます。

例えば、売却側が土壌汚染調査を怠り売買契約が完了後、購入側が調査を行った結果、その土地に有害物質がみつかったとします。一番わかりやすい結末は、売買契約が取り消しになる可能性があるということです。

また、土壌汚染が分かった時点で、土壌汚染地の調査費用や処置にかかる費用を請求されることもあります。最悪の場合は、損害賠償請求をされたり、裁判になったりと予定外のことが発生してきます。

これらを想定して、普通の土地を売却する場合にも、その土地が土壌汚染されていないかの調査を実施してから売却すると売却側のリスクを軽減することができます。そうすることで、売却後のプランもしっかり確実に考えることが出来ます。

土壌汚染地を売却することは、スティグマの存在もあり、難しくなります。

しかし、汚染土壌地の活用事例からも、いくつかの調査基準をクリアすれば売却への道も開ける場合もあります。

 

6. まとめ

土壌汚染地からの有害物質等による影響から国民の健康を守るために、土壌汚染対策法が施行されました。このため、土壌汚染地を売買や賃貸などで活用するには、土壌汚染調査を行い、結果次第では有害物質の除去費用が必要になっています。

土壌汚染地の土壌だけではなく、土壌汚染地から流れ出る有害物質が地下水などや、隣接する近隣の井戸などに流れ出ることで水質にも影響が出てきます。そうなると、水質調査や汚染管理にも費用が発生してきます。

調査して、「汚染を除去」したから大丈夫ではなく、有害物質の数値が基準値より高いと、除去処理だけでは済まなくなり、「リスクを管理」することも一定期間、継続する必要も出てきます。

これらのことにより、土壌汚染地の価値というものは、通常の土地の価値から、汚染除去費用やリスク管理費用が必要になってくる分、価値が下がることになります。

しかし、汚染範囲が小さく、有害物質の含有量も少ない場合は、事例にもあるように、商業施設や駐車場などとしての活用方法もあります。

土壌汚染地だからと悲観的になるのではなく、もし活用しようとお考えであれば、対策法に従って、正しい調査、処置をすれば活用できる土地もあるということも理解しておいて頂ければと思います。

最後に繰り返しとなりますが、土壌汚染地を活用する際には、必ず土壌汚染対策法に従い、土壌調査をし、その後の結果次第では、有害物質の処置をしなければならないことをお知らせいたします。